異最強騎士

野うさぎ

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第1章 幼少期

番外編 被害者の異世界逃亡

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 私は、佐藤。
 シングルマザーの母親と二人暮らし。
 そのために、保育園に通っている。
 だけど、私は保育園が大嫌いだった。

 いつからか、私はいじめられるようになった。
 いじめっ子グループのリーダーが、そこにいた。
 
 そこからは、泥団子を投げられたり、わざと転ばされたり、「男子にぶりっ子している」という嘘の噂を広められたりもした。

 やられたことを語りだせば、それはきりがないくらいだ。

 保育園はお弁当なのだが、いじめっ子たち集団にけなされた。

「こんなもの食べているの?」

「食べ過ぎじゃない?」

「よく、痩せていられるねえ」

 数々のことを言われた。

 そこで、当時の私は母親に声を大にして、台所で洗い物をしている音に負けないように叫んだ。

「保育園、行きたくない!」

 母親は皿やコップを洗う手を止めて、私に怒る。

「どうして、そんなこと言うの!

ママだって、働いているの!

保育園に行ってもらわないと、働けないじゃない!」

 私は、泣き崩れた。

 こうして、保育園の登園拒否をするものの、親に無理やり行かされる日々。
 保育園の頃はずっといじめられることが続いたけれど、幼稚園からはいじめっ子グループたちとも、知り合いのいない場所に入園できるという話があり、私は安堵した。



 幼稚園に晴れて入園して、0からのスタートだと張り切っていたところに、いじめっ子グループは私の家にやってくるようになった。
 そして、家を燃やしてしまった。
 
 私は助かったけれど、母親は巻き込まれて亡くなってしまい、マンションだったために、近所の人も何人か巻き添えを受けることになった。

 殺人事件の扱いにもなったけれど、犯人グループが幼い子供であるがために、親の不注意ぐらいにしかならなかった。

 納得がいかないと、裁判を出す人もいたけれど、やはり相手が子供であるために、やったことは無罪の扱いとなってしまった。

「相手は、まだ3歳の子供ですので・・・」

 警察が間に入って、近所の人たちに話した。

「だからって、やっていいことと悪いことがあるじゃない!」

「うちの旦那は、顔に火傷をおったのよ!」

「家族だって、その子供に奪われたの!」

「死刑にでもしてちょうだい!」

「うちのこは、意識不明なのよ。

どうしてくれるの!?」

 近所の人たちは、口々に警察に文句を言う。

「年齢が年齢ですので、逮捕とかできないですし、法的にも裁けません」

 このことはニュースにもなったし、様々なメディアの放送もされた。
 パパラッチだって、黙っていない。

 私は、こうして児童養護施設に引き取られることになったけれど、いじめっ子グループはやはりそこに来て、バッドを持ってきては、施設内を荒らして、施設の職員や子供たちを何人か病院送りにした。



 私はその後、精神病棟に入院することになった。

 パパラッチからも、何人か質問をされることが多かった。

「今の気持ちは、どんなかんじですか?」

 当時の私は、記事の報道のためという認識ではなく、私の気持ちに寄り添ってくれていると勘違いをして、マスコミからの質問に答えた。

「すごく悲しい。

3歳の誕生日とか、ママに祝ってもらえないの。

だって、ママは死んじゃったから・・・・」

「そうですか。

それは、悲しかったですね」

「うん。

児童養護施設とか幼稚園にも逃げ場がなくて、あのいじめっ子たちは逮捕してほしいと思っているのに、3歳という理由で許されたら、すっごく理不尽だと思ってる」

「そうですか。

また、何かありましたら、ぜひ教えてください」

「うん!」

 次の日、そのことはマスコミの新聞になった。

 ここにいると、いじめっ子の顔を見なくていいという安心と、いじめっ子グループがこっちにもやってくるんじゃないかという不安が襲ってきた。



 ここで、精神病棟にいる看護師からある提案を受けた。

「異世界の存在って、信じる?」

 よく絵本で読んだことがある異世界だけど、そんなものが本当にあるのかどうかはわからない。

「その前に、どうしてそんな話を聞くの?」

「いじめっ子たちがその病院にも攻めてきているからよ。

もう、あなたに逃げ場はないの。

私から一つ言えることがあるとしたら、異世界という人間の力だけでは行けない場所に転移するの」

 私は、迷うことがなかった。

「逃げる!

逃げれるなら、どこにでも行く。

だから、私を誰も知らない場所に連れてって」

「じゃあ、決まりね」

 ここから、私の異世界逃亡生活が始まった。
 どうやって異世界に来たのかはわからないけど、気がつけば、光に包まれて、見知らぬ場所についていた。

「ここ、どこ・・・・・・?」

 歩いても歩いても、自分がどこに向かっているのかわからないし、行きたい場所もわからない。

 ただ、逃げることという目先のことしか考えていなかった。

 私は、その場で泣いた。
 そんなことが根本的な解決にならないことぐらいはわかっていたけれど、どうしていいのかわからなくて、ただひたすらに大きな声で泣きわめくことしかできなくなった。


 私は、長い黒髪を赤いリボンで、ハーフアップにした。
 白のワンピースを着た幼女だけど、実はかなりの悲しい出来事を経験して、目は鋭くなっていて、性格は冷めたかのようになっていた。

 まさか、いじめっ子がストーカーと化かすことなんて、誰が想像しただろうか? 
 異世界に来る前は、母親の方針によって、ずっと坊主頭だった。
 髪を伸ばしてもらえなかったけれど、異世界にきてから、やっと女の子らしい髪型になれた。
 一センチいかない小柄な身長も伸びてきた。

 異世界での私のネームは、セリオ。
 ちなみに、イタリア語で「真面目」という意味らしいけど、今の私の現状を言い表しているとも言える。
 本名は別にあるけど、名乗りたくはない。
 私は、いじめっ子から離れ、第二の人生を歩むことを決めたから。
 
 ここに来て、3年。
 人間世界で生活していれば、今頃は小学1年生くらいになっていると思う。
 私の髪は、すでに肩下まで伸びていた。

 幼稚園の頃にやってきたけれど、やっぱりいじめっ子グループはどこまでも追いかけてくる。 
 そのことに、何の意味があるのかはわからない。
 私は、精神病棟で看護師をやっている異世界案内人によって、異世界転移をして、一人で逃げ道を探すしかなかった。
 探して見つけた先は、魔法だけで経営している謎のギルド。

 ここで訓練したからというもの、私は槍を肌身離さず持ち歩くようになった。
 いつ、どこで、あのいじめっ子グループに襲われてもいいように。

 私は、大人が来る場所に足を運んでいた。
 私も、これでも逃げなくてはならない身だけど、それがいつまで続くのだろうか?

 だけど、捕まったらどうなるのかわからない。
 わからないから、恐怖に怯えながらも、あいつたちがいない世界を目指していくしかない。

 今日来たのは、酒場だけど、私はお酒なんて飲めない。
 理由なんて、簡単だ。
 まだ、成人を迎えていないから。


「お嬢ちゃん、一人か?」

 酒場のオーナーっていう人に、声をかけられた。

「ええ。

一人よ。

見ての通りね」

「これは、よくないよ。

迷子かい?」

「親がいないの。

ちなみに、お酒はいらないわ。

飲むなら、ジュースでいい」

「お嬢ちゃん、年いくつだい?」

「今年で7歳になるけれど、まだ6歳」

「うちも、同い年くらいの子供がいるんだけど、よく酒場に来て、お酒とか飲める年齢でもないから、ジュースとか飲んでいたね」

 オーナーは楽しそうに話していたけれど、私はあんまり興味がなかった。

「そっか。

私は自由に過ごせるなら、何だっていい」

 私は冷たく答えてしまった。

「ところで、お嬢ちゃんはリンゴジュースとオレンジジュース、どちらがいいかい?」

「そうねえ。

リンゴジュースかな」

 オーナーは、ガラスのコップにリンゴジュースを注いでくれて、私に渡してくれた。
 私は、そのまま飲む。
 
 リンゴジュース。
 生まれ故郷のリンゴジュースは、どんな味だったか今となっては記憶が曖昧になってきている。

「お嬢ちゃん、実はうちの子も母親がいなくてね、いつもわしのところに来ていたんだ」

「私は逆ね。

生まれた時から父親がいなくて、母親は私が幼い頃に、この世を去った。

だから、父親っていうものがわからなくて、母から語る父親を探すことにした」

 私の目的は、もうひとつある。
 あの憎き殺人犯と化かした元いじめっ子グループから逃げ切ること以外にも、父親探しというのもあった。
 母の話によると、私の妊娠がわかったころには、すでに別れていたらしい。

 父親がいないことが普通だと思っていたけれど、保育園に入ってからはそれが変わっていることに気づくことになるけれど、父親の存在は私の戸籍にも認知されていないし、写真もない。

「探すってことは、父親は生きているってことかい?」

「さあね。

生きているかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

母から語られた父親の記憶を元に探している感じだから、現在進行形ではないわよね。

母は父と連絡を絶ってしまったみたいで」

「ということは、女手ひとつで育てたということか?」

「そういうこと。

オーナーが、男手ひとつで育てたようにね」

「一応、弟子の協力があったから、正式には一人でということではないかもね。

だけど、お嬢ちゃん、よく一人で頑張ってきたね。

孤児院とかは行かなかったの?」

 孤児院とか児童養護施設は、異世界も含めてあるにゃある。
 だけど、そんなことしたら、いつ追手がくるとかわからない。

「どんな形であっても、私は一人なの。

孤児院にいたとしても、私といるだけで不幸が舞い降りてくる。

だから、どこにも行き場がなくて、この酒場も、オーナーとの出会いも、これで最初で最後となる。

殺人鬼は、いつどこで襲ってくるのかわからないわ」

「よくわからないけどさ、お嬢ちゃんがどうしても一人で寂しいというのなら、吸血鬼一族の仲間になったり、パートナーを迎えたり、魔法学校に通うとか、人生なんていろいろな選択肢があるんだ。

これしかないって、諦めてないか?

一人では難しいことも、仲間といれば乗り越えられるかもしれない。

お嬢ちゃん、挑戦してみないか?」


 私は夢も諦めていたし、希望も捨てきっていた。
 だけど、オーナーの「挑戦してみないか?」という言葉に勇気をもらえた気がした。

「私、頑張りたい。

幸せって思える人生を見つけらるようになりたいの」

 今まで、逃げ切ることしか考えてこなかったけれど、私だって幸せな人生を歩みたいんだ。

「私、あいつらが恐れる存在になれるなら、何だっていいです。

何にでもなります!」

「なら、紹介してあげるよ・・・・」

 私は、オーナーと一緒に酒場を出た。

 どこに向かう気なんだろう?
 歩いて向かった先は、なぜか森。

「さ、この中に入っておいで」

「え、ええ」

「わしは、これで失礼するよ」

 オーナーの姿が消えたのを確認して、私は森の中へ入っていった。

 酒場のオーナーが紹介してくれた場所は、どうやら他種族が住む広大な森らしい。
 オーガー、吸血鬼、エルフ、ドワーフなど空想上の種族と思われる存在が目の前にいる。

「すごい・・・・」

 私は、感動していた。
 これなら、追手はこれなくなるかもしれない。

「これは、これは人間であるね」

 目の前にいは、吸血鬼と思われる格好をした黒ずくめの男の人がいた。
 ここは、自分より戦力が上の相手なので、下手に刺激しないようにしよう。

「どなたですか?」

「わたくしは、ただの吸血鬼ですが、嬢ちゃんは?」

「私も、ただの人間です」

「槍を抱えているみたいだけど、戦闘武術を身に着けてきたのですか?」

「逆です。

戦闘武術を身に着けたいんです」

「ここは、修行場じゃないのですが」

「そんなことは、一目瞭然です。

私は強いパートナーがほしいんです」

「パートナーかあ?

嬢ちゃんが、吸血鬼になるって言うのなら考えてあげなくもないけど」

「吸血鬼になると、どうなるんですか?」

「まあ、無敵になりますね」

「吸血鬼は、日光に弱いと聞いたのですが」

「嬢ちゃん、そんな情報をどこから持ってきたのですか?

吸血鬼には、2種類あるんですよ。

その中の一つが、日光に弱いとかニンニクがだめという特性を持っているだけであって、わたくしはそれに該当しません。

現に、こうして昼間に活動できていることが何よりの証拠ですよ」

「吸血鬼さんは棺桶に入ったり、人の血を吸ったり、コウモリに変身したり、永遠の若さを持っていたりとかしなんですか?」

「嬢ちゃんは、聞いてみると知識が偏っていますね。

どれも、わたくしには当てはまりません・

棺桶なんて死人と勘違いされて、寝ている間に燃やされるようなことはしません。

人の血なんてとんでもないです。

意識、記憶のどれかを奪ったほうが効率的です。

こっちも、顔を覚えられたらたまったものじゃありません。

コウモリに変身するとか、手品師ですか?

永遠の若さなんて、あるわけないじゃないですか。

どんなアンチエイジングしても、細胞の老化は遅らせることはできても、劣化はしますよ」

 一方的に話す吸血鬼だけど、今の私はそんなことに動揺しない。
 過去にいろんな壮大なことを経験しすぎて、ちょっとしたことでは、動揺しなくなっている。
 それが、慣れっていうものだろうか?

「吸血鬼さん、これで君がこわくないってことがわかったわ」

 私は、静かに答えた。

 警戒心が緩くなってからは、敬語を使わなくなった。

「嬢ちゃん、肝が据わってないですか?」

「ええ。

私は同い年の子と比べて、落ち着いているってよく言われるけど、仕方のないことなの。

平凡な人生を、物心ついた時から送っていないの。

吸血鬼さんも、人生をどうしたいか選べたかしら?」

「選べる時と、そうでない時がありました。

ですが、嬢ちゃんの瞳のようにすべてを諦めきっているということはありません。

人生には、複数の選択肢があります。

それを、無駄にしたくないのです。

嬢ちゃんには、それが理解できますか?」

「理解できるか、できないかの二択で聞かれてしまえば、理解しづらいと答えるわ。

私に無縁な感情よ。

今の私は置かれた状況を、環境をどう乗り切るかなの。

だから、戦う手段をちょうだい」

「戦う・・・・ですか?

嬢ちゃんから、何の魔力も感じません。

一体、何を目指しているのですか?」

「自分の身は、自分で守れるくらいに強くなりたいの。

惨劇も、起こさせない。

ずべて、私の手で・・・・」

「復讐ですか?」

「私は、逃げたいの」

「逃げるですか?」

「逃げ切るために、戦いたいの」

「嬢ちゃんから、何の魔力も感じないっていうことは、何を意味しているかわかりますか?」

「私は戦わない方がいいということかしら?」

「そういうことです。

戦うことは、好ましくありません」

「私は、生きたい・・・・。

幸せな未来をつかみたい。

だけど、今のままでは幸せなんて訪れない。

だから、私には必要なの」

「嬢ちゃんの志は、認めました。

ですが、それはあまりにも無謀です。

仕方ありません。

嬢ちゃんには、吸血鬼の仲間を紹介しましょう。

そこで、嬢ちゃんが無謀すぎることをわからしましょう」

 私は吸血鬼さんに腕を引かれ、マントの中に包まれ、どこかに連れて行かれた。

 ついた場所は、お墓。
 ここについてから、吸血鬼さんは私を解放してくれた。

「こんなところに連れて、どうするつもりかしら?」

「どうもしません。

嬢ちゃんの好きなように過ごしてください」

「なら、好きにさせてもらうわ」

 どこからか、吸血鬼らしきもの達が現れる。

「人間だ」

「明らかに、人間の匂いがする」

「魔力は、持ってなさそうだ」

「こんなところに、何の用だろう?」

「何のようもないわ。

ただ、来ただけよ」

「まあ、人間が?」

「ママ、この女の子、すごっく美人だよ?

付き合っていい?」

「初対面でしょう?

見た目だけで付き合うのは、やめた方がいいわよ」

「それでも、この子がいいの」

 男の子が、私のところに近づいてきた。

「すっごく、きれいだね」

「ありがとう」

「何歳なの?」

「もうすぐで、7歳よ」

「僕と年近いじゃん?

結婚とか、考えてる?」

「まだ、結婚できる年齢でもないし・・・・」

「かわいいね。

行く当てがないなら、僕のところこない?」

「いいわよ」

「やったあ」

 男の子は、バンザイしてから、母親のところに駆け寄った。

「ママ、こうゆうことでいいよね?」

 男の子の目は、輝いていた。

「仕方ないわね。

何かあったら、君が責任とるのよ」

 こうして、男の子の家に泊まることになった。
 男の子の家も、シングルマザーみたい。

 男の子の名前は、バンピーロ。

「魔法学園は、興味ある?」

「急にどうしたの?」

「なんとなく。

おんなじ、学校に入学したいと思ったから」

「そこまで言うなら、付き添ってあげるわ」

「これで、いつでもどこでも一緒になれるね」

 バンピーロの目は、輝いていた。
 
 バンピーロと同じベッドで寝ることになった。

「近い・・・・。

寝息がかかる・・・・」

 私の心臓は、ドキドキしていた。

「いいでしょ?

これから、結婚するんだし」

「こんな約束、した覚えないんだけど」

「僕が今日、考えたんだ。

セリオちゃんの花婿になれたらなって」

「何、それ?

好きにしたら?」

 私の顔は、すでに赤くなっていた。
 こんな感情、生まれて初めてだった。

「顔、赤くなった。

かわいい~。

僕のこと、好きでしょう?」

「1歳しか年変わらないくせに、生意気。

でも、いいわよ。

結婚したげる。

ただし、条件があるわ」

「条件って?」

「私のこと・・・・、ずっと守ってくれる?」

「条件にするまでもないじゃん。

セリオちゃんのこと、好きなんだよ。

彼女だし。

婚約者だよ。

未来のお嫁さんなんだから、守らないわけないじゃん?」

「そうね。

条件にするまででもなかったわ。

すっごく、私が馬鹿馬鹿しいわ。

なら、高難易度の方がいいかしら?」

「高難易度とは?」

「私のパパを探して?

私は、生まれてから会ったことがなくて、ずっと見つけるための旅をしてきたの」

「写真とかあるの?」

「ない」

「これは、本当に高難易度だ。

でも、セリオちゃんのためなら、探してあげるよ。


そして、セリオちゃんのパパが見つかったら、結婚してくれる?」

「ここまできたら、結婚してあげてもいいわよ。

結婚でも、出産でも、何でもするわ」

「やったあ。

子供とか、何人ほしいの?」

「考えたことない。

バンピーロは?」

「僕もないかな?」

「あはは、おかしいね」

 私は、思わずふきだしてしまった。

「あ、笑った」

「いちいち、言わなくていいから」

 私は、布団に潜り込んだ。

 次の日からは、私とバンピーロで学校に行く。
 様々な種族が集まる学校に入学することになったから。

 魔法学園には、様々な年齢の種族が通う、魔法を習得すれための学校。

 私と、バンピーロは、晴れて入学することになった。
 入学試験とかはなく、願書だけ出せば、それだけで入れる。
 人間世界の学校なら、義務教育とかじゃない限り、そんなことはなさそう。
 だけど、外国ならあるかもしれない。

 その中でも、人間はめずらしいのか、よく話しかけられる。

「もしかして、人間?」

「人間の匂いがする」

「人間がどうやって、ここにやってきたの?」

「魔力を感じないけど、魔法なんて使えるの?

落ちこぼれになりそう・・・」
 
 私は、そんなことで動揺もしない。
 だけど、問題はバンピーロだ。

「セリオちゃんは、これでも頑張っているんだ!」

「バンピーロ、いいのよ・・・。

こういうこと言われるのは、慣れっこだし・・・」

「セオリちゃんは、傷つくことがあるなら、遠慮なんてしなくていいから、もっと僕を頼るんだ。

でないと、本当にセリオちゃんが・・・・」

 バンピーロが、悲しそうな表情をした。
 もしかして、私のことを心配してくれている?

「ありがとう、バンピーロ。

でもね、この人たちは、私にひどいことをしようってわけではないと思うわ。

ただ、人間や魔力を持たない者が目の前にいることが、珍しいだけだから、バンピーロは必要以上に気にしすぎなのよ・・・・」

 まわりにいる人たちからは、ひそひそ話が始まる。

「この二人、付き合ってる?」

「入学した当初から、こんな感じか」

 だけど、私はこんなことぐらいでは、物おじたりしない。

「ただの腐れ縁よ」

 私は、静かに答えた。

「腐れ縁かあ。

いいなあ。

こういった関係がほしいなあ」

「羨ましい?」

「羨ましい。

すっごく羨ましい。

セリオちゃん、すごくきれいだし」

「ありがとう」

「髪もつややかで、瞳も宝石みたいだ。

髪留めの赤いリボンも似合っている。

どこで、買ったんだ?」

「市場の商店街かしら?

6歳の誕生日に、買ってもらったの」

「髪のお手入れとか、どうしているの?」

「これは、そこらへんで売っているシャンプーとか使っているから、特に意識したことはないかも。

髪質はママからの遺伝かもしれないわね」

 ここで、バンピーロの視線を感じた。

 やばい、嫉妬しているかもしれない。

「ナンパか?」

「どう見ても、ナンパじゃないわよ」

「君の髪も瞳も僕だけのためのものなのに・・・」

 バンピーロは、どこか悔しそうだった。

「大丈夫よ。

私は、誰かのものになったりとかしない」

「だといいんだけど」

 バンピーロは、どこか納得していなさそうだった。

「婚約者って言ったでしょ?

その話をしたことは、なかったことになったのかしら?」

「なってない!」

 私はこの時、バンピーロは子供みたいで可愛いと思ってしまった。

 なんやかんやで、私は幸せな学校生活を送っていた。
 だけど、それも長くは続かなかった。

 保育園時代のいじめっ子集団がせめてきた。

「ここに、佐藤はいるかー!」

「佐藤のやつ、逃げられると思うなよ!」

 佐藤というのは、私の苗字だ。
 数年ぶりで懐かしい感情があるのと、同時に恐怖もあった。

 どこにいても、やってくる。
 まさか、魔法学校にもやってくるとは思わなかったけれど、元いじめっ子軍団は何の魔力も持っていない。
 だから、勝てっ子ない。
 だけど、元いじめっ子軍団は次々に、人を殺していった。

「なんだ、こいつら?」

「人間の匂いがするけど、何者なんだ?」

「魔力は持っていないはずだ。

どんどん、魔法を使うんだ!」

 元いじめっ子集団は銃や包丁を持っていて、それを使い、次々に銃殺や刺殺をしてくる。

 魔法学校の生徒や先生たちの魔法で、少しずつ元いじめっ子集団を撃退している。

「佐藤は、どこにいるの?」

「佐藤は、どこかにいるはずだ。

探すんだ!」

 私は槍をかまえた。

 私が、当のいじめられっ子の佐藤だと気付いていないみたい。

「君のいう、佐藤って誰のこと?」

「は?」

「佐藤って、誰のことかって話よ」

 私は、元いじめっ子のリーダーにそうささやいた。

「保育園の頃のひ弱な女のことだ!

坊主頭のな!」

「何のことかわからないけど、君のお目当ての相手はいないと思うわ。

早々に立ち去るのね」

「うちは、佐藤ってやつをいじめたいんだ!

いじめることを生きがいとしている!

今だって、そう!

いじめたいから、探しているんだ!

ストーカーしているんだ!

いじめをしていないと、禁断症状がでそうで・・・・」

「そんなことなら、重症ね」

「そうだよ!

重症だよ!」

「なら、昔の人がどこにいるかを探すよりは、お医者様を探した方がいいんじゃないかしら?」

「今すぐ、殺す!」

 元いじめっ子リーダーが銃を向けたところに、バンピーロが私を救出してくれた。

「バンピーロ・・・・」

「セリオちゃんにひどいことをする人は、僕が許さない。

僕が相手だ」

「かかってきな!」

「バンピーロ、こんな相手に勝てる?」

「勝てる勝てないじゃない。

君を守るか、守らないかだ」

 こうして、バンピーロが元いじめっ子に立ち向かった。

「一緒に逃げよう!

バンピーロ!

私は、君に生きてほしいよ!」

「はん。

うちは人間世界でも警察に追われ、家族からも見放され、異世界では指名手配犯の身だ!

うちの顔を見た以上は、簡単に逃げられるなんて思わない方がいい!」

 私も、戦わないと・・・・!

 誰にも言えないけど、私が原因で起こったことだから・・・!

 だけど、恐怖のあまり、足が動かなかった。

「バンピーロ、お願い・・・。

帰ってきて・・・・」

 バンピーロは、銃で何か所も撃たれて、怪我をしていた。
 それでも、生きているのは、吸血鬼であるおかげだと思う。

「セオリちゃん、僕は絶対に助かるから、この場を離れてよ」

 バンピーロは足を負傷して、今にも動けそうになかった。


「うちの言ったことを、お忘れで?

顔を知られた以上は、逃がさないって」

「逃げられないことなんて、承知の上だよ。

逃げられないなら、逃がしてくれないなら、戦うまでよ!」

 私は槍を抱えて、元いじめっ子のリーダーに戦闘をしかけた。

「うちは、あんたらを、世界を、許さない!」

「全部、ぜーんぶ、自業自得よ!

話を聞いた限りね!」

「うちは、理屈屋なんて嫌い!」

「私は、いつまでも過去のことばかりにこだわって、自分のことよりも、いない人のことばかり気にして、仲間の命でさえも、罪悪感を持たない君が嫌いだよ!」

 私は、負けずと言い返す。
 二度と、あの時のように我慢したりしない。

 私は、逃げることだけじゃない。
 戦う手段もある。

 私は銃での攻撃を槍で跳ね返し、ナイフも槍の刃先で折った。

「高かったナイフを、どうしてくれるの?」

「こっちこそ、大切な友達をどうしてくれるのよ?」

 私は過去にやってきたこともそうだけど、大切な人を傷つけたことを許せそうになかった。

「くっそ、強いなあ。

お前ええええ!」

「当り前よ。

ただ、守られているだけの私じゃないもの」

「佐藤は、どこだああああああ!」

「佐藤、佐藤って言うけど、過去のいない人のことなんて、諦めるのね。

どんなに探しても、どんな世界にも、手がかり一切ない人のことなんて、見つけようがないわよ・・・。

そう、私のパパと同じようにね・・・」

「うるさい!

うるさい!

佐藤が、佐藤をいじめることこそが、うちの生きがいなんだ!

佐藤のいない世界なんて、死んでるも同然だ!」

「なら、君は人としてとっくに死んでいるわね」

「お前に、何がわかるんだああ!

保育園の頃の快楽は、今でも忘れない!

うちは、そのためのストーカーになって、友達も犠牲にしてきた!

佐藤は、ここにいるとうちの直感が語っているんだ!」

「その佐藤って人は、本当にここにいるの?

いないんじゃない?

君の勘違いなだけで」

 私と元いじめっ子リーダーは、今は槍と銃での戦いだ。

「馬鹿にするなああああ!

人の夢を、踏みにじるなあああ!」

「これは、夢でもなんでもないわ。

これは、押し付けよ。

第一、その人にも、人権があるんだよ。

それを踏みにじっているのは・・・・・」

「うるさい!

うるさい!

黙れ!」

 そう叫び、怪我をして動けないバンピーロを撃ち殺してしまった。

「死ね!

この野郎!

はははははあはは」

 笑いながら、バンピーロを無残に撃ち続けた。

「バンピーロ!」

 バンピーロは血だらけのまま、目をつむり、返事がなかった。

「あはははははははは!

やった!

やったよ!

殺した!」

 近くにいた私にも、返り血が飛んだ。

「とても、人とは思えないわ・・・・。

君は、人なんかじゃない・・・・」

 私は槍を、元いじめっ子に向けた。
 いっそのこと、このまま刺してしまおうかな?

 私は、槍の刃先で銃を壊した。
 
「なっ・・・・!」

 このまま、槍で元いじめっ子の左腕を刺した。
 彼女は、左利きだったから。

「大嫌い・・・・!」

「あは、八つ当たり?」

「自分のしたことを、認めてなんだね。

教えてあげるよ。

君がしてきたこと。

今、目の前でしていること。

人殺し。

理解できたかしら?」

 私は槍を、元いじめっ子の喉に向けた。

「何をするつもり?」

「言うまででもないわ。

選択によっては、君の未来はないと思わばいいわよ。

なぜ、無関係の人を巻き込むの?」

「決まっている。

あいつの佐藤の怯えている顔を、反応を見たかったから」

「君の言うことは、理解できないわ。

この殺人鬼。

消えればいいわ」

「うちは、最後に佐藤に会いたかった・・・・」

「会えないわ。

そこまでよ。

諦めるってことを、いつ学ぶのかしら?

きっと、君は何十年もこの先で変わらない。

なら、地獄で天罰を受けることを祈るわ」

「あははははは・・・・」

 こうして、元いじめっ子のリーダーは槍を弾き、笑いながら去っていた。

 逃したはずだけど、なぜか追う気になれなかった。

 私だけが魔法学校で生き残ってしまった。
 生き残ったのは、戦い抜いた私と、逃げ切った校長や生徒ぐらいかな。

 私は、その場を去ることにした。
 また一人になってしまった。

 そうだ。
 私はこうして、また一人になる。

 二度と、あんな惨劇が起こらなきゃいいけど。
 そんな願いなんて、叶いそうになさそうだ。

「君の戦いぶりを見たぞ」

「君は、誰なの?」

 目の前には、浮いているピンクのペンギンがいた。

 ペンギンが、空を飛んでる?
 しかも、ピンクのペンギンなんて、見たことがない。

「驚かせてしまってごめんね。

おいらは、ペングウィー。

君は?」

「セリオよ」

「セリオっていうのか。

おいらは、ここで言う魔法精霊って言うけど、君は魔力も感じないし、匂いからしてみても人間だけど、まさかあんなに強いと思わなかったぞ。

この槍からも魔力も感じられないけど、君の強さの秘訣はなんだい?」

「わからないわ。

ただ、ひたすらに修行しただけで、強くなったから」

「だけど、あれはさすがに才能とかないと、ここまでは強くなれないぞ。

どうする?

おいらと契約して、パートナーになるか?」
 
「契約って言っても、何の契約をするの?

それに、これには何かしろの代償とかあるのでは?

悪いけど、そんな怪しい勧誘なんて、乗らないわよ」

「君には、目的や願いはないのかい?」

「あったとしても、それは君がどうにかする問題ではない。

私は、これから向かうところがあるから」

「向かうって、どこへ?」

「また、遠いところに行くのよ」

「おいらも、行く~」

 なぜか、すでに浮いているペングウィーもついてきた。

「歩くと森、森しかないのに、どこまで向かうんだ?」

「どこまでってことはないのよ。

ただ、ひたすら歩くだけ。

私は、遠いところに行ければ、どこでもいいのよ」

「家出か?

これって、家出少女の発言じゃないか?」

「それもそうね。

だけど、家出少女との違いは、帰る場所があるということね。

私には、そもそも帰る場所なんてない」

 このペンギンは、どこまでついてくるのだろうか?

 ピンクのペンギンなんて初めて見るというのもあるけど、魔法精霊というのが何なのかわからないから、余計に警戒してしまう。
 そもそも、魔法精霊って何?
 私、そんな精霊がいることすら、知らなかった。

 異世界だから、いろいろな精霊がいるのだろうけど。

「ついてこなくてもいいのよ。

私には目的とかないんだし、迷子になるだけだよ」

「大丈夫さ。

おいらは、君の父親にパートナーになるように言われたから」

 私は、その瞬間足を止めて、後ろにペングウィーがいるために振り返った。

「私の父親を、知ってるの・・・・?」

「多分。

なんとなく、君がその男の娘だった気がしたから。

佐藤っていうのも、聞いたし、おいらは一部始終の様子を見てたんだぞ。

ここで、確信を得たんだ」

「佐藤なんて、苗字はいっぱいいるのに、どこで確信を得たの?」

「人間でありながら、魔力を持ってないのにかかわらず、槍だけで戦い切るのは、間違いなくあの人の娘だって」

 彼の言っていることが、本当かどうか確証がない。
 だけど、私は真偽が気になる。

 人のことは、簡単に信用しないように生きてきた。
 生きてきたけど、そんな私でも、本当だと信じたい時もある。

「私の父のいる場所を、教えて・・・?」

 私は半信半疑ながらも、ペングウィーと名乗る生物に歩み寄った。

「いいとも。

そのための異世界案内人だからね」

「異世界案内人って、何の話?」

「そのままの意味だよ」

「言っていることが、変わっている。

君はさっき、魔法精霊っていう話をしていたんだよね?」

「何も矛盾することはないはずだ。

おいらは魔法精霊であり、異世界案内人。

もしかして、君は異世界に来た時のことを憶えていないのかい?」

 私はそう言われ、自身の記憶をたどった。

 幼い頃に精神病棟に入院した時に、看護師に「異世界に行かないか?」と言われて、気がつけば異世界に来ていた。
 だけど、どうやって来たとかは憶えていない。
 気がつけば、見知らぬ場所にとどりついていたんだ。

 はっきりとではないけど、具体的にではないけど、私は憶えている。
 幼い頃の記憶だから、もしかしたら何かと混濁しているかもしれない。

「・・・・・・・。

私は、人間の看護師に提案されたんだ。

君じゃない。

君はどこからどう見ても、人間じゃない」

「おいらの言うことを、忘れちゃったの?

異世界案内人って」

 私は、必死に思考をめぐらした。

 魔法精霊、異世界案内人。

 ということは・・・・。

「人間と、精霊の姿をふたつ持っているということ・・・・?」

「まあ、魔法精霊であるこのペンギンの姿がおいらの本来の姿だけど、実は人間の姿にもなれるんだ。

この通りにね」

 こうして、ペングウィーは人間の姿になり、看護師の格好をした女性に変身した。

「え?

ということは、つまり・・・・?」

 あの時の看護師は・・・・?

「あの時の、看護師はおいらだったということだ。

久しぶりだね。

君は、確か今はセオリっていう異世界ネームなんだよね」

 今、考えれば、看護師が異世界に転移させる能力を持っているわけがなかった。
 だけど、今の説明で合点がいった。

「さ、君の伯父のところに行こう。

君の父親からしてみれば、実の兄ってことになるけどね。

君も残酷な真実かもしれないけど、そろそろ話していい年頃だろうって」

「なんでもいいけど、私は父に会いたい。

だけど、どうして伯父なの?」

「何でもいいじゃないか~」

 この先、ずっと会うことがないと半ば諦めかけていたところに、ようやく父のことがわかると安堵した。
 その残酷な真実が何なのかに頭が引っかかるけど、今はそんなことどうだってよかった。

 ペングウィーに案内されて向かった先は、酒場だった。

「これが君の実の伯父だよ」

 だけど、目の前にいたのは、異種族の森に行くことを提案した酒場のオーナーだった。

「酒場のオーナー?

どういうこと?」

 私は、頭が追いつかなかった。
 だって、明らかに目の前にいるのは、酒場のオーナーだから。

「君は理解できないのかい?

もう一回言うよ。

これが、君の実の伯父だよ」

 私は、すでに伯父に会っていたということ?

「セリオ。

信じられないかもしれないけど、君の伯父なんだ。

今まで、隠していてごめん。

だけど、これには事情があるんだ」

「事情?」

 どういうことだろう?

「セリオにそのことを何度も話そうと思っていたんだけど、悩んでいたんだ。

幼い君に、残酷な真実を背負えるのかって。

受け入れられるのかって」

「何の話をしているの・・・・?」

「とにかく、聞いてほしいんだ。

三人にはそれぞれに、運命があるんだ。

いじめ寄せ、不幸寄せ、死に寄せ。

それぞれが、かなりの不幸な運命を背負うことになる。

いじめ寄せとは、いじめっ子を引き寄せてしまう運命。

不幸寄せは、その名の通りに不幸を呼び寄せてしまうんだ。

最後に、死に寄せとは、自分以外の人が次々と死んでしまうことだ。

つまり、身近で殺人事件、自殺事件、事故死、病死が起きるんだ」

 こんな運命は、初めて聞いた。
 だけど、もし、私がこの三つのどれかに当てはまるとしたら・・・・。

「私は、いじめ寄せだと思う。

私には、いじめられて、執着されて、ストーカーに会っているんだ」

「そうか。

ごめんな。

それなら、もっと早くに話しておけばよかったか・・・」

「ええ。

そういうことなら、早くに話してほしかったわ」

「わかっていたんだ。

君には、生まれた時からいじめ寄せの運命があるってことくらい。

だけど、わかっていながら、伯父でありながら、何もできなかった。

本当にごめんな。

運命からは逃げられない。

だけど、わしは目をそむけたくなって・・・・」

「いいの。

いいのよ。

伯父さんは、何も悪くないわ。

いじめる側が、悪いってそんなことわかりきっていることでしょ?

だから、自分をせめないで?」

 これが励ましになったかどうかは、わからない。

 ここで、酒場が壊れた。
 そして、目の前にいるのは、元いじめっ子グループのリーダーだった。

「なぜ、こんなところに?」

「うちは、アコーソ。

異世界ネームをもらった。

佐藤をいじめるために、異世界転移を果たした」

「まずい!」

 伯父さんは、焦っている様子だった。

「とにかく、うちは佐藤をいじめたい。

いじめたい。

妬ましい。

佐藤は、どこ?

佐藤の気配がするけど」

「佐藤を探す前に、お医者様を探すのはどうかしら?」

「あなたは、さっきの・・・・!」

 私は、槍をかまえた。

「戦うつもりなら、引き受けるわよ?」

「戦うつもりはない。

ただ、佐藤の気配を探しているだけだ」

「誰にも、私の大切な人を奪わせない。

だから、私は何度でも君と戦うわ!」
 こうして、私は槍を何回でも、アコーソにつきつけた

 だけど、アコーソは怪力で、腕の力をふるっただけで、槍を弾き返した。

「そんな・・・、私の槍が・・・!」

「セオリ、ここはわしに任せてくれ」

「伯父さん?」

「こうなったことにも、わしにも責任がある。

ペングウィーから、全て聞いてある。

だから、ここの場所で、義妹の仇をとらせてほしいんだ」

「義妹は、ママのこと?

私はこれ以上、大切なものを失いたくない。

だから、戦わないで?

戦うのも、犠牲になるのも、私一人だけでいいわ」

「よくない。

わしも、大切な姪を失いたくないんだ」

「伯父さん・・・・」

 何で、私は立ち止まっているのだろう?

 伯父さんを信頼しているから?
 戦うことは、こわいから?

 どちらでもない。
 私は、自分一人で背負わなくていいことに安心の感情がある。

 安心・・・?
 こんな危機的状況の中で、どうしてこんな安堵なんてしてられるの?

 自分で、自分がわからなかった。

「これから、つらいこと、悲しいこと、待ち受けていると思う。

人生を放り投げてしないたくなる場面に出くわすかもしれない。

だけど、忘れてほしくないことが、ひとつだけあるんだ。

セリオ、それが何なのか聞いてくれるかい?」

 伯父さんの言いたいこと?
 これから先、聞く機会があるのかどうかもわからない。

 私は迷うことなく、答えた。

「いいわ。

伯父さん、最後まで聞かせて」

「わしは、どんな時でも、セオリがどんな姿になろうと、愛している。

こんなわしで、ごめんな。

伯父らしいこと、何もしていないのに、でかいこと言えないよな」

 伯父さんから、伝わる。
 これは後悔なのかもしれない。
 
 だけど、私は伯父さんを責めていない。
 この瞬間でしか出会えないけれど、やっぱり私の世界でたった一人しかいない伯父さんだ。

 何の根拠もないけど、なぜか伯父と姪の関係だということを実感できる。

 何も知らないけれど、姪に対する愛情だけは私にも伝わった。

「そんなことない!

伯父さんは、私に前へ進む勇気をくれた。

だから、伯父らしいことを、ほんの一瞬かもしれないけど、私は実の姪なんだなって思える言葉をもらうことができたわ。

それができるのは、伯父さんだけだと思うわ。

だから、私も伯父さんを愛している」

 伯父さんは、一瞬微笑んだ。

「そっか、ありがとう・・・・」

 こうして、アコーソが口を開いた。

「話は、すんだか?

うちは、佐藤をいじめるために、手がかりを探したつもりだったけれど、今の会話にもそのような様子はなかった」

 人とは、思えない。
 私は、アコーソを最初から今も人と思ってない。
 今となっては、化け物でしかない。

「アコーソに聞きたいことがあるわ」

「うるさい、黙れ、察しろ」

 アコーソの冷たく言い放った言葉を私は、無視した。
 察するなんて、何を察してほしいのかわからなかった。

「仲間はどうしたの?

仲間と一緒いなかったの?」

「知らない。

うちは、佐藤以外に興味がない」

「大事な友達じゃないの?」

 保育園の頃にアコーソと一緒に私をいじめてきた人たちだ。
 そんな簡単に離れると思えなかった。

 だけど、アコーソは予想もしない答えを出した。

「は?

何で、うちがそんなただの保育園からの腐れ縁を気にしなきゃいけないの?

意味不。

あなたって、わけわかんない。

そのまま死んで魂のままでいようが、異世界転生しようが、うちに関係ない。

うちが気にするのは、佐藤だけ」

 伯父さんは、アコーソと戦う。
 素手で、互角にやり合う。

 私は、アコーソの発言が信じられない。
 目的のためなら、仲間すらも捨てられるような人なんだ。
 彼女は、心が怪物になりきってしまったのかもしれない。

 私は何かを犠牲にして戦うか、守るために戦うか。
 正しい戦う目的がわからない・・・。

 だけど、これだけはわかる。
 私は、目の前にいる伯父さんを失いたくないということだ。

 これ以上、誰も犠牲にしたくない・・・!

「セリオ、何を呆然としている?」

 ペングウィーが、私の左肩に乗る。

「私も戦う・・・・」

「これ以上、無理な行動をすることはよくないと思うな。

君を失えば、いじめが終わるということはないはずだ。

どうせ、こういうタイプは新たなターゲットを見つけるだけだ」

「私が戦う目的を、考えてみたの」

「それは?」

「自分を犠牲にするためじゃなくて、自分も自分以外の誰かも含めて、犠牲を増やさないために戦うって」

「それは、復讐心から来ていたりしないか?」

「それもあるかもしれない。

それよりも、私は守りたいものができた。

たくさんの人を失ってきた。

ママも、児童養護施設の人々も、魔法学園のみんなも、恋人も、全てあいつに奪われた。

だけど、私はなぜ救えないのか考えてみたの。

私は、どこかで自分だけを大切にしている気持ちがあったから。

この気持ちに気づいたら、二度と同じことはしない。

だから、ペングウィー、一緒に戦おう・・・」

 ペングウィーは、私の話を真剣に聞いてから、返事をした。

「・・・・いいだろう。

魔力を持たない君と、無数の魔力を保有しているおいらが戦えば、きっとあの怪物に勝てるだろう」

 私は槍をかまえて、アコーソに襲いかかった。

「セリオ、危ない。

今からでも、間に合う。

挑発するようなことはやめるんだ」

「挑発でもいい。

アコーソはこれらかも、いろいろな人を犠牲にしてまで、佐藤ってやつを探すと思う。

いるか、どうかわからな存在をね・・・・」

「セリオ、わし一人でなんとかなる相手かもしれない・・・」
「ここで、おいらの出番ということだ」

 ペングウィーが、口をはさんだ。

「どっちにしても、セリオも、酒場のオーナーも、体内に魔力を持っていない。

怪我でも、したらどうするの?

補助魔法は?

不利な状況を、有利にするためだけにおいらがいる。

だから、二人とも、おいらに身を任せるつもりで戦えばいい」

「ペングウィー。

そういうことなら、わかった。

なら、二人とペンギンで、共闘しよう」

 伯父さんは手足を使った素手のみで戦い、私は槍を振り回し、パングウィーが私と伯父さんの力を補助魔法で強化してくれた。

 ついでに、ペングウィーは魔法で、アコーソの力を弱体化させた。

「力が抜けていく・・・・」

 アコーソは、その場で倒れた。
 ここで、とどめだ!と思った矢先、吸血鬼さんがどこからか現れた。

「吸血鬼さん!」

「おや、セリオじゃないか?」

 吸血鬼さんは、私に会釈をした。

「倒すことを考えていませんでしたか・・・?」

「考えていたわ。

だけど、それが何か問題がある?」

「問題おおありですよ」

「じゃあ、どうすればいいの?」

「さあ、どうしたらいいんでしょうかね。

牢屋にでも、ぶち込んで、終身刑にしますか?」

 ここで、伯父さんが答えた。

「そういう事情なら、それが一番だろう」

「了解です」

「吸血鬼さんは、どうしてここがわかったの?」

「わかったわけじゃないですが、魔法学園の生徒の大量虐殺の件が耳に届きまして、こうして犯人を探していたところに、偶然ですが、発見しただけです。

アコーソを目撃した人もいるくらいですからね、ここらへんでは有名なんですよ。

指名手配犯ぐらいのレベルになると、知らない人はいないというレベルになりますがね。

さ、おしゃべりはこの辺にして、これで失礼いたします」

 吸血鬼さんは、こうして黒いマントにアコーソを包み込んで、空高く飛んで、去って行った。 

 私はその様子を見て、全身の力が一気に抜けていくのを感じ、その場に座りこんだ。

「終わった・・・・」

「セリオよ、まだ終わっておらん」

「まだあるの・・・?」

「わしには、まだ救わなくてはならない人が二人もいる」

「それは、もしかして・・・・」

 大体、予想がつく。

「不幸寄せと、死に寄せを持つ者がおる。

そして、セリオにお願いがあるんだ」

 私は、伯父さんの言うことを聞き逃さないようにと、必死に耳を傾けた。

「姪を助けてくれないか?」

「姪?」

「そうだ。

その子を守ってほしいんだ。

彼女も人間世界で暮らしていたのだが、保育園の頃にいじめにあってな、いじめっ子から離れるたために幼稚園に入園したんだ。

だけど、そこで死に寄せというものが発動してしまってな、保育園時代のいじめっ子が幼稚園や家にもやってきて、大量殺人にあい、精神病棟に入院しても、そこでも、数々の殺人事件に巻き込まれてしまった。

保育園でのいじめっ子は、やはり幼い子供だからという理由で見過ごされてしまったと知った時は、人間世界は少年法も含めて、犯罪者を軽視しすぎていると感じたよ。

そんな彼女に残された選択肢は、ひとつだった。

幼い4歳になるかならないかぐらいの彼女の決断だ。

異世界に逃げることだ。

逃げるということは、
死に寄せの呪いを持った者からしてみれば、
根本的な解決にはならないのだが、
それが当時の彼女が一生懸命に考えてだした答えなのだろうな」

 私は、考えた。
 血がつながっているとしても、私は知らない。
 見たこともないし、会ったこともない。

「わしにも、守りたい者が他にもあって、その子だけのために全力でというのは、正直に言うと難しい。

セリオは、血がつながったとしても、見ず知らずの彼女を助けたいと思わないか?

無理はしない。

これは、命を犠牲にしてしまうかもしれないんだ。

セリオは、どうしたいんだ?」

セリオは、血がつながったとしても、見ず知らずの彼女を助けたいと思わないか?

無理はしない。

これは、命を犠牲にしてしまうかもしれないんだ。

セリオは、どうしたいんだ?」

「その人に会ってみるわ。

決めるのは、そこからよ」

「セリオ・・・・」

「それに、守るべき存在も、助けなきゃいけない者も、一人じゃないわ。

不幸寄せでも、命に関わることじゃなくても、本人が苦しいなら、私は助けてあげたいわ。

そして、何も呪いを持ってなくても、悩みがあるかのしれない。

その人は、助けなくてもいいの?

そんなことはないわ。

一人一人が、大切な存在のはずよ」

「セリオ、それならわかった。

まずは、その彼女に会ってみよう。

そこから、考えてみよう」

 こうして、私と伯父さん、ペングウィーはその場を去った。

 酒場が壊れてしまったのだから、営業しようがない。
 だから、ここを出るしかない。

 ここが、伯父さんしかいない酒場でよかった。
 他の人がいたら、アコーソは間違いなく、巻き込んでいたと思う。

 ペングウィーは浮いている状態だけど、叔父さん、私が歩く途中で、伯父さんに質問してみた。

「聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」

「何だい?」

「私の父親についてよ。

君が私の父の兄、つまり伯父だということはわかったわ。

だけど、だとしたら、私の父はどこにいて、何をしているのかしら?」

「これも、また残酷な真実になるのだが」

「いじめ寄せ、不幸寄せ、死に寄せの呪いがあると聞いて、これ以上の残酷なことなんて考えられないわ」

「ところが、あるのだよ」

「え?」

「実は、弟もいじめ寄せの呪いがあったんだ。

それで、ストーカー被害にあってな、母親とお腹にいるセリオをおいて、様々な場所へ逃げ回っている」

「逃げ回っているということは、生きているの・・・・?」

「さあな。

これ以上のことを教えられないな。

あまりにも知りすぎると、幼い君は精神崩壊とかしてしまいそうだ。

父親探しよりも、今の向き合わなくてはならないことに専念してくれ。

これ以上のことを背負わせたくないんだ。

この気持ちが、理解できるか・・・?」

 私は考えてみた。
 伯父さんが、どんな気持ちなのかを。
 どれも私の想像でしかないけれど、伯父さんもきっと、自分の姪が運命を背負うことを見て、辛いと思う。

「伯父さん、ごめんなさい。

私は、何も理解でなくて」

「いいんだ。

謝らなくてはならないのは、こっちだ。

何もできなくてごめんな」

「そんなこと・・・・ない」

「セリオ、わかってあげるんだ。

難しいかもしれないけど、オーナーだって葛藤しているんだ」

 ペングウィーに言われて、私は考えこんだ。

「葛藤・・・・?」

「そうだ。

どれが彼女たちのためになるかってことをね。

運命なんて、オーナーは実際は嫌っているはずなんだ。

最初は、何度も何度も目をそらしたりもしていた。

だけど、こうして向き合ってくれている。

それが、オーナーにとって、どのくらいの進歩だと思うかい?」

 私は、伯父さんのことを何もわかっていない。
 父親のことを知りたいと純粋に探っていたけれど、この真実が残酷なものだったら・・・・?

 私なら、教えてあげたいなんて思えるかな?

「わからない。

わからないわよ。

伯父さんのことなんて」

「まだ幼い君に、全てを理解してほしいなんて誰も求めないだろう。

だけど、長年近くでオーナーを見てきたおいらだから、わかる。

オーナーは子供が好きだからさ、自分の子供含めて、君のことも愛せるからさ、余計に辛いんだろうね。

セリオは、まずは真実を知ろうとすることよりもさ、真実を語る側がどんな気持ちで話しているか考えることにしようよ」

「どうして?」

「世の中には偽りもあるし、真実を隠すことだってある。

だけど、それはどうしてなのか考えたことあるかい?」

「ない」

 私は即答だった。

「感情があるからだ」

「え・・・?」

「悲しい、罪悪感、怒り、様々な感情があるだろう?」

「あるけど、なぜいきなりそんな話になるの?」

「今すぐわかってほしいってことはないから、じっくりわかっていけばいいさ。

さて、もうすぐ着くよ」

 ペングウィーに言われて、目の前を見ると、小さな小屋があった。

「小屋・・・・?」

「そう、ここが君の従姉の家さ」

「セリオ、教えてあげよう。

君の従姉は、デーボレ。

死に寄せの呪いを持つ少女だ」

 伯父さんは、こう言い、小屋の扉を開けた。

 中にいたのは、私と顔が似ていて、白い肌に、肩より長い黒い髪に、宝石のような黒い瞳、黒の半袖の服に、白のスカート、黒の膝上のハイソックスの女の子だった。

「初めまして。

私、セリオって言います」

 敬語で、デボーレという子に挨拶をしてみた。

「あたしは、デボーレ。

もしかして、話で聞いた通り、あたしの従妹・・・・?」

 向こうは、困惑している様子だった。

「そうみたいね。

私は聞かされても、いまいちピンとこないのだけども」

「それは、あたしもそう」

 デボーレは、ゆっくり私に近づいた。

「君は、あたしに近づいても平気なの?」

「平気って?」

「何も聞かされてない?

あたしは、死に寄せによって、たくさんの人の命が奪われているって」

「聞いている。

だけど、それを知った上で、君に助けに来たのよ」

「どうして?」

「守りたいから」

「へ?」

「君のことも守りたいし、周りにいる人も救いたいから」

「あたしが怖くないの?」

「君は、何も悪くない。

だから、怖くないわ。

君はこの呪いを背負って、どうにかしたいとか思ってる?

変えたいって、全力になれる?

私は、助けたいの」

 わかってもらえるかな?
 ここまで、様々なことを経験しすぎたら、何も信じられなくなっいるかもしれない。

「あたしと一緒にいるのは、危ない。

関係のない君を巻き込みたくない。

セリオちゃんだって、死にたくないでしょ?」

「死にたくないけど、デボーレはこのままでいいの?」

「仕方ないかも。

こんなふうに生まれたら、変えられないよ。

変わらない」

 この様子だと、諦めてる?

「今すぐに、信じなくてもいい。

私、信じてもらえるまで、何回でも助けるから」

「セリオちゃんが、そうしたいなら」

 デボーレは、どこか納得していない様子だった。

 それでもいい。
 私は、信用してもらうために有言実行できればいい。

「ほんとに、その覚悟はあるのか?」

 ペングウィーが、私に質問した。

「え?」

「どんな災難が起こるかわからない。

それに、君には魔力が宿ってない。

アコーソのように致命傷を負う戦いがあったら、どうする?

あるいは、アコーソよりも強い敵が現れることも考えられる。

おいらだって、あの時は助けられた。

だけど、いつでも、どこでもっていうわけじゃない」

「それは・・・」

 私は、そこまで考えてなかった。

「デボーレを救いたいなら、自分の身を守れるようになるんだ。

まず、そこからだ」

 ペングウィーは、どうしてそんな厳しいことを言うの?

「セリオちゃん、ペングウィー君の言うことも、最もだよ。

自分の身を守れるようにならないと、誰かのことを救うことなんてできない。

魔法が使えないならさ、そこから始めないと」

 デボーレまで・・・。

「私には、魔力がない。

だけど、魔法なしでもやってこれた」

「最強の魔法を使いこなせる者がいたら・・・?」

 ペングウィーが、険しい表情をした。

「え?」

「アコーソは君と同じように魔力を持っていないし、この世界では弱い方に入る。

だから、勝てた」

「魔力を持つ魔法学園の生徒や先生も、何人かやられたわ」

「魔法学園の生徒は、いくら魔力を持っていても、使いこなし方を知らない人の集まりだった。

それに、先生を倒すことができたのは、きっと、アコーソの実績ではなく、仲間達が優秀だったから。

アコーソ自身は、自分の実績だと思っているみたいだが、それの勘違いが滅亡へと導くことをわかっていない。

魔力を持たないアコーソが、なぜ今まで助かってこれたのか?

どうして、行動からしてみても、決して賢い方ではない彼女が指名手配をされても捕まらなかったのか?

疑問に思ったことはないかい?」

「それは・・・あるかもしれない」

 アコーソは追われる身でありながらも捕まることはなく、魔法学園も襲撃できた。
 だけど、伯父さんと私とペングウィーと戦った時は、思ったより強くなかった。

 理由は、叔父さんとペングウィーが頼りになるからだと思っていた。               

「おそらく、彼女だけで異世界転移すれば生き残れないと思っている。

だけど、仲間の魔力と知能だけで、守られてきた。

その仲間を、彼女は魔法学園で犠牲にしてしまった。

もし、そこでアコーソの仲間が生きていたら、酒場での戦いは勝算はなかった。

これから先、彼女は脱獄を企むかもしれないけど、そこまでの知能はないだろうし、仮に成功したとしても、生き残れない。

真っ先に、殺される運命だな」

 確かに言われてみれば、アコーソは仲間を動かしているところがあった。

「だけど、どうしてアコーソは優秀な仲間を?

仲間も同じ保育園の人間世界出身だったわ」

「そこが、謎なとこだ。

もしかしたら、最強の魔力の使い手が紛れ込んでいたのかもしれないな。

どうやって集めたのかも、そして、彼女が異世界転移して経緯もわかっていない」

「確かに、私ペングウィーによって、異世界転移したもんね」

「あたしも」

「だけど、アコーソみたいな人は、魔法精霊は他にもいるけれど、異世界転移なんてさせたいやつはいないだろう。

となると、仲間のうちの誰かが異世界へ行くことを提案し、転移させたという方が辻褄があう」

 確かに、今までどうしてアコーソが異世界に来て、どうやって来たとか今まで考えたことがなかった。

「今から、数年間。

魔力がなくても、魔法を使えるようになるんだ」

「え?

それって、可能なの?」

「それでもやるしかない。

デボーレを守りたいならな」

 私は伯父さんとデボーレの顔を見た。
 どうしてだが、何か言う様子はなかった。

「私、行ってくるわ。

もう少し強くなって、守れるようになうわ」

「気をつけるんだ」

 伯父さんが口を開いた。

「君には、まだ従兄がいる。

その名も、コレイト。

彼もまた、不幸寄せにより、次々と悲劇が起こる」

「どうして、急にそんな話を?」

「次、いつ会うのかわからないと思ったからだ。

何せ、魔法を使いこなせるための修行といえば、泊まり込みで、習得するまで帰れないからな。

せめて、その前に、コレイトについて語っておきたくてな」

「わかったわ。

伯父さんの話を全部、聞いたら修行に行く」

 伯父さんは、語り始めた。
 長い話になるけれど、私は最後まで聞いた。

「コレイト、彼は赤ちゃんの頃に人間世界に養子として入ることになった。

生まれてすぐに産みの母親が育てられないとなり、赤ちゃんポストに入れられた。

赤ちゃんポストと同時に入った手紙には、詳細が書いてあったものの、職員は異世界での話だの、不幸寄せの呪いなどは信じなかった。

作り話だととってしまったのかもしれないが、その手紙のおかげで、わしは自分の甥っ子だと気づけた。

その後に、3歳ぐらいの息子さんがいるご夫妻に引き取られることになった。

理由は、養母ががんにかかり、手術を受けたことにより、子供を作れない体になってしまって、幼い息子に、弟か妹がほしいという要望があって、養子を迎えることにしたからだ。

そして、佐藤《さとう》正《ただし》という名前を授かることになった。

しかし、その兄は6歳の頃に幼稚園の友達と喧嘩になり、殺してしまったんだ。

その後に、犯罪者の家族となってしまい、
兄は行方知らず、
父親は心を病んでの精神病棟に入院し、
母親は離婚しての正と一緒に『鈴木』の名字になり、飛行機に乗り、遠いところに引っ越すも、マスコミに場所を特定されて、母親は自殺をし、
正は児童養護施設に引き取られることになった。

だが、ここでもやはり、犯罪者の家族としてのレッテルは消えることはなかった。

そこから、正は、魔法精霊の神がたまたま人間世界の観光に来ていたところに、異世界転移をお願いし、その後にわしに会うことになった。

なかなか口を開かない正に、赤ちゃんポストに入れられていた当時の手紙を見せて、そこから、コレイトという異世界ネームを授かることになった。

この後は、実はと言うと・・・・」

「実は?」

「世界で一番治安の悪いクライム地方に行ってしまったので、有名な魔法精霊のサルヴァトーレに護衛を頼んだ。

だけど、どういわけだが、被害にあった母親と子供を助けようとしてしまったんだ。

コレイトは、そもそも戦うことすらできないはずなのにな。

そこで、どうなってしまったかの情報が来てないんだ」

「来てないってことは、生きているのかそうじゃないのかわからないってことになるわよね?」

「そういうことだ。

だから、修行が終わったら、クライム地方に向かい、人々を助けてほしいんだ。

コレイトは不幸寄せの呪いで、次々と悲劇に巻き込まれる形だから、それよりも協力な呪いがない限りは、生きてはいるはずだ。

サルヴァトーレの安否も確認できないから、彼は常に死んでいるか、あるいは何かしらで連絡がとれないのだろう。

わしも探しているのだが、見つからなくてな。

危険な戦いになるかもしれないが、クライム地方のことを頼んだ、数年後にな」

「ええ。

いつか、この修行を終わらすから、その時まで生きているといいわね」 

 こうして、ペングウィーに提案されて、私は修行することになった。
 そして、修行が終わったら、不幸寄せの呪いを持つ従兄のコレイトと魔法精霊のサルヴァトーレを助ける。

 私は、ペングウィーと一緒に道場の前についた。

「あれ、お師匠様は来てないのかな?」

「師匠?」

「師匠の名前は、マイスター。

魔法を無の状態なら鍛え直すことに特化している。

第一、魔力のない君がどうして、魔法学園に入学するという無謀なことをした?

襲撃にあわない状態なら、成績はどの学科においても、オール赤点だったぞ?」

「それは、誘われたから・・・・」

 私も魔法学園に入学する理由なんて、考えたことがなかった。
 ただ、バンピーロに言われるがまま、入った。
 ただ、それだけだった。

「それを無謀と言うのだ。

それは、魔力が使えることが証明されている者だけが、行くところだ。

それなら、魔力を引き出すための修行場とか、魔法の代わりになるものを会得するための道場とかに入った方が正解のはず」

「そこまで考えてなかったし、知らなかった。

私、この世界に来て、3年しかたってないし、何もわからないんだ」

「知らなすぎだ。

常識とか知っていい頃だ。

一体、今までどこで何をしていたんだ?」

「ギルドでひたすら、槍の使い方を学んでいた。

そのギルドのことでしか知らないし、外の世界がどうなっているとかも聞いたことがないわね」

「なら、そのギルドに問い合わせる。

名前を教えてくれないか?」

「今、そのギルドはないわ」

「え?」

「アコーソと、そのグループが壊しちゃったし、たくさんの人も犠牲になったから。

ギルドのマスターもね」

「なるほど、

ということは、あの下級ギルドか」


 私は、何のことをいわれているのかわからなかった。
 ギルドに下級なんて、ものがあるの?

「リティラシー出身だな?」

「どうして、ギルドの名前を?」

「無名なギルドだけど、あのアコーソと集団が壊滅させたギルドだからさ。

おいらは、ニュースになった時に初めて知ったんだがな。

メンバーの教育もせず、魔力を磨かず、ひたすら武器だけの修行をさせる。

これで、セリオがこの世界のことを知らないということにも合点がいくな」

 私は、異世界に来て、すぐにリティラシーに入団した。
 だけど、そこでは本当に武器以外の修行をしたことがないし、魔力とか、この世界の常識とか言われても、何のことだかわからなかった。

「セリオよ、ギルド選びを間違えたな。

これからは、お師匠様に常識をたたき込んでもらうのだ」

 ここで、扉を開く音がした。

「外が騒がしいんだが、何を話しているのですじゃ?」

 道場の扉を開けたのは、老人だった。
 声は低く、縁なしの眼鏡をかけていた。

「おー、お主はペングウィーではないか?」

「お師匠様、久しぶりですね。

そして、今回は修行で鍛えなくてはならない人がおります」

「またか。

今度は、どんなのだ?」

「おいらの隣にいる彼女は、魔力を一切持たない幼女です。

クライム地方での戦闘ができるようになるために、鍛えてほしいのです」

「初めまして」

 老人は、私の顔をまじまじと見た。
 あんまり、真剣に見られるのはやだな。

「わしは、マイスターと言いますのじゃ。

お主は?」

「私は、セリオと言います」
 
 なんか、わからないけど、厳しそうな人だな。
 私は緊張と恐怖のあまり、怖気づいてしまう。

「セリオか。

クライム地方に行くことを、希望しているのか?」

「はい」

「魔力を感じないのだが、そんな状態で本当に行こうとか思っているのか?」

「え?」

「クライム地方は、世界で一番治安が悪いところだ。

素人が、修行のためとか言って、行くところじゃない。

そこは、内乱とかも普通に起きるところだ」

「私も内乱に巻き込まれる危険があるということですか?」

「まともに戦える状態ならな。

クライム地方は、爆発事故も多いから、巻き込まれたら、そこで人生が終了したものとなる。

」わしの弟子も何人か、クライム地方に行ったものの、連絡がつかなくなった人も少なくはない。

そして、魔法精霊は、各地方にいるのだが、クライム地方だけは一匹しかいない。

その名も、サルヴァトーレ。

彼だけがクライム地方に向かうことができて、有名な魔法精霊だ。

だが、今となっては音信不通だがな」

「警察とかは頼りにならないんですか?」

「警察はいるみたいだが、何人か事件に巻き込まれて、
警察も被害者になってしまうか、
犯罪者の仲間入りになってしまって、
誰を信用していいのかわからなくなる。

また、警察は異動願いを出して、クライム地方を出てしまうことがあるくらいだ。

セリオは、その地方のことを何もわかっていないな」

「はい・・・・」

 まさか、こんな危険な場所にいるなんて知らなかった。

「セリオは、今まで何をしてきたんだ?

どんな生活を送ってきた?」

「私は3年前にギルドについて、槍での修行をひたすらしていて、外の交流を持ってなくて・・・・」

「お師匠様、彼女はリティラシー出身みたいです」

「リティラシー?

リティラシー地方か?」

「はい。

ギルド名が、リティラシーということは、その地方で間違いないと思われます」

 そこで、マイスターさんはため息をつく。

「リティラシーとは、そこに下級ギルドがあり、落ちこぼれだけが通う学校があり、宗教はあるが、魔法学園はない」

「お師匠様、魔法学園がない地方なんてあるんですか?」

「そんな地方はたくさんある。

実際、クライム地方にもないしな。

リティラシーは、わし達の住む隣の地方だ。

そこに住んでいる者は、教育が受けられず、世界で二番目に治安が悪いが、魔法を使えない者も少なくはない」

「私がいた地方が、世界で二番目に悪いんですか?」

 まさか、私がそんなところにいたなんて。

「クライム地方が魔力で支配をする場所なら、リティラシーは暴力で支配する所だ。

そこは、食料困難や、家がない人が多く、ギルドや施設、宗教内で生活する人が多い。

または、わざと犯罪を犯し、警察に捕まり、牢獄での生活を選ぶなんてこともある。

教育を受けられないために、知識もない」

 私は、どんな反応をすればいいのかわからなかった。
 だけど、これだけはわかった。

 この人を師匠として迎えてしまえば、自分が壊れてしまいそうだ。

「ペングウィー、私は帰るわ」

「急にどうしたんだい?」

「とにかく、帰るものは帰る」

「ほう?」
 
 マイスターさんは、顔をしかめていた。

「マイスターさん、ありがとうございます。

ですが、私は君の弟子になれません」

「これでよい」

「え?

いいの?」

 ペングウィーは驚いていた。

「弟子と師匠は、ウィンウィンでなくてはならないかな。

誰かに強制されての教育は、何も進歩しないですじゃ。

魔法を鍛えることが、正しいわけじゃないからな」

「ペングウィー、私はクライム地方へ行くわ」

「そんな、無謀な!」


 私は、ペングウィーの案内を頼りに、クライム地方に向かう。

「本当に行くのか?」

「ええ」

「正気か?」

「修行で鍛える時間を使うことの方が、正気かどうか疑うわ」

「どうして、そんなことを?」

「コレイトやサルヴァトーレ、私は今すぐに助けなくちゃいけないって思ったから。

修行までやっていたら、どうなっているかわからない」

 こうして話している間にも、爆弾の音が聞こえた。

「ここは、おそらく、クライム地方だ」

 私は背中に背負っていた槍を構えた。

「爆弾なんて、跳ね返せばいいのよ」

「無理だって。

爆弾なんて、一斉に跳ね上がるんだぞ?

まず、逃げ切れるかどうか」

 爆弾の音があっちこっちから聞こえる。

「きゃー」

 悲鳴のした方に走る。

 黒いものがいくつも転がっていた。

「間に合わなかったようね」

 ペングウィーは、なぜか震えていた。
 もしかして、こわがっている?

「ペングウィー、無理してついてこなくてもいいんだよ?

私一人でも、救いに行くからさ」

「セリオだけに任せておけない・・・・」

「ペングウィー、君は何もしなくてもいいわ。

危険だと思ったら、隠れてもいい。

逃げてもいいわ」

「君は、いつも無謀すぎる・・・・」

「あれえ、お嬢ちゃん?」

 振り返ってみると、知らない男の人がいた。
 手には空っぽのお酒のボトルを持っていた。

「こんな所で、何をしているんだ?」

「ある人と、精霊を探しているんです。

何か知りませんか?」

「そんなことより、俺と遊ばない?」

 こうして、私の左手を掴んだけれど、右手を使い、槍で振り払った。

 そしたら、男の人は吹っ飛んでしまった。

「私は、君なんかにかまっている時間はないの。

今すぐに、救いが必要な人がいるの。

遊んでいる暇があるなら、よそでやることね」

「セリオ、やっぱり君は強いよ。

クライム地方の酔っ払いを一撃で」

「私は、このまま行くわ。

これから、爆弾は落とされるのか、投げられるのか知らないけど、これからも何人も犠牲になると思う。

だから、これ以上、被害が出る前に元凶を突き止めて、倒すつもりなんだよ。

ペングウィーは、どうする?

強制はしないわ。

私と一緒にいたいならいればいいし、どうしても無理なら伯父さんの所に向かえばいい」

「おいらも行くよ・・・・・。

おいらは、セリオの相棒で、護衛を任されている。

ここで、放置するわけにはいかない・・・・」

 明らかに、頑張っている。
 仕方ない。
 ここは、ペングウィーを守りながら戦うことにするか。

「ペングウィー、君を巻き込まないように頑張るわ」

 私は、彼を安心させるためにそう囁いた。
 だけど、どういうわけだが、返事がなかった。

 クライム地方で爆弾の襲撃にあいそうになるところを、何度か槍で振り払った。

「ありがとうございます」

 その度にお礼を言われる。

「セリオ、君は才能の塊だ。

爆弾を跳ね返すなんて、逸材は聞いたことげあるけれど、実際に目にしたのは初めてだ。

これは、君の伯父に当たるスコーポも獲得していないんだ」

 これはほめているのか、嫌みなのかわからない。
 だから、どんな反応をしていいのかわからなかった。

「爆弾を跳ね返ることも、潰すことも、私には簡単なことなんだよ。

被害を少しでも増やしたくないと思えばね」

 こうして、私は数々の爆弾を跳ね返したり、それが難しい時は、爆弾を壊して、すぐに避けたりの繰り返しだった。

「ほう、爆弾が機能しないのは、こういうことか」

 手に爆弾を持つ男が現れた。

 その時には、ペングウィーはすでに瓦礫に身を隠していた。

「君は・・・・?」

「おらは、ボンバ。

爆弾専門の殺し屋だ。

もしかして、おらの策略を邪魔してないか?」

「策略・・・・?」

「おらは、爆弾で被害がでることが楽しいけれど、それを防いだりしてないかってことだ」

 ここは、正直なことを言うと、事を大きくしそうだ。
 だけど、嘘をついてもいけない気がした。

 ここは、事実を隠した上で話そう。

「どうなのかしらね。

爆弾の向かう先が、どうなっていったのかなんてわからないんじゃない?

それに、爆弾なんてそんな簡単に防ぐことなんて、できるのかしら?」

「それもそうだな」

「私は、そんな明確にできないようなことを語りに来たわけじゃないわ。

ここに、少年と精霊は来ていないかしら?」

「精霊?

少年?」

「そうよ。

君は何か知っていることはない?」

「ないな。

少年なんて言われても、そこらへんにいたし、どの子をさしているのやら。

精霊なんて、おらは見えないんだ」

「見えないなんてことあるの?」

 マイスターさんや伯父さんも見えたし、私も見えた。
 だから、だれでも精霊の存在は身近にあるものだと思っていた。
 見えないなんてこと、初めて聞いた。

「精霊の存在を認識できないんだ」

「認識できない?

そんなことなんてあるの?」

「何を言ってるんだが。

精霊は、全ての人に見えるわけじゃない。

存在を認識できるようになるために、条件があるみたいだが、おらはそこらへんは興味がないから知らん」

「ということは、いても気づかなかったということ・・・?」

「そうかもな。

おらは、精霊なんてどうでもいいし、人の死骸さえ見れれば満足だ」

 ということは、このボンバという爆弾魔には、ペングウィーの存在は見えていないということ?

「君は、精霊が見えないってことは、攻撃しようががないってことでいいのかしら?」

「おらは、見えないってだけで攻撃できないわけではないがな。

この爆弾を投げれば、精霊だろうと、人間だろうと、どんな種族だとしても、全員巻き添えだ。

例外をのぞけばな」

「例外?」

「聞いた話だと、爆弾を跳ね返せる種族や、潰せる種族もいる。

クライム地方では見かけないが。

おらはどちらにしても、そのあたりには興味がないんでな。

お喋りはこのへんにして、お嬢ちゃんもここに来たからには、そこら辺に転がっている死体tお同じようになってもらうぞ」

 こうして、ボンバは私に向けて、爆弾を投げてきたけれど、私は槍で爆弾を跳ね返した。
 ボンバは避けてしまい、岩に当たって、その岩が崩れた。

 ボンバは、なぜか青ざめていた。

「爆弾を跳ね返すとか、その槍は何で出来ている?」

「ピンク色の槍」

「おらが聞きたいのは、そういうことではない。

お嬢ちゃんは何者で、この槍はどこから持ってきた?」

「私の正体は、私でもわかっていないわ。

どうして、君と互角に戦えるのかもね。

ちなみに、この槍はリティラシーのギルドから持ってきたもの。

それ以外はわかっていないわ」

「リティラシーとは、教育が受けられないことで有名な落ちぶれが集まるところ、か。

あそこは、簡単な読み書きでしかできない人たちもいるから、槍の作り方でさえもわからなかったということか?」

「それは言い過ぎだし、それに、これはリティラシーのギルドのマスター、シリーから授かったものよ」

「おらは、シリーについてなら、知っている」

「知ってるって?」

 クライム地方とリティラシー地方は隣にあるから、接点はもしかしたら、あるかもしれない。

 私に「セリオ」という異世界ネームを与えたのも、強力な槍を与えたのも、ギルドのマスターであるシリーさんだった。
 だけど、彼については謎が多い。
 最後は、アコーソとその集団に殺されて、私はリティラシーギルドの生き残りとなった。
 ほかにも生き残りはいるかもしれないけど、大勢いたし、私は知らない。

 リティラシーにはいたけれど、私はそのギルドのことをよくわかっていないし、どうして名前をもらえたのかもわからない。

 疑問に残ることがあるとしたた、あのギルドは魔法で経営しているはずなのに、中にいるメンバーはどういうわけだが、魔法を使えないということだった。

「魔法を使えるわりには、人に魔法を教えない。

そんな奴だ」

「シリーさんは、魔法を使えたの?

だけど、魔法を使うところを見たことがないわ」

「おらとシリーは、幼馴染みだけど、実績は独り占めするけれど、自分より下級を集めて、優位になったと喜ぶ、そんな奴だった。

ある時、おらはシリーより優秀な魔法を使えるようになったけれど、それをシリーが気に入らなかったらしくてな、おらをけなすようになっていた。

そこで、リティラシー地方でギルドを魔法で経営し、魔力を持たない者や魔法を使いこなせない人を集めて、武器の使い方は教えても、魔法は一切教えない。

そこで、魔法は自分一人だけが使えると優越感に浸るようになっていったんだ、あいつはな。

ここで学んだんだ。

人は裏切るってな。

幼馴染みとしての絆なんか、最初からなかったんだ」

 上から目線になるけれど、私はボンバを説得しようと思った。
 信じたくないことだとしても、ボンバの言うことはすべて辻褄が合ってしまう。

 シリーさんは、見知らぬ場所で泣いている私を拾ってくれたけれど、この世界の常識も魔法も教えない。

 ただ、槍の使い方での特訓しかしてこなくて、他のギルドメンバーとの交流もなかった。

 その違和感が何なのか、わからなかった。
 私は、もしかしたらいいように利用されていたかもしれない。

「ボンバ。

今すぐ、この爆弾事件は放棄だ。

君のやりたいことは、連続殺人なんかじゃない」

「いやだ!

おらがそんなことをしたら、何も残らない!

高い魔力を持つから、妬まれる!

仲間外れにされて、裏切られる!

だから、そうなる前に人を殺す。

ただ、それだけだ」

 ボンバも、辛い過去を経験した。
 それは私も同じで、だけど、人を殺そうなんて思わない。

「シリーさんは、私も一緒にいて、いい人なんて思わなかった。

また、同じ歴史を繰り返すかもしれないわね」

「同情のつもりか?

おらの過去とか、わかってないだろうに。

シリーは、シリーは、アコーソとかいう集団に殺されたと聞いた時は、いい気味とか思った。

おらの心は、汚れきっている。

救いようがない。

だから、ここで殺して、おしまいだ。

復讐の対象がいない今は、爆弾事件の被害者を出すことが唯一の、おらの楽しみだあああああ」

 こうして、ボンバは私に襲いかかり、私は槍で防御したけれど、爆弾はボンバと私の間で爆発し、彼も私も吹き飛ばされた。

 ボンバは動かなくなったけれど、私も動けない。
 爆弾の衝撃を受けてしまったから。

 痛い・・・・・。
 
 私は、あの一撃で致命傷をおってしまっている。
 ここで待つのは、死のみだ。

 気がつけば、私は病院の中にいた。

 ベッドの近くには、ペングウィーの他に、見知らぬ男の子と浮いているコアラがいた。

「気がついたか。

この状況で、よく生きてこれたな」

「ペングウィー?

このコアラは、そしてその男の子は知り合いなの?」

 コアラが話しだした。

「おいらが、サルヴァトーレだ。

傷だらけの君を、おいらとペングウィーの治癒魔法で治した。

あと、気づくのが遅くなったら、死んでいるところだった」

「ありがとう・・・」

 生意気だと思いながらも、お礼だけはした。

「俺は、コレイト」

 男の子が自己紹介をした。

「君は、俺とサルヴァトーレを探していたと聞いたんだけど・・・・」

「そうよ・・・。

私は、君を見つけるために来た」

「ありがとう」

 ペングウィーのお説教がここから始まった。

「今回は助かったからいいけれど、クライム地方は危ないってことはこれでわかっていただけただろうか?」

「すでに、役目は果たしたし、あとは修行する。

だけど、マイスターさんは嫌なの」

「はあ、わかった。

君が嫌なら、他のお師匠様を紹介するよ」

「ありがとう」

「それに、爆弾魔であるボンバは、どうなったのかしら?」

 ここで、サルヴァトーレが話しだした。

「おいらが来るまでには、あいつは死んでいたよ。

逆に、君も人間だったら今頃は死んでいたってことを自覚してくれ」

 ペングウィーはともかく、どうして助けたはずのサルヴァトーレからも説教を受けなくてはならないのだろう?

「とにかくだ。

セリオは、この傷が完治したら修行だ。

数年かけての」

 ペングウィーは、いつにもまして真剣な表情をしている。
 もしかしたら、これは完全に怒っているかもしれない。
 
「ええ。

魔法だわよね?」

「そうだ。

魔法だ。

潜在的な部分を引き出してでも、無理やりでも修行だ。

君の性格は、この辛さがないとだめだってよーくわかったよ」

「ペングウィー・・・・」

 こうして、私はしばらく入院して退院してからが、地獄が待っていた。
 マイスターさんを師匠としてむかえることはなかったものの、別の人を師匠としてむかえることとなった。

「今日から、よろしくお願いします」

 ペングウィーの紹介だから、きっと大丈夫だろうと思っていた。
 だけど、この師匠は厳しく、私は挫けそうになった。

 辛い・・・・。
 逃げ出したい・・・・。

 魔力をうまく引き出せない私は、槍で風を出すことぐらいが限界だった。

 だけど、この師匠はストレクツという人は、私を挫折に導くことしかできなかった。

「ほら、魔法を使えない貴様には、何も守れん!

今すぐ、魔法を鍛えろ!」

 できないことばかりを怒られ、私は逃げ出す決意をする。
 
 夜に私は道場から逃げ出した。
 ここで、知らない人に腕を引っ張られ、車に乗せられた。
 
「大人しくしろ!

炎で脅すか!」  

 男の人に、顔の前に小さな炎を出され、抵抗ができなかった。

 槍で戦いたいけど、それは男の人にとられてしまった。

「私を、どうするつもりなの・・・・?」

「この子は、爆弾を浴びても生きてるって聞いてな!

実験動物としていこうって思ったんだ!」

「え?

どういうこと?」

 こうして、私は複数の男の人に車からおろされ、見知らぬ場所につれてかれた。

 ここは、どこ・・・・?

 こうして、私はガラスの中に入れられた。

「実験動物は、どこまで耐えられるだろうか?」

 この部屋から、電流が流れた。

 痛い、痛い、痛い。

 私は、その場で倒れた。

 それでも、私の実験は終わらない。
 
 私は個室に入れられて、火が出でても、そこから出られないなんてこともあった。
 私は気絶することはあっても生きている。
 
 この実験に耐えれる私は、何なのだろうか?
 人間なのだろうか?
 それとも、不老不死?
 どちらにしても、こんな状態になるくらいなら、さっさと死んでしまいたい。

 私は、そんなことを考えているうちに痛みというのがわからなくなった。
 最初は、あんなに痛かったけれど、だんだん気絶することもなくなった。

「今日から、セリオという名前を捨てるんだ」

 白衣を着た研究員に言われた。
 だけど、これで納得するわけがない。

「どうして、この名前を捨てる必要があるの?」

「実験動物に、そんな名前はいらないと我々で判断したからだ」

 私は数々の実験に耐えることになり、次第に辛くなくなってきた。

 ペングウィー、厳しい師匠、伯父さん、サルヴァトーレ、デボーレ、コレイトの顔が浮かんできた。
 今頃、どうしているだろうか?
 私のことを心配しているかな?
 
 だけど、今の私は身も心も実験動物になってしまった。
 
 どのくらいの時間がたったのだろうか?
 次第に、自分が何者なのかさえもわからなくなっていった。
 無音の閉鎖空間で待機するか、実験室に入れられるか、研究員からの教育を受けるの繰り返し。

 全てが、どうでもよくなってしまった。

 ここで研究員から聞かされた。

「君と交流を持ってきた人たちを全員殺したよ」

「え?」

「ペングウィーという魔法精霊や、
サルヴァトーレという最強な精霊も、
君の伯父も、
デボーレという孤児も、
コレイトも、殺した。

デボーレやコレイトの場合は、不幸寄せが死に寄せの呪いのために生きることを諦めてしまって、殺すことを我々にお願いしてきたがな。

デボーレは自分のせいで人が死んでいくし、
コレイトは犯罪者の家族だし、母親が自殺したこともあってだ」

「嘘だよ!

そんなはずないわ!」

 私は、この現実を否定したい。
 実際に、見たわけじゃない。

「残念だ。

みんなが、生きることを望んでいると思うか?

それは、ない。

世の中には、死を自ら選択することもあるのだよ」

 この瞬間、私は誰を信じればいいのかわからなくなった。
 私といるだけで、みんながいなくなってしまうのか・・・。



 様々な実験を受けたことにより、私は後天的に魔法が使えるようになった。
 体に元々、宿っていない魔力を研究員に無理やり注ぎ込まれたから。

 私は12歳になり、髪も腰まで伸びた。
 赤いリボンは研究員に没収された上に、今はそんなアクセサリーは似合わないだろう。

 いじめられることが、人生の中で辛いことなのかと思っていたけれど、そんなことはなかった。
 誘拐されて、見知らぬ場所に閉じ込められ、実験動物として生きるという、これ以上の地獄が待っているなんて思わなかった。

 私の知っている人は、どこにもいない。
 最初は受け入れられないとか、そんな気持ちだったけれど、今となってはそんなことは何も感じなくなってきた。
 研究所の中で、使えない実験動物は次々と殺処分を受けていくけれど、これが普通なんだと今では受け入れてしまっている。

 この世界は、魔法こそが全てだ。
 そう教育された時は最初は、差別と納得できなかったけれど、今となってはそれすらも否定する気がない。

「君は素晴らしい個体だ」

 私は、研究員に褒められることばかりだった。

「火にも、水にも、電気にも、どんな耐熱でも順応できる。

これからも、実験を続けさせてほしい」

「はい」

 私に痛みなんてないのだから、どんな実験であっても、誰かの役に立てるならそれでいいや。
 この世界に、私を心配してくれる人なんていない。

 理不尽しか存在しない。
 恨むこともしない。

「この個体は、まだ妊娠できるようになってないのだが」

「子孫を残すために、この個体が大人になるまで実験を続けよう」

 私は、期待されている。
 だけど、まだ私は子供を作ることができない。
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