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第1章 幼稚園から始まる悲劇

第7話 人の姿をした化け物

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「わかっていたんだ。

君には、生まれた時からいじめ寄せの運命があるってことくらい。

だけど、わかっていながら、伯父でありながら、何もできなかった。

本当にごめんな。

運命からは逃げられない。

だけど、わしは目をそむけたくなって・・・・」

「いいの。

いいのよ。

伯父さんは、何も悪くないわ。

いじめる側が、悪いってそんなことわかりきっていることでしょ?

だから、自分をせめないで?」

 これが励ましになったかどうかは、わからない。

 ここで、酒場が壊れた。
 そして、目の前にいるのは、元いじめっ子グループのリーダーだった。

「なぜ、こんなところに?」

「うちは、アコーソ。

異世界ネームをもらった。

佐藤をいじめるために、異世界転移を果たした」

「まずい!」

 伯父さんは、焦っている様子だった。

「とにかく、うちは佐藤をいじめたい。

いじめたい。

妬ましい。

佐藤は、どこ?

佐藤の気配がするけど」

「佐藤を探す前に、お医者様を探すのはどうかしら?」

「あなたは、さっきの・・・・!」

 私は、槍をかまえた。

「戦うつもりなら、引き受けるわよ?」

「戦うつもりはない。

ただ、佐藤の気配を探しているだけだ」

「誰にも、私の大切な人を奪わせない。

だから、私は何度でも君と戦うわ!」
 こうして、私は槍を何回でも、アコーソにつきつけた

 だけど、アコーソは怪力で、腕の力をふるっただけで、槍を弾き返した。

「そんな・・・、私の槍が・・・!」

「セオリ、ここはわしに任せてくれ」

「伯父さん?」

「こうなったことにも、わしにも責任がある。

ペングウィーから、全て聞いてある。

だから、ここの場所で、義妹の仇をとらせてほしいんだ」

「義妹は、ママのこと?

私はこれ以上、大切なものを失いたくない。

だから、戦わないで?

戦うのも、犠牲になるのも、私一人だけでいいわ」

「よくない。

わしも、大切な姪を失いたくないんだ」

「伯父さん・・・・」

 何で、私は立ち止まっているのだろう?

 伯父さんを信頼しているから?
 戦うことは、こわいから?

 どちらでもない。
 私は、自分一人で背負わなくていいことに安心の感情がある。

 安心・・・?
 こんな危機的状況の中で、どうしてこんな安堵なんてしてられるの?

 自分で、自分がわからなかった。

「これから、つらいこと、悲しいこと、待ち受けていると思う。

人生を放り投げてしないたくなる場面に出くわすかもしれない。

だけど、忘れてほしくないことが、ひとつだけあるんだ。

セリオ、それが何なのか聞いてくれるかい?」

 伯父さんの言いたいこと?
 これから先、聞く機会があるのかどうかもわからない。

 私は迷うことなく、答えた。

「いいわ。

伯父さん、最後まで聞かせて」

「わしは、どんな時でも、セオリがどんな姿になろうと、愛している。

こんなわしで、ごめんな。

伯父らしいこと、何もしていないのに、でかいこと言えないよな」

 伯父さんから、伝わる。
 これは後悔なのかもしれない。
 
 だけど、私は伯父さんを責めていない。
 この瞬間でしか出会えないけれど、やっぱり私の世界でたった一人しかいない伯父さんだ。

 何の根拠もないけど、なぜか伯父と姪の関係だということを実感できる。

 何も知らないけれど、姪に対する愛情だけは私にも伝わった。

「そんなことない!

伯父さんは、私に前へ進む勇気をくれた。

だから、伯父らしいことを、ほんの一瞬かもしれないけど、私は実の姪なんだなって思える言葉をもらうことができたわ。

それができるのは、伯父さんだけだと思うわ。

だから、私も伯父さんを愛している」

 伯父さんは、一瞬微笑んだ。

「そっか、ありがとう・・・・」

 こうして、アコーソが口を開いた。

「話は、すんだか?

うちは、佐藤をいじめるために、手がかりを探したつもりだったけれど、今の会話にもそのような様子はなかった」

 人とは、思えない。
 私は、アコーソを最初から今も人と思ってない。
 今となっては、化け物でしかない。

「アコーソに聞きたいことがあるわ」

「うるさい、黙れ、察しろ」

 アコーソの冷たく言い放った言葉を私は、無視した。
 察するなんて、何を察してほしいのかわからなかった。

「仲間はどうしたの?

仲間と一緒いなかったの?」

「知らない。

うちは、佐藤以外に興味がない」

「大事な友達じゃないの?」

 保育園の頃にアコーソと一緒に私をいじめてきた人たちだ。
 そんな簡単に離れると思えなかった。

 だけど、アコーソは予想もしない答えを出した。

「は?

何で、うちがそんなただの保育園からの腐れ縁を気にしなきゃいけないの?

意味不。

あなたって、わけわかんない。

そのまま死んで魂のままでいようが、異世界転生しようが、うちに関係ない。

うちが気にするのは、佐藤だけ」

 伯父さんは、アコーソと戦う。
 素手で、互角にやり合う。

 私は、アコーソの発言が信じられない。
 目的のためなら、仲間すらも捨てられるような人なんだ。
 彼女は、心が怪物になりきってしまったのかもしれない。

 私は何かを犠牲にして戦うか、守るために戦うか。
 正しい戦う目的がわからない・・・。
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