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番外編 三毛猫を愛する者たちへ 第2章

第10話

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 男一人にならなくてよかったよ。

 もし、間扉がいなければ女に囲まれるところだった。



 スモモと菊は、女同士で恋人になった。





「どいてよ」

「あ‥‥あ‥‥」

 小学二年生の柊 月日つきび。

 柊チューリップから狙われている。

 表向きは4人兄妹の末っ子だが、実は8人兄妹の末っ子。

 性格はおませ、わがまま、甘えん坊、泣き虫の幼女。

「というか、その言い方ないだろ?」

「どの言い方すればいいんだ?」

 敬語は一切使わないし、

「ありがとう」とか「ごめんなさい」って言葉使わないし、

 男言葉は普通に出るし、

 些細なことですぐ怒るし、

 身長は幼稚園に間違われるくらい低いし、

 声はソプラノなんて越えている程高いし、

 いつも三毛猫ボールなんて言う、三毛猫の顔の形をしたボールを持ち歩いているし、

 何なんだ?こいつ。



「とにかく、今動いてしまうと時間の歪みもあるし、歴史を大幅に変えることがないよう、二年まで待つことにしよう」と野呂井。

「グレーボーイもかなりの無茶ぶりをしてくれたな」



 野呂井の言う通り、二年の歳月を待った。

 俺と間扉は中学三年生になり、

 柊きえとスモモは中学一年になり、

 柊菊は小学六年生になり、

 柊月日は小学四年生になった。



「グレーボーイは動かない様だ。つまり、時間を戻すことはない」

「となると?」

「何かあってもやり直しは効かない。

そして、チューリップもそろそろ時間の歪みも外れたし、本格的に動き始めるはずよ」

「うん」



 月日は四年生になったのに、身長が130センチに満たない程低い。

 30キロにも満たない低体重の上に、俺とはかなりの身長差があるので、簡単に持ち上げられる。

 こんなの簡単に誘拐されそうだ。



 月日の話によると、

 人間世界にいるのは、長男、長女、二男、二女。

 異世界のどこかにいるのは、三男、三女、四男、四女。



 現在

 長男、高校二年生。

 長女、高校一年生。

 二男、中学三年生。

 二女、中学二年生。

 三男、中学一年生。

 三女、小学六年生。

 四男、小学五年生。

 四女、小学四年生。

かな?



 人間世界から抜け出した年齢。

 四女の月日は、1歳。

 四男は、2歳。

 三女は、3歳。

 三男は、4歳。

 

 三男は幼稚園とかで、「芸能人の子供」とからかわれたことが原因で、幼稚園に入園していない妹二人と弟一人を異世界に連れ込んだらしい。

 当時、5歳の姉、6歳の兄、7歳の姉、8歳の兄とお別れをして。

 長男は「仕方ないな」と承諾してくれたが、

二女は「弟や妹と別れるのはさびしい」と大泣きしていたが、

三男は「決めたことだから」と異世界に連れ込んだらしい。



 月日は、母親の顔を憶えていないらしい。



 時間の歪みにより、きえは小学四年生から、菊は小学三年生から、異世界に来たらしい。

 当時、小学六年生であった菊ときえの姉が、異世界に連れ込んだらしい。

 学校に行く度に、「芸能人の子供」とからかわれるのが可哀想だったらしい。

 強欲な姉チューリップと違って、妹のタンポポは子供思いのため、「本人がつらいなら、学校なんて行かなくてもいいのよ」。

 タンポポは成人式に娘三人を連れて行く程、三人とも愛していたらしい。

 菊もきえも、母親の成人式を鮮明に憶えているらしい。

 異世界にいる今でも、時々、タンポポが会いに来るなんてこともあるらしい。

 現在、そのタンポポも23歳になる。

 何故、姉妹でこんなに性格が違うんだ?



 実はチューリップやタンポポに弟がいて、それが軽扉らしい。

 軽扉は母親が21の時に産んだ息子で、チューリップの10歳年下で、タンポポの8歳年下。

 だけど、軽扉が5歳になった時に、理由はわからないけど、養子に出したらしい。

 チューリップ、タンポポ、軽扉の三姉弟。

 男が生まれなかっから、三人目に挑んだらしい。



 そして、俺は4歳から養子に入ったらしい。

 俺の記憶がはっきりし始めたのは、5歳の誕生会の時からのため、4歳の頃の記憶はない。

 自分が養子なんてさらさ、自覚がない。

 だけど、幼稚園に入園してからずっと、父親にも母親にも似てないと言われるし、両親はO型なのに、俺はAB型。

 幼稚園からの写真はあるのに、生まれた時から3歳までの写真はないし、母子手帳もないらしい。

 しまいには、生まれた時の様子がわからないとか。

 怪しかったけど、あまり触れないでいた。



 野呂井から話があった。

「そなた、自身の出自を知りたくないか?」

「うん‥‥」

 知りたくないなんて、嘘になる。

「グレーボーイは知らないかもしれないが、グレーキッズなら知っている」

「何故、グレーキッズが?」

「グレーキッズに聞くしかない」

 グレーキッズと俺は、何か関わりがあるんだろうか?

 グレーボーイの正体は明かされたけど、グレーキッズの正体はいまだに明かされていない。

 グレーボーイも、グレーキッズの正体を知らないらしい。

 ただわかるのは、グレーボーイは小学六年生の頃から活躍しているけど、グレーキッズは小学五年生の時かららしい。

 

「俺に言っても、グレーキッズが語ってくれるかな?」

 グレーキッズとは、何故だかわからないけど、繋がりを感じる。

「そなたは自身の正体にすら、きずいてないのだな?」

「正体も何もあるか。4歳の頃から養子に入っていて‥‥」

「何故、4歳だったと思う?」

「4歳の記憶があれば、わかるかもしれない。

だけど、ないのさ」

「ならば、正体にきずかないとならないな」

「きずかしてくれる?」

「きずかすなんて、他力本願な。

18になれば、婚約が待っているというのに」

「そんなわけない。法律上、結婚できるかもしれないけど、好きな人なんていないもん。

スモモ、菊、きえ、どちらも女として見れないから」

「彼女はそなたを探しているのに」

「あり得ない、何で急にそんな話になるの?」

「何故、彼女が他の男と関わりを持ちながらも、誰とも付き合わなかったのか。本命がいるからだ。

重扉が好きな人がいる」

「俺はグレーキッズの正体を知りたいのさ。恋愛の話なんて求めてない」

「いずれわかるさ。グレーキッズの正体」





 「散歩しよう」と言われて、月日と二人でいた頃に、チューリップに出くわした。

「見つけたわよ、月日」

「誰?」

「ママの顔を憶えてないの?」

「うん」

「まだ、1歳だものね」

「あなたを取り返しに来たのよ」

「あたし、物じゃないぞ」

「物なのよ。生まれた時から」

「例え、ママだとしてもあたしは知らない」

「そうだ、1歳だったら顔も変わっているだろうし、髪型とかも、名前も誰かにつけられているかもしれないよ」



 月日の1歳までの、人間世界にいた頃の写真を見たことがある。

 どれも短髪だったし、髪が薄かった。

 歯がほとんど生えてなかったし、

 まだ歩いてなくて、ハイハイをしていた。

 笑うことはあっても、怒ることはなかった。

 肌は白くて、茶髪黒目だった。



 今は、歯も生えているし、歩いている。

 笑うことはなくて、怒ってばかりいる。

 褐色肌。

 髪の量は多く、セミロングである。

 茶髪ではない。

 泣き虫なところは、小学三年生の時からなくなっていった。



「ところが、わかるのよ。見張りはばっちり。

今、どうしているかわかるのよ」

「待つのです」

「誰?」



 菊ときえが現れた。

「誰なの?」

 二人はチューリップがわからない程、成長していた。

 菊もきえも、幼児体型ではない。

 きえが敬語、菊がお嬢様口調で話すようになった。

 きえは高校に間違えてしまうような発育の良さだし、

 菊は中学生に間違えてしまうような発育の良さ。

 二人は眼鏡をかけるようになった。

 子供とは思えないような賢さと精神的な落ち着きがある。

 

「まあいいわ。今回はここで退散したげるわ。

月日はあたくしの物よ?

あたくしが産んだのだから」

「君の妹はそんなことしない」

「妹と一緒にしないでほしいわ。

たった2歳しか違わないはずなのに、欲しいもの何でも我慢させられたわ」

「どうして、チューリップはそんなことするの?」

「全部、誰のせいか、わかるかしら?」

「何故、子供に依存する?」

「では、孫に依存すればいいのかしら?」

「そうゆうわけでもない気がするんだが‥‥」

「あたくしに孫ができたのよ。

きっと芸能ニュースで話題になるわ。

25歳で孫がいるなんて珍しいもの」

「孫って‥‥?」

「知りたいかしら?

高校生の子供が産んだ子だけど、世間的に知られているのは、中学一年生までの子供なわけだし、世の中を騒がせるわ。

実の子供を捨てたとか。遺伝子も同じなはずよ。

兄妹はね、血が近いのよ」

 チューリップはそう言い、去ってしまった。





 しばらくして三男、三女、四男、四女はたちまち世間体が悪くなった。

 よつごが生まれたらしいけど、そのよつごを、

 一人は三男の子供、

 一人は三女の子供、

 一人は四男の子供、

 一人は四女の子供、

 チューリップが孫を育てていると、芸能ニュースで取り上げられたからそうだ。

 本当は四人とも、高校生の長女の子供だけど、長男、長女、二男、二女の存在は世間的に知られていない。

 実の子供を捨てて逃げた。そうニュースで取り上げられてしまったから。



 あれから3年後。

 俺と間扉は高校三年生になり、

 きえとスモモは高校一年生年生になり、

 菊は中学三年生になった。

 月日は中学一年生になった。

 中学一年生になるのに、月日は小学生と間違えるくらい、いまだに低い。

 

 世間体を気にする39歳の月日の祖母、自己中が直らない28歳のチューリップが、3歳のよつごの孫を連れて、三毛猫ワールドの支配を企むようになった。

 3歳のよつごは、みんな本当の両親を勘違いしているとのこと。

 3歳の子供なんて祖母のチューリップや、曾祖母の言うことが全てとなる。

 チューリップの野望をいまだに終わらせていない。終わらせられていない。

 

 俺たちで、チューリップが暴走しないように止めなくては。

 だけど、どうしたら?
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