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第1章 最弱時代

プロローグ

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「今日から、転校生を紹介しまーす」

 担任の先生に言われて、出てきたのは、男の子だった。

「この子は、井藤《いとう》誠《まこと》君って言います。

皆さん、仲良くしてあげてください。

いじめとか、絶対しないように」

 って、どんなこと言っているけど、今日は卒業式なんですが?
 逆に、いじめとかできなさそう。
 卒業式の日に、転校してくるってあるの?

 私は、西園寺《さいおんじ》赤音《あかね》。
 茜色の瞳と髪を持ち、いつもツインテールにしている。
 小学6年生の卒業式の日に、転校生がやってきたけど、明らかにタイミングが悪い。

 こうして、小学校を卒業して、中学生になった。

「赤音ちゃん、同じクラスだね」

 声をかけてくれたのは、小学校からの幼馴染且つ、親友の東海《とうかい》青葉《あおは》ちゃん。
 短い水色の髪と、宝石のような綺麗な青い瞳を持った女の子。

 井藤誠君とも、同じクラスになったけれど、最初のうちはただのクラスメイトでしかなかった。

 そう、私が接点を持つようになったのは、席替えとかで、井藤君と同じ席になってからだった。

「あれ、もしかして、西園寺さん?」

「そうだけど?」

「隣の席になったんだあ。

よろしくね」
 
「よろしく」

 その時の笑顔が、私にとってはめちゃくちゃ可愛いものに思えた。

 そして、なぜか井藤君は忘れ物が多くて、私が物を貸してあげることが多かった。

「井藤さん、どうしよう。

教科書、忘れてきちゃった」

「私、持っているから、見せてあげるよ」

「ありがとう」

 また、ある時は、

「消しゴム、忘れた。

というか、ペンケース自体を忘れてきた」

「また?

何をどうしたら、頻繁に忘れ物をするの?」

 忘れ物だけじゃなくて、井藤君はなぜか勉強もできなかった。

「西園寺さんは、数学とか得意?」

「得意だけど、どうしたの?」

「お願い。

この問題がわからないから、教えて?」

「えー」

 こうしたやりとりをしているうちに、井藤君と私は、次第に仲良くなっていき、そのうち井藤君は何気ない話もしてくれるようになった。

「俺は、母親と二人暮らしなんだ。

本当は、2歳年上の姉と、4歳上の姉と、3歳年上の兄がいるんだけど、そっちは父側にいるんだ」

「そうなんだ。

もしかして、卒業式の日に転校してきたのは?」

「そう。

このタイミングに、離婚になったから」

 どうして、離婚になったかまでは聞かなかった。
 なんとなくだけど、聞いちゃいけない気がしたから。

 こうして、私は井藤君に惹かれていくようになった。

 そして、井藤君と私と青葉ちゃんと3人で一緒に帰ることも多くなっていった。

 伊藤君に告白しよう・・・・。
 私は、ラブレターと持って渡そうとした時に、青葉ちゃんに声をかけられた。

「赤音ちゃん、ちょっといいかな?」

「青葉ちゃん」

「あたし、井藤君のことを好きになっちゃったの」

 その時、私は親友と好きな人がかぶって気まずくなってしまったけれど、ここは平常心でいよう。

「そうなんだ・・・。

よかったね」

「これから、井藤君に告白しようと思っているから、なるべく二人きっりの時間がほしいな」

「いいよ。

青葉ちゃんに、やっと好きな人できたんだね。

おめでとう」

「うん、ありがとう。

ところで、赤音ちゃんは井藤君のことを好きだったりとかしないの?」

「全然、そんなことないよ」

 親友に嘘をついてしまった罪悪感があったけれど、青葉ちゃんの恋を応援したい気持ちの方が勝ってしまった。

「そう、よかった。

あたしは、これから井藤君とイチャイチャするから」

 こうして、青葉ちゃんが去っていったけれど、私には疎外感しかなかった。
 どこで、間違えてしまったのだろう?

 青葉ちゃんは、男の人が苦手だから大丈夫だろうって思っていたのに。
 まさか、同じ人を好きになるなんて思わなかった。

 私が何もできない間に、井藤君と青葉ちゃんは仲良くなっていった。

「赤音ちゃん、聞いて?」

「なあに?」

「今日から、あたしと井藤君は付き合うことになったの」

「そう、よかったね・・・・」

 青葉ちゃんは笑顔だったけれど、私は絶望感でしかなかった。

「どうしたの?

赤音ちゃん、顔色よくないけど」

「ううん、なんでもない」

 この気持ちには、蓋をしよう。
 井藤君を好きになっても、私が辛いだけ。

 中学1年生の春、井藤君と青葉ちゃんは晴れて、カップルになり、校内でも噂になるくらいだった。

 ところがある日、青葉ちゃんが真っ青な顔で家にやってきた。

「青葉ちゃん、どうしたの?」

「変な女の人に付きまとわれていて、困っているの。

誠君とデートしている時に、唄っていう、誠君のお姉さんが後をつけてきて・・・・」

 よくわからないけど、こわそう。
 気がついたら、誠君なんて下の名前で呼ぶんだ・・・・。

 青葉ちゃんからよく話を聞いた上で、私は唄という、井藤君のお姉さんに文句を言いに行くことにした。

「あの、あなたが井藤誠君のお姉さんですか?」

「そうだけど、あなたは誰なの?」

「ただのクラスメイトです。

それより、親友が後をつけられて困っていると聞いたのですが」

「あの青頭の、東海青葉のことかしら?」

「青頭なんて、一言いりません」

「ふうん、まあいいわ。

あなたは、弟が好きだったりしない?」

「絶対にそんなことありません」

「なら、いいわ。

大丈夫よ、あなたのことは巻き込まないから。

井藤誠を好きにならなければね」

 そう言い、唄さんは去っていった。

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