氷漬けになったこの世界で

野うさぎ

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第0章

第1話

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 叔父さんと、高校の見学に行ったけれど、叔父さんはトイレにこもって、出てこない。

「叔父さん、学校見学に来たのなら、いろいろ見て回ろうよ」

「見て、回る・・・・?
甥君、目が回っているけど、大丈夫なの?」

「そんなんじゃないわ!」

 叔父さん、本当にこんなんで高校行けるの?

 叔父さんがトイレから出てきて、学校見学に行くけれど・・・。

「甥君、ここは陸軍と海軍の学校なの?
みんな、セーラー服と学ランだし」

「ここが、この学校の制服なの!
普通の高校だから!」

「それに、セーラー服って、海軍はスカーフのはずなのに、どうしてリボンなの?」

「だから、陸軍とか海軍とかじゃなくて、高校の制服って、何度言えばわかるんだ!」

「甥君、僕は海軍と陸軍の制服が着られるなら、海軍の制服であるセーラー服がいい」

「女子はセーラー服で、男子が学ランって、もう決まってるの!」

「甥君、僕はどの高校に行くか決まってないけど、この高校でいいの?」

「君の偏差値的に行ける高校が、そこしかないんだわ!」

 叔父さんといるだけで、ツッコミだけの毎日となる。
 
 学校見学から帰ってくると、どういうわけだが、すごく疲れた。
 学校見学なんか行かなくても、三者面談でも、家でも、叔父さんといるだけで、いつもこんな感じな気がしてくる。

「甥君、僕、異世界行きたい。
学校見学の行き抜きに」

 いやな予感しかしない。

「今日は、やめときな。
おじいちゃんからは、門限が決められてるし」

「僕におじいちゃんは、いないよ」

「俺のおじいちゃん、つまり、君の父親ってこと!」

 こういうやりとりが、いつまで続くんだ?

 何か飲もうかと、俺が冷蔵庫の中を開けたら、見知らぬものがたくさん入っていた。

「叔父さん、これなあに?」

「卵味のタピオカミルクティーと、納豆味のタピオカミルクティー、あとは納豆味のアイスと・・・・」

「何で、変わった味しかないの?」

「甥君は、何なら飲めそう?」

「りんごジュースとか、オレンジジュースかな」

「わかった、キウイジュースね」

「そんなこと、言ってない!」

「果物系がいいかと思っていた。
水道水の水が、いいかな?」

「それは、俺に冷蔵庫の飲み物を飲むな、と言いたいのか?」

「冷蔵庫の中は、僕がたくさん補充しておいたから、これでしばらくは大丈夫そうだね。

納豆が入ったたこ焼きと、
バナナお好み焼きと、
カスタード味のソフトクリーム、
マスタード味のから揚げと、それから・・・・」

「俺の食べれるものが、ひとつもない!」



 叔父さんは、高校受験に挑むことになるけど、大丈夫かなと心配になる自分がいた。
 あそこは、掛け算さえできれば、合格できる高校だ。
 さすがに、叔父さんも、そのくらいならできるはず。

「合格発表来たよー」

「叔父さん、どうだったの?」

 叔父さんは、笑顔で答えた。
「高校に落ちたよ」

「君、そこまで馬鹿だったの!?」

 こうして、高校は異世界の高校に行くことになった。

「叔父さん、魔法なんて使えるの?」

「まほちゃんは、使えないよ」

「魔法だよ!?
しかも、まほちゃんって、誰!?」

「魔法高校で仲良くなった同級生」

「叔父さんに、友達なんてできるんだ」

「今度、家に呼んでくるね」

 別の日に、まほさんという人に家に来てもらったら、とてもきれいな人だった。
 まほさんは、水色とも呼べるような青髪のショートヘアーに、抜群のスタイル。
 
 叔父さんの通う魔法高校は、女子は確かブレザーに、ネクタイだったね。
 多分、まほさんは、魔法高校の制服を着ているんだと思う。

「初めまして、まほさん」

「初めまして」

 まほさんは、にっこりと挨拶を返してくれた。

 すごく、いい人・・・・。
 そのように感じた矢先

「まほちゃん、ジュース、とってきてくれない?」

「お客さんに、頼むな!」

 せっかくの雰囲気が台無しだ、この空気が読めない叔父のせいで。

「ジュースって、どんな飲み物がいいのですか?」

「まほさん、そんなことは気にしなくていいんです。
このバカ叔父さんの気まぐれですから」

「ぼく、誰かにバカにされてるの?」

「空気読んでくれない?」

「空気って、読めるの?」

「叔父さんってば、いつもこうなんだからあ」

 ここで、まほさんは、クスリと笑った。

「ライハイツさんは、甥さんと仲がよろしいのですわね」

「仲がいいって?」

 俺が不思議そうにしていると

「よし、気に入った。
僕の彼女になってくれないか?」

「上から目線だ!」

「まほと付き合うのですか?」

「付き合いたい。
付き合わなきゃだめだ。

運命の人は、まほちゃんしかいないから」

「叔父さん!」

「とっても、嬉しいですわ・・・・。

まほを好きになってくれる人が現れるなんて、嬉しいことこの上ないです」

 こうして、叔父さんは彼女持ちになった。

「はああ、結婚したいなあ」

 まほさんが帰ってから、呟く叔父さんだけど

「まずは、高校卒業することを考えようよ」

「何を言っている?

18歳の誕生日に、結婚すればいい」

「法律的には、結婚できるかもしれないけど・・・・」

「子供も、18歳になってから作ればいい」

 あれから、数年の月日が流れた。
 叔父さんは、高校を卒業して、18歳の若さで、まほさんと結婚して、子供が一人できた。

 緑髪の1歳の娘もいる。
 そう、叔父さんとまほさんは今年で、21歳を迎える。

「甥君、学ランはもういいの?」
 
「俺、もう小学校卒業したけど・・・・」

 こんな天然で、空気の読めない叔父さんに奥さんができて、子供もいるとか。

 俺の制服は、ブレザーにネクタイはつけなくていいという学校。
 だから、ワイシャツを着て、ブレザーを羽織る。

 こんな平凡な日が続くと思っていた。
 
 ある日、俺は一人のいじめられっ子を助けようとしたら、不良グループ三人組に絡まれた。
 俺は、電気を三人組にぶつけても、倒れる様子もなかった。

「嘘・・・・・」

 俺は、恐怖で震えることしかできなくなっていた。
 電気の魔法も効かないとか、こいつらは人間なのか?

 ううん、人間だとしても、弱い電気ならなんともない。
 そう、俺は異世界でも最弱な魔法を使うことしかできない、ただの落ちぶれ。

 叔父さんだったら、強い雷で、こんな不良ぐらい一撃だっただろうに。

「助けて・・・・叔父さん・・・・」

 俺は、小さな震える声で、来るはずもない叔父さんに助けを求めた。

「はは、おじさんだがなんだか知らねーけど、大人は助けに来ねーよ」

 不良たちは、せせら笑うだけだった。

 不良の一人が、拳を握りしめ、その拳は俺の方に向かっていてー。
 
 俺は、殴られる覚悟でいた。
 その時

「弱い者いじめは、やめるのです」 

 背中まで長い紫髪の少女が、現れた。

「なんだ、お前?」

「はん、女一人が来たところで、どうってことねえの」

「痛い目見ることになるのですが?」

 紫髪の少女の目は、鋭かった。

「やれるものなら、やってみろよ」

「こんな細身の体型の女には、何もできないだろーけどさ」

「うちが、何者か知らないということは、よーくわかったのです」

「なめているのか?」

「なめていますが、それはこれを見ても、図に乗れるのですか?」

 紫髪の少女の人差し指から、小さな炎が現れた。

「ひっ」
 
 不良たちは、怯えていた。

「この火は、これから君たちのところに向かおうとしているのです。
それでも、いいのですか?」

「ひ、すいませんでした」

 不良たち三人は一目散に逃げだした。

「助けてくれてありがとうございます、あの君は・・・・?」

「ただの通りすがりなのですよ。
それよりも、この倒れている人は?」

 この子は、不良グループに殴られて、気を失ったいじめられっ子だ。

「保健室に運びます」

 俺は、いじめられて、殴られて、気絶した同級生を抱きかかえて、保健室に運び、保健の先生には事情を話した。
 保健の先生は、一瞬、顔を真っ青にしていたけれど
「わかったわ」
 と一言だけ返事をしていた。

 何か考えていそうな顔をしていたけれど、何をする気なんだろう?
 どちらにしても、この後のことは、保健の先生に任せておこう。

 その後は、紫髪の女の子と二人になった。
 学校の誰もいない、体育館倉庫の裏で話すことにした。

「さっきは、助けてくれてありがとう・・・・。

君の名前は?」

「わからないのです」

「え?」

「うちには、名前がないのです。
生まれた時から、ずっと・・・・」

「それって、どういう・・・・?」

「君は?

この学校の生徒の様だけど、名前はなんていうのですか?」

「俺も、君と同じなんだ。
名前がなくて、家族からは甥とか、孫とか呼ばれてる。

苗字はあるんだけど、雷って言うんだ」

「家族がいるのに、名前がないのですか?」

「うん。
一緒に暮らしているのは、叔父さんとおじいちゃんだからね。
本当の親は、どこにいるのかわからないんだ」

「名前もないのに、どうして、学校に通えるのですか?」

「俺、生まれと育ちが、あの有名な研究時だったから、それだけで、私立の小学校に行かせてもらえて、今はこうして、公立の中学校に通っている」

「うちは、小さな研究所出身なので、教育も受けられずにいて、名前も、年齢も、誕生日もわからないのですよ」

「誕生日がわからないと言えば、俺もなんだ。
一応、年齢は13歳ってことにはなっている。

生まれた時から、6歳までは研究所にいて、小学校を入学するという話になってから、研究所を出たんだ」

 俺には、苗字はあったとしても、生まれた時から名前も、誕生日もない。
 戸籍もない。
 父親がライハイツ叔父さんの兄ということはわかっていても、母親のことは一切わからない。
 優秀な研究所出身というだけで、教育が優遇されていただけなんだ。
 名前がないのだから、先生や友達からは、苗字が呼んでもらうしかない。
 
 俺だって、名前がほしい。
 だけど、どんな名前がいいのかとか、どうやって名前を作るのとかは、正直わからない。

「研究所の名前は、なんて言うのですか?」

「あはは、かなり有名な研究所だから、聞いたらびっくりすると思う・・・・。

ワンエイスの末路っていうんだけど・・・・」

「クウォーターの子供である、ワンエイスの子供だけを集めた研究所のことですか?

うちは、クウォーターの末路なのです」
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