炎血のレノクス

雨樹義和

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ACT10:「俺たちが守るべきは、壁でも砦でもない」

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□大陸中西部・王国直轄領ダカロン
昼間。長閑な田園地帯の街道を移動中の大型馬車四両。護衛の騎兵十数名が左右に随伴し、土煙をあげて、やや急ぎ足に馬を進めている。前から三両目の馬車はひときわ大型で、側面に王家の紋章が刻まれている。
先頭の馬車で手綱を取っている御者が、前方の異変に気付く。

御者「なんだ?」

御者が前方を振り仰ぐと、武装した騎兵らが街道の真ん中に隊列を組み、行く手を塞いでいる。騎兵の一人がしきりに青地に金の刺繍を施された旗を振っている。

御者「お、王家の紋章? なんでこんなところに?」

御者、慌てて手綱を引く。


□街道脇
大型馬車四両は街道に停止し、その脇でブラン子爵、オドア男爵が騎兵の隊長らしき人物と会話している。

オドア男爵「いや、急にそのようなことを言われましても」
ブラン子爵「我らは勅命を受けておるのですぞ。急ぎ王都へ戻らぬことには……」
騎兵隊長「こちらも勅命なのです。それに時間もありませんので」
オドア男爵「勅命? ならば証拠を見せていただけますかな?」

紋章付きの馬車から降り立つ第三王女エレオノール。

エレオノール「何の騒ぎですか」

不審げに首をかしげるエレオノール。その姿を見るや、場の全員が一斉に跪く。

騎兵隊長「これは王女殿下。ご機嫌うるわしゅう」
エレオノール「そんな挨拶はいいから、事情を説明なさい」

そこへ、かっぽかっぽと馬蹄を響かせながら、新たな騎影が近付いてくる。一同が注視するなか、街道上にのんびりと馬を進ませ、馬車の列へ寄せるや、ひらりと鞍上の一人物が馬を降りる。

エレオノール「あなたは……!」

青衣長髪の白皙の美丈夫――右宰相イスタス。悠然と拝跪の礼を取り、口を開く。

イスタス「説明は、私がいたしましょう」


□傭兵団の砦・カンラ側玄関前
昼間。砦の手前の大通りを、いくつもの荷馬車が忙しげに通りすぎていく。荷物を抱えた徒歩の人々の列も見える。その慌しい光景を眺めているマクダフ、団長ダヤン、レノクス。

レノクス「避難……?」
マクダフ「名目は疎開だが、実際には南方への移住だ。帝国軍が本格的に乗り込んで来る前に、住民総出でこの街を引き払っちまうんだと」
レノクス「ええ?」

驚くレノクス。

レノクス「せっかく、いい街だと思ってたのに。それに、ボクらだってここを守ってるのに、もう諦めて逃げ出すなんて」
ダヤン団長「帝国軍の主力は、もう壁を越えてるそうだ。昨夜遅く、ルバイヤから早馬の急報があってな」
レノクス「えっ!」
ダヤン「ルバイヤにも、そこそこ大きな砦があり、領兵も傭兵団も常駐していたはずだが、すべて壊滅したという。市街地は焼き払われ、住民はほとんど殺されるか捕虜になったそうだ。領主一家も捕らえられたらしい」
レノクス「そんな……!」
ダヤン団長「二千や三千の敵が、北側から突っかかってくるぶんには、我々だけでもここを守れるだろう。だが壁を越えた帝国軍が、街道沿いにこっちまで攻めてくれば、さすがにひとたまりもない。もしそうならなくても、帝国軍が王都を攻め落とし、街道や運河を押さえてしまえば、この辺境領は完全に孤立する。どのみち、長くはもたないだろう」
マクダフ「領主どのにしてみれば、なるべく早めに帝国に降伏しちまうって手も、ないではないんだがな」
レノクス「降伏?」
マクダフ「だが、たとえ降伏しても、領主どのや住民の身柄が安全だとは限らない。ルバイヤの惨状を聞いた後じゃ、なおさらその選択は難しい」

マクダフ、大きく溜息をつく。

マクダフ「だから領主どのは決断なさったわけだ。たとえ自らの地位や領地をなげうってでも、住民の生命を最優先することをな。レノ、おまえはこの街を気に入ったといったな?」
レノクス「ええ」
マクダフ「街ってのは結局、人の集まりだ。土地や建物なんて、後でどうとでもなる。住民さえ無事であれば、どこにでも、また街でも国でも、築くことができるだろう。なら、俺たちが守るべきは、壁でも砦でもない」
レノクス「……人、ですか」
マクダフ「そうだ。おまえのその力は、おまえが気に入った街の連中を守るために使ってやってくれ」
レノクス「はい……!」

レノクス、力強くうなずく。

レノクス「ここの傭兵団は、今後どうなるんですか?」
マクダフ「俺たちゃあくまで傭兵だ。雇い主との契約がある限り、食いっぱぐれることはないし、ヒマになることもない」

マクダフ、ダヤン団長のほうへ顔を向ける。

ダヤン団長「住民の避難が完了するまで、我々はここに篭って時間を稼ぐ。その後は、我々も住民と領主どのを追って移動することになるだろう。行き先は、ゴーサラ河のさらに南……シュアド伯爵領だ」

ダヤン団長、はるか南方の空を振り仰ぐ。晴れ空のなか、一群の鳥影が、南へ向かって悠然と飛んでいく。


□大陸中西部・王国直轄領ダカロン・街道脇

エレオノール王女とブラン子爵、オドア男爵ら監察使一行の前に整列する兵士たち。その真ん中で、王女へ拝跪の礼を取る右宰相イスタス。

エレオノール「仮遷都ですって?」

いきなり驚嘆の声をあげるエレオノール。

イスタス「左様。すでに帝国の大軍は壁を越えて王都へと迫っており、今は一刻の猶予もないという状況です」
エレオノール「そこまで事態は差し迫っていたのですか」
イスタス「なにせ王都には守備の兵力も少なく、敵を防ぐ城壁も脆弱です。それゆえ、私とルスポフ卿で協議し、南方のシュアドへの仮遷都を進言いたしましたところ、王は一議にも及ばず決断を下されました」

言いつつ、イスタスは羊皮紙の書簡を懐中より取り出し、恭しくエレオノールへ捧げ示した。

イスタス「ご覧ください」
エレオノール「これは……」

書簡を受け取って開き、食い入るように内容へ目を通すエレオノールら三人。

エレオノール「玉璽に、お父様の筆跡……!」
ブラン子爵「お、おお、これはまさしく直筆の勅書。なんと……」
オドア男爵「それでは、イスタス卿は勅使としてこれへ参られたのですな。いや失礼をいたした」
イスタス「ご理解いただけましたか。では、ただちにシュアドへ出発いたしましょう。すでに王族の方々は王都を離れ、そちらへ向かっておられます。また主だった貴族、市民の多くも付き従っております」
エレオノール「あの……」

少々気遣わしげな顔つきで訊ねるエレオノール。

エレオノール「城にある国宝や、私の部屋の骨董などは、どうなっていますか?」
イスタス「ご心配には及びませぬ。それらは丁重に城外へ運び出し、シュアドへと輸送する手はずになっております」
エレオノール「そ、そうですか……。ずいぶん手回しが良いのですね。わかりました」

ホッとしたようにうなずくエレオノール。内心、呆れて溜息をつくイスタス。

イスタス(この期に及んで、骨董の心配とは……いや、いかにもこの御方らしいが)
エレオノール「勅命ならば、是非もありません。私たちもシュアドへ向かいます。イスタス卿、案内を頼みます」
イスタス「お任せください」

イスタス、応えつつ、意味ありげな微笑を浮かべる。


□シージュ王国・王都エンシー
夕方。上空からの俯瞰。四方の都門と広い街道に、のんびりと多くの馬車が往来している。とくに慌しい様子はなく、穏やかな日常的な風景。


□王城内・黒檀の間
相変わらず作業着姿の国王フェルディナンド。部屋の片隅で彫刻刀を振るい、なにやら大きな木彫りの像を製作中。その脇に拝跪する左宰相ルスポフ。

フェルディナンド「イスタスが出仕しておらぬと?」
ルスポフ「は。ここ六日ほど……」
フェルディナンド「ふむ、どこか具合でも悪いのかの」

話しつつも手は休めない。特に関心もない様子。

ルスポフ「そういうわけではないようです。あまり音沙汰もないため、先ほど、こちらから右宰相どのの居館へ使いを走らせましたが……まるで空き家のように誰もおらず、もぬけのカラであった……とのこと」

ふと、フェルディナンドの手が止まる。

フェルディナンド「どういうことかの?」
ルスポフ「皆目わかりませぬ……一応、行方を探らせておりますが、付近の住民などの証言から、どうもいつの間にやら、一族郎党を引き連れ、都から出て行ったようです」
フェルディナンド「余や、そちにも告げず、ひそかに都を出たと申すか。あのイスタスが」
ルスポフ「は……」
フェルディナンド「で、そちはどう思うな」
ルスポフ「先日来、かの御仁は、帝国がすぐにもここへ攻め寄せてくると、事ごとに主張しておりました。すぐに防備を整えねば手遅れになる、とも。あるいは……」
フェルディナンド「戦争になるやもしれぬゆえ、この都を捨てて、ひとり逃げた……と?」
ルスポフ「申すも、はばかり多きことながら……」
フェルディナンド「ふうむ」

フェルディナンド、彫刻刀を作業台に置いて、ルスポフのほうへ向き直る。

フェルディナンド「それで、実際に帝国は攻めてきておるのか? その真偽を確認するために、監察使とかいうものをカンラへ送ったのであろう? エレンも同行しておったはずだが」
ルスポフ「監察使は、いまだ帰還しておりませぬ。予定ではあと二、三日のうちに到着するはずですが」
フェルディナンド「ならば、その件はまだ不明か」
ルスポフ「こちらから迎えを出しましょう。まず早馬を街道に出して、一刻も早くブラン子爵からの報告を聞き取らせます。その上で、帝国の侵攻が事実であるならば、しかるべき対応をいたしましょう」
フェルディナンド「その件はそちに委ねる。よきように計らえ」
ルスポフ「はっ。それで、右宰相どのにつきましては……」
フェルディナンド「捨ておけ」
ルスポフ「……よ、よろしいので?」
フェルディナンド「あの者のことだ。何か考えがあっての行動であろう。放っておいて構わぬ」
ルスポフ「は……陛下がそう申されるのであれば」
フェルディナンド「今日はもう退がれ。急いで監察使の出迎えをするがよい」

ルスポフ、鄭重に拝礼を繰り返し退出。一人残ったフェルディナンド、作りかけの彫像をかえりみ、思索ありげに呟く。

フェルディナンド「あやつめ。余を見捨ておったか。だが……」

フェルディナンド、再び彫刻刀を握り、彫像に刃を打ち込む。


□カンラ北の平原
夜半、ひそかに平原を東へ移動する帝国軍戦奴隊。星明りを頼りに、しずしずと平原の草を踏みわけて馬を進めている。先頭には仮面の騎士ビクター。やや後方に副官ルジャノールが付き従っている。ルジャノールら隊員は黒い戦装束を纏っているが、ビクターは平衣姿。

ルジャノール「隊長、お身体に障ります。どうか馬車のほうへ……」
ビクター「なんの。これしき、問題はない。カリンガ将軍が示された合流の日限まで、もう猶予はない。のんびり馬車に揺られてなどいられん」

ビクター、脇腹をさすりつつ応える。

ルジャノール「ですが……」
ビクター「私のことなどより、戦具のほうが問題だ。やはり修理は難しいか?」
ルジャノール「最低限の処置は施していますが、あれは特殊なものですから……おそらく帝都の工房でないと、完全な修理は無理かと。現状でも使用は可能ですが、性能はかなり低下してしまいます」
ビクター「A級と同等の硬度を持つ黒銀鎧を、一撃で砕くなど……いったい、あの少年の力はなんなのか……」
ルジャノール「わかりません。情報があまりに不足しています」

ルジャノールは首を振った。

ルジャノール「いかに禁術が施された肉体でも、少年の力量のみで黒銀鎧を砕くことは不可能だと思います。やはり、あの不思議な戦装束に何か秘密があるのでしょうが……」
ビクター「赤い、戦装束……か」

ビクター、何か思い出す仕草をする。

ビクター「子供の頃に聞いた御伽噺にあったな。太古、この大陸には、赤い悪魔と呼ばれる暴虐の王がいた、とか……」
ルジャノール「赤い悪魔……各地に残る言い伝えですね。我らサビネアの遠い祖先、魔族を治める王であったとも。地方によって様々に結末が異なる話が伝わっているようですが」
ビクター「ああ。私が聞いたのは、たしか最後には、王は戦乱に疲弊した大陸を見限り、自分の武具をどこかに封印し、国も王位も捨てて別天地へ旅立っていった……という話だったかな」

ルジャノール、ギョッとしたように目を見開く。

ルジャノール「まさか……?」
ビクター「いや、所詮は御伽噺だ。さすがにそんなものが実在しているとは思えん。ただ、御伽噺を参考にして作られたものという可能性はあるな。なんにせよ、あの少年は手強い。なにか対策が必要だ……」

ビクター、仮面ごしに星空を見上げる。


□傭兵団の砦・食堂
大勢の傭兵たちが食堂に詰め掛け酒食をむさぼっている。どのテーブルも満席で、傭兵たちは賑やかにエールを酌み交わしている。
中央のテーブルにはクーガー、ロゴス、ルイン、ジガンら部隊長クラスが集まっている。

クーガー「なに辛気くせえツラしてやがんだ。オマエラがそんなんじゃ士気に響くぞ。ほれ呑め呑め」
ロゴス「そりゃわかってるけどよぉ」
ルイン「ここを引き払うという話……やはり本当なのだな」
ジガン「街に出りゃイヤでもわかるさ。もうほとんどの住民が荷造りも終わって、ぼちぼち出発し始めてるってよ。商店もほぼ閉じちまった」
ルイン「辺境亭もかい?」
ジガン「いや、あそこはもうしばらく居残るらしいぜ。俺たちや領兵の慰安のため、だってよ」
ロゴス「それはありがてぇな。ここのエールだけじゃ、やっぱ物足りねぇしよ」
ルイン「我々は当面、ここに篭城ということだが……物資の蓄えはあるのか?」
クーガー「それはダヤンのおっさんが手を打ってるとよ。あのおっさん、そういうツテをあっちこっちに持ってるから」
ジガン「だからここの団長なのさ。腕っぷしは、そりゃもうからッきしらしいが、武器でも酒でも食い物でも、どっからか調達してくる名人だからな」
ロゴス「そういや、マクダフの旦那のご実家も、コッソリうちの傭兵団に出資してるんだぜ。旦那には内緒らしいけどな」
ルイン「あの人のご実家といえば、ダキエン伯爵家だろう?」
ロゴス「そりゃ、旦那は言うなれば家出息子だからな。実家としては心配だし、援助してやりたいが、大貴族の体面上、おおっぴらにはできんってことだろ。んで、ダヤンのおっさんは、もともと伯爵家とはゆかりのある商家の出身らしいから、そのへんで色々と繋がりがあるんだとさ」
ルイン「ふーん。貴族というのも、難しいものだな」

ルイン、うなずきつつ、エールをぐいとあおる。


□傭兵団の砦・医務室

薄暗い室内。マクダフと錬金術師エランドが向き合い、語り合っている。

マクダフ「それで?」

テーブルごしに真剣な面持ちでエランドを見据えるマクダフ。

エランド「アンタも知ってのとおり、血液製剤を作るために、ここには傭兵から採取した血液サンプルが保管してあるわけだけど」
マクダフ「俺のもあるんだよな」
エランド「そりゃもう大切に保管してるよ。で、レノくんのも当然ある」
マクダフ「それがどうかしたか?」
エランド「そのレノくんの血液サンプルを、さらに解析した結果……どうもレノくん、普通の人間じゃないみたいなんだよね……」
マクダフ「それってあれだろ、錬金術で強化されてるって話だろ?」
エランド「ああ、それもあるけど……もっと根本のところの話でね」
マクダフ「ん?」
エランド「錬金術の医療技法……って概要くらいは知ってるよね?」
マクダフ「ああ。おまえがそれを色々と悪用して、禁術すれすれのことをやってることもな」
エランド「人聞きの悪いことを。あくまで、私は自分の好奇心を満たすためにやってるだけさ」
マクダフ「なおさらタチ悪いわ! で、それがどうした」
エランド「医療技法による分離式を用いて、彼の血液から遺伝情報を取り出し、詳しく解析してみたんだよ。レノくんの遺伝子には、あきらかに現代人の遺伝子には含まれていない情報が書き込まれてるんだよね」
マクダフ「どういうこったよ?」
エランド「彼の遺伝子には、とある古い種族の特徴がはっきりと組み込まれていた。突然変異か、先祖返りを起こしてる可能性もあるけど……」
マクダフ「古い種族って、なんだよ?」
エランド「古代、この大陸に存在した……魔族といわれる種族」
マクダフ「魔族ぅ? あー、いや、俺も話ぐらいは聞いたことあるが……魔法とかいうのを使って、風や火を自由自在に操る化け物だとか。サビネアの遠い先祖だって話も聞くな」
エランド「そ。べつに御伽話でもなんでもなく、魔族の実在は確認されてる。ただ、とっくに絶滅して、いまじゃミイラ化した遺骸がごく稀に地底から発掘され、そのうち数体が標本として保存されてるぐらいの代物だけどね。さすがにここの研究室には魔族の標本はないけど、少量の血液と肉片のサンプルは保管してある。その魔族の血液サンプルから抽出した遺伝情報が、ほぼ完全にレノくんのものと一致したんだよ。少なくとも現代のサビネアの遺伝子に、あれほど強烈な魔族の特徴はまず出てこない。せいぜい残骸みたいな情報が塩基に刻まれてるケースが稀に見られるくらいだね」
マクダフ「つまり、レノは混血とかじゃなくて、その、とっくに絶滅したはずの、魔族そのものだってのか?」
エランド「そうとしか思えないってことだよ。もちろん、まだ断言はできないけどさ……でも、もし事実なら、レノくんのあの異常な強さにも納得がいくでしょ?」
マクダフ「確かに、あの強さは化け物じみてる。とくに、あの赤い戦装束を着てたときの、あの動きは……」
エランド「それそれ、そこ聞きたかった。先日、あんたは間近で見てたんだよね?」
マクダフ「ああ。といっても、残像みたいなものが一瞬見えた程度だ。A級戦具で強化されてる、この俺の眼でさえ、ほとんどレノの動きを捉えることはできなかった。他の連中には、何が何やらわからなかったろう。仮面の野郎が一撃でぶっとばされたのも道理だ。ありゃもう人間の動きを超えてる。いま、この世でレノより強い奴なんて、多分どこにもいないだろうな」
エランド「はー……。あんたが、それほどまで言うとはね。ますます、興味が湧いてきたなぁ」

エランド、眼をキラキラ輝かせる。

エランド「もっともっと研究したいなぁ。赤い戦具も、レノくんも。ねえマク、協力してくれない?」
マクダフ「断る」
エランド「えー、なんで。レノくん、錬金術や生命研究の分野を飛躍的に進歩させる最高の素材になりうるんだよ? それに――」
マクダフ「やかましい。素材とかいってんじゃねえ。これだから学者ってやつは。これ以上、レノに変なことすんじゃねえぞ。ちょっと血を抜くぐらいで我慢しとけ」
エランド「ん? 血か……」

マクダフの言葉に、エランド、何かハッとしたよう表情を浮かべる。

エランド「そっか、その手があるか! よし、じゃあ、レノくんのぉ、血を……私の魅力で、こう」
マクダフ「それはおまえじゃ無理だと思うぞ」
エランド「えー……やってみないとわかんないでしょ。頑張って誘惑してみるよ」
マクダフ「はあー。止めても無駄か。前にも言ったが、ほどほどにしとけよ……」

マクダフ、諦め顔で溜息をつく。


□傭兵団の砦・レノクスの私室

レノクス、ひとりベッド上に横たわりつつ、炎血王具を天井にかざし、その模様を眺めている。

レノクス「あのとき……」

レノクス、初めて炎血王具を装着したときのことを回想している。

レノクス「この戦具から、いろんなものがボクの中に流れ込んできた。そして、ボクの中でも……ずっと眠っていた、何かが目をさました。ボクが知ってるはずのない、不思議な記憶……ずっと戦い続けて、たくさんの敵を殺して、やがて大きな国をつくり、治めてきた……そんな記憶が……」

レノクス、ゆっくりと上体を起こし、自分の足の裏をしげしげ眺める。そこには、もう消えかかっているものの、なおうっすらと残る、「二百十二番」の文字。

レノクス「ボクは、いったい何者なんだろう……?」

レノクス、赤い両目に複雑な想いをたたえて、炎血王具をあらためて眺めやる。制御結晶は沈黙し、今は何も語らない。




※これにて第一章完結となります。お読みいただきありがとうございました。
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