絶対に負けない男~俺はトラックに轢かれた、そして目が覚めた。ここは異世界、だから俺は最強になった

北中治

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01 俺は死んで、ようやく始まったのだ

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                 (1)



 トラックが目の前にある。

 俺は轢かれた、轢かれる寸前だ。
 今から動いても不可能な間合いだ。

 死に際。タキサイキア現象(*1)、走馬灯とでも言える夢幻の刹那。
 俺は目が覚めたのだ。

 俺はケツイをした。
 クズは死んでも治らない、ではバカになるべきだった。
 死んでも治らないほどの大バカ、真のバカ、地上最強のバカに。

 遅い。
 遅すぎる。


 トラックは加速する。


 遅い、気づくのが遅すぎた。
 あまりに鈍間のろまだった。 


 遅すぎるということはないなど、幻想、妄言だ。
 あれは弱者を搾取するための呪いの言葉。

 何をするにも遅すぎる。
 いくら早くても、遅すぎる。
 最速でも、最遅。
 故に、だ。

 正しくは、
 遅すぎるから、遅すぎることなどない
 だ。

 
 ……。
 だかこれは、本当に遅すぎたのだ。
 死の瀬戸際に覚醒するやつがいるか。

 
 トラックは加速する。


 後悔、反省、悔恨、慙愧。
 そんな冷たい感情は、俺を

 ちくしょう

 と燃え上がらせた。


 それでも加速する。


 熱いままに、俺は、俺は、
 紅に染まった。


 俺、という人間は今、死んだ。
 終わりを迎えたのだ。


                 (2)



 暖かい。
 そして眩しい。

 それは光であり、温度であり、声だった。
 無曇りぬくもり
 人がそう呼ぶ、それは死んだはずの俺、
 俺の感触をそっと萌やし、心を溶かす。
 ぎゅっと優しく、それでいてどこか強く抱いていた。
 手をそっと触れる。

 女性の手。

 暖かく、眩しく、霞むほどに力強い。
 まるで雪に覆われ、それを忘れた蕗の薹が、雪解けにより日の丸を久しぶりに見たその感覚。
 
 金髪の長い髪。麗しい女性のその手を俺は、


 本能のままに、握り返していた。


 すると彼女は、俺に向けていた眼差しを、
 腕を組んで、じっと佇んでいる男へ向け、

「レイ、今アレンが私の手を握りました。握りしめましたよ」

 と少女のような天真爛漫な微笑みをした。

 レイと呼ばれた銀髪の仁王立ち腕組男は、

「そうか」
「泣きも笑いもしないな、大丈夫か」

 とだけ言い、固い姿勢を変えない。

「アレンの父になったんですよレイ」

 父らしい男、レイは、
 なお不動だ。

「ほらレイ」

 女性は俺を、不愛想なレイに向ける。

 父と呼ばれたレイは、
 俺に両手を、


 冷えていた。
 先ほどの無曇りぬくもりと比較すると、だ。
 冷たかった。

 
 冷たく、繊細さもない雑な抱擁。
 微かな力強さではなく、少しこのか弱い体には痛い。


 ぽたりと冷たさが来る。


 女性はレイを見つめ笑った。

「レイ、泣いてますよ」

「何、アレンが泣いているのか? 俺にはそう見えんが」

「あなたですよ、レイ」

 再び笑う。

「笑うな、アーシャ。これは男泣きだ」
「生まれたばかりなのに、アレンが全く泣きも笑いもしないから俺が代わりに泣いているんだ」

 三度笑う。
 アイナと呼ばれた女性につられて俺も笑う。

「あなた、アレンが笑ってますよ。泣いてるあなたを見て」

 レイは一度、歯をガッチとしてから、強張っていた表情を和らげ、
 こう言った。


「アレン、お前が笑ってくれるなら俺はいくらでも泣いてやるさ」


 不器用な彼は、

「泣こうと思うと泣けないもんだな。アレン、俺笑っちまってるよ今」
  

 そして父レイは俺にある言葉をかけた。


「お前は全く泣かないな」
「なら死ぬときも泣くな。笑って死ぬんだぞ。途中どんなに泣いてもいい。ただ必ず最後は後悔しても、プラスにだ。よかったって思えるように生きて、生きて笑って死ぬんだ」


 俺はこの言葉が、トラックに轢かれ、紅に染まった時。
 その時の感情、燃え上がった感情に重なっているように感じたのだ。

 俺は涙を流した。
 一粒の涙。
 二粒、三粒目までそれは続いた。


「あなたが難しいことを言うから泣いちゃいましたよ」

「生まれた時は泣くのが仕事だ。それにきっとこれは俺の言葉に感動してるんだ」

「ふふ、そんなことないですよ。まだアレンには難しい話ですよ」


 父さん、そうだよ。
 そうだよ、俺バカだから分かんねえよ。
 分かんなかったよ、今でも分かってるか分かんねえよ。

 声を出そうとするも、
 あー、うー
 としかでない。

 そんな俺を見て二人は笑う。

 こんなに貰っていいのかと思った。
 母からは愛情を温もりを貰った。
 父からは 情を貰った。


 
 これが最強の男になる俺の誕生一日目であった。


                 (3)
       


 生まれ変わってから数週間が立った。
 まだ俺は立てないし、喋ることもできない。

 それでは遅すぎる。
 遅すぎるのだ。
 遅すぎては何も成せない。

 またあの人生のように、怠惰で無価値、非生産なことを繰り返すのでないかと、俺は恐怖で、恐怖で、夜も母アーシャの乳を飲まないと寝れないのだ。

 今すぐにでも、

「俺は前世の知識がある。だからスパルタ教育をしてください。父上、母上」

 と言うべきなのだ。言いながら腕立て伏せでもするべきなのだ。
 早くそうしないと、

 俺のペシミズム的(*2)な思考が、

 どうせ転生しても駄目とか
 結局、ケイパビリティ(*3)がないからこの世界も、とか

 終いには、
 赤ちゃんが喋ったから悪魔だと言われて捨てられないか、とか
 すら考えてしまうのだ。

 そんなことはない。
 あってもない、考えるだけ無駄だ。
 あの親バカ、いや親はそんなもんなのかもしれないが、俺を愛してる二人が喋りながら筋トレしただけで疎外にするとは思わない。


 兎に角だ。動きたいのだ。
 動くことでしか、俺のネガは消えないのだ。


 母が家事をし、父が仕事(月花という冒険者ギルドの試験官らしい)に行っている間、俺はこの監獄、鳥籠、コロッセオという名の赤ちゃん用の木のフェンスに封印される。

 母は俺が、目を離すと冒険するからと父にこれを要求し、現在がこれだ。

 俺はよく分らんぬいぐるみのようなものを、敵に見立ててサンドバックのように殴る。殴ると言っても赤ちゃんパンチだから威力はごみだが。

 ウォーミングアップが終わると俺は柵の前まで、四つん這いで移動。
 立てないから乗り越えれない柵を突破する手段として、頭突きでぶっ壊せないかと、二、三度試したが、血が少し出るだけ、

 故に頭にこの呪いの装備、ごっつん防止メット異世界バージョンが付けられたのだ。
 どういう訳かこれは外れず、母や父は取る時に謎の呪文を詠唱している。
 音声認識も考えた、たぶん違う。


 これはあれと同じだ。
 俺は泣かないから頭から血が出た時は出しっぱなし、その時に母アーシャが唱えた言葉。
 それにより血が止まり、痛みも消えた。
 
 考えるとプラーシボ効果や思い込みではない。 
 俺は痛いの痛いの飛んでけを信じる赤ん坊ではない。


 魔法だ。


 この呪いの装備を解呪するには、ここから脱走、そしてこの世界及び魔法を知ろう。魔法を知ればこのLv99ヘルメットもだ。


 やはりここは典型的異世界。
 魔法、ギルド月花、金髪、銀髪の両親、ファンタジーを感じる家内。
 あのぬいぐるみだってそうだ。てかあれスライムとかドラゴンを可愛くした感じのやつだろ。
 俺はバカか? 普通分かるだろ。


                 (4) 


 
 ある日の夜。


 俺は絶望していた。
 俺は今日も絶望していた。

 この超えられない壁。
 赤ちゃんフェンス3号機に。
  

 一号は雑魚だった。
 最強になる俺にとってこんな雑魚で止められるわけがない。
 立つことを僅かな期間、驚異的な速度で覚えた俺にとって超えられないものではなかった。


 二号は強敵だった。
 だがぬいぐるみのドラゴンこと、ドラ子と、スライムのスラ太郎を踏み台にすれば問題はなかった。知能の勝利である。


 だがこいつ三号は違う。
 こいつはそり立つ壁。歪んだ壁なのだ。このむかつく歪みは俺の速度を殺し、あろうことか踏み台作戦をしようとも、滑り落ちるのだ。
 
 立つことができても、走ることはできない。
 走ることさえできれば、この減速魔法・y=a/xを突破できるのだ。


 本当に歪んだやつだ。
 あーむかつく。俺は一号と二号のような真っ直ぐとした、姑息じゃない己の高さだけで闘う壁が好きだった。


 走っては転んで、走っては転んで、七転び八起き。
 それを数日行った。


 そして俺は限界と言う壁を越えた。
 走り、適当なところに落ちてた本のようなものを見た。


 分からん。
 何と書いてるかは分からん。
 人、母と父の言葉分かるのに、文字は読めない。
 謎である。


「も~、まだ脱走して何してるのアレン」


 俺はアーシャに捕まり、抱擁されるも
 うー、と本なるものをアーシャに突き出す。
 アーシャは俺を抱えたまま、座り込み、


「何を見てたのかな」

 と。

 俺は拙い動き、手の平でくっつけるように捲る。
 中身は、絵があまりない。そもそも本と言うにはあまりな出来のものだ。
 本と言うより、サイズがあってない白っぽい紙を束ねた物と言う方がより正確だ。


「この本はね、私の大好きな物語よ」


 物語だったか。
 俺はページを捲り、捲る。
 と、あるページが目に入る。あのぬいぐるみのドラ子、ドラゴンらしき絵とある男。

 俺はこの竜をさして、

 うー、と発した。

 アーシャは俺を見つめ、瞬きと呼ぶには少しだけ長い、時間にして三秒ほど目を瞑り、


「昔々の話よ」


 と本の世界を俺に読み聞かせるのであった。


------ 

(*1)タキサイキア現象、
死に際にスローモーションに時間を感じること

(*2)ペシミズム
ここでは悲観主義的なこと

(*3)ケイパビリティ
ここでは才能や可能性、運 
あらゆる力や天賦の才





 

          
 
 
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