喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉

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017.オオカミ

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「この子たちは、オオカミ。狼族ではなくてね、オオカミだよ」
 ランディは子供のオオカミを見ながらヒナに説明をしてくれた。

 ミルクが上手く飲めず一頭だけ離れていた子供のオオカミを茶色の大きな狼が口にくわえる。
 ミルクの近くにその子を置いてあげてもなかなか飲みに行けず、一生懸命子供のオオカミのお尻を押している様子をヒナは眺めた。

 あのオレンジ色の綺麗な眼は……。

「……リッキーさん?」
 あの目の色と身体の色は両足を怪我していたリッキーではないだろうか?
 ヒナが首を傾げると、ランディもディーンも驚いた顔をした。

「あれ? よくわかったね」
 子たちはオオカミ。
 大きな狼については言わなかったが、普通なら大きい狼も狼族ではなくオオカミだと思うだろう。
 狼族ではないのに、見分けることができるなんて。

「ここもね、武官の仕事なんだ」
 森の中や、夜に街を守るのはオオカミ。
 オオカミが異常を察知すると遠吠えし、狼族の武官が駆けつけるという仕組みだ。
 オオカミの世話をするのも武官の仕事のひとつ。
 ヒナは以前、動物が好きだと言っていたのでここの仕事もどうかと思い、試しに連れてきたのだ。

「あの子たちのミルクでベタベタの口を拭いてあげて」
 ランディにタオルを手渡されたヒナの目が輝いた。

「触っていいんですか?」
 もふもふパラダイス!
 ヒナは大喜びで高さ50cmほどの低い柵を跨いだ。

 ミルクを飲む子たちに近づくと、ヒナに気づいた一頭が尻尾を全開に振る。

 可愛い!
 オオカミといいつつ、まるで大型犬の子犬のような子たち。
 足も太い。
 尻尾もふさふさ。
 目の色もみんな少しずつ違う。

 一頭がヒナに近づくと、あっという間にヒナは30頭くらいのオオカミに囲まれた。

「わぁぁ! タオルは持って行っちゃだめ!」
 一頭が悪戯すると、他のオオオカミたちもヒナと遊ぼうとする。
 翻弄されるヒナをランディとディーンは笑いを堪えながら眺めた。

「可愛いですね」
「可愛すぎるよ」
 国王陛下に聖女と聞いた時には絶世の美女を勝手に想像し、イメージと違うとガッカリした。
 だが、ヒナは可愛い。
 なぜ目を隠しているのかはわからないけれど。
 すぐに真っ赤になるところも、何にでも一生懸命なところも、素直なところも。
 そして頭の回転も速く、優しい娘。

「あれっ? ジョシュさん?」
 タオルを取り返してくれた大きな狼の名前を呼ぶヒナ。

「……どうしてわかったのでしょう?」
 ジョシュは怪我をしたとき、入口に一番近い所に座っていた腕を怪我した男だ。
 ヒナと会ったのは人の姿のみ。
 狼の姿にはなったことがないはずなのに、どうして彼がジョシュだとわかったのだろうか?
 彼女には我々の姿がどう見えているのか?
 ディーンが不思議だと首を傾げる。

「本気で彼女が欲しいよ」
 ランディがつぶやくと、ディーンも「私もです」とヒナを眺めた。

    ◇

 夕食を食べながら今日の出来事を嬉しそうに話すヒナを、アレクサンドロは少し寂しそうに見つめた。

「すごく可愛かったんです。ちっちゃくて、もふもふで、コロコロで」
 今日はランディとディーンと売店へ行き、オオカミ厩舎で子供のオオカミと遊んだ。
 ただそれだけなのにヒナは楽しそうだ。

「俺もヒナと出かけたい」
 アレクサンドロが不貞腐れたようにユリウスに言うと、あっさり「いいですよ」と言われた。

「いいのか?」
「明日の予定を空けてあります」
 街へ行こうと思っていましたと言うユリウスに、アレクサンドロは満面の笑みを返した。

「ヒナ! 街! 街に行こう!」
「はい、アレク様」
 全力で振る尻尾が見えるような気がする。

「楽しみです」
 ヒナが微笑むと、アレクサンドロも「俺も楽しみだ」と笑った。

    ◇

 チェロヴェ国の客室で高校生のメイは溜息をついた。
 ここへきて一ヶ月以上が経った。
 魔力の練習を毎日しているが、成長している気がしない。

 メイは手をじっと見た。
 ぼんやりと光は見える。
 だがそれだけだ。

 京香さんとはときどき廊下で会うけれど、もう一人のお姉さんには全然会わない。
 国王陛下と会った時も、あの眼鏡のお姉さんはいなかった。

 京香さんは美人。
 でも、すごく話しかけにくい。
 廊下で会っても挨拶しないですれ違うだけ。

 眼鏡のお姉さんは優しそうだった。
 名前もわからないけれど。
 あのお姉さんに会って、どうやったらここから家に帰れるのか相談したい。

「メイ、いる?」
「はい、います。ハロルド様」
 第二王子のハロルドは同い年。
 優しくて気遣ってくれるけれど、やっぱり王子だから友達にはなれない。

「今日は金平糖を持ってきたよ」
「いつもありがとうございます」
 ピンク・黄色・青・緑のカラフルな金平糖が入った小さな入れ物をメイはハロルドから受け取った。

「治癒って難しいんだね」
「全然わからなくて」
「たくさん練習させてごめんね。大変だよね」
 ハロルドの言葉にメイは首を横に振った。

「あの、ハロルド様。もう一人のお姉さんに会うことはできますか?」
「キョウカ姫?」
 聞かれたメイは首を横に振った。

「キョウカさんじゃない、もう一人のお姉さん」
「もう一人?」
 あの日あそこにいたのは眼鏡をかけた小柄な男。
 キョウカとメイ以外に女性はいなかったはずだ。

「どんな人か覚えている?」
「前髪が長くて、黒い眼鏡をかけていて、髪を後ろで縛っていて、黒い服を着ていた大学生くらいのお姉さん」
「大学生?」
「キョウカさんと私の間の年齢くらいの人」
 わかりますか? とメイは首を傾げた。

「ズボンだったよね?」
 ハロルドが尋ねるとメイはGパンでしたと答える。

「Gパン?」
「あ、ズボンです」
「ズボンなのに女性?」
「女性でもズボンは履きますよ?」
 変ですか? とメイは不思議そうな顔をした。

 男だと思って追い出したのが本物の聖女!
 嘘だろ? あれが女だったなんて。
 ハロルドは目を見開いた。

「そのお姉さんに会えますか?」
 メイが尋ねるとハロルドは困った顔をした。

「メイ、その女性のことは誰にも言わないで。絶対に内緒だよ。そのお姉さんは今、ここにいないんだ。逃げてしまって。外は危ないからみんなで探しているのだけど、まだ見つかっていないんだ」
 絶対に内緒だとハロルドが念を押すと、メイは戸惑いながらも頷いた。

「どうして逃げたの?」
「練習が嫌だったのかもしれないね」
 召喚してすぐ追い出したなんてメイには言えない。
 キョウカとメイのおまけで来てしまった男だと思い、あの時は見向きもしなかった。
 早く探さなくては。

「戻ってきたら会わせてあげるからね」
 ハロルドは急いで立ち上がると、また来るねとメイの部屋をあとにした。

 一ヶ月も練習したのにあの程度の成果だなんて変だと思った。
 メイもキョウカも聖女じゃない。
 絶対に兄上よりも先に見つけなくては。
 本物を探して僕が王太子になるんだ。

 ハロルドは急いで宰相室へ行き、行方不明の小柄な男の捜索状況を尋ねた。

 宰相に見せてもらった報告書では、近くの街に寄った形跡はなく、『死の草原』で死んだのではないかという憶測まで書かれていた。

 宰相たちは男だと思っているから見つけられないんだ。
 まだ見つからないということは、きっと女性の姿で出歩いている。

 ハロルドは護衛騎士に女性を探すように命令した。
 黒髪・黒眼の女性。
 眼鏡はかけていないかもしれない。
 年齢はメイとキョウカの間で、20歳前後。
 追い出した騎士は身長を覚えているだろうか。
 あれから一ヶ月も経っているし、もしかしたらもう他国かもしれない。
 周辺国にも捜査範囲を広げて探そう。

 ハロルドは他に特徴がなかったか考えながら、自分の部屋へと戻って行った。


「ハロルドが宰相の所に?」
 第一王子クロード派の貴族が、第二王子ハロルドの行動を報告すると、クロードは眉間にシワを寄せた。

「男の行方を聞いていました」
「召喚の儀にいたあの男か」
 キョウカもメイも一ヶ月経つのに全く治癒が使えない。
 まさか追い出した男が聖人だったということなのだろうか。

「他には何か言っていたか?」
「いいえ」
 貴族が首を横に振ると、クロードは「そうか」と呟いた。

「それにしても、キョウカ姫は美しいですがワガママですな」
 今日は食事が気に入らないと侍女を困らせたようですと貴族が肩をすくめる。
 昨日は雨だから気分が乗らないと魔力操作の練習は拒否し、若い魔術師を部屋へ呼んでいた。
 その前は、見た目の良い騎士と数時間部屋で二人きりだったそうだ。

「妃殿下には相応しくありませんな」
 貴族が溜息をつくとクロードは声をあげて笑った。

「元々、妃にするつもりはない。俺の妃はお前の娘にするつもりだ」
 だからやるべきことはわかっているよなとクロードは目を細めて笑う。

「ご期待に沿えるようがんばります」
 貴族はニヤリと笑うと、第一王子クロードに頭を下げた。

    ◇

 ……だよね。

 街に行けると浮かれていたヒナは現実を突きつけられた。
 前回街に行くために紫色の綺麗なドレスに着替えたことをすっかり忘れていたのだ。

 このズボンとぶかぶかのシャツのままではやっぱりダメ?
 またメイクもしないとダメ?
 絶対に似合わないのに。
 部屋に準備された綺麗なワンピースに、ヒナの顔は引き攣った。
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