喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉

文字の大きさ
23 / 100

023.令嬢

しおりを挟む
「えっ? キョウカさんは街に住むのですか?」
 第2王子ハロルドからキョウカが街へ行ってしまったと聞いたメイは驚いた。

 ここへ来て2ヶ月以上が過ぎた。
 毎日魔力操作の練習をしているが、正直な所、すぐにできるようになる気がしない。

「住むところも生活費も兄上が面倒を見るという約束で、自由に街を楽しみながら魔力の練習をするみたいだよ」
 実際にはキョウカは聖女の可能性が低いので追い出しただけだと思うけれど。

「メイは……ここの生活、嫌じゃない?」
 第2王子ハロルドは目を伏せながらメイに尋ねた。

「私……」
 正直に言ってしまえば、ここはやる事もなく話し相手もいなくて退屈だ。
 でも、独り暮らしはした事がない。
 キョウカさんのように1人で暮らしていく自信は全くない。

「前、メイは学園に通っていたと教えてくれたよね?」
 メイは高校生。
 この世界では学校ではなく、学園と呼ぶのだと第2王子ハロルドに教えてもらった。

「学園に通いながら魔力操作の練習をするというのはどうかな?」
「えっ? いいんですか?」
 第2王子ハロルドの提案に、高校生のメイは喜んだ。

 学園なら友達もできるかもしれない。
 今すぐ元の世界へ帰れないなら、何でも話せる同い年の友達がほしかった。

「ここから通うのは遠いから、もしよかったら学園の寮とかあるけれど。食事も出るし、どうかな?」
 もちろんここから通ってもかまわないよと優しく笑う第2王子ハロルド。

「私、寮がいいです。あの、制服とか教科書とか、」
「もちろん全部準備するよ。心配しないで」
「ありがとうございますハロルド様!」
 すぐに手配するねと微笑むと、第2王子ハロルドはメイの部屋を退室した。

 メイはキョウカと違って浪費家ではない。
 ここにいても構わないが、一生養っていくのは大変だ。

 学園へ行き、適当に相手を見つけて結婚でもしてくれれば都合がいいのだが。
 第2王子ハロルドはすぐに学園の手配を命じると、本物の聖女をどうやって迎えに行こうか考える事にした。

   ◇

 ヒナは豪華なドレスを前に固まった。

「お兄様? あのこれは……」
 侍女3人がテキパキと準備する豪華な白いドレスと装飾品。

 いくらなんでもアレクサンドロが着るわけはないだろう。
 ものすごくイヤな予感しかしない。

「急なのですが、明日アレク様のお父上と、私の父がヒナに会いたいと」
 本当に急ですみませんというユリウスに、ヒナは苦笑した。

 見慣れた侍女3人はドレスを準備し終えるとお辞儀をして去っていく。

 いや、そこにあるのはギュウギュウに締められるコルセットですよね?
 あっちの白いのはくすぐったい靴下ですよね?
 なんだか手袋っぽい物もあるし!

「そんな豪華なドレスは似合わないので……、このいつもの姿で……」
 顔を引きつらせながらダメ元でヒナが頼むと、ユリウスはニッコリと微笑んだ。

 あ、その笑顔はダメですよーっていう笑顔ですね?

 アレクサンドロが無茶振りした時によくしている笑顔だ。
 ヒナはガックリとうなだれると、自分の部屋へと隠れに行った。

 翌朝はもちろん侍女3人に囲まれた。

「着替えを手伝おうか?」
 真面目な顔で変な事を言うアレクサンドロ。
 ヒナは全力で首を横に振った。

 ギュウギュウのコルセット。
 くすぐったい靴下。
 苦手なヒール。
 もちろん眼鏡は没収。
 前髪も止められてしまった。

 何よりもこんなに綺麗なドレスは似合わない。

「お美しいです」
「よくお似合いです」

 お世辞もありがとうございます!
 毎回そんなに頑張って励まして頂かなくても大丈夫です!
 色気も何もないぺったんこです!

「手袋をどうぞ」
 レースの肘まで長い手袋なんて付けた事がない。
 少しチクチクする手袋をヒナははめた。

 最後にシュッと香水がかけられる。

「……いい香り」
 先日街へ行った時とは違う香水だ。

「今日は薔薇の香りです」
「ありがとうございます」
 ヒナが微笑むと侍女3人も嬉しそうに微笑んだ。


「お嬢様のお支度整いました」
 侍女の1人が声をかけると、こちらも大丈夫ですと、ユリウスの声がした。

 豪華な王子っぽいキラキラな服のアレクサンドロ。
 白っぽいグレーのタキシードを着たNo.1ホストと、黒のタキシードの優等生の姿は犯罪だった。
 ユリウスまで紺の正装をしている。

 なぜみなさんお揃いですか?
 今からどこへ連れていかれるのですか?

「ヒナ! 今日も綺麗だよ」
 ヒナの右手を取り、手の甲に口づけるアレクサンドロ。
 どこからどう見てもキラキラ王子だろう。

「ヒナ。白も似合うね」
 アレクサンドロがヒナの右手を離さないので、左手に口づけをするランディ。
 いやいや、少しグレーががっているけれど、白が似合うのはランディの方です。

「キレイです、ヒナ」
 ランディと交代し、ディーンも左手の甲に口づけをすると、最後にグッと手を握られた。
 眼鏡優等生の黒タキシードも似合いすぎです。

「魂が抜けそうです」
 ヒナの変な呟きに、全員が首を傾げた。

 ランディとディーンの後に続いて、アレクサンドロにエスコートをされながら廊下を進んだ。
 後ろはユリウスだ。

 困った。
 逃げられない。

 庭園に行った日のように段々豪華になる廊下。

 立ち入り禁止と言われていたエリアに入ってしまった。

 このステンドグラスは庭園の日と違う。
 豪華なステンドグラスがそこら中にあるのだろうか。

 大きな扉を通ると赤い絨毯の廊下に。
 豪華すぎる装飾。
 廊下で姿勢良く待つ騎士。

 なんだか絶対に行ってはいけない所に進んでいる気がする。

「あ、あの、アレク」
 不安になったヒナがアレクサンドロを見つめると、大丈夫と優しく微笑んでくれた。

 全然大丈夫じゃありません~。

 豪華な廊下を進んでいくと、見慣れた武官の姿が見えた。

「ジョシュさん?」
 どうしてここに? とヒナが首を傾げると、お辞儀をしていたジョシュが顔を上げた。

 普段の姿と違いすぎてヒナが誰だかわからなかったのだろう。
 ジョシュはなぜ自分の名前をご令嬢が知っているのか不思議そうにランディを見た。
 困ったように笑うランディ。

 ジョシュはランディ、ヒナ、アレクサンドロ、ディーンを順番に見た後、もう1度ヒナとランディを確認する。

「……は? ひーくん?」
 どこからどう見ても令嬢じゃないか。
 普段のあの姿は一体何なんだ?
 しかも王太子にエスコートされてるって一体何だ?

 ジョシュはヒナに会ったらお礼を言おうと思っていたのに全部吹っ飛んでしまった。

「また後で」
 ランディがジョシュに手を上げ、廊下を進んでいく。

「……マジかよ」
 王太子の後ろにはイーストウッド公爵家の嫡男ユリウスの姿。
 ひーくんはイーストウッド家の親戚だと聞いている。
 訳あり令嬢だと、治癒も制御できないとランディは言っていたが。

 先日の怪我について説明するようにと、国王陛下の謁見に呼ばれたが、何かとんでもない話になりそうだ。
 ジョシュはヒナに直してもらった左耳に触れると、溜息をつきながらユリウスの後ろを歩いて行った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

ドラゴンに攫われた聖女ですが、このドラゴン、めちゃくちゃ過保護でイケメンです

夏見ナイ
恋愛
聖女アリアは、魔王討伐後は用済みとされ、国から冷遇される日々を送っていた。心も体も疲れ果て、聖女という役割に絶望していたある日、伝説の「終焉の黒竜」が彼女を攫っていく。 誰もが生贄になったと嘆く中、アリアが連れてこられたのは雲上の美しい城。そこで竜は絶世の美青年カイザーへと姿を変え、「お前を守る」と宣言する。 待っていたのは死ではなく、豪華な食事に癒やしの魔法風呂、そして何より不器用で真っ直ぐなカイザーからの過保護すぎるほどの溺愛だった。 これは、全てを諦めた聖女が、世界最強のイケメンドラゴンに愛され、本当の自分と幸せを取り戻していく、極甘ラブストーリー。

無能と蔑まれ敵国に送られた私、故郷の料理を振る舞ったら『食の聖女』と呼ばれ皇帝陛下に溺愛されています~今さら返せと言われても、もう遅いです!

夏見ナイ
恋愛
リンドブルム王国の第二王女アリアは、魔力を持たない『無能』として家族に虐げられ、厄介払いとして敵国ガルディナ帝国へ人質に送られる。死を覚悟した彼女だが、あまりに不味い帝国の食事に耐えかね、前世の記憶を頼りに自ら厨房に立つことを決意する。 彼女が作った温かい家庭料理は、偶然離宮を訪れた『氷の皇帝』レオンハルトの孤独な心を癒していく。やがてその味は堅物騎士団長や宰相をも虜にし、食べた者を癒す奇跡から『食の聖女』と讃えられるように。 価値を知った故郷が「返せ」と言ってきたが、もう遅い! これは、料理で運命を切り開き、最強皇帝から世界一甘く溺愛される、美味しい逆転シンデレラストーリー。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ
恋愛
「出来損ない」――それが伯爵令嬢リナリアに与えられた名前だった。壊れたものしか直せない【修復】スキルを蔑まれ、家族に虐げられる日々。ある日、姉の策略で濡れ衣を着せられた彼女は、ついに家を追放されてしまう。 雨の中、絶望に暮れるリナリアの前に現れたのは、戦場の英雄にして『氷の公爵』と恐れられるアシュレイ。冷たいと噂の彼は、なぜかリナリアを「ようやく見つけた、私の運命だ」と抱きしめ、過保護なまでに甘やかし始める。 実は彼女の力は、彼の心を蝕む呪いさえ癒やせる唯一の希望で……? これは、自己肯定感ゼロの少女が、一途な愛に包まれて幸せを掴む、甘くてときめくシンデレラストーリー。

罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~

上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」  触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。  しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。 「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。  だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。  一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。  伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった  本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である ※※小説家になろうでも連載中※※

追放された元聖女は、イケメン騎士団の寮母になる

腐ったバナナ
恋愛
聖女として完璧な人生を送っていたリーリアは、無実の罪で「はぐれ者騎士団」の寮へ追放される。 荒れ果てた場所で、彼女は無愛想な寮長ゼノンをはじめとするイケメン騎士たちと出会う。最初は反発する彼らだが、リーリアは聖女の力と料理で、次第に彼らの心を解きほぐしていく。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

処理中です...