喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉

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047.イーグル

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 コヴァック公爵、ロウエル公爵と会ってからまもなく1ヶ月。
 ようやく魔力の光が自分でも見えるようになってきた。

 といっても、いつでも見えるわけではなく、意識したときだけ出る程度だ。

 街の祭りは3日後。
 文官のお姉様も武官のみんなもなんとなく浮かれている気がする。

 祭りは10月15日から17日までの3日間。

 今年は舞台も設置され、例年よりも催しが多いのだとナイトリー公爵が教えてくれた。

 舞台はステージのみ。
 来年の祭りまでには屋根と客席が出来上がる計画だと隣の係のハサウェイが言っていた。

「ヒナはいつ行くんだ?」
 朝食を食べながらアレクサンドロに聞かれたヒナは首を横に振った。

 ランディとディーンにも、武官のみんなにも誘われたが行かないつもりだ。

「……俺に気を使ってる?」
 困った顔で微笑むアレクサンドロ。
 ヒナは首を全力で横に振った。

「人が多くて危ないから」
 自分のためだと言うヒナの頭をユリウスが撫でた。

「コヴァック公爵とロウエル公爵がやめるようにと」
 ユリウスが説明するとアレクサンドロは「そうか」と呟いた。

 祭りさえ気軽に行かせてやれない治安は王太子として情けない。
 いつかヒナを祭りに行かせてやりたい。
 いつか自分もヒナと一緒に祭りに行きたい。

 叶う日は来るだろうか?

「ですので、買ってきます」
「は?」
 ユリウスの変な発言にアレクサンドロとヒナは驚いた。

「ランディとディーンが適当に買ってきます」
 そしてここでみんなで食べましょうと言うユリウスに「今までそんなことしたことないじゃないか」とアレクサンドロは笑った。

 今日は水曜日なので部屋でゆっくり過ごす。
 時間があるのでクッキーでも作ろうかと思ったら強そうな鳥が窓際に遊びに来た。

 この鳥は鳥族だ。
 ワシ?
 タカ?
 鳥には詳しくないからわからないけれど、大きな鳥だ。
 クチバシも目も爪も怖い。

 今までインコやスズメ、大きくてもハトくらいの大きさだったのでこんな怖い鳥も来るのかと驚いた。

 窓際をあまり見ないようにし、プレーンとココアの2色のアイスボックスクッキーの材料を準備する。
 バターが多めの贅沢クッキーだ。

 鳥は混ぜる間も、形を作る時もずっと窓際に止まっていた。

 タオルを取りに行くフリをして急いでユリウスにメモを書く。

『鳥』

 鳥族がいるので扉から出入りしてください。とユリウスになら伝わるだろう。
 アレクサンドロとの部屋の境目に置き、急いでタオルを手にして戻った。

 クッキー生地を切る時も、焼く時もまだ鳥がいる。
 なんでそんなにいるのだろう?

 もしかしてクッキー好き?

 ずっと見張られている状態に耐えられなくなったヒナは焼きたてのクッキーを1枚手に取った。

「鳥さん、食べる?」
 焼けるの待っていたの? と笑いながらクッキーを割り、窓の隙間から置く。
 クチバシが怖いので絶対に指は出さない。

 クッキーの欠片を置くと、怖そうな鳥は少しクッキーを眺めてから口に咥えた。

 そのまま飛び立つ鳥。

「クッキー欲しかったんだ」
 ヒナは笑いながら鳥が右方向に曲がっていくのを確認し、窓とカーテンを閉めた。

 はぁ。
 ずっと鳥に見張られていたのでなんだか疲れた。
 ヒナはアレクサンドロとの部屋の境目に置いたメモを回収し、大きく伸びをする。
 ワンピースを脱ぎ、ズボンに着替えて眼鏡をはめた。

 銀食器にクッキーを並べてアレクサンドロの部屋へ。
 アレクサンドロとクッキーを食べながらユリウスにさっきの怖そうな鳥を報告した。

「くちばしは曲がっていましたか?」
「はい」
「爪は?」
「こんな感じです」
 ヒナはギラッとした鉤爪かぎづめを手で表現する。

「大きさは」
「だいぶ大きいです」
 羽を広げるとこのくらいとヒナが表現すると、ユリウスは額を押さえた。

「……クッキーをあげたのですか?」
「ずっと見ていて。食べたいのかと」
 鳥にクッキーってダメでしたか? というヒナに、ユリウスは溜息をついた。

「……まずいな」
「えっ? 美味しくない?」
 アレクサンドロのつぶやきに、驚いたヒナが手にしたクッキーを見る。

 甘さ控えめだから好みじゃないのだろうか?
 国王陛下のクッキーも甘かったし。
 もしかして狼族は甘党?

「違う! ヒナのクッキーはうまい」
 アレクサンドロはヒナの手を捕まえるとクッキーを口で奪っていく。
 サクサクと音を立てながら食べ終わると、「うまい」と舌なめずりした。

「ユリウス、すぐ宰相に」
「そうですね。コヴァック公爵、ロウエル公爵に伝えてもらいましょう」

 アレクサンドロとユリウスの会話に驚いたヒナは目を見開いた。

「ごめんなさい、クッキー、あげちゃいけなかった……?」
 何気なくクッキーをあげたがそんなにいけない事だと思っていなかった。

 しゅんと落ち込んだヒナの手をアレクサンドロは握る。
 俯いたヒナの顔を覗き込むと、グレーの眼で微笑んだ。

「大丈夫。絶対に守るよ」
 相変わらずヒナとは目が合わない。

 顔を近づけると目が泳いでしまう。
 いつか眼鏡も前髪もなしで、この大きな黒い眼に見つめられたい。
 アレクサンドロは繋いだヒナの手を持ち上げると指先に口づけをした。

「その鳥はおそらくイーグルです」
「イーグル?」
 イーグルって、ワシ?
 あんな近くで見るのは初めてだ。
 やっぱり怖い鳥だった。

「イーグルはプチィツァ国の王族です」
 困った顔で微笑むユリウス。

「えっ?」
 なんでそんな偉い人が気軽に他国に遊びに来るんですか!

「ごめんなさい」
 どうしよう。逃がしてしまったと焦るヒナをアレクサンドロは抱き寄せた。

 ふわっと爽やかな香りがする。
 狼の姿のアレクサンドロに擦り寄った時の落ち着く香りだ。

「大丈夫、気にしなくていいよ」
「で、でも、」
「大丈夫」
 アレクサンドロが優しく言うと、ヒナの強張った身体が少し緩んだ。

「大丈夫」
「うん……ありがとう」

 少しいい感じな2人に声をかけることなく、ユリウスは静かに立ち上がり退室した。
 宰相の元へ急ぎ、報告する。

 王族に縁のある者というだけで王族なのか親戚なのかはわからないが、直接探りに来たのは間違いない。
 プチィツァ国はどこまで情報を掴んでいるのか。
 ヒナとヒワを別人だと思っているのか、それとも1人だと気づいているのか……。

 ユリウスが宰相に報告すると、宰相は急いでコヴァック公爵とロウエル公爵に連絡する。
 やはり祭りはダメだと言っておいて正解だったと、宰相は胸を撫でおろした。
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