喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉

文字の大きさ
74 / 100

074.報告書

しおりを挟む
「ありがとうフィル」
 これお礼とヒナはクッキー50枚を差し出した。

 南広場近くにできたプチィツァ国の店。
 その店の奥でヒナとプチィツァ国第4王子のフィリップはこっそり会っていた。

 こっそりと言ってもこの店の前まではディーンと一緒に来たけれど。
 ディーンは今、店の入り口で商品を見ながら待ってくれている。

「こんなにクッキーもらっていいの?」
「足りないくらい」
「そんな事ないよ」
 ありがとうと受け取るフィリップ。

 ヒナはクッキーと引き換えに報告書を受け取った。

 イワライと南広場で会った時、フィリップの幼馴染がいてくれた。
 彼に頼み、イワライの情報を手に入れてもらったのだ。

「ごめんね、変な事を頼んで」
「友好国だからね。このくらいは当然だよ」
 気にしないでと言うフィリップ。
 ヒナはありがとうと微笑んだ。

「あのさ、その報告書、書くか迷ったけど父と兄に相談したら書いた方がいいだろうって」
「うん?」
「……読みたくない所があるかも」
「そう……なの?」
 ごめんというフィリップにヒナは首を傾げた。

「来週、街を一緒に歩くのは無理かな?」
 この南広場の近くだけでもいいから庭園でお茶会ではなく、街を歩きたいというフィリップにヒナは良いよと答えた。

「お父様に伝えておくね」
 護衛がつくかもしれないけれどとヒナが言うとフィリップはかまわないと答えた。

 フィリップも王子。
 護衛がついてくるのは気にならないのかもしれない。

 ヒナは報告書をトートバッグに入れ立ち上がった。

「またねフィル。ありがとう」
「またねヒナ」
 手を振って部屋を出ると、店主と仲良く話すディーンと目が合った。

 ディーンの手にはたまごボーロのようなお菓子。

「口の中で溶けてしまうんです」
 真面目にお菓子を表現するディーンにヒナは吹き出した。

「ほろほろ、サクサクですよね」
 笑いながらヒナが言うと、そうなんですとディーンは微笑んだ。

「はい。ヒナの分です」
「えっ? 私の?」
 支払いは済んでいるというディーンからたまごボーロを受け取り、ヒナはトートバッグへ入れた。

 トートバッグはディーンが持ってくれる。
 大事な報告書を持っているので寄り道はせずにそのまま王宮へ。

「ありがとうディーン」
 部屋の前でトートバッグを受け取ると、ディーンは報告書を一緒に見たいと言った。

「うん。でも先に読ませてもらっていいかな」
 フィリップは読みたくない所があるかもと言っていた。
 先に一人で見たいとヒナは目を伏せた。

「……わかりました」
「いや、一緒に見よう」
 引き下がろうとしたディーンを廊下を歩いてきたランディが止める。

「ヒナ、一緒に見よう」
 ヒナの頬を両手で包み込み、ランディはヒナの顔を上げた。

「一人で読んではダメだ」
 報告書は良い事ばかりではない。
 知りたくない事が書いてあったら1人では辛いとランディはヒナを部屋に押し込む。
 一緒に部屋に入り、ディーンに扉を閉めさせた。

「強引すぎでは?」
「こういう時は強引に攻めた方がいい」
 ランディはヒナからトートバッグを取り上げるとグレーの目で微笑んだ。

「お茶淹れますね」
 諦めたヒナはお茶を淹れ、ディーンに買ってもらったたまごボーロを出した。

「着替えて来ていいですか?」
 前髪がないと落ち着かないとワンピースのヒナが笑う。

「そのままの方が可愛いけれど?」
 ランディがサラッと発言すると真っ赤なヒナは奥の部屋に逃げた。

「……さすが女性の扱いに長けていますね」
「あの子は1人で無茶をする。俺達が止めないと手遅れになるよ」
 珍しく難しい表情のランディにディーンは驚いた。

 まさか『鳥』に情報を探らせるなんて。
 ランディは報告書をトートバッグの上から撫で溜息をついた。

 ディーンやコヴァック公爵に頼る事なく自分でこんな情報まで手に入れてしまうのだ。
 しかもお礼はヒナが払う事ができる治癒クッキー。

 行動力も発想もただの令嬢じゃない。

「お待たせ」
 前髪あり眼鏡ありズボンのヒナがミシンの椅子に座ろうとするとランディはココ! と場所を指定した。

 ランディとディーンの間だ。

「な、な、なんでソコ?」
「一緒に見るから」
 同じ向きで見ないでどうするの? とランディが笑う。

 ヒナは渋々2人の間に座った。

「はい、報告書」
 ランディに手渡された報告書をヒナはゆっくり捲った。

 以前、調印の時にプチィツァ国から教えてもらった『頻繁にヴォルク国とチェロヴェ国を行き来している人族』、それはイワライだった。

 ヒナと南広場で会ってからまだ1週間。
 それなのにイワライはもうチェロヴェに1回行ったと報告書には書かれていた。

「人族? 狼族でしょ?」
 確かにイワライは茶色の狼のような気がするのに狼の姿が想像できない。
 変だと思ったがヒナはイワライを狼族だと思っていた。

「狼に変わらないから人族という事でしょうか?」
「なぜ小さな狼にならないのだろう?」
 ディーンとランディも首を傾げる。

 その謎はすぐ次のページで明かされた。

「混血??」
 チェロヴェ国で会っていたのは父親。
 ヴォルク国で一緒に住んでいるのは病気の母親。
 イワライは定期的に父の元に母の病状を伝えに通っていると記載されていた。

「お父さんが人族だと結界の影響を受けないの?」
「混血はいないのでわかりません」
 ヒナの素朴な疑問にディーンは首を横に振った。

 報告書にはミドヴェ国と内通しているチェロヴェ国の大臣の名前も書かれていた。

「『鳥』はすごいな」
 こんな事まで短時間で調べられるなんて。
 ランディが息をのむ。

 次のページを見たヒナは目を見開いた。

「ほら、やっぱり1人で見たらダメだっただろう?」
 ランディは震えるヒナの手から報告書を取り上げるとディーンに手渡した。

 ゆっくり引き寄せ、抱きしめる。
 ヒナは声を押し殺したままランディの胸に顔を埋めた。

『聖女は元の場所には戻れない。
 調べたが戻す方法はなかった。
 学園を卒業した後、どうしたいのか考えてほしい。
 結婚するなら相手を紹介する。
 髪が短い聖女がチェロヴェ第2王子に言われた。
 聖女は泣いた』

 報告書に記載された内容はメイちゃんの事だろう。

『聖女は元の場所には戻れない』

 イワライが方法はないと言ったが、心のどこかで何かあるのだと思っていた。
 来れるのならば戻す方法もあるのだろうと。

 目を閉じても『戻れない』の文字が離れない。

 ランディは何も言わずにヒナを抱きしめた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

ドラゴンに攫われた聖女ですが、このドラゴン、めちゃくちゃ過保護でイケメンです

夏見ナイ
恋愛
聖女アリアは、魔王討伐後は用済みとされ、国から冷遇される日々を送っていた。心も体も疲れ果て、聖女という役割に絶望していたある日、伝説の「終焉の黒竜」が彼女を攫っていく。 誰もが生贄になったと嘆く中、アリアが連れてこられたのは雲上の美しい城。そこで竜は絶世の美青年カイザーへと姿を変え、「お前を守る」と宣言する。 待っていたのは死ではなく、豪華な食事に癒やしの魔法風呂、そして何より不器用で真っ直ぐなカイザーからの過保護すぎるほどの溺愛だった。 これは、全てを諦めた聖女が、世界最強のイケメンドラゴンに愛され、本当の自分と幸せを取り戻していく、極甘ラブストーリー。

無能と蔑まれ敵国に送られた私、故郷の料理を振る舞ったら『食の聖女』と呼ばれ皇帝陛下に溺愛されています~今さら返せと言われても、もう遅いです!

夏見ナイ
恋愛
リンドブルム王国の第二王女アリアは、魔力を持たない『無能』として家族に虐げられ、厄介払いとして敵国ガルディナ帝国へ人質に送られる。死を覚悟した彼女だが、あまりに不味い帝国の食事に耐えかね、前世の記憶を頼りに自ら厨房に立つことを決意する。 彼女が作った温かい家庭料理は、偶然離宮を訪れた『氷の皇帝』レオンハルトの孤独な心を癒していく。やがてその味は堅物騎士団長や宰相をも虜にし、食べた者を癒す奇跡から『食の聖女』と讃えられるように。 価値を知った故郷が「返せ」と言ってきたが、もう遅い! これは、料理で運命を切り開き、最強皇帝から世界一甘く溺愛される、美味しい逆転シンデレラストーリー。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ
恋愛
「出来損ない」――それが伯爵令嬢リナリアに与えられた名前だった。壊れたものしか直せない【修復】スキルを蔑まれ、家族に虐げられる日々。ある日、姉の策略で濡れ衣を着せられた彼女は、ついに家を追放されてしまう。 雨の中、絶望に暮れるリナリアの前に現れたのは、戦場の英雄にして『氷の公爵』と恐れられるアシュレイ。冷たいと噂の彼は、なぜかリナリアを「ようやく見つけた、私の運命だ」と抱きしめ、過保護なまでに甘やかし始める。 実は彼女の力は、彼の心を蝕む呪いさえ癒やせる唯一の希望で……? これは、自己肯定感ゼロの少女が、一途な愛に包まれて幸せを掴む、甘くてときめくシンデレラストーリー。

罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~

上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」  触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。  しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。 「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。  だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。  一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。  伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった  本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である ※※小説家になろうでも連載中※※

追放された元聖女は、イケメン騎士団の寮母になる

腐ったバナナ
恋愛
聖女として完璧な人生を送っていたリーリアは、無実の罪で「はぐれ者騎士団」の寮へ追放される。 荒れ果てた場所で、彼女は無愛想な寮長ゼノンをはじめとするイケメン騎士たちと出会う。最初は反発する彼らだが、リーリアは聖女の力と料理で、次第に彼らの心を解きほぐしていく。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

処理中です...