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第20話 ニーナの過去4

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朝早くに私はまだ若いシスターが洗濯しているとこに行ってみた。

 教会の真横に井戸があり、そこから水を汲んで桶で手洗いするのだ。

 私が洗濯場に顔を出すとシスターは驚いたようだった。
「どうしたのニーナ。ここに来るなんて珍しいじゃない」
「……何か…手伝うこと…ある?」

シスターはまた驚いたような顔をした。

「え、えっと……」シスターは何か困ってるみたいだ。
 そこへシスターテレサがやってきた。
「あら、何かあったの?」

「あぁ、シスターテレサ。ニーナが何か手伝いをと……」

「ニーナが?」シスターテレサも驚いていた。

 そんなに驚くこと?

「……何か、私にできることはない?」私はもう一度聞いてみた。

シスターテレサと若いシスターは顔を見合わせた後こう言った。
「じゃあ、洗濯物を干してきて貰おうかしらね。場所はわかる?」

 私は頷くと洗い終わった後の洗濯物が入ったカゴを持っていつもみんなの服など干してある場所に向かった。



洗濯物を干し終えると私はカゴを返しにまたシスターの元へ行った。
 シスターテレサはいなかったが若いシスターがいて、カゴを私から受けとるとありがとうと言った。

 ありがとう?

 私に言ったの?

 私は何か変な気分になり、照れ臭くて足早に部屋に戻ることにした。



 それから毎日自分から手伝いをするようにした。
 洗濯や、食事の用意、教会の掃除など率先してやってみた。
 すると最初は不審そうにしていたシスター達は徐々に私に対してお礼を言ったり褒めてくれるようになった。

 私は嬉しかった。自分が認められた気がした。
 ここは最悪の場所だと思っていたのに、自分の行動一つで変われるんだと思った。
 まだ子ども達の中には私に対して悪いことを言う子もいるけど。

 そうした日が続いていた時、私は洗濯物のカゴを返しに行く途中で兵士達がなにやら話をしているのが気になった。

「よう新人、そういえば前にここに来た汚い格好の旅人がいたろ?」
 前からいるおじさんの兵士が若い兵士に話しかけた。
「旅人……。あぁ、ここにいる女の子に会いに来たって人ですか?」
新人と呼ばれた兵士はまだ若くてまだ十代に見えた。

「そうそう。実は噂があってな。あの旅人、どこかの国の兵士だったらしいんだかその国の王の娘を連れ去ったらしいぜ!」

「王の娘を!?一般の兵士がそんなことしたら大変じゃないですか?」

「そうだろ?まあ噂なんだが……なんでもその娘と恋仲になって娘の腹に子まで宿しちまったんだ。それを王が知るともうカンカンよ。それで兵士が娘を連れて逃げ、怒り狂った王は娘を取り戻すべく、城から兵士や凄腕のハンターを駆り出したみたいだ。」

「へぇ……。それで逃げた兵士と娘はどうなったんですか?」

「それがよ。ここからが面白いところだ。逃げた兵士と娘はこの国にまで来たんだが追っ手によって襲撃され、なんと間違って王女のほうが殺されてしまったらしい!」

「…本当ですか!?それで兵士とお腹の子は…?」

「お腹の子は王女と一緒に死んだみたいだ。兵士は一人追っ手から逃げ切って目立たないよう生きてるってわけさ!まあ噂だがな。はっはっは!あ、そういえば言い忘れてたが今日から王国に兵士が必要みたいで教会近辺の警備は俺とお前ともう一人の三人だけみたいだ。忙しくなるからしっかり準備しとけよ!」

 そう言って兵士は見回りに戻っていった。

 私もカゴを返しにシスターの元へ戻った。



その日の夜だった。

 部屋で寝ていた私は騒がしい物音で目が覚めた。

 部屋の外からバタバタ誰かが走り回り、窓の外も何やら妙な唸り声のようなものが聞こえた。

 教会は二階建てで子供部屋は二階にあるため私は起き上がって窓の外を見下ろした。

するとまだ暗いはずの外の景色は所々赤く照らされていた。

 これは……火だ。

 火が外を走り回っている異様な光景だった。
 いや、あれは火が付いている松明のような物を持った人間が走り回っているようだ。

 私はその異様な光景に唖然としていた。
 いったいどうなってるの?どういう状況なの?

 そしてその松明の火で走り回っている者の正体が分かった。
 ゴブリンだ!!
 まさか、あの時森にいた奴らなの……?

 ドアの外でシスターの声がした。

「みんな!!早く起きて!早く起きなさい!!」

 私は部屋を出てみるとシスターが子供達を起こしながら走り回っていた。
 シスターが私の顔を見ると言った。
「ニーナ!あなたも早く下へ!みんな下に集まるの!」

「シスター…何があったの?」

「魔物がきたのよ!!いいから急いで!」

 シスターと何人かの子供達と一緒に一階に降りるとすでにシスターテレサと数人の子供達がいた。

 子供達は怯えている子や、泣いてる子ばかりだ。
「みんな、落ちついて!」シスター達も子供を落ちつかそうと必死になっているが自分たちも慌てふためいているようにに見えた。

「なんでこんな急に魔物が……」
 シスターテレサが言った。
「シスターテレサ、外には王国の兵士が警備してくれているのではないのですか?!」
 若いシスターがシスターテレサに問いかけた。

「そのはずです!!みんな……大丈夫。ドアには頑丈な鍵がかかっていますし、外はきっと兵士達がなんとかしてくれます。みんなで祈りましょう。そうすれば必ず危険は過ぎ去るはずです!」
 そう言ってシスターテレサは祈り始めた。

 
 バンッ!!

 とドアから大きな音がして子供達から悲鳴が聞こえた。

「ここを開けてくれ!!」ドアの外から声がする。

「シスターテレサ!どうするんですか?!」
若いシスターが言った。

「あぁぁ、どうしましょ!どうしましょ!」シスターテレサは慌てていて何も判断できなくなっていた。

「早く!!ここを開けてくれ!」
男の人の声だった。


 若いシスターはシスターテレサの判断を待つのを諦めてドアを開けにいった。

「あ!シスターマリア!いけません!」
 シスターテレサが止める間もなく若いシスターがドアの鍵を開けた。


「うおぉぉ!」

「た、助かったぁ!!」

 開けると同時に二人の兵士が中に入ってきた。

「あ!兵隊さんだ!」子供達が歓喜の声をあげる。

「いったい、どうなっていますの?外は?あの魔物達はいったいなんなんですか!?」シスターが兵士に詰めよった。

「し、知るか!急に大勢で襲ってきやがったんだ!………くそっ!なんでこんな日に…」

「あなた達二人だけ?他の兵士はどうしたのですか?」

「今日は王国に兵士が召集されちまって、ここの警備は三人だけだったんだ!」

「まあ!なんてことなの………」シスターテレサは膝をついた。

「後もう一人の兵士さんはどこいきましたの?」
若いシスターが鍵を掛けながら言った。

「知らねぇ。それどころじゃなかった。数が多すぎて逃げるのに精一杯だったんだ。」

「先輩!外にまだトムさんが…助けにいきましょう!」新人と呼ばれていた若い青年だった。

「バカ野郎!てめぇ死にたいのか?!」
 おじさんの兵士が若い兵士の胸ぐらを掴んで突き飛ばした。
「もう手遅れだ!てめぇもあの数の魔物を見ただろ!」

「見ましたが…」

「そんな助けたけりゃ、1人で出て行ってこい!無理なら俺の言うことを聞いとけ新人!」

新人と呼ばれている若い兵士は震えて何も言い返さなかった。

「と、とにかく早くここから逃げ出しましょう!」
若いシスターが言った。
 
「無理だ!今出れば奴らにすぐ殺されるぞ!この教会はすでに囲まれているんだ!」

「あぁぁぁ!神様……」


 こんな状況にも関わらず何故か私は冷静に周りを見ていた。
 怖くないと言ったら嘘だが、自分以外のみんなが冷静さを失っているのをただ別の立場から眺めているようだった。

「シスター!!何か変な匂いがするよ!!」子供の1人が言い出した。

「え、え、何。何!」
 確かに何か焦げ臭い匂いがした。
 そしてさらに部屋の中が少し煙たくなってきたみたいだ。

「まさか……あいつら…。」

 教会の天井の部分から熱気を感じるようになってきた。

「あいつら、屋根に登って火をつけたんだ!ちくしょう!!」

「あぁぁぁ、もうダメ!二階から侵入されてしまう!!どうしたらいいの!」

 私はみんながパニックになっている間みんなのことをボーッと見ていた。
 
 そうしているとシスターの1人と目が合った。
 
「ねぇあなた!1人だけなんでそんな普通にしてられるの!?」そのシスターが私に言った。

みんなが私を見る。

「……え、え、…私」私は急な出来事に対応できずゴモゴモと答えた。

「そ、そうよ。あなた、魔物がいることを知ってたわよね!?」
 若いシスターが言った。

「え、……え?」私はまだ反応しきれない。
急に何?

「あなたまさか………魔物をここにおびき寄せたんじゃ……」

 何……?何を言っているの?

「きっとそうだ!!」いつも私をからかう男の子が言った。「こいつは魔物の子だ!魔物の仲間なんだ!!」

 その言葉を始まりに子供達がどんどん騒ぎだした。
「魔物を呼んだんだ!」
「こいつはみんなを殺す気だ!」
「本当に魔物の子だったんだ!」
「全部お前のせいだ!」

 え?え?みんな何を言っているの?
 みんなどうしちゃったの?

「最近手伝いを始めたり…急におかしな態度をとるから怪しいと思ってたけど…やっぱりそういうことだったのね…」シスターが言い始めた。
「あなたは私達に怪しまれないようにいい子を演じていたのね!!なんて子なの!!この悪魔!私達をどうする気なの!」

 シスターまで何を言っているの…?
 私はみんなと同じ人間だよ…?
 私もみんなと同じで怖いんだよ?
 なんでそんなことを言うの?
 私がみんなに何をしたの?
 
 私はシスターテレサに助けを求めるためにシスターテレサを見た。

 シスターテレサは胸の十字架を握りしめながらブツブツなにかを言っていた。

「お前のせいでこうなったんだ!ここから出ていけ!」誰かが言った。

「そうだ!出ていけ!魔物は出ていけ!」
「魔物は出ていけ!」「魔物は出ていけ!」

 私は動機が止まらなかった。息を吸うのがやっとで言葉を話すことができなかった。

苦しい。苦しい。
誰か助けて。


ドアの近くで兵士達が話しているのが見えた。

「……先輩…止めなくていいんですか?あの子はどう見ても人間です!この状況は…異常です…」

「黙ってろ新人。これはチャンスだ…あの子を外にだせ。」

「な………なにを言ってるんですか!!あの子は殺されてしまいますよ!」

「バカだなお前は。あの子供が死ぬのは仕方ない。どっちみちここにいたらみんな焼け死ぬか魔物に殺される。それならあの子を外に出しておとりに使うんだよ。魔物があの子に気をとられているうちに俺達は走って逃げよう。それしかねぇ」

「それはできません!先輩!なんてことを……」

「お前は死にたいのか!?早くあの子を外にだせ。」

 新人と呼ばれた兵士は顔が青ざめていた。
そしてチラっと私のほうを見る。
この兵士は優しそうでとてもいい人に見え、私は微かにこの兵士が私を助けてくれるんじゃないかと思った。


 その兵士がみんなから罵倒を浴びせられている私のほうにきた。



 その兵士が震えた声で私に言った。



「………1人で外に出られるかい?」


 あぁ。そっか。


 そうなんだ。


 もういい。

 ここは地獄だ。
もうこんな地獄にはいたくない。
こんなとこにいるよりは外で魔物に食い殺されたほうがマシだ。

 私はドアのほうに歩いた。
 ドアまで数歩の距離なのに時間がとても長く感じた。

 周りからは未だに「出ていけ」と言う言葉が聞こえていたがその言葉も遠く聞こえていた。

 ドアの前に立った私は自然と震えが止まっていた。
 これで終わるんだ。すべて終われる。
 これでよかったんだ。
 私なんか生きていてはいけなかった。
 辛かった日々はようやく終われる。

私はドアの鍵を開けた。

 このドアを開ければ大勢の魔物が私を待っているのだろう。
 私を殺そうとキバや鋭い爪を向けてくるのだろう。すごく痛い思いをするのだろう…。

 それでも。それでもここよりはマシだ。
 この世界よりは、外の世界のほうが何倍もマシだ。

 私はこの地獄から抜け出すためにドアを開け放った。


 ………しかし外には何もいなかった。

 

 

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