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プロローグ
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「そこの貴方、ちょっとよろしくて?」
その声が自分に向けられているものだと分かり驚く。
声の主を見るとそこにいたのは、この国の王子の婚約者であり学園では2番目に権力がある侯爵令嬢だった。
◇
突然だが私は転生者である。
こいつ何を言ってるんだ?と思われても仕方ないと思っている。が、しかし、それを上回る事実もある。
それは、ここが小説の世界だということだ。
原作はゲームの作品だったらしい。人気だったのだろう。友人が好きだった為、学校の下校途中に話の内容やら、キャラの容姿がとても良いやら沢山聞いた。内容やキャラはほとんど覚えていないが、国名だけでもと友達に何度も復唱させられたので覚えていたのだ。それがエルトナ王国だった。
分かったのは6歳の時。
私はこの世界に来る前に今よりもとてつもなく文明が進んだ所におり、そこで運悪く流行病に罹り死んだらしい。実は治る見込みのある病気だったはずなのだが、運動不足と甘いもの好きが病状を悪化させたのだ。自業自得である。
この世界は6つの国と幾つかの小国で出来ている。6つの国にはそれぞれ属性みたいなものがあり、それはどのような精霊に好かれているかによって異なる。現時点では、水の精霊、土の精霊、風の精霊、光の精霊、火の精霊、闇の精霊に相対する6か国ができている。
そして、私が今いるこの国をエルトナ王国と言い、この世界で唯一光の精霊の加護を受けている国である。その為、周囲の国よりも希少な力を持っており、6カ国の中では突出しているとも言えるだろう。
また、この国と同じく6カ国の中で力を持っている国がある。獣人が住む夜の国だ。獣人の生まれ持った高い身体能力と高度な魔法は戦争を焚き付けるのに十分だったようだ。今は平和であるが、いつどうなるかは分からない。
そうして、2つの国は歪みあって来た為エルトナ国の獣人は酷い扱いを受けている。
私は半分ヒト、半分獣人の血を持つ混血児、所謂半獣である。両国が私が産まれる前に起こしていた戦争で偶々知り合い、一目惚れをした。しかし、争っている国の二人が結ばれる事はない。二人はお互いを諦めるか恋に人生を投げ打つかの決断を迫られ、駆け落ちした。
その結果産まれたのが私である。ロミジュリの成功例みたいな感じ。
父と母は仲睦まじい生活を小国で送っていたが、ある日突然父が突然行方不明になってしまった。私が11歳の時だ。
母は、父が消えてしまった事を嘆き、苦しみ、狂った。そんな母はその後もずっと毎日父を探すと家の周りをフラフラと歩き、夜は叫び声をあげる生活を送っていたが、父が消えた2年後に足を滑らして頭を打ってしまった。
「貴方はどなた?」
それが目を覚ました母の第一声だった。
それからは記憶のない母と共に暮らした。母が私の事を思い出す事はなかったが、時おり父との思い出を思い出し
「幸せそうだわ……でも、この人は誰なのかしら?」
と呟いた。
それを見た私は母の記憶を戻すには父を探す必要があると確信し、医者に相談したところ、勧められた介護施設に不幸中の幸いか父の残した財産が多かった為、金銭には困らずに母を入れることが出来、父を探す旅に出る事にした。
本当の理由は私が耐えられなくなったからというのもある。狂った母と私すら知らない母との生活は苦しく、毎夜一瞬にして壊れた幸せな家族を思い出し、泣いた。本当に辛かった。
あの頃の家族を取り戻したい。
優しい家族との生活を送りたいという夢は、たった数年でもう一度幸せになりたいという夢へと変貌を遂げた。
そうこうしてやって来たのがエルトナ王国だ。父の手がかりは、家の周りや近くの山を隅々まで調べても痕跡や死体一つ出て来なかった為、事件性の方が高いと考えた。そこで一番父の手掛かりが掴めそうなのがエルトナ王国であり、同年代の少年少女が通うエルトナ学園だと思いいたった。エルトナ学園の生徒だとエルトナ王国を探索でき、それに加えて噂や情報が手に入りやすい。しかし、問題があった。
エルトナ学園は推薦式であり推薦状が無いと試験を受ける事が出来ないことだ。
その問題はエルトナ学園への推薦書は母を診断してくれた医者が書いてくれた事で解決した。何でも、元エルトナ学園の生徒会長で現学園長とも顔見知りだったらしい。何故ここまでしてくれるのかと医者に聞くと
「母の診察に来る君が日に日に痩せて元気が無くなって行くのが心配だったからだよ。このエルトナ学園で君が少しでもやりたい事や希望を見つけてくれたらと思ってね」
そう言ってくれた。優しい人だ。
もう一つの問題だが、エルトナ王国では獣人は嫌われているという事だ。混血の私は獣人の証である耳と尻尾を隠す事が出来たので特に何も問題なく国に行けるが、万が一バレると何をされるか分からない為、要注意である。
エルトナ王国に来たのは今から1年前。この国にも慣れる必要があったので、入学まで期間を置いた。初めのうちは戸惑う事も多く大変だったが、ご近所さんもとても親切で次第に慣れていくことが出来た。その後受けた入学試験も前世の記憶のお陰もあって難なく受かる事もでき、晴れて15歳の時に学園生となった。
そうして私の学園生活が幕を開けたのが1ヶ月前である。
今は、昼休みの時間。身バレが怖いので生徒とも連む事なく一匹狼状態を維持し、暇なので木の上で授業の予習をしていた所だった。下を向くと、やはり侯爵令嬢がこちらを見上げている。仕方なく木から飛び降り、侯爵令嬢にお辞儀をしておく。
「私に何か?」
サラサラ銀髪に透き通る青い目をした彼女は、
「貴方、獣人よね?」
微笑んで言った。
学園生活ないしはこの国での生活終了の鐘が鳴った気がした。
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