3 / 19
1 学生だけど教師になる
しおりを挟む「貴方、獣人よね?」
その言葉にびっくりする。エルトナ王国に来てからは気づかれた事は無いので油断していたのかもしれない。
「あ、違うわ!貴方を脅迫しようとかそういうのじゃなくて、私はゲームで見ただけで…」
………ん?ゲーム?
ボソボソ聞こえてくる声に耳を澄ますと、乙女ゲームやコントローラー、前世で有名なゲームの機種が聞こえて来た。この人も転生者か…
「そう!たまたま知ってしまって!言うつもりはないから!!貴方に手伝って欲しいことがあるだけなの」
私みたいな平民でしかも訳ありなのだから脅せば一発なのに…この考えをする私がダメなのかもしれないな。
私の前の、平民に向かって「お願い!」と頼み込んでいる侯爵令嬢を見ると何だかバレた事は大丈夫な気がしてきた。
「……色々と問題はありますが、とりあえず先に頼み事の内容を聞いてもいいですか?」
「本当!!分かったわ、それなら見せた方が早いわね。ウメ!来なさい」
その声に反応して若干離れた木の影からメイド服を着た女の子が現れた。
黒髪黒目のかわいらしい7歳くらいの女の子だ。
「この子はウメ、私のメイド。そして…獣人なの」
そう言って侯爵令嬢は手を振って魔法を解くよう指示すると、ウメからピョコンッと耳と尻尾が現れた。
「なるほど…」
この子が獣人となると、私が頼まれることは何となく分かって来る。
「この子の獣人としての教育が欲しいといった所ですよね」
「そうなの。私が小さい頃、道で倒れているのを見つけてメイドにしたんだけれど、獣人についてはあまり詳しくなくて…だから、貴方に頼みたいの。給料は弾むわ」
その言葉に反応する。給料…だって?
今の寒々しい貯金を思い出す。ここでの生活で結構使ってしまったのだ。
「…そう言う事なら良いですよ。ただ、私は半獣なので父からの教えを伝えるくらいになりますが」
「ありがとう!」
「私の名前はリン。獣人だということは秘密でお願いします」
「私はクリスティーナ。ええ、分かってるわ」
そうして侯爵令嬢と私の変な繋がりができたのである。前世についてはもうちょっと様子を見てからにしよう思う
◇
学園に来て2週間と3日がたった。今日が授業の日だ。使う教室にはアテがあるとクリスティーナが言ったっきり、何も連絡がない為分からないが。ま、なんとかなるか
この学園の建前は一応"身分は関係ない"とされていて、クラスは平民も貴族も一緒だ。まぁ、そもそも平民の人数自体少ないけど。
「ねぇねぇ、ヴォナ家のクリスティーナ様みた?」
「ええ、見たわ!艶やかな銀髪に青い目がとても美しくてびっくりしましたわ」
私の斜め前の席に座っている女の子達がおしゃべりをし始めた。
「あの方は社交界でも有名なパーティーにしかいらしてないもの、この学園で話題になるのも無理はないわ」
「私もクリスティーナ様もお近づきになりたいわぁ…」
「そうね。でも、クリスティーナ様は取り巻き等は作らないらしいわ」
「そうかぁ」
そうなんだ…初めて知った。貴族の事は分からないからなぁ…
「あ、王子は見まして?」
「王子と言うと…リベル王子ですわね。見ましたとも!とても美しくていらっしゃったわ…」
そう言って二人でほうっ…と恍惚な顔をする。そんなに綺麗か?入学式で見たけどカッコいいとは思わなかったし
私の好みの問題かもしれないな
「あのキラキラと太陽を反射して輝く金髪にミステリアスな紫の目がマッチして………はぁ、思うだけでツライわ」
なんか、前世でいう限界オタクが産まれかけている気がする…
そんな中、ガラッと言ってドアが開く。入って来たのはクリスティーナだった。クラス全員がそちらを振り向きクラスがザワつく。
ああ、きっと今日の授業についてだろうな…出来れば目立ちたくはないんだけど、侯爵令嬢と関わった時点で無理か。
そんな中、このクラスで身分が一番高そうな青年が声をかけに行った。
「く、クリスティーナ様…!」
「あら、リグミモーネ伯爵子息。お久しぶりね」
「覚えていただけていて光栄です!」
緊張しているのか一挙一動がロボットみたいな青年にクリスティーナは「良いのよ、ここでは身分は然程気にしなくても良いので」と声をかける。
この掛け合いにクラスの貴族は感動したかのように手を前で組んで眺めている。
「女神かもしれない…」
確かに、クリスティーナは可愛いし美しい。わかる気はする
「このクラスにリンという方はいますか?」
実を言うとリンは、私の"前世"での名前だ。名前から獣人だと知られない為に元いた国を出る時に変えてもらうよう頼んだのだ。
「ここに」
「あら、ではちょっとお話しがあるの。ついて来てもらえるかしら」
そう言われて断れない為大人しく着いて行く。本音を言うと凄く嫌だ。だって目立つし、皆から推されているような令嬢だ、出て行った後のクラスで何を言われるか何となく分かるし。
◇
学校の庭の隅の方まで行った。授業の事だろうし警戒するに越した事はないだろう。
「突然呼んで申し訳なかったわ。今日の授業の部屋が取れたから連絡しようと思ったの。でも、私…ちょっと忙しくてこういう時でしか言えなかったから、ごめんなさいね本当に」
しょぼん…として項垂れるこういう姿のクリスティーナもかわいい。かわいい子にはめっぽう弱いのかもしれないと今になって気づく。
「で、教室なのだけど2階の突き当たりにある空き教室をもらえる事になったの。今日からよろしくね」
分かったと頷く。普通は空き部屋であっても中々貸してもらえないはずだが、流石王子の婚約者である。
ある程度、会話した後に別れようとした時近くで数人が談笑している声が聞こえた。
「ぁ…」
声を聞いたクリスティーナはそう言って気まずそうに体を縮こませた。
「大丈夫ですか…?」
そう聞くが、クリスティーナは力無く頷く。どう言う事だ?そう思って声のする方を見ると、庭のベンチに一人の男子生徒と3人の女子生徒が男子を囲うように座ってキャッキャと話ていた。明らかに友達と言えるような距離と空気ではなかった。
ん…?待てよ、あの金髪と紫色の目…まさか王子か?クリスティーナの反応からしてあっていそうだな。
クリスティーナは王子の婚約者だし。という事は今、不貞現場を目撃した事になるのか。そりゃ気まずいだろう
そう思いながら4人を何かあった時の為にと良く見ていると、袖をチョンと引っ張られた。見ると、クリスティーナが服を引っ張っていたのだが、顔色はさっきよりも酷くなっていた。
「とりあえず、離れましょう」
クリスティーナは喋らない。喋る気力さえなさそうだ
とりあえず王子の集団から離れた場所に移動し、クリスティーナを落ち着かせる為にいつの間にか横に来ていたウメにお願いする。
「では、私はとりあえず帰りますね」
まぁ、私がいても良くないだろう。ただの平民だし、何も出来ないぬいぐるみになるつもりはない。
その言葉にまたコクンと頷く。さっきまでの気品を帯びた気配は完全に消えていた。
0
あなたにおすすめの小説
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。
なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。
超ご都合主義のハッピーエンド。
誰も不幸にならない大団円です。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる