精霊機伝説

南雲遊火

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父と父編

第七十八章 慟哭

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「と・も・か・く!」

 モルガとアックス二柱の神に押さえつけられ、大人しくせざるを得なくなったムニンとジンカイト父たちに、ルクレツィアは語気を強めて詰め寄った。

「父上がたは、余計な事・・・・はしないでください! 絶対に・・・!」
『ルクレツィアが反抗期……』

 くすん……と、落ち込んだ表情のムニンの目元に、涙が滲む。
 同時に足元の闇が、ぶわりと濃くなった。

「違いますッ! 父上……その……腹立たしいのは、私も一緒です」

 ギリっと歯を軋らせ、ルクレツィアは父に懇願した。

「だから、教えてください。父上がたに、何が、あったのか」

 ルクレツィアの真摯な言葉に、ムニンは一瞬、表情を苦しそうに歪ませた。

『……あの日は、その……カイヤ嬢の結納に向けて、打ち合わせを兼ねた親族の顔合わせをしていたんですよ。両親のいない・・・・・・カイヤ嬢と、その後に控えているスフェーン君の、後継人父代わりを、チェーザレから頼まれまして』
『おう……』

 先年、うっかり死んでしまったジンカイトカイヤとスフェーンの実父は、耳が痛かったらしく、視線を空に漂わせる。

『カイヤ嬢本人からは、「喪が明けるまで保留になってしまっている姉の結婚が先だ」という希望を聴いていましたが、いたくカイヤ嬢を気に入ったらしい相手側から、「せめて結納までは」と、急かされまして……』

 ぶわわッ……と、思い出して徐々に腹が立ってきたのか、ムニンの足元の闇が、濃いまま一気に広がった。 

ブラウン叔父上殿の邸宅に、親族一同集まり、カイヤ嬢たちを迎えに行ったチェーザレを待っている時、宰相派一派になだれ込まれまして、あっという間に刑場直行で……』
「わ……わかりましたッ! ありがとうございます! もう大丈夫です!」

 ルクレツィアが慌てて、父を止めた。
 ムニンに表情が無い分、余計怖い。

「と、いうことは、父上は、兄上にお会いしていないと……」
『ええ。……もっとも、状況から、私たちが待っていた時には、チェーザレは既に、殺されていた可能性が高いでしょうけど』

 カイヤ嬢やそのご兄弟も、どうなったか……首を振るムニンを見て、ぼそりとジンカイトが自分を押さえつけている息子モルガに問いかけた。

『モルガ、カイヤやスフェーンは、お前の支配下におるか?』
「ううん。いない。だから、しんでない、と、おもう」

 モルガの声に、ルクレツィアはホッと胸を撫でおろしす。
 しかし、それは同時に──。

「我々は、やることがいっぱいだ……」

 反乱の完全鎮圧と、首謀者ベルゲル=プラーナの身柄確保。
 チェーザレの肉体を得て暴走する光の精霊機デウスヘーラー
 消息の分からないモルガの兄弟たちの捜索。
 そして、なんとか会話は通じているものの、悪霊化している父と親戚たち──。

 ルクレツィアは、眩暈を感じ、頭を抱えた。

 さて、どれからこなすべきか──。


  ◆◇◆


「神殿と城内東側、北側、および中央部分の制圧完了しました。残りは西側の一部のみです」
「おう、ご苦労さん」

 報告に来た若い騎士に、ひらひらと手を振るギード。
 そんな弟を、神女長カミコオサは冷たく睨みつける。

「何故、貴方が指揮をとっているのです」
「細けぇ事、いちいち気にすんなよ」

 小さく肩をすくめたところに、別の人影が駆け込んできた。

「遅くなりました」
「おう、お疲れさん」

 駆け込んできた三等騎士の制服を纏う男に、再度ひらひらとギードは手を振った。

「……貴方は?」
三等騎士リイヤ・ガレフィス。二等騎士ラング・ビリジャンの後任の、緑の元素騎士様だ」

 訝しむ姉に、ギードは馴れ馴れしくデカルトの肩に腕をまわして紹介をする。

「制服は間に合っちゃないが、まぁ、降格騎士の自分より、説得力があるだろう?」

 もっとも、異例・・と言われた『ギードとモルガの交代劇』以上・・の前代未聞の選ばれ方であり、「降格騎士のギードよりマシ」レベルの、説得力ではあるが。

 それでも──。

「……貴方にしては、懸命な判断ですこと」

 神女長キーラがため息を吐いた。

 フェリンランシャオ軍を率いる優秀な指揮官であるはずのサフィニアが裏切り、チェーザレが死んで──。
 二人の次に元素騎士歴の長いステラは、メタリアに残ったため不在であり、ルクレツィアとユーディンは、当事者過ぎて・・・・・・、落ち着くための時間が、今しばらく必要だろう。

「まぁ、陛下が泣き疲れて立ち直るまで、元、元素騎士の立場から、オレも手伝うし」
「それ、本当ですの?」

 突然、聴きなれない女性の声が響き、一同部屋の入り口に注目した。

 立っていたのは、白髪の──しかし、うら若い、勝気そうな女性だった。

 
  ◆◇◆


 泣いて、泣いて、泣いて──。

 泣き疲れて、意識が飛びかけた、丁度その時。
 枕に突っ伏したユーディンの頭に、衝撃と激痛が走った。

「痛いッ!」

 何が起こったか理解できず、きょろきょろと周囲を見回す。

 目に入ったのは、真っ白の長い髪。
 そして、吊り上がった切れ長の、金の瞳。

「誰ッ!」

 すぐ目の前に立つ女性に、ユーディンは震えあがった。
 後ずさった勢いでベッドから落ち、頭をしこたま打ち付ける。

「失礼いたします。陛下。私は、アリアートナディアル大使、ラキア=タルコでございます」

 女性は物腰丁寧に、深々とユーディンに頭を下げた。

 サラサラと流れる彼女の白髪と、彼女が名乗った『タルコ』が示すもの。
 それは──。

「君、アリアートナディアル皇家の……」
「はい。着任の際にご説明しました通り、現皇帝イムル=タルコの第六皇女でございます」

 彼女のことを、全然ずぇーんぜん、まーったく覚えておらず、冷や汗がユーディンの背中を流れた。

 とりあえず、気取られないよう、ユーディンは問いかける。

「えと、何? それで、外交官の君が、一体、何の用?」
「……ほう?」

 言うが早いが、彼女の拳が、ユーディンの顔面に炸裂した。
 彼女の動きは本当に突然で、身動きできなかったユーディンにそのまま直撃して、再度頭を打つ。

「な! 何をッ!」
「何もクソも……我が国との外交の窓口となっていたチェーザレ=オブシディアンを処刑した上、貸与していた我がアリアートナディアルの守護神・・・を邪神に墜とし、なおかつ一切の事情説明・・・・詫び・・も無く、泣きわめくだけの不誠実な貴公を、非力・・な外交官の鉄拳一発・・チャラにしてやった・・・・・・・・・んだ! ありがたいと思えッ!」

 非力どころか無茶苦茶痛かったし、少なくとも二発殴られた気はするのだが──しかし、怒れる大使の揚げ足をとらないよう、ユーディンはスルーすることにした。

 少なくとも、彼女の言い分通り、フェリンランシャオ自分たちに非がある点に関して、認めなければならない部分が多々ある。

「う……貴国に、報告が遅れたことは申し訳ない。けど、チェーザレのことは……」
の調べによると、宰相ベルゲル=プラーナの反乱の兆候は、何年も前からあった。にもかかわらず、罰するどころか何もせず、それを野放しにしていたのは、貴様・・ではないか」

 正論過ぎて、ぐうの音も出ない。

 女性恐怖症や 精神的な危うさもう一人の自分という弱みを宰相に握られ、そして、精霊の加護の無い事を隠すそれ以上の秘密を守るため、下手に動けなかった──否、動かない・・・・という、選択をしたのは、自分だ。

 そう、だから──。

「それで。貴公の用件は?」

 自分の口から、勝手に言葉が漏れる。
 これは、誰だ? もう一人のボク? それとも、破壊神エフド

 ──ううん、だれだっていい。だれだって。

「アリアートナディアル本国からの、国書を預かった。詳細はそこに記したとのことだが、貴公に伝えた本日から七日後をもって、貴国との同盟を破棄する。とのことだ」

 遠のく意識の中、ラキアの凛とした声が響いたが、ユーディンの頭の中は、別のことでいっぱいで──。

(あぁ、そうだ……そうだ……)

 ──チェーザレを殺したのは、自分ユーディンだ。
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