Heaven‘s Gate

南雲遊火

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睡蓮学園

He who must not be named ~名前を呼んではいけないあの人~ 〜Since 2004〜

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 名前を呼ばれた気がして、オレは図書室の巨大な本棚の影に隠れた。

 恐る恐るそっと覗くと、見覚えのない顔の男子生徒が三人。
 机の上は乱雑に散らばり、勉強しているのか遊んでいるのか、正直言ってよく判らない。

「あー? 小早川だよ」
「どのって、そりゃ一年の小早川」
「一年って、四人いるだろ。一組と二組に二人ずつ」

 ──その点については、こちらとしても少々ややこしい事情で申し訳ないと思う。
 ウチは四つ子なのだ。オマケにウチの高校は、少数精鋭を謳いクラスが二組しか無いため、偏らないように二人ずつ均等に割り振るしかない。

「一組の小さい方」

 よりによってオレかよ! 出ていかなくてホントよかった。と、ほっと胸を撫で下ろした。

 ちなみに四つ子と言っても、同じように成長するとは限らない。三男四男は自分より頭ひとつ大きいし、すぐ下の次男と比べてもわずかな差ではあるけれど、悔しいことに長男のオレが、一番背が低い。

 しかし、面識のない相手に一体、何を言われているのだろうか──それはそれで気になってしまい、オレはその場から動くタイミングを完全に失ってしまった。

「こないだ先生や皆が話していて気になったんだけど、他の三人は下の名前で呼んでるのに、なんでアイツだけ『小早川』って苗字呼びなんだ?」
「あー、お前外の学校出身で、中等部繰り上がり組じゃないから知らないのかー。簡単に言えばだよ。アイツ昔、名前で揶揄からかってきた相手をボコボコにしたことがあってさー」

 異議あり! 思わず叫びかけて自分で自分の口を塞いだ。
 確かにあの件の発端はオレが名前を揶揄われたことだが、大乱闘の主な犯人暴れて殴ったのはオレではなく、一緒に居た三男おとうとと幼馴染の葉月ヨウゲツだ。風評被害にも程がある。

「以来、力のある者以外、アイツの名前を呼んではいけない。と、暗黙の了解がこの学園にはある」

 ──オレは『名前を呼んではいけないあの人』かよ。有名な映画の悪役が脳裏をよぎる。

「ふーん。で、アイツの名前、なんて言うんだ?」

 ギョッと思わずオレは目を見開いた。同時に頬が真っ赤に紅潮していく自覚を覚える。

 あらかじめ断っておくが、オレは自分の名前が嫌いだというわけではない。意味ならとても良いだと思うし。

 ただ──面と向かって人から名前を呼ばれるのは、少しちょっと──いや、結構かなり、恥ずかしくて──。

「小早川青春セイシュン
「誰だぁー! 今セイ兄ぃをフルネーム呼び捨てにした奴ぁーッ!」

 オレは思わずびくりと飛び上がった。
 男子生徒たちを挟んだ向こう側に白秋弟そのニが仁王立ちで立っているし、隣で葉月が楽しそうに指をボキボキ鳴らしている。

 嫌な予感がしたが案の定、二人は男子生徒相手に大立ち回りを演じ、『小早川長兄の名前は絶対に、口にしてはいけない』といったまことしやかな噂の信憑性を否応なく高めてしまった。
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