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睡蓮学園
ぶす 〜Since 2002〜
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ことの発端は、とある紫色の大きな花だった。
睡蓮学園中等部一年、丸山真理子は、どこからともなく持ってきたその花を、慕っている一年先輩である中等部二年、江藤葉月にプレゼントしたのだという。
貰った葉月は寮の自室に戻る時間がなかった故に、そのまま自分の教室の花瓶にその花を放り込むように生けたらしい。
そして、授業が始まり、たまたま入室した天谷の大きな悲鳴が、学校中に響き渡ることとなった。
──で、放課後。
現在生徒指導室にて、三者面談が絶賛開催されている。
集まったのは、当事者である丸山真理子と江藤葉月と理科教師の天谷春子。丸山の父である医師の丸山健一と、この学園の社会科教師兼葉月の兄であるオレ、江藤雷月。そして、二人の担任の横山由依と、東宝珠。
怒り心頭の理科教師に対して、既にこの女子生徒どものやる気は露骨に無い。
もっとも、この場にいる二人の担任も、オレの隣で微かに苦笑を浮かべていた。
「いい加減にしなさい! あなた達!」
とうとう理科教師の怒りが爆発した。
そもそも、何故ここまで彼女が怒り狂うことになったのかと言えば、件の花が『毒』であったからだ。
トリカブト。日本三代有毒植物の一つ。根も花も花粉ですら猛毒で、場合によっては即死もありうる、危険極まりない花──。
「だからさぁ、知らなかったんだって!」
葉月がげんなりとした顔で叫んだ。
我が妹ながら座学の成績は極めて悪く、残念ながら彼女の証言は本当だろう。
「別に体調悪くなったりしてないし、普通に見てる分は綺麗な花じゃん?」
飾ってなにが悪いのか……不貞腐れたように葉月がオレを見た。「こっちを見ても助けやれんぞ?」とオレも無言で目を細め、視線を返す。
「……あー、丸山。お前この花、どこから持ってきたんだ?」
見かねたのか葉月の担任、東宝珠がオレの代わりに助け舟を出した。
「ウチの庭です。母が育ててて、綺麗に咲いたので先輩にあげようと切ってきました」
ざわっと周囲がどよめき、一気に丸山先生に視線が向いた。
「あー、アレですか……確か去年ふた株ほど買って育ててましたねぇ。……ダメじゃないですか。その様子だと、お母さんに何も言わず、勝手に切っちゃってるでしょう?」
「いいじゃない。あれだけたくさん咲いてるんだから三本くらいもらっても……毒の花粉が散らばらないように、ちゃんと事前におしべの処理はしたし」
たしなめる丸山先生に対し、拗ねたように娘の真理子が小さくつぶやく。
そんな娘の様子に、ぱっと丸山先生は明るく微笑んだ。
「それは良い判断です。偉いですよ真理子!」
「先生……そういう問題じゃありません……」
親バカデレデレな丸山先生に、さすがにオレはツッコんだ。
ちなみに丸山先生はオレの主治医であり、この父娘のやりとりはオレにとっては見慣れた日常茶飯事の展開だが、周囲は唖然と口を開け、真理子に至っては倒れそうなほど赤面している。
仕方がないのでオレは咳払いをし、そのまま二人のフォローに回ることにした。
「天谷先生。確かに貴女のおっしゃるよう、この花は附子の元になる大変危険なモノです」
「うわぁ。兄貴ブスノモトとか酷い。流石のオレもその言い方どん引くわぁ……」
物知らずの妹に、オレは無言で手元のペンを額にぶつけて黙らせた。ちなみに附子は小学校の国語の教科書に出てくるので、各自確認するように。絶対にAJIN●M●T●みたいに言うんじゃない!
ゴホンともう一度咳払いして、オレは天谷先生に続けた。
「一応、丸山も毒が撒き散らかされないように配慮もしているし、普通に切花で花瓶に飾られてる水仙やジギタリスやグロリオサもそこそこ猛毒なんで、今回は許してやってください」
渋い顔をしていた天谷先生をなんとかなだめ、トリカブトは丸山先生が回収することになり、この場は解散とあいなった。
「しっかし……なんでまたトリカブトなんか植えてたんです?」
丸山先生はにっこりと笑って答えた。
「妻の趣味でして、庭には薬になる植物が植えられているんです」
ああ、なるほど。と、オレはうなずく。
毒と同じ『附子』という字を書いて、『附子』と読むと、漢方の薬となるのだ。
「毒にも薬にもなる、植物……」
そういうことです。と、丸山先生はオレの頭を撫で、かつて彼が塞いだオレの頬の傷に、そっと触れた。
「もっとも、花は花の都合で毒を持っているわけで、毒の有無で有益無益を判断する事は、ただの人間の傲慢でしかないのですけれどね」
睡蓮学園中等部一年、丸山真理子は、どこからともなく持ってきたその花を、慕っている一年先輩である中等部二年、江藤葉月にプレゼントしたのだという。
貰った葉月は寮の自室に戻る時間がなかった故に、そのまま自分の教室の花瓶にその花を放り込むように生けたらしい。
そして、授業が始まり、たまたま入室した天谷の大きな悲鳴が、学校中に響き渡ることとなった。
──で、放課後。
現在生徒指導室にて、三者面談が絶賛開催されている。
集まったのは、当事者である丸山真理子と江藤葉月と理科教師の天谷春子。丸山の父である医師の丸山健一と、この学園の社会科教師兼葉月の兄であるオレ、江藤雷月。そして、二人の担任の横山由依と、東宝珠。
怒り心頭の理科教師に対して、既にこの女子生徒どものやる気は露骨に無い。
もっとも、この場にいる二人の担任も、オレの隣で微かに苦笑を浮かべていた。
「いい加減にしなさい! あなた達!」
とうとう理科教師の怒りが爆発した。
そもそも、何故ここまで彼女が怒り狂うことになったのかと言えば、件の花が『毒』であったからだ。
トリカブト。日本三代有毒植物の一つ。根も花も花粉ですら猛毒で、場合によっては即死もありうる、危険極まりない花──。
「だからさぁ、知らなかったんだって!」
葉月がげんなりとした顔で叫んだ。
我が妹ながら座学の成績は極めて悪く、残念ながら彼女の証言は本当だろう。
「別に体調悪くなったりしてないし、普通に見てる分は綺麗な花じゃん?」
飾ってなにが悪いのか……不貞腐れたように葉月がオレを見た。「こっちを見ても助けやれんぞ?」とオレも無言で目を細め、視線を返す。
「……あー、丸山。お前この花、どこから持ってきたんだ?」
見かねたのか葉月の担任、東宝珠がオレの代わりに助け舟を出した。
「ウチの庭です。母が育ててて、綺麗に咲いたので先輩にあげようと切ってきました」
ざわっと周囲がどよめき、一気に丸山先生に視線が向いた。
「あー、アレですか……確か去年ふた株ほど買って育ててましたねぇ。……ダメじゃないですか。その様子だと、お母さんに何も言わず、勝手に切っちゃってるでしょう?」
「いいじゃない。あれだけたくさん咲いてるんだから三本くらいもらっても……毒の花粉が散らばらないように、ちゃんと事前におしべの処理はしたし」
たしなめる丸山先生に対し、拗ねたように娘の真理子が小さくつぶやく。
そんな娘の様子に、ぱっと丸山先生は明るく微笑んだ。
「それは良い判断です。偉いですよ真理子!」
「先生……そういう問題じゃありません……」
親バカデレデレな丸山先生に、さすがにオレはツッコんだ。
ちなみに丸山先生はオレの主治医であり、この父娘のやりとりはオレにとっては見慣れた日常茶飯事の展開だが、周囲は唖然と口を開け、真理子に至っては倒れそうなほど赤面している。
仕方がないのでオレは咳払いをし、そのまま二人のフォローに回ることにした。
「天谷先生。確かに貴女のおっしゃるよう、この花は附子の元になる大変危険なモノです」
「うわぁ。兄貴ブスノモトとか酷い。流石のオレもその言い方どん引くわぁ……」
物知らずの妹に、オレは無言で手元のペンを額にぶつけて黙らせた。ちなみに附子は小学校の国語の教科書に出てくるので、各自確認するように。絶対にAJIN●M●T●みたいに言うんじゃない!
ゴホンともう一度咳払いして、オレは天谷先生に続けた。
「一応、丸山も毒が撒き散らかされないように配慮もしているし、普通に切花で花瓶に飾られてる水仙やジギタリスやグロリオサもそこそこ猛毒なんで、今回は許してやってください」
渋い顔をしていた天谷先生をなんとかなだめ、トリカブトは丸山先生が回収することになり、この場は解散とあいなった。
「しっかし……なんでまたトリカブトなんか植えてたんです?」
丸山先生はにっこりと笑って答えた。
「妻の趣味でして、庭には薬になる植物が植えられているんです」
ああ、なるほど。と、オレはうなずく。
毒と同じ『附子』という字を書いて、『附子』と読むと、漢方の薬となるのだ。
「毒にも薬にもなる、植物……」
そういうことです。と、丸山先生はオレの頭を撫で、かつて彼が塞いだオレの頬の傷に、そっと触れた。
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