私の瞳に映る彼。

美並ナナ

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《閑話》好きな女に男の影

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百合の様子がいつもと違う。

そう気づいたのは、俺、長谷太一が百合に告白をし損なった夜から程なくしてだった。


ある日の月曜日、出社した百合の雰囲気が全然違ったのだ。

もともと美人で男を惹きつける容姿を百合はしているが、それがパッと花が咲き誇ったかのように華やかな美しさが増しているのだ。

当然すれ違う男どもの視線は釘付けだ。

もちろん俺もその一人なわけだが、俺は他の男たちとは年季が違うと自負している。



俺と百合は大塚フードウェイに新卒で同じ年に入社した同期だ。

俺たちの出会いは新入社員研修の時だ。

グループワークで同じグループになり、一緒に課題に取り組んだ。

ちなみに響子も同じグループで、それ以来意気投合した俺たちはよく集まっている。

俺が百合を好きになったのはこの研修の時だ。

つまり会社へ入社した直後から好きで、かれこれ片想い歴は6年目となっている。

最初はその外見から単純にタイプだなと思ったのだが、課題に一緒に取り組むうちに、課題に真面目に真摯に取り組む姿勢に好感を持った。

相手を尊重し、細やかに気遣い、それがわざとらしくなく自然と馴染んでいたのにも惹かれた。

それに全くネガティブなことを口にするわけでないはずなのに、どこか陰があるような儚げな雰囲気がり、憂いを帯びた表情に目が離せなかった。


俺だってモテないわけではないし、これまで学生時代にはそれなりに恋愛経験もある。

俺は一度付き合うと長く続き、高校、大学とそれぞれの時に3年付き合った彼女がいる。

自分で言うのもなんだが、一度想うと他の女に目がいかず一途なのだ。


そんな俺が社会人になって一途に想っているのが百合なのだ。

百合は俺とは真逆で、男とはあまり長く続かない。

だいたい長くて1年くらいだが、途切れることなく男がいるのだ。

しかも百合は「別れた」「付き合い始めた」等をあまり自分から言わないので、タイムリーに現状を知ることができず、俺は彼氏のいない時期にアプローチが叶わずに仲の良い会社の同期というポジションに甘んじていた。

正直そのポジションも心地が良く、もし仮にアプローチして微妙な空気になって関係が壊れたらと思うと、なかなか脱するのが難しかったのもある。


そんな俺に6年目にして明確なチャンスが巡ってきたのだ。

百合が彼氏と別れたことをタイムリーに知り、確実に彼氏がいない状態に面したのだ。

だからこそ、2人きりになったタイミングで思い切って想いを告げようとしたわけだが‥‥それは失敗に終わってしまった。


その失敗に打ちのめされてると、この百合の変化が襲ってきたわけだ。

響子も「絶対百合に何かあったはず!」と俺と同じ見解を持っていたので、さっそく昼に百合を呼び出して探りを入れるも、「化粧品を変えたからかも」と言葉を濁して微笑まれた。

結局よく分からなかったのだが、その翌週になると、さらに美しさに磨きがかかっていた。

そのうえ、どことなく幸せなオーラを放っている。

響子からは「今朝百合に会ったら見たこともないブレスレットを大事そうにしていた!弟から貰ったって言ってたけど、絶対男だと思う!」という情報が入った。

俺でも分かる。

これは明らかに新しい男だ。

しかも今まで途切れずに付き合っていた男たちとは全く違うのだろう。

百合はいつも「本当に俺のこと好き?」と言って振られると言っていたが、俺が思うに百合はその男に本気じゃなかったのだろう。

だが、今回の男は百合が本気で好きになったのだろうと思った。

(これはもう俺の出る幕はないかもな‥‥)

告白に失敗した時、次のチャンスはなんとなくもう来ないのではと感じていたが、その直感は正しかったのかもしれない。



その週の平日、俺は響子と飲みに行った。

話題はもちろん百合についてだ。

「やっぱあれは絶対新しい彼氏がいると思うんだけどな~。でも何度聞いてもハッキリ言わないのよ~!今までは聞けば言ってくれたのに。太一くんはどう思う?」

「俺も百合には男ができたと思う。しかも今回は今までの男とは違って、百合も本気なんだろうなと感じるし」

「やっぱそう思うよね~。なら言えないような相手とか?不倫?」

「いや、百合に限って不倫はないだろう。そういうところは慎重だと思うけど」

「確かにそうだよね。なら秘密にしなきゃいけない相手とか?例えば亮祐常務とかだったりして?」

亮祐常務か‥‥。

なんとなく2人が横に並んだ姿を想像して、違和感ないなぁと感じる。

「亮祐常務と百合に接点があったとしたら社内報の件だけだし、百合が積極的にあの常務にアプローチしてる様子はないから、ないだろうけどね」

「そうだな」

本当にそうだろうか?

肯定の相槌を打ちながらも俺は微かに疑問を感じる。

百合と2人で飲んだ時、常務のことに対する百合の言動は少しいつもと違った気がするのは俺の気のせいだろうか。

「まだ本人から明確に言われたわけではないけど、私たちの勘だとほぼ確実に彼氏できたわけでしょ?ねぇ、太一くん。太一くんはどうするの?」

「‥‥そんなすぐには切り替えらんねぇよ。でも今回ばかりはもう次のチャンスはない気がしてる」

「この前もそう言ってたね。あの時はせっかくのチャンスを潰しちゃってごめんね」

「いや、まぁ最初は響子を恨んだけど、結果的に言わなくて良かったのかもなぁ。だってあのすぐ後にもう百合の変化が見られたんだからさ。言ってたら同期として一緒にいることもできなくなったかもしれないし」

「う~ん、百合に限って、太一くんから告白されて振ったとしても急に距離置くとかはしなさそうだけど。だから個人的には、玉砕覚悟でも太一くんの気持ちにキリがつくのなら今からでも言ってみても良いかもなって思うな~」

気持ちにキリをつけるためにか。

なんとなくだが、俺はそれを実行に移すことはないだろうと感じた。

6年の片想いだ。

もちろんそんなにすぐに切り替えて次に行くなんて器用なことは俺にはできない。

でも百合の幸せを祝えるくらいには、気持ちに整理をつける必要があるだろう。

(しばらくは仕事に打ち込むか‥‥!)

ーーそう仕事に逃げて、仕事に全力を注ぐ俺の営業成績はこの後ぐんぐんと伸び、会社に貢献していくことになるのだった。
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