初恋〜推しの弟を好きになったみたいです〜

美並ナナ

文字の大きさ
11 / 25

♯10

しおりを挟む
今季一番の冷え込みだと今朝ニュースで報じられていた2月半ばのある日。

私は朝から百合さんと会議室に籠って、ひたすらキャンペーン当選品の発送作業を行っていた。

当選者へ送るために、当選品をパッキングして、宛名書きをしているのだ。

本来この作業は外注しているのだが、手配ミスが発覚してスケジュールの関係上、自分達で手作業することになったのだ。

当選人数が1,500名と結構な人数なので、手作業となると、なかなか骨の折れる仕事だった。


「なんかこうやってひたすら手を動かしてると無心になれますね~!」

「本当だね。たまにはこういう仕事も息抜きになるしいいよね」

百合さんと私は手の動きは止めずに、作業をしながら雑談に興じる。

私にとってはたとえ骨の折れる仕事でも、推しと会議室に籠っての作業なので、なかなか贅沢な時間だった。

「あ、そうだ。そういえばちょうどこの前、蒼太から聞いたんだけど、由美ちゃんと蒼太って飲み友達になったんだってね。蒼太、由美ちゃんに迷惑かけてない?大丈夫?」

突然、百合さんの口から蒼太くんの名前が飛び出して少しびっくりした。

私と蒼太くんが一緒に飲むようになって数ヶ月経つが、今まで百合さんからそれについて何も触れられたことがなかったのだ。

私も百合さんに話していなかった。

どうやら蒼太くんも話題にしていなかったようで、最近になって百合さんは伝え聞いた様子だった。

「そうなんですよー!実はコラボの打合せの前に偶然会って。その時は百合さんの弟さんだとは知らなかったんですけどね。その後、なんか飲み友達になっちゃいました!全然迷惑とかはないですよー!百合さんの神々しさについて語り合ってます!!」

私はニッコリと笑って答えた。

百合さんは神々しさというワードに反応してか、どう返すべきか困ってちょっと曖昧な微笑みを浮かべている。

「蒼太くんの話を聞いてると、蒼太くんと百合さんって本当に仲良んだなって思いましたよ!」

「蒼太が変なこと話してなければいいけど。そうだ、せっかくだし、今度3人でゴハンでも行かない?ちょうど蒼太から近々お誘いがあったから、由美ちゃんもぜひ一緒に」

「え、いいんですか!?姉弟水入らずのゴハンなんじゃないんですか??」

「そんなことないよ。由美ちゃんが来てくれると楽しいと思うから私も嬉しいし」

そんなふうに推しに言っていただけたのなら、断るという選択肢は私にはない。

こうして、後日百合さんと蒼太くんと私という3人で食事に行くことになった。

3人での食事は、それからすぐ日程が決まり、翌週の金曜の夜になった。

お店は蒼太くんが予約してくれたらしい。

私と百合さんは仕事を終えると一緒に会社を出て直接お店へと向かった。

「今日のお店はパスタが美味しいらしいよ。蒼太が予約してくれるお店はいつもハズレがないから、由美ちゃんも期待していてね」

「はい!楽しみです!」

百合さんから向けられる麗しい微笑みに、私は元気よく答える。

お店は駅から近いオフィスビルの中に入っているところで、迷うことなく到着することができた。

オシャレな大人の男女が集いそうなお店で、いかにも女性が好みそうな雰囲気だった。

(こういうお店を知ってるのは、以前に女性と来たからなのかな?蒼太くんはモテるもんね)

ふとそんなことを思い、なんだか胸がぎゅっと締め付けられる。

こんな苦しい感覚は初めてで、私の身体がおかしくなってしまったのかと不安になった。

この前の美術館の時から、私の身体はなにかいつもと違って変なのだ。


お店の入り口で予約名を告げると、すぐに店員さんにテーブルへと案内される。

蒼太くんはすでに席に着いて私たちを待っていたようだった。

「姉ちゃん、由美ちゃん!お疲れ!」

「蒼太、早かったんだね。待たせちゃった?」

「いや、俺もさっき着いたとこだよ」

姉弟は、いつもの通りといった感じで会話を始める。

百合さんも蒼太くんも、コラボの打合せの時は私情は一切挟まずにビジネスライクに接しているので、こうしてフランクに話す2人を見るのは初めてだった。

「おふたりが姉弟の感じで話してるのを見るのが初めてなんで、すごく新鮮です!」

「確かに仕事の時は姉ちゃんが完全に割り切って取引先の人として接してくるから、俺もそれに合わせてるしね」

あれは蒼太くんが百合さんに合わせていたらしい。

姉思いの蒼太くんらしい発言だった。

「仕事なんだし当たり前でしょ?」

「百合さんは亮祐常務と仕事で接する時もそんな感じですもんね!私は公私混同しない百合さんすごく良いと思います!!」

そんなところも百合さんが素敵である所以なのだ。

私は尊敬の念を込めた眼差しで百合さんを見つめた。

「はいはい、由美ちゃんの話は長くなりそうだから、先に注文しない?これがおすすめらしいよ」

蒼太くんは私の推し賛辞が始まりそうなのを察して、手元のメニューを広げて話を切り替えた。

ちなみに、百合さんのことを崇めているのは隠してないしご本人にも堂々と伝えているが、「推し」と思っていることはご本人には秘密だ。

百合さんの性格からして困惑されそうだから、蒼太くんにも秘密にして欲しいと伝えてあった。

私たちは蒼太くんのおすすめに従って、店員さんに料理とお酒を注文すると、また会話に興じる。

「さっきは私と蒼太が姉弟として話してるのが新鮮って由美ちゃんは言ってたけど、由美ちゃんと蒼太が友達として話してるのも初めて見るから新鮮だね」

百合さんはさっきの話題を挙げつつ、私と蒼太くんを見比べるように交互に視線を向けた。

なんの邪推もない単純な興味が宿った眼差しだった。

「年も近いし、百合さんっていう共通の知り合いがいるから話しやすいんですよ~!」

「本当に姉ちゃんの話ばっかりだよ」

「ちょっと、蒼太、変なこと由美ちゃんに話してないよね?」

「変なことって?例えば?」

「‥‥‥もう!」

蒼太くんはニヤニヤとした笑みを浮かべ、百合さんをからかっている。

それに対して百合さんは言葉に窮して、不満を訴えるように蒼太くんを軽く睨んでいる。

(なにこれ!こんな2人見たことない!ジャレてるみたい!!可愛いっ!!)

2人の意外なやりとりに私は大興奮だ。

「ごめん、ごめん。別に変なことなんて言ってないよ。ね、由美ちゃん?」

「もちろんですよー!百合さんの素敵さを語り合ってるだけですから!」

「‥‥それならいいけど」

百合さんを見る蒼太くんの眼差しが本当に優しくて、お姉さんを大切にしていることがその視線だけでとても伝わってくる。

食事をしている最中も、飲み物がなくなりそうだったら声をかけたり、寒そうだったら自分の上着を貸したり、蒼太くんは百合さんの様子を見て察して世話を焼いていた。

(こういうところを見たら、そりゃ彼女はシスコンって思うだろうな~)

過去に彼女を百合さんと会わせたことがあると話していたことを思い出した。

彼女に百合さんと会ってもらえば安心するのでは?と私が聞いた時にそう言っていたのだ。

確かあの時も会ってもらって以降、余計に話題にすると嫌がられると言ってたけど、実際に2人を見てその理由が何か分かった気がする。

なのに、不思議なのはそんな彼女たちの反応とは相反あいはんして、私はなぜか胸がキュンとしているのだ。

こんなに姉を大切にしている姉思いなところが素敵だなと感じてしまっている。

(え、私今、蒼太くんのこと素敵だと思った!?あの優しい眼差しにキュンときてる!?うそでしょーー!?)

一体全体、私は本当にどうしてしまったのだ。

胸が苦しくなったり、キュンとしたり、ドキドキしたり、ここ最近ものすごく心臓が忙しい。

ーーその人のことを考えるとドキドキしたり、胸がギューってしたり、一緒にいると嬉しかったり、キュンとしたりしない?

そこでふと年始に利々香に言われたことを思い出す。

あの時、利々香は恋をするとどうなるかを語っていた。

しかし、この言葉はまるで予言のようではないだろうか。

なぜなら今の私の状態にぴったりなのだ。

(え、え、え、えええーーー!!つまり、これが恋ってことなの!?うそでしょ!?)

私の頭の中は突然のことに大パニックだ。

しかも恋してるかもしれない相手と、その姉であり私の推しが目の前にいるのだ。

こんなに私が取り乱してるなんて決してバレるわけにはいかない。

私は人知れずそっと息を吐くと、平常心を保つために気合を入れ直した。

そんな私の状態なんて想像もしていないであろう百合さんは、かわらずニコニコ微笑みながら私と蒼太くんに話を振ってくる。


「2人の年齢は1コ違いだっけ?そういえば、もうすぐ蒼太の誕生日だよね」

「あ、そっか。確かにそうだね」

どうやら蒼太くんは3月生まれのようだ。

そこで百合さんは私の誕生日についても思い出したようだ。

「あれ?確か3月って由美ちゃんも誕生日じゃなかったっけ?」

「そ、そうです!覚えていてくださったなんて嬉しいですー!!」

「由美ちゃんも3月なの?ちなみに3月の何日?」

「に、21日だよー!」

平常心を保っている私だけど、やっぱり若干声が上擦ってしまっていた。

私から誕生日の日付を聞いた蒼太くんは、びっくりしたように目を丸くしている。

「マジで!?俺も21日なんだけど!まさか誕生日が一緒なんて驚きだなぁ」

「すごい偶然だね。せっかくなんだから2人でお祝いすればどう?蒼太、彼女いないんでしょ?」

「それいいね。由美ちゃん予定なかったら一緒にケーキでも食べようよ。もちろんお酒も」

「い、いいアイディアだねー!」

なんと誕生日が同じ日だったことが発覚し、百合さんの口添えもあって、怒涛の速さで誕生日を一緒に祝うことが決まってしまった。

私の心臓はこれでもか!というくらいバクバクと脈打ち始める。

(こんな状態で、私は誕生日に蒼太くんと2人で心臓は持つんだろうか‥‥??)

そんな心配が私の頭をよぎったのだったーー。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

清楚な執事長、常駐位置が“お嬢様の隣”に確定しました

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話・後日談12話⭐︎ 清楚で完璧、屋敷の秩序そのもの——そんな執事長ユリウスの“常駐位置”が、なぜか私の隣に確定しました。 膝掛けは標準装備、角砂糖は二つ、そして「隣にいます」が口癖に。 さらに恐ろしいことに、私が小声で“要求”すると、清楚な笑顔で「承知しました」と甘く返事をしてくるのです。 社交は上品に、恋心は必死に隠したい。 なのに執事長は、恋を“業務改善”みたいに制度化して逃がしてくれない——! むっつり令嬢の乙女心臓が限界を迎える、甘々コメディ恋愛譚。 清楚な顔の執事長が、あなたの心臓まで囲い込みにきます。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。

木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。 時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。 「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」 「ほう?」 これは、ルリアと義理の家族の物語。 ※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。 ※同じ話を別視点でしている場合があります。

処理中です...