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第103幕 とある女性記者の話 その3

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「お兄ちゃん肩車して!」

「ん?おお、いいけど」

慶次お兄ちゃんに肩車をしてもらうと2mを超える高さになり横切る人達みんなが私を見上げるのでちょっと優越感が湧いてくる。

「ちょっと勇馬!なんでついてくるの!せっかく慶次君とのデートなのに!」

隣を歩く姉が露骨に帰れオーラをだしているけど関係ないし。

「いいじゃねーか。1日くらい」

「もー!慶次君!勇馬に甘過ぎだよ!」

慶次お兄ちゃんと出会って1年たった。
最初の頃は出会うたびにビクッとなって怯えていたが今ではお兄ちゃんと呼んでいる仲だ。

「そー、そー」

「買い物くらいだから良いだろ」

「もー、仕方ないなあ。けどいい加減降りなさい」

「はーい」

私がお兄ちゃんの肩から降りると腕に抱きついた。
最近では3人で出かけることが多くなった。というか私が無理矢理ついていっているんだけど。姉はめちゃくちゃ嫌がっているがお兄ちゃんは大概のことは笑って許してくれる。

「ところで慶次君あのね・・・?慶次君?」

「・・・・・」

「ああ、入っちゃったか」

「みたいだね」

私と姉はお兄ちゃんの前を歩き出した。

「・・・・・・・・」

「いつ見ても器用というかなんていうか」

「だよねー」

お兄ちゃんの癖というか何て言えばいいのか、まるで夢遊病のような感じに意識が飛ぶときがある。
話しかけても返事はなくその目は遠くを見ているのか、いや、まるで違う次元を見ているか遠い未来を見ているような目をしている。
それにお兄ちゃんはこの目立つ見た目なのに、この時は存在感が薄くなっていく。そのまま消えていってしまうのではと思うほどに。
明確な障害物がない限りそのまま歩き続ける。
幸いにもお兄ちゃんの見た目を怖がって前から来た人は避けていってくれるからトラブルは今までなかったけど。

「ん?あれ、ここ、どこだ」

それから10分以上歩き続け、意識が帰って来た。

「大丈夫だよ。それよりさ・・・・」

姉は何度か心配になって病院に行った方が勧めたが『考え事をしていただけ』と言って断られてたけど。
最近出会った頃よりその頻度が多くなってきている。

「私達中学2年生だしさ、その・・・慶次君はどこの高校いくの?」

「突然なんだよ。ああ、そういえばこの前の進路志望を学校で聞かれたっけ?勘弁して欲しいぜ。まだ2年の春なのに」

「だったら・・・」

「けど・・・・やってみたいことはあるかな?」

「やりたい事とやってみたい事って同じことじゃない?お兄ちゃん?」

「ん?全然ちがうさ・・・全然な・・・」

来年か・・・お兄ちゃんと姉は来年中学3年生。私も来年はお兄ちゃん達と同じ中学校に行くけど1年しか一緒の学校に通えないのかあ。

「私もやりたい事がまだ見つからなくてさ。私の家の近くの高校あるじゃない?私はそこに行こうと思ってるんだけど・・・」

姉がアピールしてる!一緒の高校行きたいオーラがダダ漏れだよお姉ちゃん!

「・・・そうだな。俺もそこに行こうかな?」

パアッ!!

姉よ!顔、顔!すっごいゆるゆるだよ!満面の笑みが!

こんな楽しい毎日がこれからも続くと思っていた。

けど、それから1年たった時、姉が中学3年生に私が中学校入学したときお兄ちゃんは学校に来ませんでした。
最後に会ったのはクリスマスだったかな?それ以来お兄ちゃんとは連絡が全く取れない状態が続いた。
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