上 下
90 / 104
第七章 天使との関わり

第八十二話 神々の物語3

しおりを挟む
今度は、アリスが…いや、嘘だろ?

「…10歳ーーーくらい?」
『はい。この時、アリス様は3歳でーーー』
「いや、待て。今アリスって5歳ぐらいだったよな?何でこんな大きくなって…」
『…ここからですよ。神々の物語は』

じっと映像を見据える。
アリスは、人間達の世界を覗いていた。

「…ねえしゅーちゃん。人間が何か言っているわ。何かしら…?」

覗き込むのは水たまり。
水たまりの中にはたくさんの人間達が喚いていた。

「…人間達の、戦争の様子ですね」
「戦争って…何?」
「戦争とは、人間同士殺しあい、憎み、剣を取る。他国の意見がすれ違った際に起こるもめ事です。ほら…また一人」
「ぐああああああっ!!」

取得が指を差す先には、一人の兵士が悲鳴を上げ、倒れる姿が映されていた。

「ーー!ゲホッうえっ…」
「アリス様!」

飛び散った血に気分を悪くしたアリスが咳き込んだ。
すかさず取得が駆け寄り背中をさする。

「…ありがとう。落ち着いたわ」
「どうか無理をなさらずに」
「いえ…いいの。これは、お母様の…創造神の補佐である私の仕事なのよ」

グイッと口もとを拭うアリス。
と、

「アリス!調子はどう?」
「!!お母様っ…」

ふわりと飛んできたのはリリーシュだった。
優しげに、口を開く。

「アリス…無理しちゃだめよ。私が創造神の仕事はやるから」
「いいえ!これはお母様の娘の…私の役目なのです!役目を果たさねば娘と名乗れる資格などっ…」
「いいの。もう、休んで」

ギュッとリリーシュはアリスを抱きしめた。
疲労が重なっていたのか、アリスは深い眠りへと落ちていった…

「…取得」
「はっ」
「アリスを神木の近くへ連れて行って。ここ数日で、大分神気が弱まってる」
「承知しました」

取得は、アリスを抱きかかえて歩き出した。
…取得が去った後、ギリと恨めしそうに親指の爪をリリーシュは噛んだ。

「おのれーーー人神め!!」

ブツンッと勢い良く映像は途切れてしまった。

「…人神って………」
『ご存知ありませんか。人神とは、人間を「造ってしまった」神の事ですよ』
「造ってしまった…?」
『ええ。いずれ神達を大いに悩ませる…いえ、怒らせる行動に出てしまったのですから』
「え?」
『ほら、見えてきましたよ』

また、新たな映像が浮かび出た。
今度は…少女が、青ざめて突っ立っている姿だ。

「そんな!!お慈悲を!!」
「いいえ。異論は一切認めません。あなたを…天界から永久追放します」

そのような言葉を言い捨てる者。
それは…リリーシュだった。
少女は涙目になりながら尚訴え続ける。

「もっ申し訳ございませんっ!!人間があれほど愚かに育つなんて思ってなかったんです!!ですからっ」
「お黙りなさい」

ピタリと少女の言葉が止まった。
その冷酷な表情にーーー慈悲という言葉はありはしない。

「…分かりました」

くるりと少女が背を向け、歩き出す。
向かう先には、暗黒に染まる門があった。

「…ですが!人間はいずれ悔い改めるはずです!いずれ…!」
「罪を償うと良い。自身の愛し造り上げた木偶人形と共に…人神、アンナよ」

その暗闇に吸い込まれ…人神、アンナは消えていった。
しおりを挟む

処理中です...