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第七章 天使との関わり

第九十三話 シルフィの久々の登場?

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「……私には、お姉ちゃんがいたんですか」

ナナカが唇を噛み締めて、うつむいた。
……かける言葉が見つからない。
ぐぬぬ、俺のボキャブラリーの少なさが憎い……なんて、呑気なこと言ってる場合じゃないか。
アギト様がナナカを気遣うように、その碧眼でナナカを優しげに見つめながら言った。

「受け止めるのはまだできないだろうが、ゆっくりとその事実を呑み込んでほしい。ナナカ、お前の姉であるディリーとも、話し合わねば」
『はいは~い、ちょっとちゅうも~く』
「!?」

シュルン、と風が俺達の頬を撫でた。
その緊張感のない声の主を探してみれば、すぐに見つかった。
黄緑色のフワフワの髪。
パチクリとした大きい瞳。

「シルフィ?」
『久しぶり~。みんなのアイドルシルフィちゃんだよ~』
『ちょっと!アイドルは私よっ!』

耳に響くキンキン声で姿を現したのは、真っ赤な炎を纏った妖精、サリィだった。
シルフィはサリィを見ると、愉快げにクスリと笑った。

『相変わらず、あんたは乗せられやすいわよね~。いっつもこのセリフで来るんだから』
『さっきの言葉、取り消しなさい!私がアイドルよ!』
「はいはい、二人共可愛いよ」

俺は思わず、くだらない言い合いをする二人の間に割って入った。
サリィがキッと鋭い目つきで俺を睨む。

『せーいがこもってないわ!せーいが!』
「誠意ね」
『はいはい、傷ついた主を慰めるのも私の役目だわ~』

シルフィはその小さな体で、チョコンとうなだれているナナカの肩に座る。
ナナカはシルフィに気がついたようで、重い頭を上げた。

「シルフィ……」
『元気出して、ナナカ様。お姉ちゃんがいたってことは、家族が増えたってことよ?いいことじゃない』
「でも……私……」
『何かあるなら、私に何でも言って』

ウウム、シルフィ大人だなぁ。
それに比べて……
俺はチラリとサリィを横目で見る。
サリィは生意気にフン、と鼻を鳴らして俺を見つめ返した。

『何か文句でも!?』
「ないよ。ないから、怒るな」

俺達に構わず、ナナカはポツリポツリと言葉を発していく。

「私ね……怖いの」
『何が?』
「お姉ちゃんが。見知らぬ人が急にお姉ちゃんって知って……パニックになってるんだと思う。私の家族は、今までアギトおじい様だけだったから」
「ナナカ……」

アギト様が、何か言いたげにその青の瞳を細める。

「お姉ちゃんは……私のこと、嫌いじゃないかしら?」
『嫌いだなんて』
「だって、姉のことを忘れて私は生きてきたのよ?きっと、私のことが嫌いなハズだわ」
『そんなこと、あるわけないじゃない。嫌いなら赤の他人のふりをするでしょ』
「シルフィ」

シルフィはハァ、と息を吐いた。

『私はナナカ様にずっとついてきた。ナナカ様のそばにいて、いつも見守ってた。だからこそ、あなたの近くにいる人が悪意を抱いているかいないか、分かってるつもりだわ』
「……」
『あの女性は、あなたに対して敵意を抱いていなかった。あの場の感情は、戸惑い、喜び、慈しみ。まさしく、あなたが生きていたことを心から喜んでいたのよ』
「……そう、なの」

ナナカは、静かにシルフィの言葉を聞いていた。
気持ちの整理がついたのかな?

「私、お姉ちゃんに会いに行くわ」
『そうよ、その調子』
「じゃあっ!」

早速、ナナカとシルフィは外へ駆け出していってしまった。
リューリャさんが、俺を困った顔で見つめる。
……しょうがないな。

「よし、行くぞサリィ!」
『えっ!?わ、私達も!?』
「みんなのアイドルなんだろ?アイドルはみんなを笑顔にするものだ」
『クッ……ええ!つきあってあげるわよ!』

サリィと一緒に、俺はナナカ達の後を追った。


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