追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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超大規模依頼編

第三十話 悪夢からの目覚め

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一人残されたラフテルは、大悪魔との戦闘を続行していた。
大悪魔の鋭い一撃が体を貫く。
痺れるような痛みが突き抜けた。

「ぐぅっ……」
「よく保つな、人間。だが、これで終わりだ」

大悪魔が闇色の球体を宙に飛ばす。
先程ラフテルはあれを食らった。
人体が食い潰されるような痛みを伴う魔法であった。
逃げようにも、左足を失ったため動けない。

「いや、死んでたまるか……!」

剣を握りなおす。
右手は遠くに飛ばされたまま戻ってこない。
人体の欠損が激しい。
だがラフテルは諦めなかった。

「剣よ、我が一族に力を……!」

ぎゅば、と風が捻れる音がして、剣に纏わりつく。
先祖代々守ってもらった剣だ。
今はこいつを信じよう。

「はぁあっ!」

ラフテルは飛んで、球体を叩き切った。
そのままバランスを崩して地面に倒れ込む。

「くっ」
「這いずるな、人間」

大悪魔が向かってくる。
どうするべきか、どうすれば生き残れるか、ラフテルは必死に頭を回す。
大悪魔が眼前に迫った瞬間、横からハウンドの叫び声が飛んできた。

「大丈夫ですか、ラフテル君!」
「ハウンド……」
「っ、酷い怪我だ。すみません、遅れました」
「いい。気にするな」

大悪魔が怯んだ隙に、ハウンドはラフテルを抱え込んで飛び退く。
腕と足を失った分の軽さに、ハウンドは悔しげな顔をした。
大悪魔が目を血走らせて追ってくる。

「貴様ぁあ……!」
「アイスロック!!」

大悪魔をレンカの魔法が凍りづかせる。
それを見たラフテルの表情に安堵が滲んだ。

「レンカ……よかった、起きたんだな」
「あんたっ、その傷」
「すまない。大悪魔が予想以上に強くてな」

そうこうしている内に大悪魔が氷を叩き割り、すぐさま向かってくる。
レンカとハウンドが何とか反撃するも、大きな倦怠感が体を襲う。

「は……!? 何かこいつ、急に強くなってない!?」
「僕の声も、対象以外に影響しないくらいには弱まってるみたいです」
「弱まってるって!?」
「レンカさん。もしかして僕達、あの悪夢を見せられている間に、力を吸い取られたんではないですか」

ハウンドの答えは実に納得のいくものであった。
いつものように力が出ないだけではなく、大悪魔が突然強化された。
つまりそういうことだろう。
大悪魔はレンカ達を見下ろし、愉快げに笑った。

「察しがいいな! 人間! そうだ、貴様らの力を奪い取ったのさ!」
「クソ野郎……」
「ああ~やっぱり! もう勝つの無理じゃないですかね! 逃げません!?」
「うるっさいバカ!!」

ハウンドの弱音にレンカが喝を入れる。
しかしこうぐだぐだしていれば、ラフテルが保たない。

「でも本当にどうしましょうね……!」

その時、大きな岩の塊が凄まじいスピードで大悪魔に飛んできた。
大悪魔はすぐにそれを察知して、受け止めようとする。
だが岩のあまりの勢いに押し負け、そのまま地面に突っ込んでいった。

「……あいつね」
「お前ら、無事か!?」

ヨークがこちらに走ってきた。
ガディとエルルも一緒だ。
恐らく岩はヨークが投げたのだろう。

「ヨーク何とかして!」
「言われなくとも……って、ラフテルの坊主、ひでぇ怪我だな」
「痛い……」
「だろうな」

そこでアレクとアリスもその場に合流した。

「ラフテル!」
「アレク……」
「すぐ治すから、じっとしてて!」

アレクはラフテルの前に立つと、息を大きく吸って最大限の呪文を唱えた。

「ハイパーエクストラヒール!」

ぱっと眩い光がラフテルを照らすが、ラフテルには何の変化も見られない。

「何で……!」
「……俺の、体質だ。効かない」

そこでアレクはアインバイル家の体質を思い出した。
自分に影響する魔法を全て打ち消してしまう体質だ。

「じゃあ、これなら……!」

いつも懐に入れてある、予備のカプセル。
アレクが委員会で開発した、自身の魔力が詰まった薬だ。

「これ飲んで!」
「は、何これ……痛み止めか?」
「いーから!」
「むぐ」

カプセルを口に突っ込まされ、もごもごと口を動かすも、ラフテルは素直にそれを呑み込んだ。
その瞬間体の内側から発光し、暖かい光に満たされる。
気がつけばラフテルの傷は全快していた。
ラフテルはまさか欠損部位が戻ってくるとは思っていなかったため、驚きで目を丸くした。

「え、どうなって」
「よかった。でも、あんまり無茶しないで。出ていった血までは戻せないから、このままじゃ出血多量で死んじゃうよ」
「ああ、気をつける……お前、本当にどうやったんだ」
「特別性の薬なの」
「そうか」

そこで瓦礫に埋もれていた大悪魔が戻り、大きく飛翔する。
アリスの存在に気がついた大悪魔が目を見開いた。

「アリス……! なぜそこに」
「私のツノ返して! みんな、苦しんでる!」
「ほざけ! 我はこれを使って、地上を支配するのだ!」
「そんなのできっこないよ! みんな、あれだけ嫌がってるのに……!」
「意志を曲げて操れることこそ、貴様のツノの特権であろう」
「っ!」

アリスが手の中にある己のツノを強く握りしめる。
これだけは奪われるつもりはない。

「あれが、アリスのツノを取った悪魔……」
「アレク、そいつ誰だ」

アレクが連れてきたアリスは一見ただの少女に見えるため、ガディは訝しげな顔をする。
しかし事情を説明している暇などない。

「後で話すから、ひとまずあいつを倒そう」
「……そうだな」
「お兄さん」

アリスがアレクの腕を引っ張った。
振り向くと、アリスは泣き出しそうな顔をしている。

「お兄さん、ツノ……お願いしていい?」
「わかった!」

アレクは頷き、大悪魔のほうへ向き直った。
ヨークが一歩前に出ると、拳を地面に叩きつける。
そこから先の地面が割れ、岩が大悪魔の前まで橋のように伸びる。

「先行くぞ!」

ヨークがその岩を足場に大悪魔に向かって駆け上がった。
ヨークが振り翳した拳を、大悪魔がすかさず凍らせる。
構わずヨークはそのまま拳を振り下ろした。
大悪魔が殴られ、またしても地面に叩きつけられる。

「もしかして、私の魔法まで吸収したのかしら……」

嫌そうな顔をしてレンカはそう呟いた。

「人間風情がっ」

起きあがろうとする大悪魔を、問答無用でヨークが叩き伏せる。
息をつく暇もないままそのまま殴り続けれいれば、いつの間にか背後に移動していた大悪魔が大きく叫んだ。

「ーーー!!」

キィン、と脳を揺さぶられるようなダメージが入る。
ヨークの耳から血が噴き出した。

「なるほどな。ハウンドに攻撃される魔物は、いつもこういう気分だったわけだ」
「すみません……」

ハウンドが何だか申し訳なくなって謝罪する。

「兄様、姉様、ちょっとあの悪魔拘束してくれないかな」
「いいけど、何か考えてるの?」
「うん」
「わかった。じゃあ任せろ」

エルルが短剣を構えると、ガディも水魔法で剣を作り出す。
ガディの魔法にエルルは疑問を抱く。

「いつもの短剣どうしたの」
「壊れた」
「……本当に」
「ああ」
「そう。じゃあ、作り直さなきゃね」

その一言を皮切りに、二人が駆け出す。
大悪魔が手を一振りすれば、魔物の群勢が二人の前に現れた。

「いい加減ネタ切れなのよっ!」
「そうですねっ」

レンカとハウンドが出て、魔物達を一掃する。
ガディとエルルは構うことなく突進した。

「双子共! 乗れ!」

ヨークの声に従い、互いにヨークの拳を足場にする。

「飛ばすぞっ! 舌噛むなよ!」

ヨークの拳が振るわれ、二人は空高く舞った。
大悪魔が苦し紛れに氷の魔法を発動して二人を凍らせようとするも、エルルが炎魔法を繰り出してそれを防ぐ。

「大人しく斬られろよ、悪魔」
「ぐぉおっ……!」

大悪魔が回避しようと体制を崩す。
しかし二人の特筆すべき点はスピードだ。
大悪魔が逃げるより、二人の剣が届く方が早かった。
剣を大悪魔に叩きつけ、二人はそのまま地面へと大悪魔を放る。

「「アレク!」」
「うん!」

アレクが準備していた魔法を繰り出した。
巨大な光が、レーザーのようになって大悪魔に襲いかかる。
光魔法は基本、補助のような形でしか使われない。
直接的な攻撃力はなく、暗いところを照らす程度の力しかないからだ。
アレクがここで光魔法を採用したのは、ガディと倒した魔物に光魔法が効いたからだ。
あの魔物が大悪魔に操られていたのだとすれば、大悪魔の弱点は共通して光魔法だと考えるのが妥当だろう。

「ギャアアアアアアアアアッ!!」

読み通り、大悪魔の体が光の中焼き尽くされる。
天高く断末魔が響き渡り、ハウンドの力を取り込んでいるせいで、凄まじい負担が耳にかかる。
アレクの光魔法が放ち終える頃には、大悪魔の影はもう見えなくなっていた。

「……がぁあ!」
「!」

消し飛んだかに思われた大悪魔が、アレクに向かって飛び掛かってきた。
耳のダメージが大きく、アレクの反応が遅れる。
大悪魔の爪がアレクを引き裂こうとした瞬間、ラフテルが横から大悪魔を斬り捨てた。

「ああぁぁ……」
「残念だったな、俺が動けて」

今度こそ大悪魔は消滅し、空へと溶けていった。



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