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アルスフォード編
第七十七話 ナルン・オーガイ
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ティファンが去ったその後、ガディとエルルが帰還した。
この詳細を聞き、自分達のほうにも、マルとミヤがやってきたことを話す。
ポルカは、双子に魔石爺達の様子を聞いた。
「どうだったかのぅ、魔石爺とリリカは」
「別に……」
「元気そうだったけど」
「ほっほ。それはよかった」
「あのな。今、それどころじゃ……」
「焦るでない、若者よ」
ガディの言葉を、ぴしゃりとポルカは遮る。
そしてポルカは、二人に向かって手を差し出した。
「魔石を」
「あ、ああ」
言われるがまま魔石を差し出せば、ポルカは感嘆のため息を漏らす。
「凄まじいのう、相変わらず……腕が衰えていないようで、安心したのじゃ」
ポルカは魔石をポケットに仕舞い込むと、双子に向かって言った。
「安心せい。これでアチキが、最高の短剣を作ってやろう。そしてその間に、ティファンの動向を追うがいい」
「その間にって」
「そこのナオなら、手がかりを知っておるはずじゃ」
「!」
突然指名されたナオが、驚いた様子でポルカを見返す。
ポルカは何もかもを悟ったような瞳をしていた。
「ど、どういうことですか」
「お前さん、ガブリエルと繋がりがあるじゃろう? 姉妹なのだから」
「ガブリエルって!」
ガブリエル、という名前に、アレクが食いつく。
確か、ティファンの言っていた名前だ。
『僕のことが気になるなら、ガブリエルを探してみな。彼女ならヒントを与えてくれるだろう』
「ナオさん! ガブリエルとっ、姉妹って!」
「おい、アレク落ち着け」
焦るアレクに、ラフテルがストップをかける。
ラフテル自身も困惑しているようだった。
「おい、ナオ。そのガブリエルってのはなんだ」
「ええと……その」
「ナルン・オーガイ」
「!」
「お前さんは、その名前で呼んだほうがいいかの」
「……完敗です。あなたには逆らえませんね」
ポルカに名前を言い当てられ、観念したようにナオは笑った。
そしてナオは、ラフテルへと向き直る。
「ご主人様。私は、ご主人様が生まれてから、ずっとあなたのお守り人形として行動しておりました。私はあなたのためにあつらえられた人形……それは間違っておりません。しかし、私の核は違います」
「核……魔石か?」
「はい。私の核は、およそ二百年前のもの。初代の私は、二百年前に生まれました」
「初代ってーーどういうことだ」
ラフテルがナオの肩を掴む。
ずっと自分の半身として、行動してきたナオ。
ラフテルの知らないことが、暴かれようとしている。
「皆様、聞いてくれますか? 私、ナルン・オーガイの生い立ちを」
そしてナオは、自身とガブリエルのことを語り出した。
◆ ◆ ◆
「よーし! 作動!」
初めて聞いたのは、女性の声だった。
身体中にエネルギーが回る感覚と共に、目を開ける。
視界に入ったのは、オレンジ色の癖っ毛をした女性だった。
「成功! 成功だわこれ! やっぱ私って天才……?」
「あ、あの。あなたは」
「ん?」
一人で舞い上がっているところで、くるりと振り返る。
大層機嫌が良いらしい。
女性はこちらの手を握り、笑った。
「お誕生日おめでとう! 私はお前を生み出した科学者、ガーベラ・アインバイル! お前はナルン・オーガイ! 研究室を守護する人形だ!」
「ナルン・オーガイ……」
「守護者って意味だな。お前のことはゴーレムの研究と魔石の研究を尽くして生み出したけど、成功して本当によかった! ナルン・オーガイだと長いから……ナオ! 今日からよろしく! ナオ!」
「はい。よろしくお願いします、お母様」
ガーベラのことを母と呼べば、キョトンとした顔をされる。
呼びかたを間違えただろうか。
「お母様……お母様ね。なるほどいい響き!」
しかし、それは違ったらしい。
ガーベラはより一層上機嫌になると、くるくると回り出した。
「そっかー、私も母と呼ばれるようになっちゃったかー」
「……?」
そう言った時だけ、彼女は寂しそうに見えた。
この日から、ナオの人生は始まった。
ガーベラは常に研究室に篭り、何かを熱心に作り続けていた。
そんなガーベラの世話をし、時には侵入してくる魔物を蹴散らすのが、ナオに与えられた役目であった。
「ナオー! これ見て! やばいのできちゃった!」
「こっち持ってこないでください! 何ですか、その謎の生命体!」
彼女の実験は時に失敗さえすれど、着実に進歩していた。
ガーベラの実験は世界中に広がり、彼女には英雄という地位が与えられた。
しかし、英雄としての襲名式に、彼女は参加することがなかった。
「お母様、いいんですか? 襲名式をサボって」
「ん? ああ、いいんだよ。あーんな胸糞悪いパーティ誰が行くか。英雄呼びを受け入れたのだって、研究費がもらえるからだし」
なぜか彼女は、自身の出身国を毛嫌いしているようだった。
しかし嫌いはすれど、この地からは離れない。
ナオには母がわからなかった。
ある日、ガーベラがナオを呼びつけた。
「……何ですか? これ」
「お前の妹!」
「妹……にしては、大きくないですか?」
「綺麗だろ」
「綺麗と言われればそうですけど」
そこには、自分と同じお守り人形が鎮座していた。
女性体のようだが、どう見ても大きすぎる。
しかし、ナオから見ても文句の一つも出ないくらいに、その人形は美しかった。
「……ナオ。お前の核はな、古龍の魔石なんだ」
「古龍」
「そ。子供のだけどな。だけど、妹に使う魔石はそれとは一味違う」
ガーベラが、宝箱の中から何かを取り出す。
それは水晶のような魔力の結晶体だった。
「何ですか? それ」
「……私の友達の核。国に獲られる前に、回収した。あの子が殺された現場を一番に見つけたのは、私だった」
愛おしいものを触るように、水晶を撫でる。
その目は慈愛に満ちていた。
「これは天族の核。これを国に獲られれば、人類はより発展したことだろう。だけど、それは私が許さない。この子をこれ以上弄ばれてたまるか。だから私は、この核を埋め込む人形を作った」
眠り続ける『妹』の、胸元の空洞。
そこに水晶が吸い込まれていった。
「私の未練を……エルミアへの想いを断ち切って欲しい。そして、ティファンの力になっておくれ」
そう囁いた母は、恐ろしいほどに静かだった。
この詳細を聞き、自分達のほうにも、マルとミヤがやってきたことを話す。
ポルカは、双子に魔石爺達の様子を聞いた。
「どうだったかのぅ、魔石爺とリリカは」
「別に……」
「元気そうだったけど」
「ほっほ。それはよかった」
「あのな。今、それどころじゃ……」
「焦るでない、若者よ」
ガディの言葉を、ぴしゃりとポルカは遮る。
そしてポルカは、二人に向かって手を差し出した。
「魔石を」
「あ、ああ」
言われるがまま魔石を差し出せば、ポルカは感嘆のため息を漏らす。
「凄まじいのう、相変わらず……腕が衰えていないようで、安心したのじゃ」
ポルカは魔石をポケットに仕舞い込むと、双子に向かって言った。
「安心せい。これでアチキが、最高の短剣を作ってやろう。そしてその間に、ティファンの動向を追うがいい」
「その間にって」
「そこのナオなら、手がかりを知っておるはずじゃ」
「!」
突然指名されたナオが、驚いた様子でポルカを見返す。
ポルカは何もかもを悟ったような瞳をしていた。
「ど、どういうことですか」
「お前さん、ガブリエルと繋がりがあるじゃろう? 姉妹なのだから」
「ガブリエルって!」
ガブリエル、という名前に、アレクが食いつく。
確か、ティファンの言っていた名前だ。
『僕のことが気になるなら、ガブリエルを探してみな。彼女ならヒントを与えてくれるだろう』
「ナオさん! ガブリエルとっ、姉妹って!」
「おい、アレク落ち着け」
焦るアレクに、ラフテルがストップをかける。
ラフテル自身も困惑しているようだった。
「おい、ナオ。そのガブリエルってのはなんだ」
「ええと……その」
「ナルン・オーガイ」
「!」
「お前さんは、その名前で呼んだほうがいいかの」
「……完敗です。あなたには逆らえませんね」
ポルカに名前を言い当てられ、観念したようにナオは笑った。
そしてナオは、ラフテルへと向き直る。
「ご主人様。私は、ご主人様が生まれてから、ずっとあなたのお守り人形として行動しておりました。私はあなたのためにあつらえられた人形……それは間違っておりません。しかし、私の核は違います」
「核……魔石か?」
「はい。私の核は、およそ二百年前のもの。初代の私は、二百年前に生まれました」
「初代ってーーどういうことだ」
ラフテルがナオの肩を掴む。
ずっと自分の半身として、行動してきたナオ。
ラフテルの知らないことが、暴かれようとしている。
「皆様、聞いてくれますか? 私、ナルン・オーガイの生い立ちを」
そしてナオは、自身とガブリエルのことを語り出した。
◆ ◆ ◆
「よーし! 作動!」
初めて聞いたのは、女性の声だった。
身体中にエネルギーが回る感覚と共に、目を開ける。
視界に入ったのは、オレンジ色の癖っ毛をした女性だった。
「成功! 成功だわこれ! やっぱ私って天才……?」
「あ、あの。あなたは」
「ん?」
一人で舞い上がっているところで、くるりと振り返る。
大層機嫌が良いらしい。
女性はこちらの手を握り、笑った。
「お誕生日おめでとう! 私はお前を生み出した科学者、ガーベラ・アインバイル! お前はナルン・オーガイ! 研究室を守護する人形だ!」
「ナルン・オーガイ……」
「守護者って意味だな。お前のことはゴーレムの研究と魔石の研究を尽くして生み出したけど、成功して本当によかった! ナルン・オーガイだと長いから……ナオ! 今日からよろしく! ナオ!」
「はい。よろしくお願いします、お母様」
ガーベラのことを母と呼べば、キョトンとした顔をされる。
呼びかたを間違えただろうか。
「お母様……お母様ね。なるほどいい響き!」
しかし、それは違ったらしい。
ガーベラはより一層上機嫌になると、くるくると回り出した。
「そっかー、私も母と呼ばれるようになっちゃったかー」
「……?」
そう言った時だけ、彼女は寂しそうに見えた。
この日から、ナオの人生は始まった。
ガーベラは常に研究室に篭り、何かを熱心に作り続けていた。
そんなガーベラの世話をし、時には侵入してくる魔物を蹴散らすのが、ナオに与えられた役目であった。
「ナオー! これ見て! やばいのできちゃった!」
「こっち持ってこないでください! 何ですか、その謎の生命体!」
彼女の実験は時に失敗さえすれど、着実に進歩していた。
ガーベラの実験は世界中に広がり、彼女には英雄という地位が与えられた。
しかし、英雄としての襲名式に、彼女は参加することがなかった。
「お母様、いいんですか? 襲名式をサボって」
「ん? ああ、いいんだよ。あーんな胸糞悪いパーティ誰が行くか。英雄呼びを受け入れたのだって、研究費がもらえるからだし」
なぜか彼女は、自身の出身国を毛嫌いしているようだった。
しかし嫌いはすれど、この地からは離れない。
ナオには母がわからなかった。
ある日、ガーベラがナオを呼びつけた。
「……何ですか? これ」
「お前の妹!」
「妹……にしては、大きくないですか?」
「綺麗だろ」
「綺麗と言われればそうですけど」
そこには、自分と同じお守り人形が鎮座していた。
女性体のようだが、どう見ても大きすぎる。
しかし、ナオから見ても文句の一つも出ないくらいに、その人形は美しかった。
「……ナオ。お前の核はな、古龍の魔石なんだ」
「古龍」
「そ。子供のだけどな。だけど、妹に使う魔石はそれとは一味違う」
ガーベラが、宝箱の中から何かを取り出す。
それは水晶のような魔力の結晶体だった。
「何ですか? それ」
「……私の友達の核。国に獲られる前に、回収した。あの子が殺された現場を一番に見つけたのは、私だった」
愛おしいものを触るように、水晶を撫でる。
その目は慈愛に満ちていた。
「これは天族の核。これを国に獲られれば、人類はより発展したことだろう。だけど、それは私が許さない。この子をこれ以上弄ばれてたまるか。だから私は、この核を埋め込む人形を作った」
眠り続ける『妹』の、胸元の空洞。
そこに水晶が吸い込まれていった。
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