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「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

汚してしまった服のクリーニングが終わって帰るころにはすっかり西日が差していた。私は逸人さんにオブられていて少し夢見心地だ。
そのまま逸人さんの運転する車で家に戻った。
家に着くころには夜になってしまっていた。さすがにいまから夕食を作ることはできず逸人さんは勝手に出前を頼んでしまっていた。
 逸人さんのご飯を作ることができないなんてと内心すごく嘆いた。逸人さんの仕事は体が丈夫であればあるほどいい。私の料理は逸人さんの血となり肉となる。逸人さんの体を作っているのは私の料理=私。私が逸人さんを作っていると言っても過言ではないんだ。
 なのに・・・なのに・・・・・
・・・・・逸人さんが家に来てくれている日に料理を作れないなんて・・・・・

ほろカツ屋さんのかつ丼はすごくおいしいはずなのにいまはおいしく感じない。空気が重い。それでも何とか食べ終えたところで里奈っと逸人さんに呼ばれる。

「今回のことは一歩間違っていたら無理やり強姦されてたんだぞ」
逸人さんはいつになく厳しい口調で話し始めた。
「ち、違う、あれは私なりに考えて、ちゃんとその、合意です。」
 ピリピリとした雰囲気を肌で感じる。
私は佐藤さんは悪くないことを説明したかった。ここで誤解を解かなければ佐藤さんが消される・・・。
「嘘つけ」
逸人さんは私の腕を掴むとぐいっと引き寄せる。
「ちょ、ちょっと、なにするんですか。」
と言ってみるものの私にとってはご褒美でしかない。初めてかもこうやって抱き寄せられるの。
「俺に嘘つくんじゃねぇ」
「嘘じゃありません。私は本気で・・・」
「なら、なんで始終怖がってたんだ」
「・・・・・え?」
「え?ってお前気づいてなかったのかよ。あの時、ずっとこわばって青白い顔してたし、体も震えてただろ。」
必死で考えないようにしていた。あのとき、私は思った以上に女を捨てるって怖くて後悔してたんだ。
「まったく、気づいてなかったのかよ。」
コツんと額を小突かれた。
「あのな、まだ佐藤ってやつは話の通じる奴だったからよかったもののやばい奴だったらどうしてたんだよ。写真撮られたり、パンツとかハンカチなんか盗まれて、粘着して付きまとわれたりしたかもしれないんだ」
(あっ、それ、私です。)
「もう少し危機感を持て。俺が間に合わなかったらって思うとぞっとする。」
「ごめんなさい。」
逸人さんが来てくれてよかった。来てくれなかったら私は訳も分からないまま女になってただろうし、やっぱり初めては逸人さん以外考えられない。
「でも、助けに来てくれたとき、かっこ良かったですよ。」
私はにへらと笑う。
「あほ、こんなことはもうこりごりだ。いいかああゆうことはほんとに好きな人とやるもんだから簡単に捨てるんじゃないぞ。」
 こんな状況だから、こんな気持ちになるのはおかしいんだけど。 
 逸人さん、カッコイイ!!
 胸がきゅんってなった。うれしい。やばい顔がにやける。
「はい、逸人さんがその気になるまで待ってます。」
「馬鹿野郎、お前は未成年、俺はアラサーだ手なんか出せるか。」
「なら、私が二十歳になったらセックスしてくれる??」
「・・・おま、少しは女としての恥じらいをもて、そんなこと口に出すようなことじゃない。」
「ね、してくれるよね、してくれないなら、『私の初めてを奪っておいて私を捨てるなんてひどい』って
今ここで大声で叫びますよ。」
私はわざとらしく口元に手を当てて叫ぶ真似をした。
「わかった、わかったから叫ぶのはやめろ。」
やった、これで一歩前進だ。
(今の言葉もしっかり録音できたし。いざとなったら・・・)
「ふふん、楽しみにしてるね。」
「・・・はあ」
その言葉を聞いて私はまたにやけるのだった。

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