愛でてあげるよ純情暴君

りんくる

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 別にだれにわかってもらおうとは思わないけど、あなたに嫌われるのだけは耐えられなかった。




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バキッボキッ
 暗いトンネル。人通りが極端に少ない山へ通じるそのトンネルは、街の不良の集団が集まるには格好の場所だ。暗くて狭い空間に人を殴る鈍い音が反響している。
「ふざけるな!!てめえよくも!!」
「うるせえ。お前らが俺に絡んできたんだろうが」
「ちっ、一人で5人も倒しやがって今日のところは引いてやる。だがな!!早川!!絶対にお前に一泡吹かせてやるから、覚えてろよ!!」

「いちいち、覚えてられるかよ。」
無遠慮に殴られたわき腹が痛い。口の中の鉄の味が気に障り吐き出した。

 こんなことをしているが、俺、早川 直之(ハヤカワ ナオユキ)は別に不良ってわけじゃない。
それでも街を歩くとこうして、不良に絡まれる。初めからそうだったわけじゃなかったと思う。そうきっかけがあった。
 しかし、弱そうな人間からカツアゲをしようとしているのを見て、頭に血が上り、暴力で解決してしまった。その時の人数は三人。しかも結構なの知れた札付きの不良どもを蹴散らしてしまったせいで“方角の暴君”なんていらねえ二つ名が独り歩きしている。
 そのせいで同じ方角高校に通う生徒からは怖がられて孤立してしまっている。
 “さびしい”と言えばうそになるが、今更どうしようもない。町で因縁をつけられても、うまくかわせばいいのだと思うのだけど、挑発されるとすぐに短気を起こしてしまう。
 自分の性格はなかなか変えられない。

 それでも俺は誰にでも暴力をふるうわけではない。

 まあ、誰に理解されるわけでもないけど。


 ただ一人を除いて。

「おはよう早川、お前も次、移動教室か?」

「・・・・・っ!!」

 話しかけてきたのは松木 一(マツキ ハジメ)。学年は一緒だがクラスは違う。その隣に友達らしき人間もいる。
 話しかけられたことに動揺して、じっとその顔を見つめてしまった。
 松木は整った顔をしていた。柔らかい雰囲気の彼は人当たりもよく、男女ともに人気だ。うちの組の女子が王子様なんて陰でよんでいるのも聞いたことがある。
「おい、松木、かかわるなよ、殴られるぞ。にらまれてんのわかんないのかよ。」
  
 別ににらんでねーし・・・・・。
つうかこそこそやってるつもりらしいが聞こえてるぞ。
 でも目つきが悪いのだからただ目を合わせるだけでもにらみつけられているように感じるらしい。身長が高いせいで目を合わせようとするとどうしても見下ろしてしまう形になるし、目つきも悪い。仕方ないこととはいえ落ちこんだ。

「おまえ、そのけが」

 そういって昨日殴られて放置していた頬の青あざに触れようと手が伸びる。

「っ、さわんな、」

 たじろいで手を払ってしまった罪悪感で胸がむしばまれる。

「てめえ、早川、俺のダチに何するんだよ」

隣にいる小物がきゃんきゃん吠えているが気にならない。

「けがをしてるんだほおっても置けないだろ。」
 
「このお人よし。」
 
 「なんとでもいえ。・・・・・それ、痛そうだな、大丈夫かっておい」

「っ、、、、」


 松木は唯一と言ってもいい。俺にやさしくしてくれる。

 優しくするとは違うかもしれない。ほかの人間と同じように接してくれる。
 
 だからこそあいつにだけは誤解されて嫌われたくない。

 昼休みはわざわざ最上階まで上がる。でもどこかの不良や恋愛漫画の主人公たちのように屋上に行くってわけじゃない。俺が行くのはものが置いてあるだけの階段の踊り場、いや行き止まりと言ったほうがいいかもしれない。そこは人2~3人くらいしか座れないがスペースがある。電灯もない底は昼間でも薄暗いが、資材置き場になっており、積み重ねられたそれらはいいしかくを作ってくれる。
 
  そんなに避けなくてもぶつかったくらいじゃ殴りかかったりしねえっつの。
 廊下にいる人は少なくないのだが皆、大げさなくらい俺をよける。

 胸に少し空虚感を感じた時だった。

「それでねぇ、松木君」
 そんな声のするほうに反射的に目を向けてしまった。そこにはクラスの派手な女子たちに囲まれる松木がいた。いつもの光景なのに焦燥感を覚えたことに困惑する。
我に返り、何をしてんだと思いなおして何事もなかったかのように歩き出そうとした。が顔の向きを変えようとしたその時、ばっちりと松木と目が合ってしまった。

 やばい、と思って、足早に立ち去ろうとする。
 いくつかの角を曲がり一息ついたところで、声をかけられ、心臓が飛び出しそうになった。
「あっ、いた。早川!!」
 歩くの早いよ。
 悪態つきながら、がっしり手首をつかまれた。
 ビクッと肩がはねた。

「・・・・・なんだよ」


 動揺を押し殺しながら、なるべく平静を装ったら、想像以上にぶっきらぼうになってしまい内心びくびくしていた。心臓が早鐘をうち、気を抜けば卒倒しそうだ。

「話があるんだ。まだ、時間あるよね。」

「・・・・話?俺にはねえから、てめえの連れにでもしてろよ」
 ・・・・・・態度が悪いことは自覚はしていた。していたからこそ、自分からクラスメイトとはかかわらないようにしていた。余計に誤解をうむだけだと知っているから。それでもさすがにこれはない。せっかく話しかけてくれたのにこれでは相手を不快な気分にさせるだけだ。

 バクバクと痛いほど心臓が脈打ち、手からは変なあせが出そうになった。

「っ、はなせ、いつまでもつかんでんじゃねえよ。」

 これ以上話しても突っかかるようになってしまうと早々に話を切り上げようとしたのだが、切り上げ方も間違えた。内心焦った。

 しかし振り切ろうとした手は、思いのほか振り切れなかった。

 ・・・こいつ、意外に力つぇえ。


 見たところ細い感じなのにどこにそんな力があるのかと感心してみていた。

「・・・・あんまにらむなよ。それで俺のクラスの女子怖がってたぞ。」

 「ちがっ、」
 反射的に否定しようとしたが、すぐに口をつぐんだ。何より理解されていると思った人物にそんなことを言われてしまった事実にショックを隠し切れない。
「っち、だったらてめえもさっさと散れよ、俺はそんなに暇じゃねえんだ。」


 焦って言葉をつないだが、舌打ちをした挙句、この暴言は感じ悪い。もう、ほんと、最悪だ。
さすがに相手が怒って去っていくとばかり思っていたが、予想に反して、松木は手首をつかんだ手にさらに力を込めた。
「いったろ、お前に話があるんだと、つべこべ言わずいくぞ、ここじゃちょっと話ずらいな。」


「おい、引っ張るな。何を勝手に「このままは話続けても埒、開かないだろ」
言葉をかぶせられ内心イラっとした。なんなんだこいつ。もっと物腰柔らかくて大人な印象だった松木は予想外に振り回してくる。

「おまえ、どこかいいところ知らないか。」

「なんでてめえなんかに「いいから」ちっ、めんどくせえ」


 仕方なく唯一、知っている例の階段の踊り場に案内する。


「・・・意外だな。お前がこんなところ知ってるなんて。」

「・・・・・・・うるせえよ」

興味深げにくるりと資材を見回した後、俺を奥がわに座らせ、自分はその手前に座った。そのあとようやく手首から手を離した。少し名残惜しい気がしたのはきっと気のせいだ。
ちらりと松木のほうを見る。相変わらず整った顔立ちをしている。薄暗いこともあるのだろうがその表情が物憂げに感じて見惚れてしまうのをぐっとこらえた。
 本当に落ち着かない。奥側に座ってしまったため、いつものように悪態ついて逃げることもできない。
 
 「・・それで話ってなんだ」

 沈黙が続き、いたたまれなくなってそれでも口をひらけばまた感じ悪くなってしまうのではと思い相手が口をひ開くのを待っていたのだが、話し出さないため数回かける言葉を考えた末、シンプルに問いかけた。

「 その傷、どうしたんだ」

おどろいた。俺に面と向かって聞いてきたやつはいなかったから。
 うれしかった。そう、本当にうれしかったんだ。

「てめえにはかんけいねえ。突っ込んでくんな。」

 ・・・・混乱してそんなことを言ってしまうくらいには。


後悔しても口から出た言葉は取り消せないどころか、取り繕う頭もない。

ちっ、
 自分のあほさ加減にいらいらして舌打ちした。

 それすらも後悔する結果となったが。相手からしてみれば、不機嫌だと思われていてもおかしくない。これ以上ぼろが出る前に立ち去ろうともくろんだ。

「・・・・・・話がそれだけなら、もういいだろとっととどけ」


 相手を押しのけようとするが失敗した。思い通りにいかないことにむしゃくしゃしてものに当たりたくなるのをぐっとこらえた。
「はは、ごめんって、放したくないなら別にいいよ、もう聞かないから。」


 自分か遠ざけることを言ったのに、そう切り返されると拒絶されたように感じた。

 何やってんだか


「今朝も言ったが、そのケガ痛そうだな。」

「てめえには関係ねえだろ」

「まあまあ、そういうなよ。同じ学年だろ。俺、絆創膏もってるから張ってやるよ」


「はっ、いらねえよ。ダチにでもやんな。」
何を返しても、不機嫌や苛立ちを見せることなく穏やかに返す松木にいささか疑問がわいた。
「さっきから、俺の友達のことを引き合いに出すけど、もしかして嫉妬でもしてるのか。」
「はあ、ンなわけねえだろ、ふざけてんじゃねえよ」

 嫉妬という言葉に過剰に反応して怒鳴りつけてしまった。そのことに動揺した。
「っ、もういいだろ。」

今度こそ立ち上がろうとしたが、松木は即座に手首をつかんで、再度座らせる。
「まだ、だめだ。もうちょい我慢して」

「いい加減に「手当てしてやるから。それが終わったら逃がしてやるよ。」」

「っ!!何を偉そうに」

 薄暗い部屋、松木が座った俺を見下ろす。下の階のかすかな電灯を瞳に宿した顔を至近距離で見た。頬に何かが張られる感触がして我に返る。
地味に痛い・・・・
 慌てて手を振り払う。今度は簡単に振り払えたことに内心ほっとした。
「なに、惚けてんだ、終わったぞ」
  
「惚けてねえよ」
ようやく終わったと胸をなでおろし、今度こそ立ち上がる。
 そこで信じられないような言葉を聞く。
「おまえ、俺のこと好きだろ」

「はあっ、何言ってやがる。冗談も休み休み言え!!」

そう捨て台詞を吐いてはじかれたように走り出す。


なんなんだあいつは。俺のどこをどう見てそう思ったんだよ。ありえねえ。

 バッと後ろを振り返ると、階段を下りた松木と目が合う。そして満面の笑みで手を振られた。
 いたたまれなくなって再び走る。

まるで負け犬の様で情けなかったが、今はそうするしかなかった。
 肩で息をしながらこぶしを握り締める。バクバクと心臓の音がやばい。

 時間を見るとすでに昼休み終了一分前。無理やり、息を整えて、いつもの通り教室に入る。
 ・・・授業に集中できなかったのはいうまでもない。
 
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