ジャック&ミーナ ―魔法科学部研究科―

浅山いちる

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絆⑦

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 それからしばらく、フィリカは食事のほうへ集中をする。既に食べ終えたスライを待たせては悪いと感じていたからだった。

「いいよ、ゆっくり食べなって」

 焦って食べていたフィリカを、机の上で両腕をつくスライが抑止する。そう言われてはそう食べるしかない彼女は、素材をしっかりと味わうことにする。

 そこで、スライに止められたことから、あの日の事を思い出したフィリカ。

「······止めないほうが、よかったんですかね」
「なにが?」
「あの日、間に入らず喧嘩させておいたほうが」

 フィリカは、もしかしたら自分が止めなければそのまま解決してたんじゃないかと、自責の念を感じていた。もしそうなら二人に確執が残るのも自分のせいだとも。

 しかし、そんな彼女の杞憂は、目の前にいる金髪の男によって簡単に払拭される。

「あぁ。あの時は止めて正解だと思うよ。あいつ血の気なさそうに見えて、すぐ挑発に乗るから」
「えっ?」

 それを聞いたフィリカの、最後の一口を食べる手が止まる。
 だがそんな事は気にせず、昔を思い出したスライは、楽しそうにその事を語り始める。

「兵士の訓練生時代なんて、特に血気盛んな奴ら多くてさ、あいつよく絡まれてたんだよ。そんで俺、何回あいつの喧嘩止めに入ったか分からんくらいよ」
「はい?」
「何故かそのうち俺まで絡まれてさ、いい迷惑だったよホント。まぁ、全員俺らより弱かったからなんともなかったけど······」

 ——バンッ!

 フィリカは机を叩いて立ち上がっていた。
 周りの席にいた人達が、一斉に二人のほうを見てどよめく。スライも顔を少し引いて、目を丸くしていた。

「ど、どうしたの? 急に」
「いや、どうしたのじゃないですよスライさん······、なんで······、なんで······」

 フィリカは四人の中じゃ最年少で非力。それに比べ、彼女のいま目の前にいる男は真逆に近い存在。そう。あの二人の仲介には正にに打って付けの存在である。
 しかし、そんなことを知りつつ、全く止めに入ってくれなかった彼に、彼女は今、ヒシヒシと怒りが込み上げてきていた。

「なんでそれ分かっていながら、早く止めてくれなかったんですか!?」

 食堂中に聞こえる声で怒るフィリカ。
 ジャックとミーナ。あの日獣のような眼をした彼らに囲まれたフィリカは、正直生きた心地がしていなかったのだ。

「ちょ、ちょっとフィリカちゃん落ち着いて······」

 周りが好奇の眼差しで二人を見ていた。
 そのことを、両手で宥めながら目配せで彼女に伝えるスライ。それでハッとするフィリカ。
 つい取り乱してしまった事に恥じらいを覚え、観衆に会釈をして謝る。だが、それが終わると、再び「それで」と言うように彼女はスライを睨む。

「いやいや、あの時、フィリカちゃんが止めなかったら俺止めようと思ってたよ?」
「ホントですかー?」

 鼻を膨らまして、疑いの目向けるフィリカ。

「ホントだって。ただ一歩、フィリカちゃんが速かっただけ」

 怪訝な顔をするフィリカは、フォークを肉に突き刺すと彼を睨んだまま、勢いよくその肉を食べた。

「ゴメンって······」

 あの日、本当に止めようと思っていたのは事実だが、彼女の幼い怒りに気圧され、スライは何故か謝ってしまう。

 彼女はぷいっと顔を逸らす。
 モグモグと動く口は、その肉を飲み込むのを躊躇うようだった。しかしそれも、時間にするとあっという間の事。彼女の喉元が一度動く。

「もういいです」

 彼女はまだ、頬を膨らませ怒っていた。だが同時に、久しぶりに柔和な雰囲気も漂わせていた。
 その雰囲気を感じたスライはホッとし、笑みを浮かべる。そして、後ろに下がりつつあった身体を前へ戻す。

 彼のほうから視線を感じたフィリカは、横目でそちらを見る。

「なんですか?」

 スライは口角を少し上げ、片肘をついたまま、フィリカのほうをじっと見ていた。

「あの二人も、一度冷静に話をさせたほうがいいかもしれないね」

 それを聞いて、既にそんな怒ってもいなかったフィリカは、スライのほうへと顔を戻す。

「また喧嘩にならないですかね? 二人の取っ組み合いとか勘弁ですよ?」
「それは俺も嫌だよ」
「じゃあ、今度はちゃんと止めてくれます?」
「わかってるよ。大丈夫だって」

 フィリカの疑念はまだ晴れてはいなかったが、それでも、スライの言葉に迷いはなく、彼女を信じさせるには十分だった。

「でも万が一に備えて、俺らが見えるトコじゃないとなぁ······どこがいいかな?」

 眉根を寄せ、目線をあげるスライ。

「······あっ、じゃあこんなのはどうです?」

 手を叩いて、身振り手振りで思いついた案を伝えるフィリカ。その表情はいつもの彼女の笑顔だった。それを聞いたスライも笑みを浮かべ、それに賛成をする。

「いいね。んじゃ、強引にでもそうしようか」
「はい!」

 そう言って二人は明日、それを決行することに決める。

「んじゃ、話もまとまったし、そろそろ帰ろっか。明日こそは何とかしないとね」

 スライは伝票に手を伸ばして、立ち上がろうとする。だが、数秒前とは裏腹に、神妙な顔をして腰を上げないフィリカの様子が、彼を引き止めた。

「ん? どしたの?」
「スライさん、一ついいですかね······?」
「なに?」

 彼女は眼を左右に動かしながら、恥ずかしそうにしていた。

「御飯、おかわりしていいですか?」
「······お好きにどうぞ」




 翌日、彼らは地下の訓練場に、いつも通り集まっていた。

「薬は行き渡ったわね。じゃあ、今日も昨日と同じ練習をするわよ。私とスライは——」
「はいっ」

 ミーナの言葉を遮ったのは、手を挙げたスライだった。
 突然のことに、彼女は目を丸くしていた。一番後ろのジャックも、意表を突かれた顔をしている。

 そんな彼らは御構い無しに、右へと歩き出すスライとフィリカ。
 そして彼らは、目の前のジャックとミーナに対してこう述べる。

「宣誓。えー、僕たち」
「私たちは」
「君たちが仲直りするまで、二人と訓練しないことを誓います」
「誓います」

 フィリカの声を最後に、この広い空間に長い沈黙が流れる。ジャック達は突然のことが理解できず、口を半開きにしていた。

「俺の身体がボロボロなのは、ミーナさんのせいです」
「せいです」
「ジャックが天井から落ちるのは、ジャックのせいです」
「せいです」
「つまり、駄目なのは駄目同士で組めばいいと思います」
「思います」
「勝手に話し合ってください」
「ください」
「以上です」

 それだけ言うと、スライとフィリカは、二人から離れた所へと歩いて行った。

「ちょ、ちょっと!」

 何が起こったのかを理解し、焦ったミーナが止めようとするも、彼らは既に、魔法を使った練習に入っていた。

 傍ら、ジャックは呆然としていた。

 しかし、いつまでもそうしているわけにもいかず、ジャックはふと左を見る。すると不覚にも、こちらを見た赤髪の少女と目が合ってしまう。
 その紅眼には恨みの念が浮かんでいた。

「······あんたのせいよ」
「······お前もだろ」

 二人は仕方なく、このペアで訓練へと取り組んだ。
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