6 / 25
はじまりの町 6
しおりを挟む
翌朝、スタンは身支度を整え、泊まっていた部屋から出てきた。
通路のつき当りにある階段を下り、一階へと顔を出す。
そこには、すでに起きていたリッカ達の姿があった。
「おはようございます、スタンさん」
「……おはよう」
笑顔で挨拶をしてくる店主と、そっぽを向きながら挨拶をしてくるリッカ。
二人へと挨拶を返しつつ、スタンは昨夜、店主と交わした会話を思い出していた。
町の人達へと、スタンの仲間の事を聞いて回った店主だったが、昨日は結局、有力な情報は得られなかったのだ。
「お役に立てず、申し訳ありません」
その事を気にして、しきりに頭を下げる店主だったが、スタンは別に落胆する事はなかった。
「いや、まだこの町の周辺に来ていないだけだろうし、そんなに気にしないでくれ」
別に店主が悪い訳でも、失敗した訳でもない。
彼は善意でやってくれているのだし、それを責める気はスタンにはなかった。
「あいつらの事だから、この町で待っていれば必ず来るさ」
とはいえ、一日中何もせずに待つというのも退屈な話だ。
そこでスタンは、外へと出掛ける事にしたのだった。
「出掛けるのですか? 今の町の状況では、あまりお勧めできませんが……」
困ったような顔で、店主はスタンへと忠告する。
町の住人は今、よそから来た人間に対しての警戒心が高い。
そんな町中をスタンが歩き回り、トラブルに巻き込まれないか心配しているのだ。
「俺も町中を歩いて住人を刺激するつもりはないさ。ただ、町の周辺を散策するくらいは構わないだろ?」
町の周囲であれば、住民と出会う可能性は確かに少ないかもしれない。
今の町の状況を考えれば、用もなく外をうろつく人間など、そうはいないだろう。
「まぁ、そういう事であれば……」
渋々といった感じではあるが、店主はスタンの意見に納得した。
しかし、
「では、町の入口まで、私が付き添いましょう」
住人とのトラブルを余程警戒しているのか、それとも昨日役に立たなかった事を気にしているのかは分からないが、店主はそんな事を言ってきたのだ。
「いや、それは……」
店主の言葉に、スタンは苦笑してしまう。
子供ではないのだから、町中を歩くのに付き添いは必要ないだろうと思ったからだ。
「もう、父さんってば何を言っているんだよ!」
そんな時、今まで黙っていたリッカが口を開く。
「父さんの怪我は、まだ治りきってないんだよ? それなのに昨日から動き回って……また悪くなったらどうするのさ!」
リッカは、父がスタンに付いて行くのに反対のようだ。
スタンとしても、付き添いは遠慮したいと思っていたので、リッカの反対は大いに歓迎するものだった。
心の中で、リッカの事を応援するスタン。
「そうは言うがな、リッカ……」
だが、店主はなかなか引き下がろうとはしなかった。
そんな父の態度に、リッカは大袈裟に肩を竦める。
「分かったわよ。そんなに心配なら、私が付いて行くから。それでいいでしょ?」
仕方なさそうに、ため息をつくリッカ。
リッカの意外な言葉に、店主は驚きの表情になる。
「リッカ……いいのか?」
「父さんが無理して、また怪我を悪化させるよりはマシよ」
「リッカよ……」
そんな娘の気遣いに、店主は嬉しそうに微笑む。
嬉しそうに笑う父から、恥ずかしそうに顔を逸らし、リッカはスタンへと指を突きつける。
「そういう訳だから、町の外までは私が付き添うからね」
「どうしてそうなるんだか……」
望んでいた結果を得られず、スタンは内心で肩を落とす。
しかし、冒険者を嫌うリッカが、せっかく申し出てくれたのだ。
ここで断るのも、さすがに悪いだろう。
「……分かった。よろしく頼むよ」
諦めたような声で、スタンはリッカへと同行を頼んだ。
「仕方ないけど、まぁ頼まれてやるわよ」
そんなスタンに対し、リッカは快活に笑った。
太陽のような、明るいリッカの笑み。
だが、付き添いを望んでいなかったスタンの目には、イタズラが成功した悪ガキの笑みのようにも見えるのだった。
通路のつき当りにある階段を下り、一階へと顔を出す。
そこには、すでに起きていたリッカ達の姿があった。
「おはようございます、スタンさん」
「……おはよう」
笑顔で挨拶をしてくる店主と、そっぽを向きながら挨拶をしてくるリッカ。
二人へと挨拶を返しつつ、スタンは昨夜、店主と交わした会話を思い出していた。
町の人達へと、スタンの仲間の事を聞いて回った店主だったが、昨日は結局、有力な情報は得られなかったのだ。
「お役に立てず、申し訳ありません」
その事を気にして、しきりに頭を下げる店主だったが、スタンは別に落胆する事はなかった。
「いや、まだこの町の周辺に来ていないだけだろうし、そんなに気にしないでくれ」
別に店主が悪い訳でも、失敗した訳でもない。
彼は善意でやってくれているのだし、それを責める気はスタンにはなかった。
「あいつらの事だから、この町で待っていれば必ず来るさ」
とはいえ、一日中何もせずに待つというのも退屈な話だ。
そこでスタンは、外へと出掛ける事にしたのだった。
「出掛けるのですか? 今の町の状況では、あまりお勧めできませんが……」
困ったような顔で、店主はスタンへと忠告する。
町の住人は今、よそから来た人間に対しての警戒心が高い。
そんな町中をスタンが歩き回り、トラブルに巻き込まれないか心配しているのだ。
「俺も町中を歩いて住人を刺激するつもりはないさ。ただ、町の周辺を散策するくらいは構わないだろ?」
町の周囲であれば、住民と出会う可能性は確かに少ないかもしれない。
今の町の状況を考えれば、用もなく外をうろつく人間など、そうはいないだろう。
「まぁ、そういう事であれば……」
渋々といった感じではあるが、店主はスタンの意見に納得した。
しかし、
「では、町の入口まで、私が付き添いましょう」
住人とのトラブルを余程警戒しているのか、それとも昨日役に立たなかった事を気にしているのかは分からないが、店主はそんな事を言ってきたのだ。
「いや、それは……」
店主の言葉に、スタンは苦笑してしまう。
子供ではないのだから、町中を歩くのに付き添いは必要ないだろうと思ったからだ。
「もう、父さんってば何を言っているんだよ!」
そんな時、今まで黙っていたリッカが口を開く。
「父さんの怪我は、まだ治りきってないんだよ? それなのに昨日から動き回って……また悪くなったらどうするのさ!」
リッカは、父がスタンに付いて行くのに反対のようだ。
スタンとしても、付き添いは遠慮したいと思っていたので、リッカの反対は大いに歓迎するものだった。
心の中で、リッカの事を応援するスタン。
「そうは言うがな、リッカ……」
だが、店主はなかなか引き下がろうとはしなかった。
そんな父の態度に、リッカは大袈裟に肩を竦める。
「分かったわよ。そんなに心配なら、私が付いて行くから。それでいいでしょ?」
仕方なさそうに、ため息をつくリッカ。
リッカの意外な言葉に、店主は驚きの表情になる。
「リッカ……いいのか?」
「父さんが無理して、また怪我を悪化させるよりはマシよ」
「リッカよ……」
そんな娘の気遣いに、店主は嬉しそうに微笑む。
嬉しそうに笑う父から、恥ずかしそうに顔を逸らし、リッカはスタンへと指を突きつける。
「そういう訳だから、町の外までは私が付き添うからね」
「どうしてそうなるんだか……」
望んでいた結果を得られず、スタンは内心で肩を落とす。
しかし、冒険者を嫌うリッカが、せっかく申し出てくれたのだ。
ここで断るのも、さすがに悪いだろう。
「……分かった。よろしく頼むよ」
諦めたような声で、スタンはリッカへと同行を頼んだ。
「仕方ないけど、まぁ頼まれてやるわよ」
そんなスタンに対し、リッカは快活に笑った。
太陽のような、明るいリッカの笑み。
だが、付き添いを望んでいなかったスタンの目には、イタズラが成功した悪ガキの笑みのようにも見えるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる