とある鍛冶屋の放浪記

馬之屋 琢

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はじまりの町 7

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 スタンはリッカをともない、町の中を歩いていた。
 通り過ぎる人々から、敵意にも似た視線を感じる。
 だがその視線は、昨日感じたものよりも、やや弱いものとなっていた。
 恐らく、リッカが一緒に歩いているおかげであろう。
 冒険者であるスタンと、リッカが一緒に歩いている事に、戸惑っているような者もチラホラと見かける事ができた。

「……一応、付き添いの効果はある訳か」

 どうやら店主の提案は、馬鹿にできなかったようだ。
 スタンは心の中で、店主へと頭を下げる。

「何か言ったかい?」

 そんなスタンの呟きが、リッカの耳へと入ったようだ。
 不思議そうな顔を、スタンへと向けてくる。

「いや、何でもないさ」

 スタンは軽く首を横に振り、何でも無い事をリッカへと伝える。
 スタンの態度に、少し考えるような仕草を見せたリッカだったが、それ以上の追及はしなかった。
 代わりに、別の事を聞いてくる。

「それにしても、アンタはこの町の周囲を見るって言ってたけど、ここら辺は田舎だし、楽しめるようなものは何もないよ?」
「まぁ、本当なら俺も、鍛冶屋の見学でもしたかったんだが……今の状況ではそれも難しそうだしな」

 スタンとしては、本当はこの地方の鍛冶の知識などを学びたかったのだが、今の状況では鍛冶屋も見学などさせてくれないだろう。
 少し残念に思いつつも、スタンは気持ちを切り替える。

「それに、見るものが何もない訳じゃないさ。ここら辺の動植物は、俺のいた国とはまた違った物もあるしな」
「そんなもんかなんのかね?」

 この町の風景などを見慣れているリッカにとっては、別段興味を引く物などないのであろう。
 そっけないリッカの反応に、スタンは苦笑するだけだった。



 他愛もない話をしながら、町の出口へと近付いていた、その時、

「リッカ姉ちゃんから離れろ!」

 突然あがった大きな声が、スタン達の足を止めさせた。
 スタンがそちらへ視線を向けてみると、そこには木の枝を構えた子供達の姿が。

「わ、悪い冒険者め! リッカ姉ちゃんに酷い事をするな!」

 涙目で、懸命に大声をあげる子供達。
 スタンの事が余程怖いのだろうか、その身体は小刻みに震えていた。

「……なぁ、俺はお前に何か酷い事をしただろうか?」
「……あの子達は……」

 子供達の言葉に、何とも言えない顔をするスタンとリッカ。

「まったく、仕方ないね……」

 そう言うとリッカは、子供達の方へと歩いて行った。

「リッカ姉ちゃん! 大丈夫!?」
「怪我してない!?」
「私は大丈夫だから、少し落ち着きなよ」

 口々に、リッカの心配をする子供達。
 そんな子供達へと、リッカは事情を説明していく。
 話を聞いた子供達は、スタンに疑わしげな目を向けはしたものの、最終的にはリッカの説明に納得したようだ。

「じゃあリッカ姉ちゃん、またあとでね~」
「ああ、またあとでね」

 大きく手を振ると、バタバタとどこかへ駆け去っていってしまった。

「悪かったね、待たせて」
「特に急いでいる訳でもないし、別に構わないさ。それにしても、子供達に好かれているんだな」
「何よ? 私が子供達に好かれているのがおかしい?」

 スタンの何気ない一言は、リッカの機嫌を損ねたようだ。
 リッカは目を細めて、スタンの事を睨み付ける。

「どうせ私は、がさつで女らしくもないからね。子供達に優しくするのが、おかしいとでも思っているんでしょ?」

 そしてねたような声で、そんな事を言ってくるのだった。
 がさつで、女らしくない。
 それはリッカが町の男達に良く言われている言葉だった。
 リッカは幼い頃から男勝りで、同年代の男どもよりも無茶な事をしでかす子供だった。
 成長すれば、少しは落ち着くかと思われていたのだが、その予想は残念ながら外れる事になる。
 今でもリッカの性格は変わらず、時折無茶な事をやらかしていた。
 そんな彼女の姿を見た町の皆からは、がさつだの、嫁の貰い手がないだのと言われ放題だったのだ。
 どうせスタンもそんな風に思っているのだろう。
 そう思ってリッカはいじけていたのだが、

「いや、そうは思ってないさ」

 いじけるリッカに対し、スタンは苦笑しながら首を横へと振った。

「お前さんは、怪我をした親父さんの為に薬草を採りに行ったり、こうして代わりに付いて来てくれているからな。お前が優しいのは充分承知しているよ」

 リッカは何を言われたのか分からなかった。
 間の抜けた顔を、スタンへと向ける。

「それに、美味い料理だって作れるんだ。女らしくないなんて事は、ないと思うぞ」
「……」
「……ん? どうした?」

 スタンの言葉が段々と理解できるようになり、リッカは無言で赤くなっていた。
 がさつだの、女らしくないなどの言葉を掛けられる事は多かったが、面と向かって、優しいとか女らしいとか言われた事は無かったのだ。
 あまりの照れ臭さに、頬が熱くなってくる。

「大丈夫か? 変な顔してるぞ?」
「う、うるさい! 見るんじゃない!」

 顔を覗いてくるスタンを振り切り、リッカは足早に先へと進んで行ってしまう。

「……褒めてやったのになぁ」

 そんなリッカの行動に肩を竦めつつ、スタンは後を追うのだった。



「ここまでで充分だ。助かったぜ」

 町の入口へと着いたスタンは、リッカへと礼を述べる。
 すでにリッカの気持ちは、ある程度落ち着いており、スタンの前から逃げる様な事はなかった。
 無言で頷き、了解の意を返す。

「日暮れ前には戻るつもりだが……ああ、迎えはいらないからな?」
「別に私としては、アンタがそのままいなくなってくれてもいいんだけどね?」

 意地の悪い笑みを浮かべて、リッカはそう告げてくる。
 先程動揺させられた事に対する、仕返しのつもりだった。
 だが、今の言葉が冗談だという事は、さすがにスタンにも分かった。
 だからスタンは困惑する事なく、軽口を返す。

「そいつは出来ない相談だな。また今晩も、美味い飯を食いたいんでな」
「べ、別にあれくらいなら誰でも作れるだろ! 鍋の中に食材を放り込むだけなんだし!」

 先程の会話を思い出してしまい、リッカはまたもや動揺してしまう。
 慌てふためくその姿は、歳相応の可愛らしい姿だった。

「そうだな……」

 そんなリッカの言葉に、スタンは感情のこもっていない言葉を返してしまう。
 その、食材を放り込むだけの料理が出来ない人間もいる事を、知っていたからだ。

「まぁ、アンタの事だから大丈夫だとは思うけど、気を付けてな」

 リッカはそれだけ言うと、足早に町の中へと戻っていってしまう。
 チラリと見えた横顔は、まだ動揺から立ち直りきっておらず、その頬は赤いままだった。

「さてと、それじゃ俺も行くとしようか」

 戻っていくリッカの姿を見送り、スタンも外へと向け、歩き始めるのだった。
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