7 / 25
はじまりの町 7
しおりを挟む
スタンはリッカを伴い、町の中を歩いていた。
通り過ぎる人々から、敵意にも似た視線を感じる。
だがその視線は、昨日感じたものよりも、やや弱いものとなっていた。
恐らく、リッカが一緒に歩いているおかげであろう。
冒険者であるスタンと、リッカが一緒に歩いている事に、戸惑っているような者もチラホラと見かける事ができた。
「……一応、付き添いの効果はある訳か」
どうやら店主の提案は、馬鹿にできなかったようだ。
スタンは心の中で、店主へと頭を下げる。
「何か言ったかい?」
そんなスタンの呟きが、リッカの耳へと入ったようだ。
不思議そうな顔を、スタンへと向けてくる。
「いや、何でもないさ」
スタンは軽く首を横に振り、何でも無い事をリッカへと伝える。
スタンの態度に、少し考えるような仕草を見せたリッカだったが、それ以上の追及はしなかった。
代わりに、別の事を聞いてくる。
「それにしても、アンタはこの町の周囲を見るって言ってたけど、ここら辺は田舎だし、楽しめるようなものは何もないよ?」
「まぁ、本当なら俺も、鍛冶屋の見学でもしたかったんだが……今の状況ではそれも難しそうだしな」
スタンとしては、本当はこの地方の鍛冶の知識などを学びたかったのだが、今の状況では鍛冶屋も見学などさせてくれないだろう。
少し残念に思いつつも、スタンは気持ちを切り替える。
「それに、見るものが何もない訳じゃないさ。ここら辺の動植物は、俺のいた国とはまた違った物もあるしな」
「そんなもんかなんのかね?」
この町の風景などを見慣れているリッカにとっては、別段興味を引く物などないのであろう。
そっけないリッカの反応に、スタンは苦笑するだけだった。
他愛もない話をしながら、町の出口へと近付いていた、その時、
「リッカ姉ちゃんから離れろ!」
突然あがった大きな声が、スタン達の足を止めさせた。
スタンがそちらへ視線を向けてみると、そこには木の枝を構えた子供達の姿が。
「わ、悪い冒険者め! リッカ姉ちゃんに酷い事をするな!」
涙目で、懸命に大声をあげる子供達。
スタンの事が余程怖いのだろうか、その身体は小刻みに震えていた。
「……なぁ、俺はお前に何か酷い事をしただろうか?」
「……あの子達は……」
子供達の言葉に、何とも言えない顔をするスタンとリッカ。
「まったく、仕方ないね……」
そう言うとリッカは、子供達の方へと歩いて行った。
「リッカ姉ちゃん! 大丈夫!?」
「怪我してない!?」
「私は大丈夫だから、少し落ち着きなよ」
口々に、リッカの心配をする子供達。
そんな子供達へと、リッカは事情を説明していく。
話を聞いた子供達は、スタンに疑わしげな目を向けはしたものの、最終的にはリッカの説明に納得したようだ。
「じゃあリッカ姉ちゃん、またあとでね~」
「ああ、またあとでね」
大きく手を振ると、バタバタとどこかへ駆け去っていってしまった。
「悪かったね、待たせて」
「特に急いでいる訳でもないし、別に構わないさ。それにしても、子供達に好かれているんだな」
「何よ? 私が子供達に好かれているのがおかしい?」
スタンの何気ない一言は、リッカの機嫌を損ねたようだ。
リッカは目を細めて、スタンの事を睨み付ける。
「どうせ私は、がさつで女らしくもないからね。子供達に優しくするのが、おかしいとでも思っているんでしょ?」
そして拗ねたような声で、そんな事を言ってくるのだった。
がさつで、女らしくない。
それはリッカが町の男達に良く言われている言葉だった。
リッカは幼い頃から男勝りで、同年代の男どもよりも無茶な事をしでかす子供だった。
成長すれば、少しは落ち着くかと思われていたのだが、その予想は残念ながら外れる事になる。
今でもリッカの性格は変わらず、時折無茶な事をやらかしていた。
そんな彼女の姿を見た町の皆からは、がさつだの、嫁の貰い手がないだのと言われ放題だったのだ。
どうせスタンもそんな風に思っているのだろう。
そう思ってリッカはいじけていたのだが、
「いや、そうは思ってないさ」
いじけるリッカに対し、スタンは苦笑しながら首を横へと振った。
「お前さんは、怪我をした親父さんの為に薬草を採りに行ったり、こうして代わりに付いて来てくれているからな。お前が優しいのは充分承知しているよ」
リッカは何を言われたのか分からなかった。
間の抜けた顔を、スタンへと向ける。
「それに、美味い料理だって作れるんだ。女らしくないなんて事は、ないと思うぞ」
「……」
「……ん? どうした?」
スタンの言葉が段々と理解できるようになり、リッカは無言で赤くなっていた。
がさつだの、女らしくないなどの言葉を掛けられる事は多かったが、面と向かって、優しいとか女らしいとか言われた事は無かったのだ。
あまりの照れ臭さに、頬が熱くなってくる。
「大丈夫か? 変な顔してるぞ?」
「う、うるさい! 見るんじゃない!」
顔を覗いてくるスタンを振り切り、リッカは足早に先へと進んで行ってしまう。
「……褒めてやったのになぁ」
そんなリッカの行動に肩を竦めつつ、スタンは後を追うのだった。
「ここまでで充分だ。助かったぜ」
町の入口へと着いたスタンは、リッカへと礼を述べる。
すでにリッカの気持ちは、ある程度落ち着いており、スタンの前から逃げる様な事はなかった。
無言で頷き、了解の意を返す。
「日暮れ前には戻るつもりだが……ああ、迎えはいらないからな?」
「別に私としては、アンタがそのままいなくなってくれてもいいんだけどね?」
意地の悪い笑みを浮かべて、リッカはそう告げてくる。
先程動揺させられた事に対する、仕返しのつもりだった。
だが、今の言葉が冗談だという事は、さすがにスタンにも分かった。
だからスタンは困惑する事なく、軽口を返す。
「そいつは出来ない相談だな。また今晩も、美味い飯を食いたいんでな」
「べ、別にあれくらいなら誰でも作れるだろ! 鍋の中に食材を放り込むだけなんだし!」
先程の会話を思い出してしまい、リッカはまたもや動揺してしまう。
慌てふためくその姿は、歳相応の可愛らしい姿だった。
「そうだな……」
そんなリッカの言葉に、スタンは感情のこもっていない言葉を返してしまう。
その、食材を放り込むだけの料理が出来ない人間もいる事を、知っていたからだ。
「まぁ、アンタの事だから大丈夫だとは思うけど、気を付けてな」
リッカはそれだけ言うと、足早に町の中へと戻っていってしまう。
チラリと見えた横顔は、まだ動揺から立ち直りきっておらず、その頬は赤いままだった。
「さてと、それじゃ俺も行くとしようか」
戻っていくリッカの姿を見送り、スタンも外へと向け、歩き始めるのだった。
通り過ぎる人々から、敵意にも似た視線を感じる。
だがその視線は、昨日感じたものよりも、やや弱いものとなっていた。
恐らく、リッカが一緒に歩いているおかげであろう。
冒険者であるスタンと、リッカが一緒に歩いている事に、戸惑っているような者もチラホラと見かける事ができた。
「……一応、付き添いの効果はある訳か」
どうやら店主の提案は、馬鹿にできなかったようだ。
スタンは心の中で、店主へと頭を下げる。
「何か言ったかい?」
そんなスタンの呟きが、リッカの耳へと入ったようだ。
不思議そうな顔を、スタンへと向けてくる。
「いや、何でもないさ」
スタンは軽く首を横に振り、何でも無い事をリッカへと伝える。
スタンの態度に、少し考えるような仕草を見せたリッカだったが、それ以上の追及はしなかった。
代わりに、別の事を聞いてくる。
「それにしても、アンタはこの町の周囲を見るって言ってたけど、ここら辺は田舎だし、楽しめるようなものは何もないよ?」
「まぁ、本当なら俺も、鍛冶屋の見学でもしたかったんだが……今の状況ではそれも難しそうだしな」
スタンとしては、本当はこの地方の鍛冶の知識などを学びたかったのだが、今の状況では鍛冶屋も見学などさせてくれないだろう。
少し残念に思いつつも、スタンは気持ちを切り替える。
「それに、見るものが何もない訳じゃないさ。ここら辺の動植物は、俺のいた国とはまた違った物もあるしな」
「そんなもんかなんのかね?」
この町の風景などを見慣れているリッカにとっては、別段興味を引く物などないのであろう。
そっけないリッカの反応に、スタンは苦笑するだけだった。
他愛もない話をしながら、町の出口へと近付いていた、その時、
「リッカ姉ちゃんから離れろ!」
突然あがった大きな声が、スタン達の足を止めさせた。
スタンがそちらへ視線を向けてみると、そこには木の枝を構えた子供達の姿が。
「わ、悪い冒険者め! リッカ姉ちゃんに酷い事をするな!」
涙目で、懸命に大声をあげる子供達。
スタンの事が余程怖いのだろうか、その身体は小刻みに震えていた。
「……なぁ、俺はお前に何か酷い事をしただろうか?」
「……あの子達は……」
子供達の言葉に、何とも言えない顔をするスタンとリッカ。
「まったく、仕方ないね……」
そう言うとリッカは、子供達の方へと歩いて行った。
「リッカ姉ちゃん! 大丈夫!?」
「怪我してない!?」
「私は大丈夫だから、少し落ち着きなよ」
口々に、リッカの心配をする子供達。
そんな子供達へと、リッカは事情を説明していく。
話を聞いた子供達は、スタンに疑わしげな目を向けはしたものの、最終的にはリッカの説明に納得したようだ。
「じゃあリッカ姉ちゃん、またあとでね~」
「ああ、またあとでね」
大きく手を振ると、バタバタとどこかへ駆け去っていってしまった。
「悪かったね、待たせて」
「特に急いでいる訳でもないし、別に構わないさ。それにしても、子供達に好かれているんだな」
「何よ? 私が子供達に好かれているのがおかしい?」
スタンの何気ない一言は、リッカの機嫌を損ねたようだ。
リッカは目を細めて、スタンの事を睨み付ける。
「どうせ私は、がさつで女らしくもないからね。子供達に優しくするのが、おかしいとでも思っているんでしょ?」
そして拗ねたような声で、そんな事を言ってくるのだった。
がさつで、女らしくない。
それはリッカが町の男達に良く言われている言葉だった。
リッカは幼い頃から男勝りで、同年代の男どもよりも無茶な事をしでかす子供だった。
成長すれば、少しは落ち着くかと思われていたのだが、その予想は残念ながら外れる事になる。
今でもリッカの性格は変わらず、時折無茶な事をやらかしていた。
そんな彼女の姿を見た町の皆からは、がさつだの、嫁の貰い手がないだのと言われ放題だったのだ。
どうせスタンもそんな風に思っているのだろう。
そう思ってリッカはいじけていたのだが、
「いや、そうは思ってないさ」
いじけるリッカに対し、スタンは苦笑しながら首を横へと振った。
「お前さんは、怪我をした親父さんの為に薬草を採りに行ったり、こうして代わりに付いて来てくれているからな。お前が優しいのは充分承知しているよ」
リッカは何を言われたのか分からなかった。
間の抜けた顔を、スタンへと向ける。
「それに、美味い料理だって作れるんだ。女らしくないなんて事は、ないと思うぞ」
「……」
「……ん? どうした?」
スタンの言葉が段々と理解できるようになり、リッカは無言で赤くなっていた。
がさつだの、女らしくないなどの言葉を掛けられる事は多かったが、面と向かって、優しいとか女らしいとか言われた事は無かったのだ。
あまりの照れ臭さに、頬が熱くなってくる。
「大丈夫か? 変な顔してるぞ?」
「う、うるさい! 見るんじゃない!」
顔を覗いてくるスタンを振り切り、リッカは足早に先へと進んで行ってしまう。
「……褒めてやったのになぁ」
そんなリッカの行動に肩を竦めつつ、スタンは後を追うのだった。
「ここまでで充分だ。助かったぜ」
町の入口へと着いたスタンは、リッカへと礼を述べる。
すでにリッカの気持ちは、ある程度落ち着いており、スタンの前から逃げる様な事はなかった。
無言で頷き、了解の意を返す。
「日暮れ前には戻るつもりだが……ああ、迎えはいらないからな?」
「別に私としては、アンタがそのままいなくなってくれてもいいんだけどね?」
意地の悪い笑みを浮かべて、リッカはそう告げてくる。
先程動揺させられた事に対する、仕返しのつもりだった。
だが、今の言葉が冗談だという事は、さすがにスタンにも分かった。
だからスタンは困惑する事なく、軽口を返す。
「そいつは出来ない相談だな。また今晩も、美味い飯を食いたいんでな」
「べ、別にあれくらいなら誰でも作れるだろ! 鍋の中に食材を放り込むだけなんだし!」
先程の会話を思い出してしまい、リッカはまたもや動揺してしまう。
慌てふためくその姿は、歳相応の可愛らしい姿だった。
「そうだな……」
そんなリッカの言葉に、スタンは感情のこもっていない言葉を返してしまう。
その、食材を放り込むだけの料理が出来ない人間もいる事を、知っていたからだ。
「まぁ、アンタの事だから大丈夫だとは思うけど、気を付けてな」
リッカはそれだけ言うと、足早に町の中へと戻っていってしまう。
チラリと見えた横顔は、まだ動揺から立ち直りきっておらず、その頬は赤いままだった。
「さてと、それじゃ俺も行くとしようか」
戻っていくリッカの姿を見送り、スタンも外へと向け、歩き始めるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる