とある鍛冶屋の放浪記

馬之屋 琢

文字の大きさ
10 / 25

はじまりの町 10

しおりを挟む
 突然現れた闖入者に、皆の視線が集まる。
 だがスタンは、そんなものを気にしない。
 悠然と室内へと入っていく。
 素早く視線を走らせ、室内の状況を確認する。
 リッカ達に大きな怪我がない事を確認したスタンは、内心安堵した。

「テメエ、何者だ!? どうやって入って来やがった!」

 一番近くに居た男がスタンへと殴り掛かってくる。
 顔を狙った男の拳を、難なく躱したスタンは、

「こうやってだよ」

 すれ違いざまに、その腹部へと膝を打ち込む。
 男は胃液をまき散らかし、あっけなくその場へと崩れ落ちた。

「野郎っ!」

 あっさりと仲間がやられ、男達に緊張と動揺が走る。
 スタンはその隙を逃さず、次なる行動を起こす。
 脚へと括りつけていたナイフを、続けざまに投げ放つ。
 放たれたナイフはそのまま空を裂き、リッカの近くに居た男達へと突き刺さった。

「ぐあぁっ!?」

 肩や脚などを、ナイフに貫かれた男達が大きくよろめく。

「今だ! 走れ!!」

 スタンの上げた声に、リッカがハッと我を取り戻し、即座に反応する。

「行くよ!」

 子供達の手を引っ張り、男達の間をすり抜けるリッカ。
 一目散に、スタンの下へと駆けていく。
 しかし、相手も黙っている訳ではない。

「ガキ共を逃がすな!」

 その声に反応した者達が、リッカ達を取り押さえに掛かる。
 子供達が捕まってしまえば、スタンも迂闊な動きが出来なくなるだろう。
 逃げる子供達へと、魔の手が迫る。

「させるわけないだろう?」

 スタンの手から、再びナイフが飛翔する。
 ナイフは正確に、リッカ達を狙う相手を貫いていく。
 男達が痛みで動きを止めている間に、リッカと子供達はスタンの下へと辿りついた。

「無事か?」
「ああ、子供達も私も怪我はないさ」
「そいつは良かった」

 子供達は無事に保護する事が出来た。
 あとはここから逃げられれば終わりなのだが、

「見逃してくれる訳がないよな」

 荒くれ者共が武器を構える。

「いいか! ガキを狙え! そうすりゃあの野郎は動けなくなる!」

 先程とは違い、統率が取れた動きだ。
 前にいる者は剣や槍を構え、その奥には弓を構える者、そして魔術を唱えようとしている者の姿も見えた。

「厄介だな……」

 弓も魔術も、今のスタンには脅威だった。
 子供達を救う為に、ナイフは全て投げてしまった。
 彼らを倒す為には斬りこむしかない。
 だが今は、リッカ達がいる。
 彼女達を守らねばならないのだ。その傍を離れる訳にはいかない。

「どうするかな」

 先に逃がす事も考えたが、この屋敷の中に、まだ敵が潜んでいないとも限らない。
 彼女達が捕まってしまえば、状況はさらに悪くなる。

「ま、何とかするしかないか」

 じりじりと相手が迫る中、スタンは剣を抜き、構える。
 相手がタイミングを見計らい、飛び掛かってこようとした瞬間、
 凄まじい轟音と共に、屋敷が振動した。



「な、なんだぁ!?」

 突然の轟音と振動に、男達がうろたえる。

「これはアンタの仕業なの!?」
「……いや」

 リッカの質問をスタンは否定する。
 スタンは単身でここへと乗り込んできたのだ。
 時間も無かったし、何かを仕掛けているような暇はなかった。
 轟音は連続して響き、振動はさらに強くなる。
 音はどんどんと近付いてくるようだった。

「まさか……」

 この原因に、スタンは一つだけ心当たりがあった。
 まさかそんな事はないだろうとは思うのだが、それ以外には考えられなかった。 音と振動が最高潮に達し、遂に広間の壁が轟音と共に破壊される。
 砕かれた壁の向こう、舞い上がる粉塵と共に、その原因が姿を現す。

「やっと見つけましたよ、師匠!」

 現れたのは、自分の背丈せたけほどの戦鎚ウォーハンマーかついだ少女の姿。
 予想通りの人物の登場に、スタンは苦笑するのだった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...