とある鍛冶屋の放浪記

馬之屋 琢

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はじまりの町 12

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 スタンが前へと出る事で、茫然としていた男達はようやく我に返った。

「やっちまえ!!」

 慌てて武器を構え直し、号令と共に、スタン達へと襲い掛かる。

「殺すつもりはないが……向かって来るなら痛い目を見てもらうぞ?」

 行動の自由を得たスタンは、剣を手に、男達の中へと飛び込んで行った。
 足を止めずに白刃の下を潜り抜け、思うがままに剣を振るう。
 上段から振り下ろされた一撃を剣で弾き返し、相手の顔へと柄を叩き込む。
 突き出された槍は身体を回して避け、その穂先を斬り落とす。
 自分よりも多くの人間を相手にしていても、スタンの戦い方にはどこか余裕があるように見えた。



「やっぱり師匠は凄いですね」

 スタンの戦い方に感心しつつ、エルは子供達を狙ってきた男達へと戦鎚ハンマーを振るう。
 大人でも振り回すのに苦労する程の重さ。
 その重量のある武器を、エルは軽々と振り回していく。
 武器を盾とし、戦鎚を防ごうとする男達。
 しかしエルの力は凄まじく、防ぎきれなかった男達は、そのまま壁まで吹き飛ばされていく。

「エル、少しは加減をするんだぞ?」

 潰れた蛙のように壁に張り付く男達を眺め、セトナは苦笑する。
 死んではいないだろうが、相当なダメージを負っているはずだ。
 接近してくる者の相手はエルだけで充分だと判断した彼女は、持っていた弓へと矢をつがえる。
 セトナが狙うのは、敵の後方に控える魔術師。 
 獲物へと狙いを定めたセトナは、即座に矢を放つ。
 放たれた矢は男達の間をすり抜け、狙い通りに魔術師の肩へと突き刺さる。
 相手の魔術を封じたセトナは、それに満足する事無く、次々と矢を放っていった。



「嘘だろう……」

 人数は明らかに男達の方が上。
 なのにたった三人の、しかもそのうち二人は少女だというのに、相手に押されているのだ。
 信じられない光景に、男達の間に動揺が走るのも無理はなかった。
 


 スタンは敵に動揺が広がるのを感じていた。
 相手の動きが鈍くなり、連携も上手く取れなくなってきている。
 この勢いに乗れば、勝敗が着くのも間近だろう。
 破れかぶれの一撃を放って来た男の剣を受け止め、反撃を繰り出そうとする。
 しかしその時、相手の後ろで大剣を振りかぶっている男がいる事に、スタンは気が付いた。
 人ひとりを容易く切り裂けそうな巨大な剣。
 だが、スタンを狙うには早すぎる。スタンと大剣との間には、まだ対峙している男がいるのだ。
 そこでスタンは一瞬考え、嫌な答えへと辿り着く。
 味方ごと斬るつもりなのだ。

「ちぃっ!」

 相手の考えを理解したスタンは、目の前の相手を蹴り飛ばし、大剣の範囲から遠ざける。
 唸りを上げて、眼前へと迫る大剣。
 スタンはギリギリのところで剣で受けるが、体勢が悪かった。
 大剣の威力を殺しきれず、剣がへし折れる。
 それでもスタンは何とか大剣の軌道を変え、避ける事に成功した。

「仕留めきれなかったか」

 他の男達とは、身に纏う雰囲気が違った。
 大柄で、筋骨逞しいその男は大剣を構え直す。

「お頭……」

 どうやらこの一団の頭目のようだ。
 周りの男達は動きを止め、スタンと頭目の男を遠巻きにする。

「だが、武器は破壊した」

 頭目の男がニヤリと笑う。
 スタンの手に残ったのは真っ二つにされた剣。
 これではあまり役には立たないだろう。

「あああぁぁぁ!! ボ、ボクが作った剣があぁぁ!!」

 後ろの方でエルの素っ頓狂すっとんきょうな叫びが聞こえた気がしたが、スタンは聞いてはいなかった。

「今、仲間ごと斬ろうとしたのか?」

 スタンの確認に、頭目の男は残忍に笑う。

「勝つ為に必要な犠牲だ。仕方ないだろう?」
「……そうかよ」

 ニタニタと笑う頭目を相手に、スタンは腰の短剣を引き抜いた。

「そんな短剣で、俺とやろうってか?」

 彼我ひがの武器を見比べて、頭目の男は勝利を確信していた。

「そんな物で俺の剣が防げるかよ!!」

 スタンへと猛然と襲い掛かる。

「それじゃあ試してみようか」

 スタンは愛刀を逆手で持ち、豪風を巻き上げながら迫る大剣へと対峙する。


 
「ボクの作った……剣が……」
「また作ればいいだろう?」

 周囲の敵を片付けたセトナは、落ち込んでいるエルの事を励ましていた。

「せっかく師匠に使ってもらえるような剣を作れたんですよ? それなのに……」
「大丈夫だ、エルの腕前は上がってきているんだ。次も使ってもらえるさ」

 戦場に似つかわしくない空気が、二人を包む。

「ねぇ……」

 そんな二人へと、リッカは遠慮がちに声を掛けた。

「ん? どうかしたのか?」
「どうかしたのか? じゃないわよ!」

 のんびりとしたセトナの返事。
 何故セトナがそんなに平然としていられるのか分からず、リッカはつい大声を上げてしまう。

「アイツ今、押されているじゃない! 助けなくていいの!?」
「ああ、成程」

 リッカが何を言いたいのか理解したセトナは、スタン達の戦いへと視線を向け、

「まぁ、あの程度なら大丈夫だろうな」

 リッカへと、自身のある笑みを浮かべた。



 頭目の男は縦横無尽に大剣を振るう。
 よほど膂力りょりょくに優れているのだろう。
 その斬撃の速さは大剣の重さを感じさせず、次々とスタンへと襲い掛かる。
 しかし、スタンは冷静にその斬撃へと対応していた。
 繰り出される大剣へと短剣を合わせて、弾く。
 ぶつかり合った武器は、互いを傷付けあうものの、決着が着くようなものではない。
 同じような事が、すでに数回繰り返されていた。

「小賢しい野郎だな!」

 頭目はイラつきながらも大剣を振り回す。
 さっきからスタンは、防御に徹するだけで攻め込んでは来ない。
 攻めあぐねているのか、それとも体力切れを狙っているのか。
 頭目にとってはどちらでもよかった。
 このまま攻め続けて押し潰す。
 攻め続けていれば、いつかは相手の武器は折れ、戦いの手段は無くなる。
 そうやって、頭目は常に相手を屠ってきたのだ。
 短剣が折れれば、もうスタンに身を守る武器はない。渾身の一撃で真っ二つにするだけだ。
 その光景を思い浮かべ、頭目は獰猛な笑みを浮かべる。

「そろそろいいかな」

 その時、スタンがポツリと呟いた。

「何がそろそろだぁ? お前がくたばる時間かぁ!?」

 力を込めた一撃を、頭目はスタンへと振り下ろす。
 小細工も何もない、力任せの一撃だ。
 斜め上から放たれた斬撃は、短剣ごとスタンの身体を真っ二つにするだろう。
 対し、スタンは逆手に持った短剣を腰の辺りで構えると、勢い良く身体を捻り、反撃の一撃を放つ。
 互いの剣がぶつかり合い、硬質な音を広間へと響かせる。
 そして、一本の剣が折れた。



「馬鹿な……」

 茫然と呟いたのは頭目の男。
 男が振り下ろした大剣は、スタンの一撃により真っ二つにされていたのだ。
 信じられない光景に、男がよろめく。

「そんな短剣に俺の剣が……」
「こいつは俺の特別製でな」

 そんな頭目へとスタンが告げる。
 その短剣は、スタンが鍛え上げた自慢の一品。
 凶悪で、強大な力を持つと言われる暗黒龍。
 その牙から、スタンが丹精込めて作り上げた一振りだった。

「ま、残念だったな」

 茫然としていた男へと、スタンが拳を放つ。
 抵抗する事無くスタンの拳を受けた頭目は、その場へと崩れ落ちるのだった。
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