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再会の旅路
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スタン達が旅へと出始めた頃の事。
大陸南部にある王国の王都、その中でも豪勢な造りの屋敷の中で、一人の少女が祖父と対峙していた。
「お願いですから許して下さい、お爺様!」
屋敷の主の部屋。
実用性を重視した家具や調度品が揃えられたその部屋の中に、少女の叫び声が響く。
叫んだのは、魔術師達がよく着るローブに身を包んだ少女。
少女の名はアリカいい、ちょっとした縁からスタンと何度も冒険を共にした事もある、仲間であった。
「アリカよ、お前の想いは尊重してやりたいが、やはり国外はな……」
孫娘のお願いに困惑しているのはこの屋敷の主。
王国の貴族にして、国内最大の商会の会長でもある、ハンネス・ウィルベールだった。
ハンネスは執務用の机へと肘をつき、ため息を吐く。
彼は孫娘のアリカをとても可愛がっている。
孫娘の願いはなるべく叶えてやりたいのだが、今回の願いは国外への旅の許可。それも冒険者としてのものだ。
その旅には、かなりの危険が予想される。
国内であれば、ハンネスは貴族としての力や、自分の商会の力を使い、アリカを陰ながら見守る事が出来るのだが、国外ではそうはいかないのだ。
貴族としての権力は国外では通じず、商会の地盤も少ない。
国外でアリカを守る為の充分な力を、ハンネスは持っていなかったのだ。
それ故、ハンネスはアリカが国外へと出るのは反対だった。
「大旦那様、どうかお嬢様の願いを聞き届けては頂けないでしょうか」
そんなハンネスへと頭を下げたのは、アリカの傍らに控える少女。
アリカの身の回りの世話を任せていた、メイドのサラサだった。
普段は物静かで、あまり感情を顕わにしない少女なのだが、この時ばかりは違っていた。
ハンネスへと懇願する声の中には、強い想いが感じ取れた。
サラサの懇願に対し、ハンネスの顔がますます渋くなる。
少女達の想いは、彼にも分かってはいるのだ。
だからこそ、悩んでしまう。
ハンネスは大きく椅子へともたれ掛かると、腕を組み、必死になって頭を働かせた。
貴族としても、商人としても長年培ってきた知識を総動員し、どうすれば良いかを己に問う。
理性と感情とが、ハンネスの中でせめぎ合い、その葛藤が表情にも現れる。
ハンネスは今にも唸り出しそうな顔をして、悩んでいるのだ。
彼が悩んでいる間、部屋に居る者達はハンネスの決断をじっとを待っていた。
静かな部屋の中に、時折ハンネスの口から漏れ出る声だけが響く。
そうやってハンネスがいつまでも悩み続けるのではないかと思われたその時、
「……分かった」
ついにハンネスが重い口を開いた。
疲れたように肩を竦めたハンネスは、
「お前の好きなようにしなさい」
一言、アリカへとそう告げるのだった。
「ありがとう、お爺様!」
祖父の決定に、アリカは歓喜の声を上げた。
孫娘の明るい表情に、苦渋の決断を下したハンネスの気持ちも少しは明るくなる。
「ただし、旅には危険が付き物じゃ。準備はしっかりとするように。それと商会の者達から他国の知識なども聞いておくようにな」
「分かりました、お爺様」
笑みを浮かべたアリカは、サラサと頷きあい、早速行動に移る。
「それでじゃあ、早速準備に向かいますね」
「失礼します」
二人は最低限失礼の無いように、しかし慌ただしくハンネスの部屋を出ていくのであった。
「やれやれ……」
慌ただしく出ていった孫娘達に苦笑するハンネス。
本音を言えば許可を出したくは無かった。
アリカが自分の手を離れて遠くへ行ってしまう事は寂しい事だし、何よりどんな危険があるか分からないのだから。
しかし、許可を得られた時のアリカの顔は本当に嬉しそうだった。
彼女の事を想えば、この選択も間違いではなかったのかもしれないと、ハンネスは自分自身を納得させる。
「よろしかったのですか? 大旦那様」
そんなハンネスへと、黙って部屋の片隅に控えていた男が問いかけてきた。
執事服へと身を包み、もう老齢でありながらも年齢を感じさせない姿勢で立っている男。
若い頃からハンネスに仕えてくれている、老執事のエバンスだった。
そんな老執事へと、ハンネスは苦い笑みを向ける。
「仕方ないじゃろう? それに可愛い子には旅をさせよと言うしな」
「ですが、危険ではありませんか? 国内を旅をするのとは勝手が違いますし、護衛がサラサだけでは心もとないかと」
サラサはウィルベール家のメイドとして幼い頃から訓練を受けている。
その技術は家事や身の回りの世話だけに留まらず、主を守る為の戦闘技術も身に付けていた。
そこらの盗賊程度であれば、簡単に倒せるだろう。
しかし、旅にはそれ以上の危険も考えられた。
「確かにサラサだけでは心配じゃが……あの男と合流するのじゃろう? ならばある程度は安心じゃろうて」
ハンネスは、アリカの旅の目的でもある、男の事を思い出す。
前にハンネスが会った事のある、スタンという男は実力もあり、信頼の出来る男だった。
彼が一緒に旅をするのであれば、大抵の事は大丈夫だろう。
「確かに、そうですね」
主の答えを聞き、エバンスは納得した表情で頭を下げる。
エバンスもスタンとは会った事があり、アリカの護衛には充分だと思っていた。
主の考えも確認でき、安心したように顔を上げるエバンス。
しかし、続くハンネスの言葉には、思わず耳を疑いたくなった。
「とはいえ、旅は何が起こるか分からない。本当ならば陛下にお願いして、騎士団の一つや二つ、護衛に付けたかったのじゃがな」
そう、残念そうに呟くハンネス。
実際にそんな事をすれば、相手の許可なく騎士団が国境を越える事になる。
発覚すれば大問題になるのは間違いないだろう。
エバンスは自分の主の顔をチラリと窺う。
そこには本当に残念そうにしている顔があり、冗談を言っている様子はなかった。
孫娘の事となれば、時折暴走しがちな主ではあったが、今回は何とか理性が勝ったらしい。
エバンスは密かに安堵の息を吐く。
「しかし、何もしないのもやはり心配になる。遠距離であればこそ、事前に手を打っておかねばな」
窓の外の景色を眺め込み、暫く考え込んでいたハンネスは、
「そうじゃエバンス。お主に暇をやろう」
「…………は?」
唐突に振り返ると、長年仕えてくれていた執事へと、暇を出すのだった。
大陸南部にある王国の王都、その中でも豪勢な造りの屋敷の中で、一人の少女が祖父と対峙していた。
「お願いですから許して下さい、お爺様!」
屋敷の主の部屋。
実用性を重視した家具や調度品が揃えられたその部屋の中に、少女の叫び声が響く。
叫んだのは、魔術師達がよく着るローブに身を包んだ少女。
少女の名はアリカいい、ちょっとした縁からスタンと何度も冒険を共にした事もある、仲間であった。
「アリカよ、お前の想いは尊重してやりたいが、やはり国外はな……」
孫娘のお願いに困惑しているのはこの屋敷の主。
王国の貴族にして、国内最大の商会の会長でもある、ハンネス・ウィルベールだった。
ハンネスは執務用の机へと肘をつき、ため息を吐く。
彼は孫娘のアリカをとても可愛がっている。
孫娘の願いはなるべく叶えてやりたいのだが、今回の願いは国外への旅の許可。それも冒険者としてのものだ。
その旅には、かなりの危険が予想される。
国内であれば、ハンネスは貴族としての力や、自分の商会の力を使い、アリカを陰ながら見守る事が出来るのだが、国外ではそうはいかないのだ。
貴族としての権力は国外では通じず、商会の地盤も少ない。
国外でアリカを守る為の充分な力を、ハンネスは持っていなかったのだ。
それ故、ハンネスはアリカが国外へと出るのは反対だった。
「大旦那様、どうかお嬢様の願いを聞き届けては頂けないでしょうか」
そんなハンネスへと頭を下げたのは、アリカの傍らに控える少女。
アリカの身の回りの世話を任せていた、メイドのサラサだった。
普段は物静かで、あまり感情を顕わにしない少女なのだが、この時ばかりは違っていた。
ハンネスへと懇願する声の中には、強い想いが感じ取れた。
サラサの懇願に対し、ハンネスの顔がますます渋くなる。
少女達の想いは、彼にも分かってはいるのだ。
だからこそ、悩んでしまう。
ハンネスは大きく椅子へともたれ掛かると、腕を組み、必死になって頭を働かせた。
貴族としても、商人としても長年培ってきた知識を総動員し、どうすれば良いかを己に問う。
理性と感情とが、ハンネスの中でせめぎ合い、その葛藤が表情にも現れる。
ハンネスは今にも唸り出しそうな顔をして、悩んでいるのだ。
彼が悩んでいる間、部屋に居る者達はハンネスの決断をじっとを待っていた。
静かな部屋の中に、時折ハンネスの口から漏れ出る声だけが響く。
そうやってハンネスがいつまでも悩み続けるのではないかと思われたその時、
「……分かった」
ついにハンネスが重い口を開いた。
疲れたように肩を竦めたハンネスは、
「お前の好きなようにしなさい」
一言、アリカへとそう告げるのだった。
「ありがとう、お爺様!」
祖父の決定に、アリカは歓喜の声を上げた。
孫娘の明るい表情に、苦渋の決断を下したハンネスの気持ちも少しは明るくなる。
「ただし、旅には危険が付き物じゃ。準備はしっかりとするように。それと商会の者達から他国の知識なども聞いておくようにな」
「分かりました、お爺様」
笑みを浮かべたアリカは、サラサと頷きあい、早速行動に移る。
「それでじゃあ、早速準備に向かいますね」
「失礼します」
二人は最低限失礼の無いように、しかし慌ただしくハンネスの部屋を出ていくのであった。
「やれやれ……」
慌ただしく出ていった孫娘達に苦笑するハンネス。
本音を言えば許可を出したくは無かった。
アリカが自分の手を離れて遠くへ行ってしまう事は寂しい事だし、何よりどんな危険があるか分からないのだから。
しかし、許可を得られた時のアリカの顔は本当に嬉しそうだった。
彼女の事を想えば、この選択も間違いではなかったのかもしれないと、ハンネスは自分自身を納得させる。
「よろしかったのですか? 大旦那様」
そんなハンネスへと、黙って部屋の片隅に控えていた男が問いかけてきた。
執事服へと身を包み、もう老齢でありながらも年齢を感じさせない姿勢で立っている男。
若い頃からハンネスに仕えてくれている、老執事のエバンスだった。
そんな老執事へと、ハンネスは苦い笑みを向ける。
「仕方ないじゃろう? それに可愛い子には旅をさせよと言うしな」
「ですが、危険ではありませんか? 国内を旅をするのとは勝手が違いますし、護衛がサラサだけでは心もとないかと」
サラサはウィルベール家のメイドとして幼い頃から訓練を受けている。
その技術は家事や身の回りの世話だけに留まらず、主を守る為の戦闘技術も身に付けていた。
そこらの盗賊程度であれば、簡単に倒せるだろう。
しかし、旅にはそれ以上の危険も考えられた。
「確かにサラサだけでは心配じゃが……あの男と合流するのじゃろう? ならばある程度は安心じゃろうて」
ハンネスは、アリカの旅の目的でもある、男の事を思い出す。
前にハンネスが会った事のある、スタンという男は実力もあり、信頼の出来る男だった。
彼が一緒に旅をするのであれば、大抵の事は大丈夫だろう。
「確かに、そうですね」
主の答えを聞き、エバンスは納得した表情で頭を下げる。
エバンスもスタンとは会った事があり、アリカの護衛には充分だと思っていた。
主の考えも確認でき、安心したように顔を上げるエバンス。
しかし、続くハンネスの言葉には、思わず耳を疑いたくなった。
「とはいえ、旅は何が起こるか分からない。本当ならば陛下にお願いして、騎士団の一つや二つ、護衛に付けたかったのじゃがな」
そう、残念そうに呟くハンネス。
実際にそんな事をすれば、相手の許可なく騎士団が国境を越える事になる。
発覚すれば大問題になるのは間違いないだろう。
エバンスは自分の主の顔をチラリと窺う。
そこには本当に残念そうにしている顔があり、冗談を言っている様子はなかった。
孫娘の事となれば、時折暴走しがちな主ではあったが、今回は何とか理性が勝ったらしい。
エバンスは密かに安堵の息を吐く。
「しかし、何もしないのもやはり心配になる。遠距離であればこそ、事前に手を打っておかねばな」
窓の外の景色を眺め込み、暫く考え込んでいたハンネスは、
「そうじゃエバンス。お主に暇をやろう」
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