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再会の旅路 8
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「馬車を頼んだぞ」
そう言い残したスタンは、セトナ達の目の前で躊躇なく崖下へと身を投じた。
「あの馬鹿! 本当に飛び降りたぞ!?」
突然の出来事に驚き、耳と尻尾を逆立てたセトナは、慌ててスタンが飛び降りた崖下を覗き込んだ。
「無茶をするなと言っているのに、アイツはいつもいつも……!」
段々と小さくなっていくスタンの姿であったが、セトナの目にはスタンが魔術を行使し、無事にアリカ達の下へと降り立ったのを確認する事が出来た。
それでも、セトナの心は穏やかにはならなかった。
「心配を掛けさせるなと、あれ程言っているのに……!」
わなわなと身体を震わせるセトナ。
その横では、エルがスタンの飛び降りた先を、じっと見詰めていた。
「……よし」
何かを決意したように頷いたエルは、馬車へと踵を返す。
そして、荷台から自分の戦鎚を取り出し、再び崖の前へと戻ってきた。
「……おいエル、何をするつもりだ?」
強い眼差しで崖下を見詰めるエルの姿に、セトナは嫌な予感を覚える。
「決まってますよセトナさん。ボク達も行くんです」
「……なに?」
エルの行動から、ある程度は予想できる答えだった。
しかし実際に言葉で言われても、セトナの頭が理解するのには、数秒の時間が掛かった。
そんなセトナに対し、少々こわばってはいたものの、明るい笑みを向けるエル。
「魔物の数も多そうですし、ボク達も手伝った方がいいですよね? だから……行きましょうよ、セトナさん」
「待て、待つんだエル」
恐ろしい物でも見たかのように、セトナは首を横へと振った。
「この高さか落ちたら普通は助からないからな? 無理にあいつの真似をする必要はないんだぞ?」
何とかエルを説得しようとしたものの、
「でも、師匠が何事も挑戦してみないと分からないもんだって言っていましたし」
「あいつの言う事を鵜呑みにするんじゃない!」
エルの決意を曲げられそうにはなかった。
絶対にあとでスタンに文句を言ってやろうと決めたセトナは、力尽くでもエルを止めようとしたのだが、
「それじゃあ、先に行きますよ」
それよりも早く、戦鎚を担いだエルは、スタンと同じように崖下へとその身を躍らせてしまう。
「エル!?」
慌てて下を覗き込んだセトナの瞳に映ったのは、小さくなっていくエルの姿だった。
「ああもう……どうにでもなれ!」
半ば自棄になりながらも、セトナは覚悟を決める。
そして彼女も、エルの後を追うように、崖から飛び降りていくのだった。
スタンが来た事により、気力を取り戻したアリカとサラサではあったが、体力の方は限界に近かった。
そんな少女達の状態を確認したスタンは、早めに決着を着けるべく、魔物の群れの中へと斬り込んで行った。
向かってくる魔物を斬り捨て、女王蜂へと向かい、真っ直ぐに突き進んでゆく。
しかし、魔物の群れとて黙ってはいない。
女王を狙う相手に対し、包囲するように群がっていくのだが、
「炎よ、我が敵を打ち払え! 火炎球!」
魔術で作り出された火球が飛来し、スタンを狙う魔物を焼き払っていった。
「上出来だぜ、アリカ」
アリカの援護を受けたスタンは、背後を気にする事なく前へと進んでいく。
だが、それを阻止するかのように、大型の魔物が二匹、その進路を塞いだ。
威嚇するかのように、翅を激しく震わせる二匹の魔物。
「面倒だな、一気に……ん?」
流石に今までのようにはいかないかと思ったスタンは、魔術を使って一気に片を付けようする。
しかしその時、上空から降ってくる二つの影に気が付いた。
「おいおい……あいつら、無茶をするなぁ」
「でりゃああぁぁぁぁぁ!!」
スタンが苦笑する目の前で、上空から降ってきたエルが、勢いもそのままに魔物の頭へと戦鎚を振り下ろす。
落下の勢いと、重量のある戦鎚の一撃。
魔物の頭はひしゃげ、そのまま地面へと押し潰されていった。
「でぇいっ!」
同じように落ちてきたセトナも、残る大型の魔物へとぶつかり、手に持っていた山刀を魔物の首筋へと突き立てる。
突然の激痛に、もがき苦しみ暴れる魔物。
「ええいっ! しぶとい奴め……うわっ!?」
山刀を横へと動かし、魔物へ止めを刺したセトナだったが、体勢を崩し、魔物の上から振り落とされてしまう。
硬い地面へと投げ出されることを覚悟するセトナ。
しかしその感触は思っていたよりも柔らかく、温かなものだった。
「大丈夫か?」
セトナの目の前へと現れる、スタンの顔。
そこでセトナは、自分がスタンに抱きかかえられている事に気が付いた。
「あ、ああ……すまない。おかげで助かった」
「気にするなよ。どこか痛めてはいないか?」
怪我がないか確かめるように、セトナの身体を眺めるスタン。
近くに見えるスタンの横顔に、セトナの頬が赤くなっていく。
「問題は無い。が、その……恥ずかしいから早く下ろしてくれ」
「おっと、悪かったな」
恥ずかしげに視線を逸らすセトナを、スタンは優しく地面へと立たせた。
その様子を見ていたエルが、頬を膨らませる。
「師匠! ずるいですよ! セトナさんだけ受け止めるなんて!」
「無茶を言うなよ、エル。流石にお前を受け止める事はできないだろ? 俺が潰される」
「むー! ボクはそんなに重くありませんよ!」
「いや、お前じゃなくて、その戦鎚がだな……」
戦いの最中だというのに、場違いな会話を繰り広げるスタン達。
そんな彼らを狙って襲い掛かろうとした魔物は、飛んできた火球に包まれ、火達磨となった。
「あんた達! 今は戦いの最中なのよ! のんびりしてないで、ちゃんと戦いなさいよ!」
次いで飛んでくる、アリカの怒声。
その横では、サラサがアリカを落ち着かせようと、努力している姿が見えた。
「あー……悪かったな、アリカ」
振り抜こうとしていた短剣を下ろし、スタンはアリカへと謝罪する。
エルとセトナもバツの悪そうな顔をした後、しっかりと気合を入れ直した。
「それじゃあアリカが怖いから、魔物退治に戻るとしようか」
「はい、師匠!」
「任せておけ」
「ちょっと! あなた達ねぇ!?」
再び上がるアリカの怒鳴り声。
そんなアリカの声を背にし、三人は再び戦いを開始した。
そう言い残したスタンは、セトナ達の目の前で躊躇なく崖下へと身を投じた。
「あの馬鹿! 本当に飛び降りたぞ!?」
突然の出来事に驚き、耳と尻尾を逆立てたセトナは、慌ててスタンが飛び降りた崖下を覗き込んだ。
「無茶をするなと言っているのに、アイツはいつもいつも……!」
段々と小さくなっていくスタンの姿であったが、セトナの目にはスタンが魔術を行使し、無事にアリカ達の下へと降り立ったのを確認する事が出来た。
それでも、セトナの心は穏やかにはならなかった。
「心配を掛けさせるなと、あれ程言っているのに……!」
わなわなと身体を震わせるセトナ。
その横では、エルがスタンの飛び降りた先を、じっと見詰めていた。
「……よし」
何かを決意したように頷いたエルは、馬車へと踵を返す。
そして、荷台から自分の戦鎚を取り出し、再び崖の前へと戻ってきた。
「……おいエル、何をするつもりだ?」
強い眼差しで崖下を見詰めるエルの姿に、セトナは嫌な予感を覚える。
「決まってますよセトナさん。ボク達も行くんです」
「……なに?」
エルの行動から、ある程度は予想できる答えだった。
しかし実際に言葉で言われても、セトナの頭が理解するのには、数秒の時間が掛かった。
そんなセトナに対し、少々こわばってはいたものの、明るい笑みを向けるエル。
「魔物の数も多そうですし、ボク達も手伝った方がいいですよね? だから……行きましょうよ、セトナさん」
「待て、待つんだエル」
恐ろしい物でも見たかのように、セトナは首を横へと振った。
「この高さか落ちたら普通は助からないからな? 無理にあいつの真似をする必要はないんだぞ?」
何とかエルを説得しようとしたものの、
「でも、師匠が何事も挑戦してみないと分からないもんだって言っていましたし」
「あいつの言う事を鵜呑みにするんじゃない!」
エルの決意を曲げられそうにはなかった。
絶対にあとでスタンに文句を言ってやろうと決めたセトナは、力尽くでもエルを止めようとしたのだが、
「それじゃあ、先に行きますよ」
それよりも早く、戦鎚を担いだエルは、スタンと同じように崖下へとその身を躍らせてしまう。
「エル!?」
慌てて下を覗き込んだセトナの瞳に映ったのは、小さくなっていくエルの姿だった。
「ああもう……どうにでもなれ!」
半ば自棄になりながらも、セトナは覚悟を決める。
そして彼女も、エルの後を追うように、崖から飛び降りていくのだった。
スタンが来た事により、気力を取り戻したアリカとサラサではあったが、体力の方は限界に近かった。
そんな少女達の状態を確認したスタンは、早めに決着を着けるべく、魔物の群れの中へと斬り込んで行った。
向かってくる魔物を斬り捨て、女王蜂へと向かい、真っ直ぐに突き進んでゆく。
しかし、魔物の群れとて黙ってはいない。
女王を狙う相手に対し、包囲するように群がっていくのだが、
「炎よ、我が敵を打ち払え! 火炎球!」
魔術で作り出された火球が飛来し、スタンを狙う魔物を焼き払っていった。
「上出来だぜ、アリカ」
アリカの援護を受けたスタンは、背後を気にする事なく前へと進んでいく。
だが、それを阻止するかのように、大型の魔物が二匹、その進路を塞いだ。
威嚇するかのように、翅を激しく震わせる二匹の魔物。
「面倒だな、一気に……ん?」
流石に今までのようにはいかないかと思ったスタンは、魔術を使って一気に片を付けようする。
しかしその時、上空から降ってくる二つの影に気が付いた。
「おいおい……あいつら、無茶をするなぁ」
「でりゃああぁぁぁぁぁ!!」
スタンが苦笑する目の前で、上空から降ってきたエルが、勢いもそのままに魔物の頭へと戦鎚を振り下ろす。
落下の勢いと、重量のある戦鎚の一撃。
魔物の頭はひしゃげ、そのまま地面へと押し潰されていった。
「でぇいっ!」
同じように落ちてきたセトナも、残る大型の魔物へとぶつかり、手に持っていた山刀を魔物の首筋へと突き立てる。
突然の激痛に、もがき苦しみ暴れる魔物。
「ええいっ! しぶとい奴め……うわっ!?」
山刀を横へと動かし、魔物へ止めを刺したセトナだったが、体勢を崩し、魔物の上から振り落とされてしまう。
硬い地面へと投げ出されることを覚悟するセトナ。
しかしその感触は思っていたよりも柔らかく、温かなものだった。
「大丈夫か?」
セトナの目の前へと現れる、スタンの顔。
そこでセトナは、自分がスタンに抱きかかえられている事に気が付いた。
「あ、ああ……すまない。おかげで助かった」
「気にするなよ。どこか痛めてはいないか?」
怪我がないか確かめるように、セトナの身体を眺めるスタン。
近くに見えるスタンの横顔に、セトナの頬が赤くなっていく。
「問題は無い。が、その……恥ずかしいから早く下ろしてくれ」
「おっと、悪かったな」
恥ずかしげに視線を逸らすセトナを、スタンは優しく地面へと立たせた。
その様子を見ていたエルが、頬を膨らませる。
「師匠! ずるいですよ! セトナさんだけ受け止めるなんて!」
「無茶を言うなよ、エル。流石にお前を受け止める事はできないだろ? 俺が潰される」
「むー! ボクはそんなに重くありませんよ!」
「いや、お前じゃなくて、その戦鎚がだな……」
戦いの最中だというのに、場違いな会話を繰り広げるスタン達。
そんな彼らを狙って襲い掛かろうとした魔物は、飛んできた火球に包まれ、火達磨となった。
「あんた達! 今は戦いの最中なのよ! のんびりしてないで、ちゃんと戦いなさいよ!」
次いで飛んでくる、アリカの怒声。
その横では、サラサがアリカを落ち着かせようと、努力している姿が見えた。
「あー……悪かったな、アリカ」
振り抜こうとしていた短剣を下ろし、スタンはアリカへと謝罪する。
エルとセトナもバツの悪そうな顔をした後、しっかりと気合を入れ直した。
「それじゃあアリカが怖いから、魔物退治に戻るとしようか」
「はい、師匠!」
「任せておけ」
「ちょっと! あなた達ねぇ!?」
再び上がるアリカの怒鳴り声。
そんなアリカの声を背にし、三人は再び戦いを開始した。
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