とある鍛冶屋の放浪記

馬之屋 琢

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再会の旅路 9

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 セトナとエルを加えたスタンは、多くの魔物を排除しつつ、ついに女王の前へと辿り着いた。
 巣から出てくる魔物もいなくなり、あとは女王さえ倒せば終わるのだが、

「こいつは少し面倒だな!」

 横へと飛び、突進してくる女王を回避するスタン。
 女王が通り過ぎた先では、生えていた樹々がへし折られ、大きな音を立てて倒れていった。

 巨体であるという事は、それだけで脅威となる。
 他の蜂型の魔物が顎や毒針を用いて攻撃してきたのと違い、巨大な躰を持つ女王は、それ自体が武器となるのだ。
 立ち塞がる木々を薙ぎ払い、スタン達を押し潰そうと迫るその姿は、さながら投石器から撃ち出された岩石のようだった。
 さらに厄介なのは、そのような巨体にも関わらず、虫本来の素早さを失っていない事だ。

「このぉっ!」

 エルが、女王の突進に合わせて振るった戦鎚ハンマーの一撃を、その直前で軌道を変えて、ひらりとかわしてしまう。

「すばしっこい奴め!」

 まだ残っていた小型の魔物を倒しながら、セトナも女王へと向かい矢を放った。
 しかし、その巨体の前では効果は薄い。
 眼球にでも当てられれば、致命的な傷を負わせる事が出来るのだろうが、さすがにそれは女王も許さない。
 大きな傷を負うような攻撃は、しっかりと回避していた。

「アリカが魔術を使えれば楽なんだが……そうも言っていられないか」

 スタンが後方で控えているアリカ達へと視線を向ける。
 限界まで魔術を撃ち続けたアリカは今、地面へとへたり込んでいた。
 サラサがすぐ傍に控えているから心配はないだろうが、これ以上、魔術を唱えるのは難しいだろう。

「さて、どうするべきかな……」

 スタンであれば、女王の速さに対応する事はできる。
 しかし、相手は空を自由に飛び回っているのだ。
 捕まえるのは、なかなか骨の折れる話であった。

「ま、何とかするしかないよな」

 気軽そうに、そう言い放ったスタンは短剣を片手に、女王へと食らい付いていくのだった。



 体力のギリギリまで魔術を行使したアリカは、その場に座り込みながらも、しっかりとスタン達の戦いを見届けていた。

「……手こずっているみたいね」
「相手もなかなか素早いようですので、捕まえるのに苦労しているみたいです」
「そうね……このまま任せている訳にはいかないかしら」
「お嬢様? 何を……?」

 戸惑っているサラサの目の前で、アリカはゆっくりと立ち上がった。

「いけません、お嬢様の体力はもう限界です。ここはスタン様達に任せてお休み下さい」
「そうも言ってられないわよ」

 サラサの言葉に、アリカは苦笑いする。

「別に、スタン達が負けるとは思ってないわよ。ただ、このまま任せておくと、また無茶をしかねないからね、アイツは」
「それはそうかもしれませんが……お嬢様の今の状態で、これ以上の魔術を唱えるのは……」
「大丈夫よ」

 強い意志を込めた顔で、アリカはきっぱりと言い切った。
 そして彼女は、強気な笑みを見せる。

「これくらい、スタンがやる無茶に比べれば大した事はないわ」

 止めるのは難しいと判断したサラサは、心配そうな顔をしながらも、アリカの好きにさせる事にした。
 魔術の邪魔にならぬよう、後ろへと控える。

「ありがとうね」

 微笑みながら、サラサへと礼を言うアリカ。
 そして彼女は目を閉じ、魔術の準備を開始した。



 後方での異変を感じ、アリカ達の方を振り向いたセトナは、目を丸くした。
 疲れ果てていたはずのアリカが立ち上がり、魔術を唱えようとしていたのを目撃したからだ。

「アリカ? もう魔術を撃てる体力はないだろうに……」

 表情を見てみると、彼女がだいぶ無理をしている事が分かる。
 それでもアリカは歯を食いしばり、魔術を唱えようと集中していた。

「まったく……アリカまでアイツに影響されたのか?」

 やれやれと肩をすくめたセトナは、手にしていた矢を放った後、近くにいたエルへと声を掛けた。



「ちぃっ! そっちへ行ったぞ!」

 森の地形を上手く利用し、女王を追走していたスタンだったが、残っていた魔物に邪魔をされ、振り払われてしまう。
 女王はそのまま空中でくるりと向きを変えると、セトナへと向かい突進していった。

「大丈夫だ。問題無い」

 自分へと迫ってくる女王の巨体。
 しかしセトナは焦る事なく狙いを定め、矢を放った。
 矢は、狙い通りに女王の眼球へと向かい、まっすぐに飛んでゆく。
 だが、やはりというべきか、女王は横へと躰をずらし、それを躱してしまう。
 その時、樹の陰から一つの影が飛び出していった。

「ここだぁ!!」

 女王が回避した瞬間を狙い、すかさず戦鎚を振るうエル。
 しかし、わずかに女王の方が早かった。
 エルから距離を取るように急上昇し、戦鎚を回避する。
 振るわれた戦鎚はかすりはしたものの、傷を負わせるには至らなかった。 
 だが、二度の急な方向転換、そしてエルのかすった一撃に怯み、さすがの女王も体勢を崩す。

「今だ! やれ! アリカ!」

 魔物の動きが止まったのを目にしたセトナが、大きな声で叫んだ。
 その声は、後方で魔術へと集中していたアリカの耳まで、しっかりと届いてた。
 セトナの声に応じて、アリカは目を開き、そして、唱えた。

「灼熱の炎よ、怒りと共に噴き出し、我が敵を滅せよ! 灼炎噴出イラプション!!」

 アリカの詠唱と共に大地が隆起し、炎が噴き出した。

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