とある鍛冶屋の放浪記

馬之屋 琢

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再会の旅路 10

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 アリカの唱えた魔術。
 それは、先程スタン達が遠くから見た、炎の魔術だった。
 地の底より灼熱の炎が噴出し、勢い良く空へと立ち昇ってゆく。
 その途上にいた、蜂の女王をも飲み込みながら。
 灼熱の炎の中へと飲み込まれた女王は、全身を焼かれ、激しく暴れ回った。
 躰の大半は焼かれ、片方の触角も焼け落ちていく。
 それでも、女王の生命力は凄まじかった。
 ボロボロになりながらも、炎の柱が消えるまで耐えきったのである。

「やっぱり……この状態じゃ、完璧にはいかなかったみたいね……」

 疲れ切った顔で、アリカは魔術の結果を確認していた。
 やはり疲労のせいで、先程よりも魔術の威力が落ちてしまっていた。それ故に、女王を倒しきれなかったのだ。
 残念そうな顔で、地面へと倒れかけるアリカ。
 傍らに控えていたサラサがすかさず駆け寄り、そんなアリカを支える。

「お嬢様……!」
「大丈夫よ、サラサ。少し疲れただけだから」

 心配するサラサに、アリカは何とか笑みを見せる。
 そして、倒しきれなかった女王を見上げ、つぶやいた。

「仕方ないわね、トドメは任せたわよ……スタン」

 その呟きに応えるかのように、一つの影が、空へと飛翔した。



「ああ、任せておけよ、アリカ」

 樹を駆け上がり、空へと跳躍したスタンは、女王の眼前へと飛び込んでいった。
 右手に構えるのは、魔術で練った暴風の塊。
 生命の危機を確認した女王は、何とか避けようとボロボロの翅を震わるが、

「逃がす訳ないだろうが……アリカがあれだけ頑張ったんだからなぁ!」

 スタンが、女王の顔面へと風の塊を叩き付けた。
 押し留められていた暴風が弾け、凄まじい衝撃が周囲へと襲い掛かる。
 すでに瀕死であった女王に、あらがすべは無かった。
 荒れ狂う風に屈し、その巨体が地上へと落下していく。
 断末魔の咆哮をあげた女王が落ちていく先、そこにあったのは、己が巣としていた場所。
 その上へと勢い良く落下した女王は、その身で自らの巣を押し潰し、全てを終わらせたのだった。
 


「おい? 大丈夫か?」

 樹へと背中を預け、座り込んでいたアリカは、聞こえてきた声に応じて、閉じていた目を開いた。
 開いた視界の中に映ったのはスタンの顔。
 いつもと変わらないような表情ではあったが、その目は真剣にアリカの状態を確認していた。
 そんなスタンに対し、アリカは笑みを見せる。

「ええ、平気よ、これくらい」
「そうは見えないがな」

 自分の言葉を信用していない様子のスタンに対し、アリカは意地の悪そうな顔で言い返してやった。

「何を言ってるのよ。貴方がいつもやっている無茶に比べれば、大した事はないでしょ?」

 アリカのその言葉に、スタンは言い返す事が出来なかった。ただ困ったように、肩をすくめてしまう。
 そんなスタンの姿を、面白そうに眺めるアリカ。

「ただ……やっぱり少し疲れたわね。あとの事は任せて、少し休んでもいいかしら?」
「ああ、それくらいなら任せておけ。お前は頑張ったんだから、ゆっくりと休め」

 スタンの優しい答えに、アリカは微笑んだ。

「そう、ありがとうね、スタン」

 そしてその場でゆっくりと目を閉じ、安らかな寝息を立て始める。
 その顔はとても穏やかで、嬉しそうなものだった。

「よほど師匠に会えて嬉しかったんでしょうね」
「ああ、そうだな」

 アリカの寝顔を眺め、セトナとエルも嬉しそうに微笑む。
 彼女達も、アリカ達と再び会えた事が嬉しいのだ。

「サラサも、あとは俺達に任せて、休んでいていいぞ」
「いえ、私はまだ大丈夫ですので」

 スタンの気遣いに対して、サラサは首を横へと振る。
 アリカと共に戦闘をしていたのだから、サラサも疲れているはずだった。
 しかし、その表情には無理をしている様子はない。
 むしろ普段の彼女に比べれば、明るいようにも思われた。
 だからスタンもそれ以上は何も言わず、サラサの好きなようにさせる。

「そうか。だが、あんまり無理はするなよ? 辛くなったら、ちゃんと休むようにな」
「はい」

 嬉しそうに答えたサラサに頷き返すと、スタンは寝ているアリカを抱きかかえた。

「それじゃあ、アリカを馬車で休ませてやらないとな」

 その様子を、羨ましそうな目で眺める少女達。
 しかし、寝ているアリカを起こす訳にもいかず、文句は出せなかった。
 サラサの誘導に従い、アリカを彼女達の馬車へと運ぶスタン。
 彼はそこで、ふとした事に気が付いた。

「そう言えば、俺達の馬車はどうしたんだ?」
「……あっ」

 スタンの質問に対し、間の抜けた声をあげるエル。
 セトナは気まずそうに、顔を横へとそむけた。

「おいおい、お前らなぁ……」

 その様子に、全てを察したスタンは呆れたような声を出す。

「いや、師匠。これはですねぇ……」
「それはその、エルが……いや、そもそもお前が全ての原因であってだな……」
「あの、皆さん。そんなに騒いではお嬢様が……」

 言い合いを始めるセトナ達と、それを止めようと、あたふたするサラサ。
 ぎゃあぎゃあと騒がしくなる彼らの輪の中で、アリカは幸せそうな顔で、眠っているのだった。



 ~再会の旅路・了~
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