異世界転……生? いいえ、呼ばれたのは魂だけです

馬之屋 琢

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発覚する事実 その二

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「もしかして……戻せないのかな?」

 恐る恐る確認する春人に対し、エミリィは再び頭を下げ始める。

「すみません! すみません! 呼び出す方に必死になってて、戻し方はまだ……」

 呼び出す練習するのであれば、まずは戻す方法を覚えてからにするべきではないだろうか?
 そう思った春人だったが、何度も頭を下げるエミリィに、文句を言う気にはなれなかった。

「何か、調べる方法とかはないのかい?」
「それなら、本で調べてみれば、多分……」

 自信なさそうに言いながら、エミリィは部屋の隅へと行き、置いてあった本を持って来た。
 パラパラと本をめくり、内容を確認していくエミリィ。

「俺にも見せて貰っていいかな?」
「どうぞ……って、マトバさんから見えますか? 位置とか変えた方が良いですか?」

 本を開いたまま、上にあげたり、横へと移動させたりするエミリィ。
 エミリィには自分の姿が見えていないのだという事を、春人は思い出した。
 変な踊りの様な動きをする少女の姿にクスリと笑い、春人はエミリィの方へと移動する。

「大丈夫、見える位置に移動するから。ちょっと近くへと寄らせて貰うよ」
「あ、はい。どうぞ」

 許可を貰った春人は、エミリィのすぐ真横まで移動する事にした。
 そして、エミリィの肩越しに、本の中身を覗き込んだのだが、

「……何だこれ?」

 本には、春人の見た事もない文字が、びっしりと書き込まれていた。

「リューンベルさん。この本は、何語で書かれているんだい?」
「ヒャアッ!?」

 突然耳元から聞こえてきた春人の声に、エミリィは奇声を上げて飛び上がった。

「あ……すまない、リューンベルさん。驚かせてしまって」

 姿が見えないのだから、相手には自分がどこにいるか分からないのだ。
 突然、近くから声を掛けられれば、驚きもするに決まっている。
 自分の迂闊さを、春人は改めて思い知った。

「い、いえ、私こそすみません。ただちょっと距離が近すぎたというか、耳元で突然ささやかれて、ビックリしたと言いますか……と、とにかく、次は大丈夫です! ちゃんと心構えをしておきますので、はい!」

 驚きから立ち直ったエミリィは、気合を入れ直した。

「さぁ、どうぞ! マトバさん! 覚悟完了です!」

 そして、春人を待ち構えるかのように、両腕を広げたエミリィだったが、

「リューンベルさん……何の覚悟が完了したかは分からないけど、それじゃあ本が見えないよ……」
「あ、そうですよね。すみません……」

 春人に指摘され、しゅんとしてしまう。
 そんなエミリィに苦笑いしつつ、春人は先ほどの質問を繰り返した。

「えっと、俺が聞きたい事は、その本が、何語で書かれているかって事なんだけど……」
「この本に書かれている文字ですか? メルリクス語ですけど?」

 またもや春人には、聞いた事の無い言葉だった。

「えっと……メルリクス語? それはこの国独自の言葉なのかな?」
「いいえ? メルリクス大陸全土で使われている言語ですよ?」

 キョトンとした顔をするエミリィ。
 その言葉と表情に、春人は再び嫌な予感を感じた。
 そんな大陸の名前など、聞いた事がないのだから。

「メルリクス大陸? 大陸全体で使われている言葉? 英語とかではなくて?」
「英……語、ですか? そのような言葉は聞いた事がないですけど?」

 エミリィの答えに、愕然がくぜんとなる春人。
 あまりにも予想外の事に、冷静さを保つ事が出来なかった。

「リューンベルさん! アメリカやイギリスという国は聞いた事がないかい!? 中国やロシアとかでもいい! どれか聞いた事のある国はないかい!?」
「す、すみません、マトバさん。どの国も聞いた事が……」

 勢い良く、有名な国名をくし立ててていく春人だったが、どの国名にも、エミリィ反応は鈍かった。

(どういう事なんだ? さすがに今挙げた国の名前を知らない人なんて、この世界に居るのだろうか……俺はいったい、どこに呼ばれたんだ!?)

 混乱する思考を、何とかまとめようとする春人だったが、なかなか上手くいきそうにはなかった。
 それでも懸命に、自分のすべき行動を考える。

「……リューンベルさん。外に出してもらう事は、できるのかな……?」
「はい、多分大丈夫だと思いますけど……」
「お願い、できないかな……?」

 幽鬼の様な声で、頼み込む春人。

「……分かりました」

 春人の声に、尋常ならざるものを感じたエミリィは、春人の願いを受け入れ、部屋の外へと通じる、扉へと向かった。
 
「こちらです」

 開け放たれた扉の先は、部屋と同じような、石壁で作られた廊下になっていた。
 扉をくぐり、春人を先導するように歩き出すエミリィ。
 春人も大人しく、その後を付いて行く。
 薄暗い廊下の突き当り、そこには、上へと通じる階段があった。
 階段をゆっくりと上り始めるエミリィ。
 後を付いて行く春人もゆっくりと上っていくが、その内心では、緊張と困惑が渦巻いていた。
 その心を懸命に抑えながら上った先では、古ぼけた木で作られた扉が、その行く手を塞いでいた。

「マトバさん、付いて来ていますか?」
「ああ、ここに居るよ」

 春人の姿が見えないエミリィは、声を掛け、春人が居る事を確認し、

「では、開けますよ」

 外へと通じる扉を開くのだった。



 春人の目にまず飛び込んできたのは、蝋燭ろうそくの明かりとは違う、温かな陽の光だった。
 薄暗い建物の中に居た春人は、陽の眩しさに、目がくらむ。
 だが、その明かりにも徐々に慣れていき、次第に、外の風景が見えるようになってきた。
 目に映るのは、豊かな緑と中世西欧風の、おもむきのある、大きな建物。
 ここは学園の中だと、エミリィ言っていたので、恐らく、校舎か何かなのだろう。
 この景色だけであるならば、春人が以前テレビで見た、西欧の田舎の風景と、何ら変わりはなかった。

 だが、

「……リューンベルさん、あの……空を飛んでいるのは、何なんだい……?」
「あれですか? あれは……学園で飼っている飛竜ですね」

 学園の空には、春人の常識ではありえないものが、飛んでいたのだ。
 映画や、マンガの世界でしか見た事がない、竜というものが。

「は……はははっ……」

 春人には、乾いた笑い声を出すのが精一杯だった。
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