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発覚する事実
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「マトバ、ハルトさん……ですか? 珍しいお名前ですね」
春人の名前を聞いたエミリィは、不思議そうな顔をしていた。
(あまり日本と関わりのない国の人なのか? それとも……)
世界には、自分の知らない小さな国だってあるのだ。
日本風の名前を知らない人がいても、不思議ではない。
エミリィと話ながらも、春人は現状を理解しようと、頭を働かせていた。
何しろ春人は今、自分がどういう状況なのか、まったく理解していないのだ。
現在の時間も、場所も、そして、己の生死さえも……。
焦る気持ちを抑えつつ、自己紹介を終えた春人は、早速、質問を始める。
「じゃあ、リューンベルさん。質問なんだけど、ここは一体どこなんだい?」
まずは、場所の確認をする事にした。
今、自分が居る場所がどこか分かれば、少しは状況が分かるはずだ。
例え、ここがあの世だったとしても……。
心の中で覚悟を決めつつ、春人はエミリィの答えを待った。
だが、
「ここは、学園の地下実習室ですよ?」
エミリィから返ってきた答えは、少々、的外れな答えだった。
何故、そんな当たり前の事を聞くのか分からないといった表情を、彼女はしていたのだ。
「あ~……そうじゃなくてね、リューンベルさん……」
肩透かしを食らった春人だったが、何とか気持ちを持ち直し、もう一度、今度は自分の事情を説明しながら、質問をした。
「信じて貰えないかもしれないけど、実は俺は……気が付いたら、この場所にいたんだ。だから、ここがどこだか、何でここにいるのかも、さっぱり分かってないんだ」
「あ! そうでした! そうですよね! 急にここに呼ばれてしまったんだから、当然ですよね!」
信じて貰えるかどうか不安だった春人だったが、エミリィは納得した様子を見せた。
そして同時に、聞き捨てられない事を、言ってもいた。
彼女は今、春人が呼ばれたと言ったのだ。
(彼女は、何かを知っている……?)
再び焦り始める心を必死に抑え、春人はエミリィの言葉へと耳を傾ける。
「それでは、マトバさんに色々と説明しますね。まずここは、王立マージナム学園。その地下にある、実習部屋の一つです」
「王立? マージナム……?」
「聞いた事ありますよね? この学校、有名ですもんね?」
嬉しそうに聞いてくるエミリィだったが、
「御免、聞いた事ないな……」
「ええっ!? そんなぁ……」
春人には聞き覚えのない名前だった。
予想外の返事に、がっくりと肩を落としてしまうエミリィ。
「おかしいなぁ……。田舎の方の人でも呼んじゃったのかなぁ……」
肩を落としたまま、ブツブツと何やら呟いている。
どうやら、マージナム学園とやらは相当有名な学園の様だ。
それを春人が知らないという事は、やはりここは、日本であまり知られていない小国なのだろうか。
春人が考えをまとめていると、気を取り直したエミリィが、説明を再開していた。
「それでですね、マトバさんがこの場所にいるのは……私のせいなんです」
「リューンベルさんの?」
申し訳なさそうに告げるエミリィ。
どういう事だろうと思いつつも、春人は心の中で身構えた。
エミリィは、この状況を作り出したのは自分だと言っている。
それは、この訳の分からない状況の、答えを知っていると言う事なのだ。
春人が見詰める先、エミリィが再び口を開いた。
「実は私、ここで死霊術の実験をしてまして、その結果として、多分マトバさんが呼び出されたと思うんです」
「……死霊術っていうのは、降霊術みたいなものなのかな? こう……霊とか、死んだ人の魂を呼び寄せるとか……」
「そうですね。そんな感じです」
「なるほど……」
死霊術という言葉は、春人には聞いた事がなかったが、伝わってくるニュアンスから、意味合いは何となく理解できた。
日本にも、イタコの口寄せなど、死者の魂を呼び寄せる類いの、オカルト的なものはある。
春人は特段、信じてもいなかったが、否定もしていなかった。
自分が見たがないだけで、もしかしたらあるのかもしれない程度には、思っていたのだ。
エミリィがこちらをからかっていたり、嘘をついていないという事を、何となくではあるが、春人には分かっていた。
そのエミリィが、死霊術というものをしていたと言うからには、この世には、そういうものが、実際にあるのだろう。
そして、今のエミリィの言葉から、分かった事もある。
彼女は、死者の魂を呼び寄せる儀式をしており、その場所に、自分が呼び寄せられた。
それはつまり……。
「やっぱり俺は、死んでいるのか……」
「……はい」
言いづらそうな顔をしながらも、エミリィは春人の問いを肯定した。
「そうか……」
覚悟していた事とはいえ、改めて人から聞かされると、衝撃があるものだった。
蝋燭の炎が揺らめく中、春人は目を固く閉じ、ぐちゃぐちゃになる感情を沈めようとする。
「あの……何か、すみません……」
居た堪れなくなったエミリィは春人への、謝罪の言葉を口にしていた。
彼女に、謝罪をする理由はない。
春人は、自分の気持ちを何とか落ち着かせると、目を開いた。
「いや、君が謝る事は何もないよ。俺が死んだ事に、君は関係ないんだから」
彼女に居心地の悪い思いをさせてしまい、申し訳ないと思いつつ、春人は重要な事を聞く事にした。
「それで、死んだ俺を、君は何の為に呼び出したんだい?」
もはや、自分が死んだという事実は受け入れた。
そして、彼女が自分を呼び出した事も。
全てを受け入れた上で、春人は、自分が呼び出された理由を、エミリィへと質問したのだが、
「え~っと……それはですねぇ……」
「?」
エミリィの額に、じんわりと、汗が浮かびはじめる。
「実は……別にマトバさんを指定して、呼び出した訳ではなくてですね、実験の結果、たまたまというか……」
「つまり……別に、俺に用はないと?」
春人が確認した瞬間、エミリィは勢い良く頭を下げた。
「すみません! すみません! 私、修行中の身でして! 用もなく呼び出して、本当にすみません! 安らかな眠りを妨げてしまって、大変申し訳ありません!」
どうやらエミリィの腕前は、まだ未熟で、思う様にいかないようだ。
その結果、偶然、春人が呼ばれてしまったらしい。
「いや、人間誰しも、最初から上手くはいかないものさ。仕方がないよ」
訳の分からない状況に焦りはしたが、別に不快な思いをした訳ではない。
それに、必死に謝るエミリィの姿が気の毒過ぎて、春人は彼女を責める気にはならなかった。
「じゃあ、用が無いなら、あの世に戻して貰うべきなのかな……?」
用がないのであれば、あの世へと戻るのが自然の事だろうと思い、春人は聞いたのだが、
「戻す……」
エミリィの、ポツリとし呟きに、春人は嫌な予感がし、
「戻すのって……どうやれば良いのでしょうか……?」
それは、すぐに的中する事になった。
春人の名前を聞いたエミリィは、不思議そうな顔をしていた。
(あまり日本と関わりのない国の人なのか? それとも……)
世界には、自分の知らない小さな国だってあるのだ。
日本風の名前を知らない人がいても、不思議ではない。
エミリィと話ながらも、春人は現状を理解しようと、頭を働かせていた。
何しろ春人は今、自分がどういう状況なのか、まったく理解していないのだ。
現在の時間も、場所も、そして、己の生死さえも……。
焦る気持ちを抑えつつ、自己紹介を終えた春人は、早速、質問を始める。
「じゃあ、リューンベルさん。質問なんだけど、ここは一体どこなんだい?」
まずは、場所の確認をする事にした。
今、自分が居る場所がどこか分かれば、少しは状況が分かるはずだ。
例え、ここがあの世だったとしても……。
心の中で覚悟を決めつつ、春人はエミリィの答えを待った。
だが、
「ここは、学園の地下実習室ですよ?」
エミリィから返ってきた答えは、少々、的外れな答えだった。
何故、そんな当たり前の事を聞くのか分からないといった表情を、彼女はしていたのだ。
「あ~……そうじゃなくてね、リューンベルさん……」
肩透かしを食らった春人だったが、何とか気持ちを持ち直し、もう一度、今度は自分の事情を説明しながら、質問をした。
「信じて貰えないかもしれないけど、実は俺は……気が付いたら、この場所にいたんだ。だから、ここがどこだか、何でここにいるのかも、さっぱり分かってないんだ」
「あ! そうでした! そうですよね! 急にここに呼ばれてしまったんだから、当然ですよね!」
信じて貰えるかどうか不安だった春人だったが、エミリィは納得した様子を見せた。
そして同時に、聞き捨てられない事を、言ってもいた。
彼女は今、春人が呼ばれたと言ったのだ。
(彼女は、何かを知っている……?)
再び焦り始める心を必死に抑え、春人はエミリィの言葉へと耳を傾ける。
「それでは、マトバさんに色々と説明しますね。まずここは、王立マージナム学園。その地下にある、実習部屋の一つです」
「王立? マージナム……?」
「聞いた事ありますよね? この学校、有名ですもんね?」
嬉しそうに聞いてくるエミリィだったが、
「御免、聞いた事ないな……」
「ええっ!? そんなぁ……」
春人には聞き覚えのない名前だった。
予想外の返事に、がっくりと肩を落としてしまうエミリィ。
「おかしいなぁ……。田舎の方の人でも呼んじゃったのかなぁ……」
肩を落としたまま、ブツブツと何やら呟いている。
どうやら、マージナム学園とやらは相当有名な学園の様だ。
それを春人が知らないという事は、やはりここは、日本であまり知られていない小国なのだろうか。
春人が考えをまとめていると、気を取り直したエミリィが、説明を再開していた。
「それでですね、マトバさんがこの場所にいるのは……私のせいなんです」
「リューンベルさんの?」
申し訳なさそうに告げるエミリィ。
どういう事だろうと思いつつも、春人は心の中で身構えた。
エミリィは、この状況を作り出したのは自分だと言っている。
それは、この訳の分からない状況の、答えを知っていると言う事なのだ。
春人が見詰める先、エミリィが再び口を開いた。
「実は私、ここで死霊術の実験をしてまして、その結果として、多分マトバさんが呼び出されたと思うんです」
「……死霊術っていうのは、降霊術みたいなものなのかな? こう……霊とか、死んだ人の魂を呼び寄せるとか……」
「そうですね。そんな感じです」
「なるほど……」
死霊術という言葉は、春人には聞いた事がなかったが、伝わってくるニュアンスから、意味合いは何となく理解できた。
日本にも、イタコの口寄せなど、死者の魂を呼び寄せる類いの、オカルト的なものはある。
春人は特段、信じてもいなかったが、否定もしていなかった。
自分が見たがないだけで、もしかしたらあるのかもしれない程度には、思っていたのだ。
エミリィがこちらをからかっていたり、嘘をついていないという事を、何となくではあるが、春人には分かっていた。
そのエミリィが、死霊術というものをしていたと言うからには、この世には、そういうものが、実際にあるのだろう。
そして、今のエミリィの言葉から、分かった事もある。
彼女は、死者の魂を呼び寄せる儀式をしており、その場所に、自分が呼び寄せられた。
それはつまり……。
「やっぱり俺は、死んでいるのか……」
「……はい」
言いづらそうな顔をしながらも、エミリィは春人の問いを肯定した。
「そうか……」
覚悟していた事とはいえ、改めて人から聞かされると、衝撃があるものだった。
蝋燭の炎が揺らめく中、春人は目を固く閉じ、ぐちゃぐちゃになる感情を沈めようとする。
「あの……何か、すみません……」
居た堪れなくなったエミリィは春人への、謝罪の言葉を口にしていた。
彼女に、謝罪をする理由はない。
春人は、自分の気持ちを何とか落ち着かせると、目を開いた。
「いや、君が謝る事は何もないよ。俺が死んだ事に、君は関係ないんだから」
彼女に居心地の悪い思いをさせてしまい、申し訳ないと思いつつ、春人は重要な事を聞く事にした。
「それで、死んだ俺を、君は何の為に呼び出したんだい?」
もはや、自分が死んだという事実は受け入れた。
そして、彼女が自分を呼び出した事も。
全てを受け入れた上で、春人は、自分が呼び出された理由を、エミリィへと質問したのだが、
「え~っと……それはですねぇ……」
「?」
エミリィの額に、じんわりと、汗が浮かびはじめる。
「実は……別にマトバさんを指定して、呼び出した訳ではなくてですね、実験の結果、たまたまというか……」
「つまり……別に、俺に用はないと?」
春人が確認した瞬間、エミリィは勢い良く頭を下げた。
「すみません! すみません! 私、修行中の身でして! 用もなく呼び出して、本当にすみません! 安らかな眠りを妨げてしまって、大変申し訳ありません!」
どうやらエミリィの腕前は、まだ未熟で、思う様にいかないようだ。
その結果、偶然、春人が呼ばれてしまったらしい。
「いや、人間誰しも、最初から上手くはいかないものさ。仕方がないよ」
訳の分からない状況に焦りはしたが、別に不快な思いをした訳ではない。
それに、必死に謝るエミリィの姿が気の毒過ぎて、春人は彼女を責める気にはならなかった。
「じゃあ、用が無いなら、あの世に戻して貰うべきなのかな……?」
用がないのであれば、あの世へと戻るのが自然の事だろうと思い、春人は聞いたのだが、
「戻す……」
エミリィの、ポツリとし呟きに、春人は嫌な予感がし、
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