2 / 4
邂逅
しおりを挟む
暗い闇へと意識が引きずり込まれる中、自分を呼ぶ声が聞こえたような気がした春人は、次の瞬間、見知らぬ場所へと立っている事に気が付いた。
周囲を石の壁で囲まれた狭い部屋。
窓が存在しないその部屋は薄暗く、四方に置かれている蝋燭の明かりのおかげで、辛うじて部屋の様子が分かる程度だった。
(どこだ、ここは……?)
部屋の中を見回した春人は、その部屋の中央に、一人の少女がしゃがんでいる事に気が付いた。
年齢は十代半ばだろうか。
亜麻色の髪の毛を肩の辺りにまで伸ばした、可愛らしい少女。
だが、その恰好が奇妙だった。
白いシャツに、黒のスカート。ここまでは良いのだが、少女はその上から紺色のマントを羽織り、頭の上には、先端のとがった大きな帽子を載せていた。
物語などに出てくる、魔女と似たような恰好を、少女はしていたのである。
(コスプレとかいうやつか?)
それが、少女の姿を見た、春人の最初の感想だった。
少女は、春人の存在などには気付かず、地面へと膝をつき、必死に何かを唱えていた。
よく見ると、少女の足元には魔法陣のようなものが描かれ、淡い光を放っている。
そして、少女の目の前には、
(骸骨?)
人の、頭部の骨と思われる物体が置かれていたのだ。
骨は、綺麗な形をしており、まるで理科室に置かれている標本のようだった。
その為、春人は嫌悪感などを抱かずに済んだのだ。
目の前の状況は、もはや春人には訳の分からない状況だった。
そもそも、自分は死んだのではなかったのだろうか?
それとも、あれは夢だったのだろうか?
ここは一体どこなのだろうか?
何故、自分はここにいるのだろうか?
いくら考えてみても、春人には答えが分からなかった。
だから、
「あの……」
目の前の少女に、声を掛ける事にした。
分からない事を、いつまで考えていても仕方がない。
そもそも、考える為の判断材料が足りないのだ。
だから春人は、少女に話を聞いてみる事にした。
『――!?』
春人に声を掛けられた少女は、短い悲鳴を上げ、その場に飛び上がった。
集中していたところに、突然声を掛けられ、驚いたようだ。
悪い事をしてしまったと思いつつ、春人は再度、声を掛けてみる。
「あの、すみません。ちょっと良いでしょうか?」
再び、驚きに身体を震わせた少女は、ずれ落ちた帽子を被り直し、慌てて辺りを見回し始めた。
『誰です!? どこにいるんですか!?』
おや? と、少女の行動に対し首を傾げる春人。
少女の口から発せられたのは、聞いた事のない言葉だった。
だが、春人には、その言葉の意味が分かったのである。
それも耳で聞いたというよりも、頭に直接響いてきたような感覚で。
(何なんだ、この感覚は?)
自分の感覚に、違和感を感じる春人。
そして、春人が疑問に思った事が、もう一つ。
それは、少女は自分の方を見たはずなのに、その存在に、気付いていないという事。
試しに春人は、少女へと近寄ってみたが、それでも少女は気付かない。
目の前で、手を振ってもみたが、彼女の視線は、左右へと彷徨うままだった。
春人は、少し考えた後、もう一度声を掛けてみる事にした。
「すみませんが……」
『っ!!??』
先程より近くから聞こえてきた声に、声にならない悲鳴を上げ、慌てて後ずさる少女。
勢い良く後退した少女は背中から、勢い良く壁へと激突してしまう。
少女が涙目になっているのは、痛みのせいなのか、それとも恐怖のせいなのかは分からなかった。
春人は、これ以上、少女を怖がらせないよう、なるべく優しく、丁寧な言葉使いで、話を続ける事にした。
「すみません、怖がらせる気はなかったんです。どうか、話しを聞いて貰えないでしょうか?」
壁際で恐怖に震えていた少女だったが、春人の言葉に対し、恐る恐るではあるが、言葉を返してくれた。
『……私を襲おうとか、取って食べようとかする気は……』
「ありません。少し、聞きたい事があるだけです」
『……本当に?』
「本当です。信じて下さい」
春人は真摯に、そして、粘り強く説得を続けた。
その結果、何とか、少女に信じて貰う事に成功したようだ。
少女は、安堵のため息を吐き、その場にへなへなと崩れ落ちていった。
春人も、ホッと息をつく。
だが、本題はここからなのだ。
少女と話しをして、今の状況を理解しなければいけない。
気合を入れ直した春人は、話しやすいようにと、少女との距離を詰めた。
そして、少女に質問をしようとした時、少女が痛そうに、背中をさすっているのを見てしまった。
「背中、大丈夫ですか?」
春人の口から出てきたのは、質問ではなく、少女を案じる言葉だった。
春人の言葉に、キョトンとした顔をする少女。
言葉の意味が理解できると、
『あ、大丈夫です! 少し強くぶつけただけですから! 怪我とかまったくありませんから!』
顔の前で、あたふたと両手を左右に振りまわし、問題ない事を、春人へと伝えようとするのであった。
自分の不手際のせいで、春人に心配させたのが恥ずかしかったのだろうか、その顔は、少々赤くなっていた。
「そうですか、なら良いのですけど」
少女に大きな怪我が無いようなので、春人は安心した。
そんな春人の言葉に、少女はクスリと笑みをこぼす。
「何か面白い事でも言ったかな、俺?」
『あ、いえ、違うんです。すみません』
春人の独り言に、少女は慌てて謝罪する。
『私、あれだけ貴方の事を怖がっていたのに、その相手からは心配までされて……。結局、私が一人で怖がっていただけなんだなと思ったら、なんだか可笑しくて……』
そう言って少女は、クスクスと笑い始める。
その笑顔は、陽の光のように、温かなものだった。
少女の、春人に対する恐怖心は、もう無くなった様だ。
これなら、話もしやすいだろう。
暫く笑って、すっきりした少女は、にこやかな笑顔を、春人のいる方へと向けてきた。
『それで、聞きたい事ってなんですか? あ、私はエミリィ・リューンベルといいます』
「よろしく、リューンベルさん。俺の名前は……」
こうして春人は、やっと少女に質問できるようになったのである。
周囲を石の壁で囲まれた狭い部屋。
窓が存在しないその部屋は薄暗く、四方に置かれている蝋燭の明かりのおかげで、辛うじて部屋の様子が分かる程度だった。
(どこだ、ここは……?)
部屋の中を見回した春人は、その部屋の中央に、一人の少女がしゃがんでいる事に気が付いた。
年齢は十代半ばだろうか。
亜麻色の髪の毛を肩の辺りにまで伸ばした、可愛らしい少女。
だが、その恰好が奇妙だった。
白いシャツに、黒のスカート。ここまでは良いのだが、少女はその上から紺色のマントを羽織り、頭の上には、先端のとがった大きな帽子を載せていた。
物語などに出てくる、魔女と似たような恰好を、少女はしていたのである。
(コスプレとかいうやつか?)
それが、少女の姿を見た、春人の最初の感想だった。
少女は、春人の存在などには気付かず、地面へと膝をつき、必死に何かを唱えていた。
よく見ると、少女の足元には魔法陣のようなものが描かれ、淡い光を放っている。
そして、少女の目の前には、
(骸骨?)
人の、頭部の骨と思われる物体が置かれていたのだ。
骨は、綺麗な形をしており、まるで理科室に置かれている標本のようだった。
その為、春人は嫌悪感などを抱かずに済んだのだ。
目の前の状況は、もはや春人には訳の分からない状況だった。
そもそも、自分は死んだのではなかったのだろうか?
それとも、あれは夢だったのだろうか?
ここは一体どこなのだろうか?
何故、自分はここにいるのだろうか?
いくら考えてみても、春人には答えが分からなかった。
だから、
「あの……」
目の前の少女に、声を掛ける事にした。
分からない事を、いつまで考えていても仕方がない。
そもそも、考える為の判断材料が足りないのだ。
だから春人は、少女に話を聞いてみる事にした。
『――!?』
春人に声を掛けられた少女は、短い悲鳴を上げ、その場に飛び上がった。
集中していたところに、突然声を掛けられ、驚いたようだ。
悪い事をしてしまったと思いつつ、春人は再度、声を掛けてみる。
「あの、すみません。ちょっと良いでしょうか?」
再び、驚きに身体を震わせた少女は、ずれ落ちた帽子を被り直し、慌てて辺りを見回し始めた。
『誰です!? どこにいるんですか!?』
おや? と、少女の行動に対し首を傾げる春人。
少女の口から発せられたのは、聞いた事のない言葉だった。
だが、春人には、その言葉の意味が分かったのである。
それも耳で聞いたというよりも、頭に直接響いてきたような感覚で。
(何なんだ、この感覚は?)
自分の感覚に、違和感を感じる春人。
そして、春人が疑問に思った事が、もう一つ。
それは、少女は自分の方を見たはずなのに、その存在に、気付いていないという事。
試しに春人は、少女へと近寄ってみたが、それでも少女は気付かない。
目の前で、手を振ってもみたが、彼女の視線は、左右へと彷徨うままだった。
春人は、少し考えた後、もう一度声を掛けてみる事にした。
「すみませんが……」
『っ!!??』
先程より近くから聞こえてきた声に、声にならない悲鳴を上げ、慌てて後ずさる少女。
勢い良く後退した少女は背中から、勢い良く壁へと激突してしまう。
少女が涙目になっているのは、痛みのせいなのか、それとも恐怖のせいなのかは分からなかった。
春人は、これ以上、少女を怖がらせないよう、なるべく優しく、丁寧な言葉使いで、話を続ける事にした。
「すみません、怖がらせる気はなかったんです。どうか、話しを聞いて貰えないでしょうか?」
壁際で恐怖に震えていた少女だったが、春人の言葉に対し、恐る恐るではあるが、言葉を返してくれた。
『……私を襲おうとか、取って食べようとかする気は……』
「ありません。少し、聞きたい事があるだけです」
『……本当に?』
「本当です。信じて下さい」
春人は真摯に、そして、粘り強く説得を続けた。
その結果、何とか、少女に信じて貰う事に成功したようだ。
少女は、安堵のため息を吐き、その場にへなへなと崩れ落ちていった。
春人も、ホッと息をつく。
だが、本題はここからなのだ。
少女と話しをして、今の状況を理解しなければいけない。
気合を入れ直した春人は、話しやすいようにと、少女との距離を詰めた。
そして、少女に質問をしようとした時、少女が痛そうに、背中をさすっているのを見てしまった。
「背中、大丈夫ですか?」
春人の口から出てきたのは、質問ではなく、少女を案じる言葉だった。
春人の言葉に、キョトンとした顔をする少女。
言葉の意味が理解できると、
『あ、大丈夫です! 少し強くぶつけただけですから! 怪我とかまったくありませんから!』
顔の前で、あたふたと両手を左右に振りまわし、問題ない事を、春人へと伝えようとするのであった。
自分の不手際のせいで、春人に心配させたのが恥ずかしかったのだろうか、その顔は、少々赤くなっていた。
「そうですか、なら良いのですけど」
少女に大きな怪我が無いようなので、春人は安心した。
そんな春人の言葉に、少女はクスリと笑みをこぼす。
「何か面白い事でも言ったかな、俺?」
『あ、いえ、違うんです。すみません』
春人の独り言に、少女は慌てて謝罪する。
『私、あれだけ貴方の事を怖がっていたのに、その相手からは心配までされて……。結局、私が一人で怖がっていただけなんだなと思ったら、なんだか可笑しくて……』
そう言って少女は、クスクスと笑い始める。
その笑顔は、陽の光のように、温かなものだった。
少女の、春人に対する恐怖心は、もう無くなった様だ。
これなら、話もしやすいだろう。
暫く笑って、すっきりした少女は、にこやかな笑顔を、春人のいる方へと向けてきた。
『それで、聞きたい事ってなんですか? あ、私はエミリィ・リューンベルといいます』
「よろしく、リューンベルさん。俺の名前は……」
こうして春人は、やっと少女に質問できるようになったのである。
0
あなたにおすすめの小説
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる