異世界転……生? いいえ、呼ばれたのは魂だけです

馬之屋 琢

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邂逅

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 暗い闇へと意識が引きずり込まれる中、自分を呼ぶ声が聞こえたような気がした春人は、次の瞬間、見知らぬ場所へと立っている事に気が付いた。

 周囲を石の壁で囲まれた狭い部屋。
 窓が存在しないその部屋は薄暗く、四方に置かれている蝋燭の明かりのおかげで、辛うじて部屋の様子が分かる程度だった。

(どこだ、ここは……?)

 部屋の中を見回した春人は、その部屋の中央に、一人の少女がしゃがんでいる事に気が付いた。
 年齢は十代半ばだろうか。
 亜麻色の髪の毛を肩の辺りにまで伸ばした、可愛らしい少女。
 だが、その恰好が奇妙だった。
 白いシャツに、黒のスカート。ここまでは良いのだが、少女はその上から紺色のマントを羽織り、頭の上には、先端のとがった大きな帽子を載せていた。
 物語などに出てくる、魔女と似たような恰好を、少女はしていたのである。

(コスプレとかいうやつか?)

 それが、少女の姿を見た、春人の最初の感想だった。

 少女は、春人の存在などには気付かず、地面へと膝をつき、必死に何かを唱えていた。
 よく見ると、少女の足元には魔法陣のようなものが描かれ、淡い光を放っている。
 そして、少女の目の前には、

骸骨がいこつ?)

 人の、頭部の骨と思われる物体が置かれていたのだ。
 骨は、綺麗な形をしており、まるで理科室に置かれている標本のようだった。
 その為、春人は嫌悪感などを抱かずに済んだのだ。

 目の前の状況は、もはや春人には訳の分からない状況だった。

 そもそも、自分は死んだのではなかったのだろうか?
 それとも、あれは夢だったのだろうか?
 ここは一体どこなのだろうか?
 何故、自分はここにいるのだろうか?

 いくら考えてみても、春人には答えが分からなかった。 
 だから、

「あの……」
 
 目の前の少女に、声を掛ける事にした。
 分からない事を、いつまで考えていても仕方がない。
 そもそも、考える為の判断材料が足りないのだ。
 だから春人は、少女に話を聞いてみる事にした。

『――!?』

 春人に声を掛けられた少女は、短い悲鳴を上げ、その場に飛び上がった。
 集中していたところに、突然声を掛けられ、驚いたようだ。
 悪い事をしてしまったと思いつつ、春人は再度、声を掛けてみる。

「あの、すみません。ちょっと良いでしょうか?」

 再び、驚きに身体を震わせた少女は、ずれ落ちた帽子を被り直し、慌てて辺りを見回し始めた。

『誰です!? どこにいるんですか!?』

 おや? と、少女の行動に対し首をかしげる春人。
 少女の口から発せられたのは、聞いた事のない言葉だった。
 だが、春人には、その言葉の意味が分かったのである。
 それも耳で聞いたというよりも、頭に直接響いてきたような感覚で。

(何なんだ、この感覚は?)

 自分の感覚に、違和感を感じる春人。
 そして、春人が疑問に思った事が、もう一つ。
 それは、少女は自分の方を見たはずなのに、その存在に、気付いていないという事。
 試しに春人は、少女へと近寄ってみたが、それでも少女は気付かない。
 目の前で、手を振ってもみたが、彼女の視線は、左右へと彷徨さまようままだった。
 春人は、少し考えた後、もう一度声を掛けてみる事にした。

「すみませんが……」
『っ!!??』

 先程より近くから聞こえてきた声に、声にならない悲鳴を上げ、慌てて後ずさる少女。
 勢い良く後退した少女は背中から、勢い良く壁へと激突してしまう。
 少女が涙目になっているのは、痛みのせいなのか、それとも恐怖のせいなのかは分からなかった。
 春人は、これ以上、少女を怖がらせないよう、なるべく優しく、丁寧な言葉使いで、話を続ける事にした。

「すみません、怖がらせる気はなかったんです。どうか、話しを聞いて貰えないでしょうか?」

 壁際で恐怖に震えていた少女だったが、春人の言葉に対し、恐る恐るではあるが、言葉を返してくれた。

『……私を襲おうとか、取って食べようとかする気は……』
「ありません。少し、聞きたい事があるだけです」
『……本当に?』
「本当です。信じて下さい」

 春人は真摯しんしに、そして、粘り強く説得を続けた。
 その結果、何とか、少女に信じて貰う事に成功したようだ。
 少女は、安堵のため息を吐き、その場にへなへなと崩れ落ちていった。
 春人も、ホッと息をつく。

 だが、本題はここからなのだ。
 少女と話しをして、今の状況を理解しなければいけない。
 気合を入れ直した春人は、話しやすいようにと、少女との距離を詰めた。
 そして、少女に質問をしようとした時、少女が痛そうに、背中をさすっているのを見てしまった。

「背中、大丈夫ですか?」

 春人の口から出てきたのは、質問ではなく、少女を案じる言葉だった。
 春人の言葉に、キョトンとした顔をする少女。
 言葉の意味が理解できると、

『あ、大丈夫です! 少し強くぶつけただけですから! 怪我とかまったくありませんから!』

 顔の前で、あたふたと両手を左右に振りまわし、問題ない事を、春人へと伝えようとするのであった。
 自分の不手際ドジのせいで、春人に心配させたのが恥ずかしかったのだろうか、その顔は、少々赤くなっていた。

「そうですか、なら良いのですけど」

 少女に大きな怪我が無いようなので、春人は安心した。
 そんな春人の言葉に、少女はクスリと笑みをこぼす。

「何か面白い事でも言ったかな、俺?」
『あ、いえ、違うんです。すみません』

 春人の独り言に、少女は慌てて謝罪する。

『私、あれだけ貴方の事を怖がっていたのに、その相手からは心配までされて……。結局、私が一人で怖がっていただけなんだなと思ったら、なんだか可笑しくて……』

 そう言って少女は、クスクスと笑い始める。
 その笑顔は、陽の光のように、温かなものだった。
 
 少女の、春人に対する恐怖心は、もう無くなった様だ。
 これなら、話もしやすいだろう。

 暫く笑って、すっきりした少女は、にこやかな笑顔を、春人のいる方へと向けてきた。

『それで、聞きたい事ってなんですか? あ、私はエミリィ・リューンベルといいます』
「よろしく、リューンベルさん。俺の名前は……」

 こうして春人は、やっと少女に質問できるようになったのである。
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