ごうまんなアルファ

たたた、たん。

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そこには、ごうまんな男がいました

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 男は、生まれながらに全てを持っていた。家柄、金、顔、才能、全てを持ち得た男はそれでも自らの手で人生を切り開いてきた自負がある。選ばれしアルファの中でも更に頂点に立つアルファ。そんな男は、思い通りにいかないことが大嫌いで、この世のことは全て男の思い通り。

 ある一人を除いて。

 修行と称して、学生時代から関わってきた財閥の子会社を本格的に継ぎ、すぐに結果を出していた頃、付き合っていた中の一人のアルファに安っぽいカフェに連れて行かれた。男が行くのは、一流ホテルのラウンジのような上級な所ばかりで、庶民が行くような所に行くことは滅多にない。

(こいつの庶民遊びも呆れたものだ。そろそろ切るか)

 熱っぽい目でこちらを見る、自分より低い階級のアルファ。顔がいいから選んだが、最近は、己の身分を誤解して偉そうに振る舞っているらしい。アルファの群れの中でも浮いてきている。
 しらけた気持ちが顔に出ていたのだろう。そもそも、男は表情を繕ったことなどなく、その必要もなかった。

「ね、ねぇ、藍澤様……」

 焦りを隠さないアルファが話しかけようとした時、後ろから食器の割れた音がした。これだから、質の悪い庶民の店は、と内心苛つけば目の前のアルファは、音のした方を見て嫌悪感を露わにする。

「うわ。オメガのヒートだ」

 こんな所で発情する愚かなオメガ。当然として、高い費用がかかる代わりに性能の強い発情抑制剤を飲んでいる男は、オメガを襲うといった本能に負けるような野蛮な行為はしない。本能に支配されるなんて、男の一番嫌いなこと。そのような自分の思い通りにいかないことは、無様でしかないからだ。
 ただ、なんとなく振り返ってみたい気がして、振り返れば、こちらを見つめる濡れた瞳と目があった。

 その後の記憶は曖昧だ。

 隣のアルファの驚く声が聞こえた気がしたが、それからは、ひたすら腕の中のオメガの喘ぎ声が全てを支配して。理性が戻るまで一日中、オメガの身体を、出会ってしまった運命の番の身体に貪りつく。オメガのうなじには、望まない番契約をしないためのチョーカーがついていたが、男にはそれが邪魔で邪魔で仕方なかった。

 気がつけば一日経って、隣には得体の知らないオメガ。男はオメガが大嫌いだった。身体しか価値のない繁殖個体。オメガなんて汚らしい、そう言われ育てられ、男も勿論その通りだと納得している。オメガのフェロモンはアルファを惑わす匂いを放っていて、本能を衝き動かす。それは、理性を崩し、自分の思い通りに行かなくなることと同意。全てを思い通りに生きてきた男が発情した、ただの獣に成り下がる屈辱。
 運命の番なんて都市伝説で、馬鹿にしてきたただの御伽話だ。それが目の前にある。

 男の人生計画の初めての挫折と失敗の予感。

 自分の完璧を壊す隣に眠るオメガが憎いのに、手放せない。こんな矛盾に男は苛ついて仕方がなかった。


 オメガの男はまだ高校生だった。しかも、生活水準の低いオメガの男の一人親に育てられている。男の嫌いな低俗な庶民の中でも最も嫌いな貧乏人。
 一度は本能に抗って、手放そうとしたがどうしても出来なくて、オメガの高校卒業とともに番にした。

 オメガの親に金でも渡せば、貧乏人らしく、節操を変えて媚びると思いきや、その馬鹿なオメガの親は、手入れ金を断り、幸せにして下さい、と床に額をつけて頭を下げるだけだった。その隣で、男を見つめる運命の熱っぽい視線。ゴクリと喉が鳴る。オメガ如きに魅せられた自分に苛つき、男を完璧から離そうとするオメガにもっと苛ついた。
 その苛つきを隠さぬまま、酷く抱いて、オメガを屋敷の離れに置く。その日に、オメガのうなじに噛み付いた。

 あの選ばれしアルファに運命の番が出来た。

 その噂は瞬く間にアルファの群れを駆け巡る。軽口を言われるたび、屈辱的な気分で、自分にこんな思いをさせるオメガが憎くて仕方ない。

「番のオメガがいらっしゃるようで?」

 アレは、俺が選んだんだじゃない。面倒だが、具合も良いし仕方なくだ。
 そう言って、他のアルファを抱く。

 屋敷に帰れば、必ずオメガが控えめな態度で玄関まで出迎えて、ボゾボソと声をかけようとしてくる。その目は、口に出さずとも、愛して、と訴えかけて来ていて、うざったくて苛ついた。オメガの存在を無視するように、ないように扱って少し気が晴れた。

 愚かなオメガは男が好きで、男はそれを充分にしっている。だが、たかが、運命の番如きで心まで赦すオメガには吐き気のような嫌悪感しか感じなかった。

 他のアルファを抱いた身体で、オメガの身体を貪る。オメガは男から他の人間の匂いがすると悲しそうにしたが、そんなこと男は気にしなかった。
 色っぽい喘ぎは理性を揺るがすから嫌いで、自分で口を塞がせる。前戯なんてやるはずない。オナホなんて、男は使ったことないが、オメガを筒のように扱った後はもうどうでもよかった。
 オメガはいつだって、男を出迎えた。どんなに帰りの遅い日も、他のアルファを抱いた日も、当然のように酷い扱いをしても、オメガは哀しそうに黙ってただただ男を待ち続ける。オメガは、日に日に痩せ細り弱っていった。

 男はそのオメガの被害者顔にすら苛ついた。被害者はこちらの方だ、と男は叫びたい気分だった。最近は何をしてもオメガの顔がチラつく。アルファを抱いたって満足出来ないし、最近オメガがしだした何もかも諦めた顔を見ると焦燥感が湧き上がった。こんなこと初めてで、自分がコントロール出来ずににいることに悔しさを感じ、更にオメガに酷くあたった。

 そんな時、男の取り巻きの一人が男のオメガに会いたいと言った。男のオメガを見てみたいと。恥を晒してたまるかとその時は断ったが、もしかすると、憎くてたまらないオメガが苦しめられるかもしれない。アルファの群れに連れて行けば、オメガは必ず傷つけられるだろう。男はオメガを苦しめたくて仕方なかったのだ。

 困惑するオメガを何度も着せ替えさせ、恐らくオメガが着たこともない上等なオメガに似合う服を買う。男は、それに満足していることに気付かず、アルファの群れに連れて行った。
 オメガに突き刺さる好奇と軽蔑的な視線。オメガは、身体を震わせ縮ませていた。

 男の腕を掴みたそうに、腕を右往左往させて結局諦める。オメガを囲む視線の中に、明らかに色欲に染まる視線もある。それらに異常に苛ついた。

「ソレが藍澤様のオメガですか」

 オメガを呼べと言った男は、オメガをじろじろと値踏みするように見て、繁殖個体なだけあって見た目は悪くないですね、と宣った。オメガはさっと男の後ろに隠れる。

「オメガだから、具合も良いんでしょうね。そうだ。一晩、コレ貸してくれませんか?オメガ、抱いたことないんですよね」

(俺の番に!)

 そのアルファの言葉に、怒りが湧いた。
 男はその事実に愕然とする。

 コレは、オメガ。
 運命の番。

(俺は俺の人生を生きて、たかが運命なんかに惑わされてたまるか)

(こいつは、俺にとって邪魔な存在に過ぎない)

 男はそう思う。いや、男は気づかないうちにそう思いこもうとしていた。

(そうだ。こんなオメガ)

「いいぞ。ただし、俺も混ぜろ」
「本当ですか!藍澤様と3Pなんて、皆に自慢できちゃうな」

 上機嫌なアルファに苛々する男は、この苛つきに苛ついて、俯き震えて動き出そうとしないオメガを無理やり引っ張り、休憩室と名を擁したヤリ部屋に連れ込む。
 オメガをベッドの上に、放り投げる。恐怖で涙するオメガを見て少しスカッとした気がした。

「脱げ」

 端的に男は言った。男にとって、目の前のオメガが何でもないことを男は証明したかったのだ。

 オメガは青い顔をしながら、それでも震えた指で上着を脱ぐ。ゆっくりとゆっくりと壊れた歯車のように不器用にボタンを一つ一つ外していく。

 男の目の下がピクリと痙攣した。

 他の男に抱かれる為に服を脱ぐオメガに無意識に苛ついているのだ。

「まどろっこしいなぁ」

 それを見ていたアルファは、オメガを押し倒し服を引きちぎる。オメガの声にならない悲鳴が聞こえた。アルファは、好奇の目で安い玩具を扱うように遠慮なく触り、キャンディを舐めるように弄った。

 男はそれを眺めるだけだ。続けさせたい気持ちと、今すぐにでもやめさせたい気持ちとせめぎあっているから。

 男は本能に負けたくなかった。

 オメガの秘部にアルファの性器が突き刺さる手前、オメガは抵抗して声を出した。

「嫌だ!」

 男の聴いた初めての拒絶だった。

 気付いたら、アルファを突き放して、オメガを腕の中にかきこむ。アルファの驚いたなようなきょとんとした顔と、オメガの期待するような眼差し。

 男は自分の行動を認めたくなくて、言い訳を考えた。

「……ただでヤらせるわけないだろう。コレを犯したいなら、お前の女ともヤらせろ。あいつ、中々良い見た目をしている」

 その突然の取り引きに、アルファはそれでも納得したらしく、その上で、その取り引きを渋った。

「えー、藍澤様と寝たら、あいつ藍澤様にメロメロになっちゃうじゃないですか。俺、結構本気なのに」

 男は、アルファが渋るの知っていた。男は群れの頂点として、全ての情報を握っているから。

 男は笑った。

「じゃあ、出来ないぞ」

 その時、初めてフェロモンを放つ。番のオメガは、番のフェロモンにしか反応しない。強く出したフェロモンにオメガはたちまちヒートを起こした。

 クラクラしているオメガ起こし、両脚を下品に開かせ固定する。フェロモンによってドロドロに濡れたそこをアルファに見せびらかした。

「ここは、気持ちいいぞ?繁殖個体なだけあって他の穴の何倍もな?ほら、お前が欲しいってひくついてる。誰でもいいからアルファの種が欲しいってよ」

 アルファがゴクリと唾を飲み、取り引きを受け入れると言うが、男はアルファにヤらせるつもりはなかった。

「俺が先にその女とヤる。そうしたら、こいつを貸してやるよ」

 ただ、取り引き然とするため、アルファを揶揄うため、やっただけ。男はオメガの背中から手を出していたから見えなかった。その時のオメガの顔を。

 その後、男はアルファに見せつけるようにオメガを犯した。面白おかしく、卑猥に見えるように。

 オメガは犯している時、いつだって男を熱い視線で見つめていた。だが、その時は違った。宙を見て男を見ていない。気持ち良いところを突けば、機械のように秘部がきゅうと締まり、口から言葉にならない喘ぎが漏れる。オメガの喘ぎを聞いたのは、初めて抱いて以来だった。なぜかと、考えれば、そう言えば、煩いから喘ぐなと言っていたなと気がつく。
 オメガの目に自分が映らないことが気に入らない男は、自分をみろとばかりにオメガの心にナイフを突いて突いて突き立てた。

「お前のせいで、俺の計画が台無しだ。運命の番なんて無くなればいい。何が繁殖個体だ。お前なんかに俺の種なんかやるものか。ウザいんだよ。お前」

 何を言っても、オメガは反応せず喘ぐだけ。気がつけば、横で眺めていたアルファは消え去り、下にはぐったりしたオメガがいた。

 オメガのうなじにある男の噛み跡。それを食い入るように見つめた男はそのままオメガを置いて、屋敷に戻った。一応、帰り用の使用人を置いて。気が付けば帰ってくるだろうと。

 その日から、苛々を鎮めるように仕事に没頭した。オメガに会いたくなくて、アルファの家に泊まったり、ホテルに泊まったり。

「藍澤様……」

 夢を見れば必ずしずしず自分を出迎えて、少しはにかむオメガが。実際にオメガがはにかむ顔なんて見たことはない。冷たくされても、男が好きで好きで堪らないオメガの顔が見たくなった。

 久しぶりに屋敷に戻る。

 玄関にはいつものオメガが。

 居なかった。
 何故か使用人に聞きたくても、それでは、男がオメガを気にしているように見えてしまいそうで、聞かず、オメガを抱く為に、離れを訪ねれば、そこはもぬけのからだった。

「どう言うことだ!アレは!?」

 居てもたってもいれずに、使用人に尋ねれば、使用人は心底嬉しそうに笑って言った。

「ああ、あの卑しいオメガならどこかに消えました。良かったですよね」

 男は愕然とした。

 苛つきの元凶が消えた。男を獣とする最悪が消えた。
 オメガが消えた。男の運命がやっと消えた。

 湧き上がる絶望。

「……何故報告しなかった?」
「報告しようとしましたが、主人様がオメガのことなど聞きたくないと仰られましたので」

 使用人たちは、男の家の教えに染まって、オメガを心底馬鹿にしていて、目の前の使用人はオメガなどの世話をするのが如何に嫌だったかを語っている。

 だが、男には何も聞こえなかった。
 絶望が支配する男の中で、オメガの自分を呼ぶ声がこだまする。

 それから、いくら経ってもオメガが男の前に現れることはなかった。




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