善人の皮を被った鬼畜男に騙され、泣かされ、泣かせた俺の話

たたた、たん。

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 金森から呼び出されたのは10日ぶりで、俺は内心落ち着いてはいられなかった。デートと聞かれて必死に否定はしたが、呆れられたのかもしれないと気が気ではなかったから。

 今日は最初に呼び出されたあのナイトクラブだ。初めは緊張していた店内も段々慣れてきて、受付もスムーズに終わる。

「お待たせ」
「遅い」
「しょうがないじゃん。これでも急いで来てるよ」

 あまり他人には見せないムスッとした表情。優等生が珍しく駄々をこねたみたいな可愛らしさに上機嫌で返しながら上着を脱ぐ。

「今日はアルコール飲むから」
「あ、うん」

 わざわざ宣言しなくともいつも飲んでるのではと疑問に思いつつ、返事すると金森はだからお前は?と聞いてきてまるで意味がわからない。

「えっと、俺はってどう言うこと?」
「君も飲むの」
「俺も?……いいの?」
「早く言って。今頼むから」

 動揺しつつも待たせてはいけないことは分かっていた。

「じゃあ、烏龍茶で」
「は?酒じゃないじゃん。却下」
「ええ……俺アルコールに弱いし、そもそも値段とかって……」

 自分でも情けないと思うが、金森と初めてセックスした時もお酒を飲んでいてあまり記憶がない。家ではまだ構わないのだが、外出先で記憶を失うのは大変恐ろしい。あと普通に庶民だから、こう言うお店のお酒は法外な値段のイメージがあって手持ちで足りるか心配だ。

「君ね……じゃあ、俺と同じのね」

 あからさまに呆れた態度の金森は結局は俺の意見を無視して受話器でオーダーをしている。癖でジーパンのボタンを外したが、俺はどうすればいいんだろうか。飲んでからするのか、飲みながらヤるのか。俺に判断出来るような経験量はない。

 そわそわしながら入り口付近に立っていると、金森は自分が座っているソファの隣をポンと叩いて俺が来ることを促していた。慌ててボタンを締め、金森の右隣に座る。

「えっと、じゃあ、お邪魔します」
「なにそれ?別に今まで通りでいいけど」

 行為なしに二人きりで話すなんて久しぶりで、どうにも緊張してしまう。呆れた様子の金森は飲み途中のグラスを飲んで喋ることもない。

「あ、あの!」

 俺の割とデカめな声に金森が振り向く。目が合うと今更ながらに緊張が増した。

「いや……その」

 俺が何か話した方が良いのかと、取り敢えず口火を切ったが適当な話題が見つからない。

 どうしよう。何を言えば?何か話せること……共通の話題とかって。ない、ないな。今日はなんでお酒?なんて聞いたら感じ悪い?まるでさっさとヤろうって言ってるみたいで下品か?

 焦りが焦りを呼んで、挙動不審になっていると金森が顔を歪めた。

「っはは。そんな緊張しなくていいよ」

 綺麗な微笑みじゃない。くしゃりとした笑い。素の金森の笑顔を初めて見た気がして、つい釘付けになる。いつもの微笑みも好きだ。でも俺はこっちの方がいい。

「そっちの方が好き」
「は?」

 キャパシティが限界だったからか、心の声が漏れた。金森の不思議そうな顔。

「そうやって笑ってる金森の方が好き。……っあ、いつもが良くないって言うわけじゃないんだけど、こう人間味あるって言うか。ただの好みだけど俺は金森に今みたいに笑って欲しい」

 自分でも急に何言ってんだとは思ったが、考えるより先に口がすらすら話していて止める事が出来ない。金森は無言のままで、気を悪くさせたなら謝ろうとした瞬間金森が綺麗に微笑んだ。

「でも、優しい俺の方がいいでしょ?」

 顔の良い金森がする人好きするような綺麗な微笑み。だけど、裏に諦めや嘲りが混じっている気がした。

「別にそんなことないけど」
「嘘だね」
「嘘じゃない。だってそもそも金森って俺に優しくないじゃん」

 美形のキョトンとした顔。

「……確かに。君、なんで俺が好きなの?馬鹿だね」
「俺もそう思う」

 馬鹿にしたような呆れ笑い。でも、自然体でそのままの金森だ。馬鹿で上等。好きなんだからしょうがない。

「お待たせ致しました」

 目の前にドリンクが届く。細いグラスからシャンパンみたいなものだろうか。金森はひとつ取って飲み始めたが、俺には未だ迷いがあった。

「何やってんの?飲みな」
「あ、うん」

 酔わないように気を引き締めて、しかもたった一杯なら大丈夫なはずだ。痛い出費だけど帰りはタクシーを使おう。

「うまっ!」
「君が飲んでるような安い酒じゃないしね」
「やっぱ高いのかぁ」
「それなりに」
「ちょっと財布の中身確認してくる」

 最悪クレジットカードを使えばいいのだろうが、なんと言うかまだ使い慣れていない。払った気がしないから、際限がなくなってしまうんじゃないかと尻込みしているのだ。全く庶民が過ぎる。

「は? 俺が払うからいいでしょ」
「えー、悪いからいいよ」

 自分が飲んだ分くらい、自分で払う。たった一口しか飲んでいないのに身体が浮かびそうなほど足がふわふわしてきた。

「何言ってんの?…….もしかして、ここはいる時も払ってる?」
「当たり前じゃんー。ちゃんと払ってるしー」
「……今度から俺の名前出しな。払わずに入れるから」

 少し苛ついたような態度の金森を不思議に思う。

「俺、なんかいけないことした?」
「別に。君は悪く無いよ」
「そっ?ならいいや!はは!楽しいなぁ」
「酔うの早すぎ」
「ほら、笑って」

 フワフワした世界で俺は怖いもの知らずだ。ゴクゴクと残りのアルコール一気に飲み干してから金森の顔を両手で触り、きゅっと口角を無理やり上げる。

「ちょっと」
「ははは!金森は格好いいな!好き!」
「君、美形好きなの?じゃあ、藍田のことも好き?」

 ちょっと意地悪そうな顔。

 その表情もいい!あの人は顔は良いけど、なんか無理なんだよな。顔は良いけど受け付けない。なんなんだろうな。

「ふーん。好みがあるんだ?」

 あれ?金森、なんで俺の思ってること分かるの?凄い!超能力?

「違うよ。君が全部口に出してるから分かるだけ」

 なるほどぉ。金森は凄いな!

「……話にならない」

 金森、好き。好きだよ。大好き。世界で一番好き。

「あいつよりも?」

 あいつ?

「この前デートしてたじゃん」

 違う!違うよ、そんなんじゃない。豪くんは友達。デートじゃない。俺が好きなのは金森だけ。

「ふーん」

 でも、いつか金森とデート出来たらいいな。

「そんなのーーーーーー」








 はっと目が覚めると、自分の部屋にいた。

「は?え?帰ってきた?」

 服は昨日の服のまんまだが、鞄も忘れることなく部屋にある。アルコールを飲んだ後の記憶はあんまりないが、自分が途中で寝てしまったことだけは覚えていた。

 クラブのソファで朝を迎えると思っていたのに、どうやって帰ってきたのか。

「っていうか、まじか……」

 帰ってきた手段は、まあ自分でタクシーでも捕まえたのだろう。それはいいとして、金森から呼ばれたのに何もせずに寝てしまった。

「セフレ失格だ」

 二日酔いの頭痛がより酷くなる気がした。何の役割も果たさなかった俺を金森はまた呼んでくれるのだろうか。



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