善人の皮を被った鬼畜男に騙され、泣かされ、泣かせた俺の話

たたた、たん。

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「もしかしてここに住めって言ってる?」
「もしかしなくともそうだけど」
「無理だよ!?」

 本当になんなんだ。いや、一緒にいてもいいと思われてるのなら嬉しいことだし、俺の心配をして住めと言ってくれたのだから有難い話だ。それはそうとして、駄目だろ。

「なんで?あんな狭くてセキュリティのない部屋よりよっぽど良いでしょ」
「俺の家が狭いことは置いといて、他所様のお家に乗り込むのは論外だって」
「俺がいいって言ってるんだけど……それに他所様って?」
「なんで金森が怒るの!?」

 俺は常識的なことしか言ってないのに、何故か金森が不機嫌になった。金森が他人で、人の家に飛び込むのは非常識なこと。それは正しいはずだ。それなのに怒っている。やっぱり金森の常識がずれてるんじゃないか。

「いや、あのさ普通に考えて。金森って婚約者いるよね?」

 オメガたちが言っていた婚約者。確かに、ドラマで見たセレブたちはそういう関係の人がいるイメージだからなんの不思議もない。俺は婚約者と結ばれるまでの繋ぎみたいなものだ。

「いるけど」
「じゃあ、絶対駄目でしょ。肉体関係がある同居人なんて婚約者がいる人のすることじゃない」
「はあ?別にいいでしょ」
「倫理的にアウト」
「今更?」

 た、確かに付き合ってもいないのにやることやってる俺達の関係性は普通にアウトだ。俺が言い返せないでいると、金森が溜息をついた。

「あのさ、君がどんな想像しているか知らないけど婚約者って言っても政略結婚なわけ。情とか一切ないし」
「そういう問題じゃない!」
「そういう問題だよ。あっちも恋人くらいいるでしょ」

 駄目だ。話にならない。金森に誠意という言葉はあるのか。

「先の話になるけど、俺が結婚した後もここに住めばいい」
「は?」
「別に悪い話じゃないでしょ。働かなくても俺が養ってあげるよ」
「いやいやいや……」

 世界が違うなと思っていたが、金森ってここまで変わった奴だったか。恋人にするより重いことを言ってるんだが。
 つい頭を抱える。金森は俺をここに引越しさせたい。その理由はオメガだと危ないから。それはまあ善意として受け止める。結婚してもここに住め。それはもう善意じゃなくないか?なんかこれって愛人みたいじゃないか。いや、愛人なんてそんないいもんじゃないけど、話だけ見てると完璧に愛人だ。
 金森も冷静にそれって俺を愛人にするんだよ?と言えば、冷静になってやめてくれるだろう。

「あのさ、それって愛人だから」
「そうだよ?」

 何言ってんの?って顔をされた!これは駄目だ。何が駄目って何もかも駄目だ。金森の倫理観が狂っている。いや、乱交してるくらいだから狂っているのは知っていたけど、結婚すれば落ち着くもんじゃないのか!

「あ、あのさ、俺ただのセフレの内のひとりだよね?」
「君以外ぜんぶ切ったから君ひとりだよ」
「今、そうなのは知ってるけどこれからは分からないじゃん」
「これからも君だけだよ」

 考え方がクズだけど、う、嬉しい。これが婚約者のいない恋人としての君だけだよなら泣いて喜ぶのだが、絶対に違う。今は流されちゃ駄目だ。流されたら、一生流され続け子供部屋おじさんならぬ金森部屋おじさんになってしまう!!

「でも、結婚したらこういう関係って解消されるものでしょ?」
「別に?そのまま続ければいいじゃん。というかさ、そろそろ本当に怒るよ?」
「なんで!?」
「君は俺が好きなんでしょ。君にとって良い提案しかしてないじゃん。なんで素直に飲めないわけ?馬鹿なの?」

 俺が怒りたいのに、反対に俺が怒られている。おかしい。誰か第三者がいれば確実に俺を正しいと判定するはずだ。いや、金森の圧力に負けない凄く公平な第三者じゃないといけない。

「君は俺が好き。このまま一緒にいるだけで不自由なく暮らせる。なんなら欲しいものなんでも買ってあげるよ。何処が不満なわけ?」
「不満というか……例えばそれが成り立ったとして、急に俺が捨てられたら?なんの職歴もないニートの誕生だよ」
「俺は君を手放す予定はない」

 だから、最後の台詞だけ聞くと良い言葉なんだけどただの愛人契約なんだよな。

「悪いけど倫理的に無理」
「……君はさ俺が好きなくせに俺に執着しないよね。まるで俺のことがどうでもいいみたいだ」
「そういうわけじゃないけど。将来いつか絶対離れる時が来るって分かってるからあんまり期待してないだけ」
「……すごいムカつく。さっきは愉快だっだけど、今は本当に頭に来る。なんなの?何にも気にせず俺といればいいじゃん。なんでそんなにすぐ諦めんの?俺に言わせないと気が済まないわけ?」

 怒っているというより拗ねているような。金森は俺と目を合わせることなくそっぽを向いている。昼に何も分かっていないと言われたが、金森の不機嫌はそれに起因しそうだ。だけど、俺はちゃんとセフレとして弁えてるし、他の奴らと違って恋人になりたいなんて高望みもしない。それこそ俺はちゃんと分かっているつもりだ。
 金森は愛人になればいいと言うが、そんなこと俺の常識が耐えられないし、その内自分が特別だと勘違いしてしまいそうで怖い。そんな関係になるくらいなら、今後一切金森と関わらず、恋人のいない一生を過ごした方がましだ。

「凄く有難いことを言ってくれてるのは分かってるけど、本当に今回は無理」
「っ偉そうに言ってるけど、君の代わりはいくらでもいる」
「なら、その人に愛人になって貰えばいいじゃん」
「っ!」

 金森がテーブルに水を勢いよく置いた。生じた大きな音に驚き、そう言えば今日黒部が吹っ飛ばされていたことを思い出す。

 俺も蹴られるのか!?と身構えるが、金森はふうと大きく息を吐いて、ぽつりと言った。

「君って本当に馬鹿だ。……もういい。今日は帰って」
「あ、うん。分かった」

 兎に角、ヒートアップしない内に帰ろうとサッと荷物を持ち、立ち上がる。

「待って。これ、タクシー代」

 とんずらしようとしていた俺に金盛がそう言って三万円を渡そうとして来ようとする。なんか面倒くさそうだから帰ろうと思ってたことが申し訳なくなった。

「電車で帰るからいらない」
「俺をこれ以上ムカつかせる気?」
「あ、はい。ありがとうございます」

 反射で受け取ってしまった。別にいらないんだけど、こう言うのを遠慮する方が怒るからしょうがない。タクシーあまり好きじゃないけど乗らなきゃ。

「お邪魔しました」

 流石に今の金森にまた明日を言う勇気はない。玄関を出る瞬間に見えた金森は少し傷付いた顔をしていたような気がした。

「いやいや、金森が傷つくとかないでしょ」



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