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しおりを挟む前に金森の家に行ってから10日ほど過ぎ、その間なんの連絡もなかった。あれほど毎日呼び出していたのに、今度こそ本当に愛想を尽かされたのかもしれない。
以前はもう会えないことが怖くて仕方なかったのに満ち足りた時間を過ごしたからかもうこれ以上幸せな時間は来ないだろうとある種の満足感がある。一瞬でも俺だけと言って貰えた。それだけで一生生きていける。
別れ方があんなだったのは気がかりだが、元々違う世界の人間だ。それこそただのセフレの俺を愛人にしてしまおうと考えるくらいには金森はおかしい感覚を持っている。俺は金森の世界に適応出来ないのだから、もうここが俺と金森の限界なのだ。
とは言っても未練はめちゃくちゃある。一時間に一回は金森からのメッセージが来てないか確認するし、確認するたびになんのメッセージも送られてこない事実に落ち込んで。もう確認なんてしなきゃいいのにやめられない。もう満足した。金森が好きという事実だけで構わない。もう会わなくたっていい。そう思っているはずなのに、身体はいつだって金森の跡を無意識に探していた。
これでいいという捨てられたことを受け入れる気持ちと、まだ諦められない本能が反復してやってきて、俺の中がもやもやしていても俺を見る周りの目は変わらなかった。
大学では殆どの人に距離を置かれていて、と言っても嫌がらせではなく不可侵の領域というか関わっちゃダメだよね、と思われている感じだ。最初は純院生だけだったが、空気を察した外部生もしっかりと俺を避け始めた。
本当に金森に愛想を尽かされていたのなら、俺を避ける必要は全くないのだが。もう大丈夫ですよと言って回るのはおかしいし、俺が捨てられたと周知されるまでこのままなのだろう。
元から友人が殆どいないため困らないのが、不幸中の幸いか。
避けられるということは見られているということでもあって、視線が気になる俺はなるべく人がいない場所に移動するようになっていた。
「小林さん!」
移動中、名前を呼ばれて驚いた。確実に豪君の声だから苗字が同じ人かもと疑うことなく振り向く。豪君と会うのも久しぶりだった。
俺が振り向くと、さりげなかった視線があからさまなものに変わる。豪君を巻き込むわけにはいかない。
「ここ人気多いから、4棟裏のベンチに来て」
豪君は聡いから俺の意図がすぐに伝わって、頷くとともに俺から離れていった。
あんなことがあった後で話すのは気まずいが、優しい豪君を無視するわけにはいかない。豪くんはここでの唯一の友人だ。事情くらい話してもいいだろう。
早足で伝えた場所に向かったが、そこにはもう豪君が立っていた。足の長さの差のせいか。
「ごめん。待たせた?」
「いえ、あの……あれから体調はどうですか?」
少し言いづらそうな表情。バース性、特にオメガ性について聞くのは避けられる傾向がある。豪君はそれを分かっていても心配して言ってくれてるんだ。
「うん。大丈夫。……あのさ、びっくりさせてごめん。俺実はオメガなんだよね」
「いえ、きっと事情があったんですよね。別に気にしてません。小林さんの体調が悪くなかったらそれで良いんです」
きっと豪君ならそう言ってくれると思っていた。想像通りの優しさにホッとしていると豪君はまだ何か言いたげにしている。
「どうした?」
「あの時も金森さんが来たのもそうですし、……噂も広まってて……」
「ああ、それね、うん。どんな噂か知らないけど少ししたら落ち着くと思うよ」
俺が知ってるのはなんかの噂が広まって避けられていることだけで、具体的にどんな噂が広まっているのかは知らない。きっと金森さんのお気に入りみたいな感じで広がっているんだろう。
それも金森がやっぱり辞めたと宣言すれば落ち着く話で、実際金森からの連絡はぱったり途絶えている。
「……はっきり言います。金森さんには婚約者がいて、小林さんは弄ばれている可能性がでかいです」
覚悟を決めたように話す豪君の言っていることは、とっくに知っていることだ。強いていうなら弄ばれているというよりは俺の意思で遊ばれているだけなのだから問題もない。
「それは知ってる」
ただ、自らセフレ志願しましたと言ったら絶対に引かれそうだ。豪君はそういうところがしっかりしている印象だし、爛れた奴だと嫌われるかもしれない。明言しないでおこう。
「ならなんで……」
「それでもいいんだ。別に高望みしてない」
そもそも婚約者と俺なんて比べる余地もない。俺の諦めた様子に豪君は少し動揺してから、ぐいっと俺の両肩を掴んだ。
「俺と、付き合ってみませんか」
「え」
これは色恋のお付き合いのことを言っているのか。告白したこともされたこともないから判断がつかない。それにしては、断腸の思いみたいな顔をしているんだが。お付き合いの告白だとしたらこんなにときめかない告白って珍しいよな。本当に何がしたいんだ豪君よ。
「色々と置いといて。豪君、俺のこと恋愛的な意味で好きじゃないでしょ」
「人として好きです。これからは恋人として好きになるつもりです」
「いや、感情なんてそう簡単に操れるもんじゃないし……どうした?」
そんな頑張って好きになりますと言われても。豪君が何を意図してこんなこと言い出したのか。俺が困惑していると豪君はポツポツと語り始めた。
「俺の母はオメガで、愛人をしていました。俺は所謂妾の子です。アルファの父は俺の母を言いように扱って……母はいつも泣いてました。あんな奴と別れようとも母には働くあてもなく、結局全部あいつの言いなりで。……一目見た時から金森さんはあいつと似てる気がしたんです。最低な自分勝手で人を人とも思ってない。だから嫌いでしたし、小林さんがあの時金森さんに連れて行かれた時本当に心配でした。……小林さんのために金森さんとは別れた方がいい」
語られた豪君の過去はよく昼ドラで聞くような内容で、豪君が金森に良い印象を持たないことに納得した。豪君が俺のためを思って、好きでもない俺と付き合おうと言うのも金森と俺を離すためなのだろう。
「気持ちは嬉しい。ありがとう」
豪君が勢いよく顔を上げる。俺が断ると思ったんだろう。
「俺は金森の愛人になんかなるつもりないよ。だからと言って豪君と付き合う気もない。そんなに心配しなくても、金森だって婚約者といれば俺のことなんてすぐ忘れるって分かってるし」
「俺はっ……小林さんのことを軽く見てるわけじゃないです。ただ、不健全な関係は不幸にしかならないって伝えたくて」
「分かってるよ。豪君、良い奴だもん」
豪君がホッとしたように息を吐いた。知り合いのために好きでもない男に告白するような優しいアルファ。金森とは正反対だ。金森は自分勝手な俺様で、誰もが自分の思う通りに動くと思ってる。そんな酷い男なのに、時々見せてくれる素の笑顔は眩しくて、なんだかんだ言って俺を見てくれる。なんの取り柄もない、オメガのくせに嫌いでもない俺を一瞬でも特別と言ってくれた。
……金森は今何をしているのだろう。
金森から貰ったチョーカーを触る。そして気付いた。
「……そう言えば、これ外すの金森しか出来ないじゃん」
「え!?」
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