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しおりを挟む大学から帰宅し、今日の講義で課された課題をさっさとこなす。昼に曇りだった天気は今は大荒れで、激しい雨と風邪で窓ガラスが揺れていた。夜中になるともっと酷くなるらしく雷注意報も出るようだ。
家に帰ったら考えると決めたものの、全くやる気が出ない。金森がちょっとは俺のことを想っていたのかもしれないと仮定しても、じゃあなんで今になって連絡が途絶えるのかって話で。
気分を変えようと早めの夕飯を食べることにする。今日は料理をする気力がないからカップ麺だ。ポットで湯を沸かし、カップ麺に注ぎ込む。5分待てば完成だ。
もはや無意識でメッセージが来てないか確認する。やっぱり来ていない。
「なにやってんだろ……」
自分のなにもやりきれていない感じに我ながら呆れる。自己嫌悪に陥りかけていた時、インターホンが鳴った。
宅配かな。なにも頼んだ覚えないけど。一応、危ない輩の可能性もあるので足跡を消してドアスコープを覗き込んだ。
ガラスが濡れてぼやけたよく見えない。じっと観察して漸く気付いた。素早くドアを開ける。
「金森!!」
雨に濡れて不機嫌そうな金森が立っていた。
「なにやってんの!入って!」
横殴りの雨でそのままでは雨が当たる。急いで中へ誘導しても金森は動こうとしない。
「濡れちゃうって。早く入りなよ」
金森はムッとしたまま俺を見てるだけで、それでも部屋に入ろうとしない。流石に遠慮なんて思い付かなくて、金森の腕を引っ張り家に引き込み、扉を閉めた。いつもは我が物顔で部屋に入る金森がずっと無言で立っていて、動く気がないのが分かった。
何をしたいのかさっぱりだったが、靴紐を勝手に解いて手を引けば素直に着いてくる。金森をベッドに座らせ、タオルを渡そうとも思ったがこの調子だと受け取りもしなさそうなので勝手に拭く。顔の水滴を取る時も金森は抵抗もせず、髪を乾かしてもされるがままだ。
頭を乾かした所でやっと気付いた。金森と会うのは久しぶりだ。あまりに緊急を要する事態で、色々と頭から吹っ飛んでいた。
俺に会いに来たってことは、まだ俺に飽きてないのだろうか。じわじわと安堵が広がるが、今はそれ以上に金森の様子がおかしくて素直に喜べない。
「どうしたの?」
金森は答えない。どうすればいいのか。いつもの俺なら、金森の考えることなんて分かるはずないと放置していたが、万が一の可能性を知ってしまった。おずおずと手を金森の手に重ねる。
金森は俺が思っている以上に俺を好きなのかもしれない。今でも自意識過剰だと思うが、もしそうなら俺がすべきことは寄り添うことなんじゃないか。
金森は何も言わなかった。金森の手が冷たくて、もっと暖めてあげたくて覚悟を決めて抱きしめてみる。今まで手が届かないと思っていた金森はそりゃ大きいけど、想像以上に簡単に両腕に収まった。暫く、無言でそうしていると金森がぽつりと話し出す。
「君は俺に会いたくなかった?」
「会いたかったよ」
「でも、君は連絡ひとつ寄越さなかった」
自分から連絡する。それは即ち別れと直結してると思っていた。でも、金森は俺の会いたいという素直な我儘を待っていたのか。
「君は大して俺のことを好きじゃないんだよ」
「好きだよ」
もしかして、金森は落ち込んでいじけてるのかもしれない。そう思ったら嬉しくてソワソワしてしまう。本当に金森は俺のことを結構好きなんじゃないか。その思ってもいなかった可能性にやっと真剣に向き合った気がした。俺が連絡しなくて落ち込んでるなら恐れず連絡すれば良かった。会いたいって言えばよかった。いくら金森の感覚がずれていようとも、そこに俺への想いがあるならあんな断り方しなかった。受け入れることもないけど、もっとありがたみを持っていたはずだ。
「金森が好きだよ。ずっと死ぬまで好きだよ」
「それなら俺とずっと一緒にいればいい」
「……好きだからこそ無理だよ」
金森が駄々をこねるように言う。でも、少しでも気持ちがあるなら欲張ってしまうことが自分でも分かっていたから断ることしか出来ない。
「君って馬鹿だよ。別に俺は相手のことなんか駒としか思ってない」
「でも、結婚するんでしょ」
「そうだよ。俺の地位はそうやって決められたルートを辿ることで守られてる。結婚を断ったら俺はただのアルファどころか、金森家からの嫌がらせでなんの価値もない奴になるさ」
俺には分からない上流階級の事情がきっとあるんだろう。でも、なんの地位も名誉もない金森だって俺にとっては変わらない。ずっと好きな人だ。寧ろ、ライバルがいないしラッキーなくらい。そう。ただの金森亮太が恋人になってくれたらそれだけでいいのだ。
「……別に俺は何もいらない。金森に何にもして貰わなくてもいい、ただ恋人になってくれるなら、なんもない金森がいい。俺だって同じ大学受かってるんだし稼げるよ。金森が働かなくないなら俺が養ってあげる」
「冗談じゃなくて俺は負け組になるよ。それが上に逆らう代償なんだから」
「いいじゃん!!それで俺だけの金森になってくれるなら俺は大歓迎だよ」
少しだけ想像してみる。広いとは言えないアパートで仕事から帰ってくるとそこに金森がいる未来。家事だってしなくていい。全部俺がやるから、頑張ったねって抱きしめて欲しい。それだけで幸せでなんでも出来る気がするから。そんな、そんな幸せな未来があったなら、どんなにいいだろう。
金森は俺のだらしない妄想している姿を見て、俯いた。
「馬鹿だ。馬鹿。本当の馬鹿だ。なんでそんな嬉しそうなの」
「しょうがないじゃん。俺だけの金森になってくれるってそれだけ嬉しいことなんだよ」
「その俺は何も持ってないよ」
「何かを持ってる金森が好きなわけじゃないし」
「オメガなのに働くのは大変だろうね」
「薬だってあるしなんとかなる。今はオメガだって働く時代だし!」
「金森の圧力で君だって就職できないかもよ」
「そしたら一緒に地元に来てよ。畑でも作って自給自足すればいい」
金森は不利なことばっかり言うけど関係ない。例え障害が広がっていたとしても乗り越えていけばいい。幸せにして貰わなくていい。俺が幸せにしてあげたい。
金森が片手で顔を多い、肩を震わした。
まるで泣いているように見えて、動揺する。なんて声をかけようかと迷っていると、急に顔を上げた金森が聞いたこともない声で笑った。いや、笑ったところじゃない。大爆笑だ。
「ははははは!!!本当に馬鹿だ!!やばい!!馬鹿過ぎておもしろ!!!何もない俺が好きって趣味悪すぎだろ!!はは!!」
泣かなくて良かったけど、大雨じゃなかったら近所迷惑になりそうな笑い声だ。金森が腹を抱えて笑ってる姿初めて見た。俺のベッドを叩きながら、何かを吐き出すように笑う金森は新鮮で、でも楽しそうで良い。
「はー……笑った」
ひと通り笑い終えた金森がスッキリした顔で俺を見る。その目元は濡れていて、引き寄せられるように触るとまたぽとりと涙が溢れた。金森が泣いた。優しそうな顔をして中身が極悪クズ野郎の金森に沢山泣かされてきた。その金森が泣いていて、その涙は想定外に綺麗だ。
「言っとくけど、笑い涙だから。こんなに笑ったの初めてだよ。笑いすぎると涙が出るんだな。知らなかった」
その言葉が真実なのかは知らない。でも、笑っているのならそれでいい。俺が馬鹿で金森が幸せならそれで万々歳だ。
金森が目元に触れた俺の手を取った。そのままスイと口元に寄せて手の甲にキスをする。突然のキスに驚いた俺を見て金森がまた笑う。
「しょうがない。俺も馬鹿になるかぁ」
変なことを言う金森。なんのことかは知らないが、嬉しそうだからなんでもいい。
金森が俺を抱き寄せて、顔を近づけてくる。なんだと思い金森を見たら唇に感触。金森の唇と俺の唇が触れて、これは紛うことなくキスだ。初めてのキスだ。初めての。
驚いて声も出ない俺を見て金森がまた笑った。
「遊ゆうのせいだよ」
俺の名前知ってたんだ。
「……なんか食べ物の匂いするんだけど、何か食べてた?」
「あ、カップラーメン!!」
待ち時間を大幅に過ぎたカップラーメンは麺が伸び切ってふやけていた。後で食べようとしたら、金森が一緒に食べようと言うから半分を皿に移して、半分こする。
スープを吸い切って伸び切った麺は、掬い上げるとぶちぶち切れて食べづらく感触も微妙だ。外ではついに雷が鳴り響き、とても良い天気とは言えない。でも隣には首を傾げながら不思議そうに食べている金森がいる。とても胸が暖かい。
「やっぱりあんまり美味しくないね」
「まあ、でも思ったよりはいける」
ああ、きっとこれが幸せな味。
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