善人の皮を被った鬼畜男に騙され、泣かされ、泣かせた俺の話

たたた、たん。

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「家出したから泊めて」
「え!?」

 翌日の夕方、カバンひとつで俺の家に来た金森はそう言ってずかずかと部屋の中に入ってきた。昨日、馬鹿になるとかなんか言ってたけど、家出ってどういうことだ。

「勝手に婚約破棄して来た。上の判断でもしかしたら勘当かも」
「何やってんの?!」
「は?遊と恋人になるために家捨てて来たんじゃん」

 凄い重い事言われたんだが。何かするのかなとは思ってたけど、まさかこれからの栄光の道を捨てて俺を選んでくれたってことか。少し期待はしていたけど、いざ本当に行動されるとそんな選択をさせて良かったのか心配になる。

 好きな人に家を捨てさせて凄く申し訳ないのに、嬉しいのは最低だろうか。でも折角金森が行動に移してくれたのだから、俺も金森を養うくらいの覚悟を持たないといけない。

 金森が俺を選んでくれた。もうこれは明らかな事実だ。それだけで嬉しい。金森を幸せにするために俺の人生全てを捧げてもいい。でも、その上で聞きたいことがある。欲張りだと分かっている。

 もうこれだけ行動で示してくれている。だけど、やっぱり言葉で聞いてみたい。

「金森は俺のこと好きだよね?俺は好きだよ」

 ここまでしてくれたのだし、流石に言ってくれるだろう。金森が俺に甘い言葉を言う。全く想像出来ないが今なら言ってくれるんじゃないか。

「何?言わせたいの?ベッドの上では言ってあげるけど今は嫌なんだけど」
「つ、冷たい……」
「と言うか、金森じゃなくなるかもしれないし、下の名前で呼んで」

 いや、いいんだ。天の上の存在が俺の元まで転がって来てくれた。凄いことだ。本気の覚悟がないとできない。一生に一回レベルの決断を俺のためにしてくれた。好きくらい言ってくれてもと思った俺が間違ってたんだ。

「金森じゃなくなるってそれは大袈裟じゃん?……まあ、亮太って呼んでいいなら呼ぶけど」

 初めて下の名前で呼んだ。なんだこの気恥ずかしさは。下の名前で呼ぶだけでどうしてこんなに距離が縮まった感じがするんだろう。亮太は平気そうだけど、俺は結構勇気がいる。

「俺が遊の家に嫁いで小林性になるかもしれないから大袈裟じゃない」
「嫁ぐって!!気が早いよ」
「俺と結婚したくないの?したいでしょ」
「そりゃ、したいです」
「じゃあ、結婚すればいいじゃん」

 これってプロポーズだろうか。あまりに自然過ぎて流そうとしたが、これはプロポーズじゃないのか!?え、早足すぎないか。そもそも恋人にはなったんだよな?さっき亮太だってそう言ってたし。

「も、もしかして結婚してくれるの?」
「俺にここまでさせて結婚しない気なわけ?」

 質問したのに質問で返された。しかもちょっと怒っている。ま、まあ、いいのだ。正直、亮太がしたことがどれだけ大変なことなのか庶民の俺には分からないし、まさか本当に勘当なんて、そんなことないだろう。亮太だって大袈裟に言ってるんじゃないか。

 でも、もしそうなったとしても俺が亮太を養うから問題はない。そうしたら今まで以上に頑張らないと。

「じゃあ、俺バイト増やすわ!亮太はここにいてくれるだけでいいから!」

 亮太が大きなことをしたのだ。俺だってそれにむくいないと駄目だ。亮太に安物は食べさせられないし食費も嵩むはず。絶対に俺が幸せにするんだ。

「いや、俺ももうバイト先決めてきたし遊はいつも通りでいい」
「はやっ!?え、大丈夫?バイトって人に遜ることとかあるけど出来る?」
「馬鹿にしてる?家庭教師の仕事だし余裕。てか、折角一緒の部屋にいるんだからあんまり外に出ないで。遊は俺と一緒にいたいでしょ?」
「あ、はい」

 あの亮太が働く?全然想像出来ない上に、これはもしかして遠回しに一緒にいたいと言われてるのではないか。え、気のせいか。

「遊」

 亮太に呼ばれて振り向く。そのまま後頭部を掴まれてキスをした。昨日とは違う口内を犯されるようなキス。上手く息が出来なくてヘトヘトになった俺を見ながら、亮太が少年のように笑った。初めて見た顔だ。

「遊のせいだよ。今までの俺なら絶対にこんな選択しなかったのに。今の俺は馬鹿みたいに楽しい。遊のせいで変わったんだからしっかり責任取ってもらわないと」
「う、うん。絶対に亮太を幸せにしてみせるから」
「そう。じゃあいつ番契約する?薬飲んでる?もう飲まなくていいから。次の発情期の時噛むよ」

 だから早い!!

「そう言うのって付き合ってから数年でするものじゃ……?」
「は?なんで?俺が嫌なわけ?」
「いや、そんなことはないけど……」
「番契約はオメガの方が不利なのは分かってるよ。俺に捨てられたら遊は一生辛い人生だろうね。でも、俺は家を捨てる覚悟で遊を番にするわけ。後でいくら遊が別れたいって言っても逃がしてあげないから。分かってる?遊が泣き叫んで別れたいって言っても鎖で繋いで一生家から出れないようにするからね」

 重くない?いや、重いよな。

「重くない?なんでそんなことは言えて、好きとは言ってくれないの?」
「伝わってるんだしいいでしょ。遊、しつこい」

 俺が悪いのか?いや、俺が悪いんだ。こんな男だと分かってても好きなんだから俺が悪い。愛しい男は6畳ワンルームのベッドの上で堂々と鎮座している。正直、只者ではないオーラを放つ亮太とこの平凡な部屋はギャグみたいに釣り合ってなくて、でもそれでも亮太は俺を選んでくれた。

 家出と言っても数日で気が変わるかもしれない。俺には分からないがこんなことで勘当なんてするもなのか見当もつかない。

 もしこの幸せがすぐに終わってもその日々を反芻して一生生きていける。

「スマホも置いてきたし、今後は遊のスマホ借りるから」
「あ、うん。どうぞ」
「シャワー借りるよ」
「全然いいんだけど、狭いよ。浴槽はあってないような小ささだし」
「いや、別にいいし」
「シャンプーとかも安物だよ……」
「別にそれ使えばいいじゃん。俺も使いたいのあったら買ってくるし。だいたい田舎での自給自足生活まで想定した上で出てきたわけ。そう言う気遣いいらないから」

 どこまで本気なんだろう。分からないが、亮太は変に遠慮すると不機嫌になるので、なるべく綺麗なバスタオルを用意して亮太に渡す。

「下着は新品があるから大丈夫」
「別になんでもいいけど。遊が隣にいるなら、別にそれだけで満足だし」

 亮太はさらりとそう言って、カバンから物を出している。い、今のは明確な愛情表現じゃないか。俺が固まっているうちに必要な道具を揃えて立ち上がった。

「俺ってもしかして凄い愛されてる……?」
「今更でしょ」

 亮太は否定しない。もっと素直になってくれればいいのに。でも、そんなとこも可愛いかもしれない。質素で申し訳ないけど、こんな日々が続けばいい。

 亮太はああ言うけど、絶対に俺が養ってみせる。



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