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ザマァレボリューション
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しおりを挟むニヤニヤしながら、怒ったふりをするエルは今の状況を分かっていない。エル自身鈍いからこそ、あらぬ罪を着せられたのだろうが……まあ、そんな阿呆なところも愛嬌じゃないか。
「私の有能さをヴォルフも認めたのね! まったく! そう思っていたなら言いなさいよ! 私、褒められ慣れているから全然嬉しくなんてないけど、まあ、悪い気分じゃないわ! 最初は少し苦手だったお洗濯だってお掃除だって完璧に出来るようになったし、お料理だって上手になったんだから!ほら、私って天才じゃない? 出来ない事なんてないのよ 。付与魔法だって私が強いからこそヴォルフにだって効いたのよ、多分。それに、その、キ、キスだってもう慣れたもの!」
馬鹿王子の前で黙っていた分、溢れ出すように吐き出して言葉は、幾らか余計なことを言っている。身近で俺たちの関係を見てきたエヴァは、前までエルが雑用係として俺のそばにいて、今は進んでエルが俺の世話を焼くようになったと知っていたが。
「え、君たち本当に付き合ってるの?」
エヴァは、気の良い男だ。純粋な娘を騙して、柔らかい唇を吸っていると知られたら苦言を言うに決まっている。そんな、わざと言わなかった事実をエルはバラしてしまった。真っ当な人間なら確かに、キスをする関係は付き合っていると考えて良いのだろう。
「違う」
「違うわ!ヴォルフと交際なんて有り得ないんだから!」
お互いに否定するのは当たり前だ。だって、付き合ってなどいない。だが、過去現在はいいにして、未来系もあり得ないと言われるとは思っても見なくて、少し破壊衝動がつのる。わけもなく、膨れ上がる苛つく気持ちに答えを出せず、黙っていればエルがそのまま恋人でなくてもキスをする種明かしをしてしまった。
「キ、キスは付与魔法を強くするためよ! それ以上の意味なんてあるはずないんだから!」
言い訳するように必死の形相で言うエルにエヴァは、面を食らったような顔をして、エルの言った意味が徐々に頭に浸透していくと非難するように俺を見た。
「普通、付与魔法のためだと言ってキスなん」
「用件はなんだ」
言わせないとばかりに、言葉を挟む。エヴァに言われなくても分かっている。最初は、良いように騙されるエルが面白かった。でも、今は本気であの付与魔法を必要としている。
パーティの間柄にあれこれ言うのはマナー違反だ、とばかりにこちらを見るエヴァをギロリと睨むと、エヴァは諦めたようにため息をついた。被害者を見るような目でエルを見るのは余計だ。
エルは俺たちの間で散る火花に気づかず、差し出されたエヴァ御用達の紅茶を啜っている。
「まあ、ショコラ君はヴォルフの好みではないしね」
「用件」
これ以上余計なことを言わせてたまるか。別に、エルに俺の好みなんてバレても仕方がないが、取り敢えずエヴァの口を止めさせたかった。先ほどみたいに、皆まで言わず単語で伝えると、エヴァは今度こそ、こほんと咳払いをし、姿勢を整えた。
ただし、今回ばかりはエルの耳にもしっかり入ったようでうんうんと頷いているから微妙な気分になる。それで良いのか、女として。
「本題に入るよ」
「ええ」
俺は無言で頷き、エルは律儀に返事をする。
「貴族委員会がショコラ君の受け渡しを要求してきた」
「え!?」
予想していた事だったが、鈍いエルは驚きの声をあげた。あまりにも予想外だったのか、動きはフリーズして置きかけたカップを手に持ったままだ。
「ショコラ君は、ヴォルフに無理やりパーティに入れられていることなっている。不当な契約の元、不当に働かせているらしいけど。……単刀直入に言おう。それは、本当かい?」
「違うわ! そんな事有り得ない! 寧ろ私がパーティに入れてお願いしたのよ!貴族委員会側の主張は事実無根だわ!」
エルが前のめりになって、否定している。それを冷静に見ながら、家に帰ってから契約書を作ることを取りやめにした。エルは嘘をつけない。下手に書類を作って、それを突き出されたら、エルは変に反応してしまうだろう。ここは、貴族側に下手な言い分を与えてはならない。
エルの必死の訴えをじっと見ていたエヴァは、ため息をついてエルを安心させるように笑った。
「だろうね。だから、僕もその場で抗議したんだが」
エルはその言葉でエヴァが自分の味方と知って安心した様子を見せたが、俺は反対にその言葉に警戒した。エヴァが俺たちの関係を理解していた上で、まだ何かあると示唆しているからだ。
「それで?」
言いにくそうにしているエヴァに、続きを促す。何を言われても、例え貴族を敵にしたってエルを手放すことはない。そう決まっているから、反対に何を言われても別に構わなかった。
「それが貴族側も頑固でね。ショコラ君を渡せと煩く迫ってくるんだ。聞いた話によると、ショコラ君は冤罪で、家を勘当されたんだろう? 勘当した娘を取り戻すにしては、必死過ぎる。意固地になっている気がして気がかりなんだよ」
確かに、一つの不祥事で勘当するという事は、エルはそこまで重要人物ではなかった筈だ。それなのに、今になって貴族委員会という大きな組織を使ってエルを取り戻そうとするのはあまりにも不自然。
何か裏があるにしても、それが何かは分からない。エルは今や上の下あたりの実力を持つ魔法使いだ。俺とセットでなければ、そこまで目立つ人間でもない。
一人で考えても分からない場合は、当人に聞くのが一番。という事で、エルを見ればエルは不思議そうに首を傾けている。
エルも分からないのか……だが、心当たりだけでも聞く価値はある。
「エル、公爵家にいた時、何か国の機密情報に耳にした、王族を半殺しにした、とか貴族から追われるようなことをした覚えは?」
「あ、あるわけないじゃない!」
「それは、ヴォルフがしたことだろう……」
エルが強張った声で否定した後に、ボソリとエヴァがいらない過去をばらす。……エルに信じられないものを見るような目で見られた。
「ばれなきゃ問題ない」
悪びれずに言えば、「まあ、ヴォルフだし……」と納得するエルも随分俺色に染まってきたものだ。
「本当に何もないか? 自分が貴族側に必要とされている理由」
追われるというネガティブな言い方をした出来事は、やましい事しないと思いつかない。なら、言い方を変えてみる。そうすれば、小さいことでも何か思いつく筈だ。
エルは、ええっと、ええっと、と唸りながら過去の記憶を探っている。
「……強いて言えば、私の頭脳かしら! いえ、才能? 美貌という手もあるわ。ええ、必要とされると考えれば、私には沢山の理由があり過ぎて困っちゃう」
「エル、今はふざけてる場合じゃない」
「え……ふざけてないのだけれど……」
エルは時々阿呆女だけど、大切な場面ではもっとポンコツになる大阿呆女だ。
まさか真面目に言っているとは。ここまで来ると清々しさまで感じた。
「それ以外でないなら、本当に検討もつかないわ。兄が二人いたし、一番上の兄が家を継ぐ予定だから私は政略結婚用としか見られていなかったのよ。だから、あんなに簡単に捨てられた……私は、本当にいらない人間のはずよ」
エルのその言葉に胸が締め付けられる。なんだ、心臓の病気か。いや、俺の完璧な肉体に病気なんて有り得ない。
身体に感じるそんな違和感を無視していたら、口が勝手に動き、右手が哀しそうな顔をしたエルを撫でていた。
「エルは必要な人間だ。俺にとっては。俺はエルを捨てない。だからそんな顔するな」
言ってから気付く。これは、俺の本音だ。エルはいらない人間ではない。そうか。俺はきっと、エルを慰めたいんだ。
そんな気持ちは、エルに伝わったらしい。エルは瞳を潤ませながらうっとりした顔で俺を見る。
「ヴォルフ……」
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