悪役令嬢さん、さようなら〜断罪のその後は〜

たたた、たん。

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ザマァレボリューション

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「ヴォルフ、買い物するから付き合って」

 エルの一言で振り頷く。
 依頼達成時のエルと俺の取り分は、2:8。エルの取り分をもう少し増やしてもいいが、あまり活躍出来てないからいいとエルに断られた。
 元が金持ち貴族だから、金遣いも荒いだろうと思ったらエルは倹約家で、必要最低限のものしか買わない。出会った時は、貴族の典型的な女と思っていたが、実際は貴族らしくない変わった女だ。

 エルの買い物は、装飾品を買う買い物ではない。日用品か、食事の材料を買うためのものだ。

『栄養バランスが大事なのよ!』

 エルが言う栄養ばらんすは、何かは分からないが、エルの肌も艶が良くなったから美容に関することなのだろうと気にしないでいる。エルが来てから、使われる事のなかった家のキッチンが毎日忙しそうにしている。俺はその事に感じた事のない充実感を感じていた。

 ギルド近くの商店街に向かう。王都のすぐ隣にあるこの町は、国の中でもまだ裕福な町で、店に並ぶ品数も少なくはない。だからこそ、何もかも割高な値段で売られている。

「今日の夕食はなにがいいかしら?」
「なんでもいい」
「なんでもいいが一番困るのよね」

 いつも繰り返す会話を今日もエルは真剣に繰り返し、頭を悩ませる。エルの料理が壊滅的だった時はエルの料理以外ならなんでもいいと言って、エルを無視して外食してたが、エルいわく天才的なセンスで外で食べるのと遜色ないくらいになったため、俺も家で食べるようになった。毎日家で食べる必要はないと思っているのだが、エルが寂しがりやと知ってからは、家に変な奴を連れ込まれるのも困るのでエルの料理を食べている。

「新鮮な魚だわ!」

 俺たちが住むこの国は北側が海に面しており、時々この町にも新鮮な魚介類が届くことがある。そんな日は、こぞってエルはそれを買った。

「これとこれとこれを頂戴」

 買い物をするとき、エルはわざと魔法帽を脱ぐ。

「お、いつもの別嬪な嬢ちゃん!美人割引でおまけつけちゃうぞ」
「まあ!感謝するわ!」

 行商人は男のことが多い。たまたま、魔法帽を脱いで買い物をした時、男の行商人が鼻の下を伸ばして割引したのを偶然ではないと知ったエルは、ちゃっかりそれからはその美貌を活かすようにしたのだ。
 そんな時、男連れ、しかも俺だと値引きが少なくなると俺は遠くで待機。

 仕事以外は女遊び三昧だったが、今は時々しか遊んでいない。エルも三年で変わったが、俺も随分変わったようだ。

 エルは、買った魚を手に次は八百屋に急ぐ。それを遠目に眺めていたら、肌を大胆に露出した女が声をかけてきた。不敵に浮かべる笑みに用件は察しがつく。

「あなた、素敵ね」
「どうも」
「今日、暇なの。一緒に食事でもどう?」

 女の容姿は整っている方で、堂々と声をかけてきた以上自分に自信があるのだろう。確かに、抜群のプロポーションに溢れ出す色気があれば、断る男はいなかったはずだ。俺を除いて。

「断る」
「あら、どうして?」

 少しも驚いていない様子で女は聞くが、理由は簡単。

「間に合ってる」
「そう」

 端的に言えば、女は冷めた顔をして何処かへ行く。エルといる前は、一人で行動していたから今のように女に声をかけられることがよくあった。だから、一晩の関係を繰り返し、気に入ればセフレにして性欲処理を行なっていたが、最近はなかなかそんな気分ならない。
 女を抱いても満足感を得られないのだ。下で喘いでいる女を見て、エルが何をしているか考える。少し前まで、女をエルに見立てて抱く遊びにはまった時もあったが、飽きてやめた。

「ただいま」
「ん」
「ありがと」

 暫くしてエルが両手に荷物を抱え、帰ってくる。その荷物を持って歩けば、エルは小さく礼を言い何か気落ちした様子でついて来た。

 俺たちの家は、中心街の近くの一等地にあり、冒険者ギルドの近くにある。商店街も歩いて五分だ。

「ヴォルフ、あのね」
「なんだ」

 先に歩くエルが振り返らずに言う。その声は、少し緊張しているように思えた。

「私、引っ越した方がいいかしら」

 その問いかけは今更で、今となっては不信感しか湧かないものだ。急に変なことを言い出したエルを、訝しげに見ながら当然の返事を返す。

「必要ない」
「でも、私、ヴォルフにお世話になりっぱなしだわ」

 その声は、しょぼくれている。女は時々、面倒だ。何がエルを急に不安にしたのか。

「そうだな。お前は、俺の家に転がり込んだ居候だ」
「……ええ」
「前ならいざ知れず、今のお前なら部屋くらい借りれるだろう」
「……」
「だが、お前が出てったら俺はどうする?」
「え」

 エルが不思議そうな顔で振り返った。予想だにしない言葉だったのだろう。

「お前がいなくなったら、誰が料理を作るんだ」

 立ち止まったエルを追い越し、そのまま歩く。誰かを必要としたことなんて初めてで、なんて顔をしたらいいか分からないからだ。

「そんなの、私が来る前……あ」
「……」

 鈍いエルは、最初気付かず、最もなことを言おうとするが、後に気づいたようで、走って俺を追いかけ、顔を覗き込んでくる。

「ふふ! そうね! ヴォルフは私がいなきゃ駄目なのよね! それならそうとちゃんと言いなさいよ! まったく、まわりくどい言い方なんてしちゃって! ヴォルフは本当に困ったさんなんだから」

 嬉しい、と顔に書いてある、そんな表情だ。多少調子にのるかも知れないが、その顔を見れて悪い気はしない。

「早くしろ」
「ええ、私たちの家に帰らなきゃ!」

 そう言ったエルは今日の料理の予定を意気揚々と語って鼻唄を歌う。聞いた事のないメロディーだがなかなか良い曲だ。

 気がつけば、日は随分傾いて西の空に沈もうとしている。人々を照らす穏やかな紅は、天が優しさを降り注ぐように俺たちを包み込み照らした。



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