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ザマァレボリューション
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しおりを挟むまだ、俺を逮捕をしようという動きがあったことに、対処しきれていないエルの顔は、青白い。俺に対して、ここまでやろうとするのだ。自分の身を案じているのかもしれない。
「エル、心配するな。何があろうともお前を守る」
「え、ええ。ありがとう、ヴォルフ……」
前に効果的だった言葉をエルにかけても、エルの様子はぎこちない。俺の言葉は、どこか的外れだったようで、エルの視線はあらぬ方向を右往左往している。
そんなエルの様子を見てきたエヴァは、こほんと一つ咳をつき、俺たちの視線を自分に集めた。
「……実は、王都で異世界召喚が行われていたらしい」
「異世界召喚ってなんですの?」
聞きなれない言葉に、エルがたまらず聞く。
「この世界とは違う異世界から生物を呼び出す魔法だよ。今まで、まことしやかに囁かれてたんだが、最近、急に現実味を帯びてきてね」
「その話が俺たちとどう繋がるんだ」
急に出てきた異世界召喚という魔法。真意が読めないから敢えて黙っていたが、まわりくどい話され方をしても面倒だ。
さっさと本題に入れという意味で言えば、エヴァは俺を手で制し、エルを見た。
「アオイ・ローレンスに聞き覚えは?」
「えっ」
「エル、誰だ?」
その人名に、エルは驚きの声を上げる。恐らく、異世界召喚とエル、どちらも関係ある人物なのだろうと当たりをつけた俺は、エルに説明を促した。エヴァもエルの認識を聞きたいようでエルの一言一句を聞き逃さないようにしている。
「リース王子と恋人だった、魅惑の魔法を使う少女ですわ。確か男爵家の養子として急に現れた人物でもありますの……まさか」
話しながら、エルはある結論に行き届いたらしい。続く言葉は、頷いたエヴァが肯定した。
「その、まさかだ。彼女は異世界人らしい」
「そんな、確かに彼女は常識が通じないところはありましたけど、そんな、異世界から来ただなんて」
「僕もそう思ったけど、確かな筋から聞いた情報だ」
頭から仮定を否定するのは、馬鹿がすることだ。エルはこれでも頭が良い。それは分かっているようで、エヴァの話を飲み込んでから、俺が最も気になっていたことをエヴァにぶつける。
「では、彼女が異世界から来たとして、私にどのような関わりがありますの? 確かに、彼女による被害を最も受けたのは私ですわ。ですが、それが私を戻す理由になるとは思いませんの」
「確かに、アオイ・ローレンスの件はもう終わった話だ。だが、もう一人いるんだ。異世界召喚された少女が。その子は、王城で今まで幽閉されていたらしいんだが……」
エヴァは、言いづらそうに言葉を濁す。散々、常識はずれなことを言っておいて今更渋る理由。俺はエヴァの葛藤などなんのその、催促する。
「それで?」
「彼女は、聖女らしい」
「聖女って、あの世界を救う聖女ですの?」
聖女とは、世界で度々出てくる癒しの力を持つ慈愛の神に愛された処女のことだ。今までは、世界が危機に瀕する、例えば大飢饉、大災害、魔王との戦いなどの前に出現し、人々を救った。一番最近の聖女でも第三次魔王大戦の時に現れたおおよそ100年前だ。
勿論、異世界人などではない。
判定の仕方は知らないが、何か聖女の証となるものを持っているらしいが、全ては噂に過ぎない。100年も前のことだ。
そして、もう一つ大切なことは、聖女が現れた国は豊かになるという言い伝えだ。歴史的にそれは、正しいらしく、それは聖女が神に愛されているかららしい。
「ああ、その聖女だよ。ややこしいことに、最初聖女だと思われていたのはアオイ・ローレンスだったんだ。だから、彼女のご機嫌をとるように好き勝手させた。だけど、彼女が魅惑の魔法を使うと分かってから、よくよく調べてみればもう一人の少女が聖女であることが分かったんだと」
「そんな都合よくか?」
そんな、ポンポン聖女の疑いがある女が出てくるものか。
案に、信じるには難しいと告げればエヴァは、真摯に訴えてくる。
「……情報先は、彼女の監視担当の騎士だ。志の良い青年だよ。国と、国の彼女の扱いに辟易して教えてくれたんだ。僕は、あれが嘘だとは思えない」
「では、その少女と私が何か関係ありますの? 私、異世界召喚があったことさえ知りませんでしたのに」
「そうだ。それが分からないんだよ」
エヴァは頭が痛そうにこめかみを抑える。この信じられないような、エヴァは真実だとしている噂とエルは全く関わらないはずだ。それなのに、エヴァはそれが貴族委員会がエルを狙う理由なのではないかと考えているわけだ。
馬鹿らしい。
普段の俺ならそう言っていただろう。だが、俺は何故かそのエヴァの予想が当たっているような気がしてならないのだ。たかが、勘だが、俺の勘は当たる。戦いの神に愛されていると言ったが、俺はきっと幸運の神にも愛されているのだろう。勘が外れたことはない。
黙りこくった俺とエヴァを見て、エルは不思議そうな顔をしている。まさか、俺がエルの話を信じているとは微塵も思っていないようだ。
「あの、やっぱり、その異世界召喚とやらに私は関係ないのではないですの?」
「確かに、エル君と暫定的聖女の繋がりはないよ。でも、本物の聖女が分かった時期とエル君を取り戻そうとする時期が一致しているんだ。僕には、それが気がかりでならない」
「そんなの、たまたまですわ。ね、ヴォルフ」
「……」
「ヴォルフ?」
エルが顔をのぞいてくるが、俺はまだ考えをまとめる最中だった。色々考えても、結局のところ何があってもエルを手放す気はない。なら、さっさとこっちから手を打ってしまえばいい。早い所、この国を出るのだ。
この国を出れば、絶対に追っては来ないという保証はない。エヴァが言う必死な状態なら、外交的な圧力をかけてくるかもしれないが、まあ、この国にいるよりマシだろう。
「エヴァ、また何かあったら俺に言え。その時点で、この国を出る」
それが、今出しうる最適の答えだ。合理的であると自分では思っているが、エルは目を見開き、エヴァは目を瞬かせて俺を見る。どちらも正気か、と疑っているようだった。
「ヴォルフ、そんな……わざわざこの国を出なくたって」
「いや、それが一番手っ取り早い」
エルの嗜める言葉を遮って、結論を出せばエルはどこか苦しそうに押し黙った。何を迷う必要があるのか俺には分からない。エルだって、こんな国、嫌になって当然なはずだ。
「そうか……」
俺とエルの間に嫌な空気が流れるのを他所に、エヴァは、必死に押し込めようとしているが、はにかみを抑えきれていない。
「もう用がないなら行くぞ」
理解できない二人に、考えるのも面倒になった俺は部屋を出て行こうとする。
エルが一拍遅れて、立ち上がろうとした時、エヴァは俺だけに残れと言い、エルを先に帰した。
「……」
エルが部屋を出て行って、暫くエヴァは俺をじっと見て耐えきれないように破顔した。
「なんだ」
俺の顔を見て笑うエヴァに、少し苛つく。俺は何もおかしなことはしていない。
「いや、ヴォルフも変わったなと思って」
「どこが」
俺は何も変わっていない。大きく変わったのはエルだけだ。変わっているところなどないだろう、と嫌味のつもりで言ったがエヴァはまた嬉しそうに笑った。
「俺の知るヴォルフは面倒事が何より嫌いな男だった」
「俺は今でも面倒ごとが嫌いだが?」
「そうなんだろう。でも、前は面倒だと思った瞬間、どんなものであっても、例え人が羨ましがるものであってもそれを投げ捨てていた」
否定はしない。結果的に、第一級冒険者という称号を持っているが、俺が品行方正な、従順な人間だったらもっと早く、それこそ十代のうちにその称号を得ただろう。面倒だと思った仕事は、どんなに報酬が良くても名誉が得られても受けない。それが俺のポリシー。
エヴァの言葉に間違いはない。肯定の意味を兼ねて黙っているとエヴァは嬉しそうにそれが、と続けた。
「それがエル君のためなら、どんな面倒ごとも背負い込んでるじゃないか。僕はね、少し思ってたんだ。エル君の立場が怪しくなった時、ヴォルフはエル君を見捨てるんじゃないかって。だって、君はそんな男だった」
エルを見捨てる?
そんな選択肢、あり得ない。あるはずがない。エルの付与魔法は手放せない。……いや、今はそれだけでなく……
「国を出て新しい拠点に移るなんて、結構な面倒ごとだよ? それを何の迷いもなくエル君と共にいる為に選択した。ヴォルフ、君は君の信条を曲げてもいいと思えるほどの人物に会った。それで、気付かぬうちに変わったんだよ」
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