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本編
大人になったら
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それでも、のんびりしているばかりではいられない。今日の俺は、密かに心に決めていることを伝えにきたのだ。
十九時。他のお客さんはみんな閉店だからと帰っていき、店には俺と千蔭さんのふたりきりになった。
「ごめんね、手伝ってもらっちゃって」
「いいえ。最近できてなかったけど、前もよくお手伝いさせてもらってましたよね」
「ふふ、夕陽くんが俺もやりたい!って言うものだから」
食器を戻したりテーブルを拭いたりと、簡単な閉店作業の手伝いをさせてもらう。その間に千蔭さんはレジのお金関係のことをやっている。その時間は俺にとってはただのお客さんと店員さんの関係ではなくなる、ちょっとだけ特別な時間だった。
「ありがとう、おかげで今日ははやく終われたよ」
「俺がやりたくてやってるんで。千蔭さんの役に立ててよかったです」
店のエプロンを外してラフな私服に着替えた千蔭さんを見られるのも、こんな時だけだから役得だ。お店に立ってるときよりも、表情がゆるむのも見ていて幸せだった。
そんなお客さんと店員さんの関係から少し外れた今なら切り出せると思った俺は、勇気を出して話し始める。
「あの、千蔭さん。来週の水曜日、暇ですか」
「来週? うん、定休日だし、特に予定は入れてないけど……」
「あ、あの。一緒にで、……出掛けませんか。ふたりで」
「へ……?」
千蔭さんは、驚いて目をまんまるにしている。きれいな唇も、少し開いたままになってしまっている。
そんなリアクションになるのも無理はないのかもしれない。デートなんて言葉は言えなかったけれど、これは間違いなくデートの誘いだ。
好きだって気持ちを隠せているつもりはない。きっとバレバレだと思う。これまでは千蔭さんもからかったりしてきていたけど、俺がいざ本気で行動を起こそうとしたのは初めてだったから、きっと驚いている。
引いたかな。今まで見てるだけで満足みたいな顔してきたから、急に距離を詰めようとしたら、嫌がられても仕方がないのかもしれない。でも、どうにか、俺に望みはないのだろうか?
「……いいよ」
「!? ほんとですか?」
千蔭さんが少し考えて黙っていた時間は、きっと数字で示せばほんのわずかな秒数だったのだと思う。けれどその返事を待つ時間は俺にとって、ものすごく長い時間に感じた。
だからこそ信じられなかった。千蔭さんが、いいよと言ってくれた。
「僕も夕陽くんと話し足りないなって思ってたから」
「う、うれしいです。その、千蔭さんに教えてもらった古い映画が今度、昔のやつ上映してる映画館でやるらしくて」
「え? そうなんだ。スクリーンで見れるってこと?」
「はい。だから、一緒に行けたら楽しいかなって」
「知らなかった。それは楽しみだな」
映画のことは口実だけれど、本当にこのタイミングでリバイバル上映することにしてくれて映画館の方ありがとうございますと思った。
本当はその前の週の土曜日が、俺の十八歳の誕生日なのだ。土日は千蔭さんもお店が忙しいから、そこは外したうえで、成人して大人になった俺で、千蔭さんに告白したい。
それは子どもの頃から決めていたことだった。千蔭さんの隣に並んで歩けるくらいの大人になったら、絶対にそうする。
ずっと、心の中で決めていた。
十九時。他のお客さんはみんな閉店だからと帰っていき、店には俺と千蔭さんのふたりきりになった。
「ごめんね、手伝ってもらっちゃって」
「いいえ。最近できてなかったけど、前もよくお手伝いさせてもらってましたよね」
「ふふ、夕陽くんが俺もやりたい!って言うものだから」
食器を戻したりテーブルを拭いたりと、簡単な閉店作業の手伝いをさせてもらう。その間に千蔭さんはレジのお金関係のことをやっている。その時間は俺にとってはただのお客さんと店員さんの関係ではなくなる、ちょっとだけ特別な時間だった。
「ありがとう、おかげで今日ははやく終われたよ」
「俺がやりたくてやってるんで。千蔭さんの役に立ててよかったです」
店のエプロンを外してラフな私服に着替えた千蔭さんを見られるのも、こんな時だけだから役得だ。お店に立ってるときよりも、表情がゆるむのも見ていて幸せだった。
そんなお客さんと店員さんの関係から少し外れた今なら切り出せると思った俺は、勇気を出して話し始める。
「あの、千蔭さん。来週の水曜日、暇ですか」
「来週? うん、定休日だし、特に予定は入れてないけど……」
「あ、あの。一緒にで、……出掛けませんか。ふたりで」
「へ……?」
千蔭さんは、驚いて目をまんまるにしている。きれいな唇も、少し開いたままになってしまっている。
そんなリアクションになるのも無理はないのかもしれない。デートなんて言葉は言えなかったけれど、これは間違いなくデートの誘いだ。
好きだって気持ちを隠せているつもりはない。きっとバレバレだと思う。これまでは千蔭さんもからかったりしてきていたけど、俺がいざ本気で行動を起こそうとしたのは初めてだったから、きっと驚いている。
引いたかな。今まで見てるだけで満足みたいな顔してきたから、急に距離を詰めようとしたら、嫌がられても仕方がないのかもしれない。でも、どうにか、俺に望みはないのだろうか?
「……いいよ」
「!? ほんとですか?」
千蔭さんが少し考えて黙っていた時間は、きっと数字で示せばほんのわずかな秒数だったのだと思う。けれどその返事を待つ時間は俺にとって、ものすごく長い時間に感じた。
だからこそ信じられなかった。千蔭さんが、いいよと言ってくれた。
「僕も夕陽くんと話し足りないなって思ってたから」
「う、うれしいです。その、千蔭さんに教えてもらった古い映画が今度、昔のやつ上映してる映画館でやるらしくて」
「え? そうなんだ。スクリーンで見れるってこと?」
「はい。だから、一緒に行けたら楽しいかなって」
「知らなかった。それは楽しみだな」
映画のことは口実だけれど、本当にこのタイミングでリバイバル上映することにしてくれて映画館の方ありがとうございますと思った。
本当はその前の週の土曜日が、俺の十八歳の誕生日なのだ。土日は千蔭さんもお店が忙しいから、そこは外したうえで、成人して大人になった俺で、千蔭さんに告白したい。
それは子どもの頃から決めていたことだった。千蔭さんの隣に並んで歩けるくらいの大人になったら、絶対にそうする。
ずっと、心の中で決めていた。
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