有終ノ美

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第1話 宇佐美家

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キーンコーンカーンコーン



「ついにお昼だあー!」「ねえ購買!購買いこ!」「先トイレいこーよー」「えー!待つのだるぅ~」「ってか睦月くん今日このクラスこないんかなあ?」「え!知らない!雛に聞いてみる?」「「ひぃーなぁー!!」」



女子うるせえよ。
お昼がそんなに嬉しいか!トイレくらい1人で行けや!
あぁ、てか一番後ろの席はいいけど、窓際の席だと風がつえーなあ、髪が顔にかかってめんどくせえ。
ああ、そういやあの日も風強かったなあ。



?)「ちーはるー!購買いこ~」

千紘)「えー、お前もかよ、てか今日もかよ」

?)「だるいならいいけどさあ~」

千紘)「別に坂爪連れて行ってこいよ。てかお前女に呼ばれてたぞ」

?)「え?まじ?!」

女子)「ひぃーなぁー」

雛)「あ、まじだ、なーにー?」



今クラスの女子が呼んでる『ひな』は俺の小学校からの幼馴染『中田雛』小中高と全て同じ学校のコイツは、名前は女みたいだけどちゃんと男だ。
見た目はチャラいし女は大好き。
だけど中身は真面目な普通にいい奴。



女子)「ねぇ雛、今日は睦月くん来ないの?」

雛)「あ、俺に用があるわけじゃねんだ笑」

女子)「大事な『用』だよ!」

雛)「あっそう笑笑、睦月な、もうすぐくるっしょ、、」



あーあ、中田ってなんか可哀想だな、女に興味持たなきゃこんな事で落ち込んだりしねえのに。
まあ学生の間しか遊べないんだし、誰かを傷つけるわけじゃないなら遊んでもいいと俺は思うけどさ。
あ、中田は別に女で遊んでるわけじゃねえけど。
遊びたいけど単純にいい奴だから結局手を出せない奴だな。
俺は心の中でちょっと笑った。



雛)「お、何笑ってんの?」



って思ったけど顔に出てたらしい。
いや、バカにしてたわけじゃないからな。
でも別に口に出すべきじゃねえよな。



千紘)「笑ってねえよ」

雛)「なんだよ、千紘が笑うとか気になるわ、とりあえず俺購買行ってくるわ!」

千紘)「ん、いってらー」



中田が立ち上がってすぐ、もう1人の小学校からの幼馴染の『坂爪睦月』が教室に入ってきた。
もう毎回恒例だけど女子が少しずつ騒ぎ出す。



雛)「おっ、睦月、購買行くけど行く?」

睦月)「あー、どうしよ、千紘は?」

千紘)「俺はいいよ弁当あるし」

睦月)「いや、シュークリームとかさ」



その言葉を聞いていた女子達がさっきより騒ぎ出した。


「え?シュークリームとかかわいすぎじゃない?」「今度間違えたって言って渡そうかな笑」「いやもう本当に何、可愛すぎ」



千紘)「いやシュークリームもいいわ、いってら」

睦月)「ほーい」



いやいや、シュークリーム如きでその騒ぎようかよ。
坂爪モテすぎじゃねえか?これ言ったのが中田と俺だったら何も言われないんだろうなと思ったら少し笑えた。
でも毎日毎日ギャーギャー騒がれて、坂爪も気の毒だなあ、俺は『それでは皆さん?静かな毎日に、乾杯。』と、乾杯の音頭を取れそうなくらい平和でいい毎日送ってるけどね。
まあ、あの日からいい毎日を送れるようになったのは何だかんだ2人のおかげだったりするんだよな。










ガチャ(玄関のドアを開ける音)



千紘)「ただいま~」

母)「おかえり~!」

父)「おかえり」

弟)「おかえり!にいちゃん今日もまた遅かったね」



それは俺が小5の時。
俺は小学生の時も相変わらずこんな性格だった。



千紘)「中田と坂爪と遊んでた」


母)「きっと雛くんと睦月くんとは大きくなってもずっと仲良しね。お母さんそう思う」

千紘)「なんで?」

母)「ほら、千紘ってめんどくさがりじゃない?それに素直すぎるところがあるからお母さんちょっと心配してたんだよ?」

千紘)「別にそんな心配しなくていいのに」

父)「お父さんも心配だったぞ」

弟)「僕も心配だよ!」

千紘)「・・・。」

母)「ほらあ~、千晴にまで心配かけて!本当のお兄ちゃんはどっちなのかしら。」

千紘)「兄貴は俺だよ。でも本当そんな心配しなくていいよ」



『千晴』とは俺の2つ歳下の弟の名前だ。
千晴が友達や俺よりもしっかりしているからか、俺より千晴の方が兄貴に見えると母さんに言われるし近所の人にも学校の先生にも言われる。

俺は家に入ると、トントンと階段を上がり自分の部屋にランドセルを置きに向かった。

俺の部屋と千晴の部屋は正確には同じ部屋で、部屋の中心から半分に分けてあるだけだ。
俺の部屋にはベッドと勉強机。
それとゲーム機。あとは中田に借りたままのマンガがバラバラな形で置いてある。
一方、千晴の部屋はベッドと勉強机。
あとは地球儀、ゲーム機ではなくて電子辞書。
マンガじゃなくて割と分厚い教材?がきっちり綺麗に置いてある。
ちょっと頑張りすぎなんじゃねえか?と、少し前から思っていたが、千晴は勉強が楽しいらしい。



母)「おーい!晩ご飯にするよ~!」

千晴)「おーい!にいちゃーん!」



今度はトントントンと、明らかに子供が階段を駆け上がってくる音がして、すぐに千晴だとわかった。



千紘)「別に登ってこなくても、もう降りるよ」



俺は1人で少し笑い、そんな独り言を呟いて部屋から出ようとした。
が、千晴に部屋に押し戻された



千紘)「お、おいっ、どうした」

千晴)「僕最近、にいちゃんとお母さんとお父さんがどっか行く夢を見るんだ。家族で僕一人だけ取り残されて、僕はおばあちゃん達に引き取られる夢。だからなんか怖いから、にいちゃんに言いたかった事を言っておこうと思って」

千紘)「なんだよそれ笑、そんなこと起きないから心配すんなよ。ただ言いたかった事は聞くけど」

千晴)「僕ね、にいちゃんのことだいすきなんだっ!なんでも自由でフラフラしてるにいちゃんのことが大好き!でもいつもお母さん達と一緒に注意してにいちゃん怒らせてごめんねっ」

千紘)「・・・。」



びっくりした。
初めて告白をされた。
実の弟に。
でもなんでも自由でフラフラしてるって褒めてんのか?
「だいすき」なんて、恥ずかしげもなくすごいな千晴は。
それに俺はめんどくさがっていただけで
別に怒っていたわけじゃない。



千晴)「でも女の子への好きとは違うよ!」

千紘)「そんなことわかってるよ笑笑」



俺はとっさにツッコミを入れた。
てかこれは俺も好きって言う流れなのか?
そうなのか?実の弟相手に恥ずかしくないか?でも俺だって、好きとかそういう事じゃない気がするけど家族は大切だし。
いやでもこの千晴のウキウキしてる顔は多分そうなんだよな。
言うべきなんだよな。
小学校5年生でありながら、周りの人間より少し感情が冷めていた俺には難しい言葉だな。
だけど口にしなきゃ流石に千晴が凹みそうな雰囲気だ。



千紘)「家族はさ、好きとかそういうのじゃないでしょ」

千晴)「え?なんで?みんなだいすきだよ」

千紘)「あのなあ、」



なんなんだこの違い、千晴がまだ小3だからか?俺は「だいすき」なんて言葉言えねえぞ。俺は言ってもいないのにだんだん恥ずかしくなってきた。この空気はそろそろ耐えられない。



千晴)「でもにいちゃんがどう思ってるかなんて聞かなくてもわかるんだけどねっ」



まるでアニメみたいなドヤ顔を見せる千晴。
言わなくても良くなりホッとする俺。



千紘)「ならもうこの話は終わりな。」

千晴)「・・・。」



明らかに寂しそうな顔をする千晴を見て少し笑った。



母)「千晴までなにしてるのー?ご飯だよー!」



リビングで母さんが呼んでいる。



千紘)「ほら、ご飯だって」

千晴)「うんっ、わかってるよ」



千晴と一緒に階段を降りる。
なんか少し落ち込んでるな千晴。
そんなにひどいことしたか?
その後、ご飯を食べた後も、お風呂を上がった後も、千晴と口を聞くことはなかった。

リビングでテレビを見ていた俺が、寝るために部屋に入った時。
勉強机で勉強をしていた千晴の機嫌は雰囲気でだが、まだ少し悪く感じた。



千紘)「おい、千晴、なんか怒ってる?」

千晴)「怒ってないよ、でも本当に怖い夢なんだよ」



やっぱりあのありえない夢を引きずってたのか。



千紘)「そんな気にすんなよ」

千晴)「うん、、、」

千紘)「じゃあ、おやすみ」

千晴)「うん、おやすみっ」



この時俺は「だいすき」なんてたった四文字を言えなかったこと。
怖い夢を見たって俺からしたらそんな事だけど、俺がいるから大丈夫だって少しでも千晴の気持ちを軽くさせてあげられなかったこと。
今日一日あまり千晴と口をきかなかったこと。
全てを後悔する事になる。





次の日の朝



母)「千紘~、起きて~」

千晴)「にーいーちゃん」

千紘)「んー。起きた。」



ん、やっぱり俺より先に千晴は起きてるんだよな。
俺は頭をワシワシと掻きながら、朝ごはんが出来ているテーブルにつく。



母)「ねえ、納豆たべる?」

父)「俺は食べようかな」

千晴)「僕もー!」

母)「千紘は?」

千紘)「俺はいいよ」

母)「全くもう、千紘は健康的じゃないわね。」
 
父)「おいおい好き嫌いか?よくないぞ!」



う、図星だ。
俺は納豆の全てが嫌いだ。
食べれない訳じゃないけど、めちゃくちゃ我慢しないと食べられないし。
食べたいと思った時は一度もない。



千紘)「別に嫌いなわけじゃないけどさ」

父)「苦手なものでもな、大きくなったら意外と食べられるもんだぞ。今のうちに耐性つけとけ」


千紘)「別に食べなくても死ぬわけじゃないじゃん」

母)「そうだけど、、納豆は健康にはいいのよ?」


千晴)「はい、じゃあ半分こしよう?」



と千晴はにやけ顔で、俺のご飯の上に勝手に納豆をのせた。
俺が納豆を嫌いなのを最初から分かってる母さんと父さんは笑ってる。

ああ、朝から最悪だ。



母)「いってらっしゃい千紘、千晴、パパ」

父)「いってくるよ」



「いってきます」と千晴と声が重なり、
また母さんと父さんが笑った。
声が重なったことにびっくりしたのか、
千晴もクスクスと笑っていた。
母さんと父さんの笑顔を、っていうか。

2人の顔を見たのはこれが最後だった。

俺はいつものように千晴と近所に住んでいる小6の班長さんを筆頭に小学校へ向かう。



「そういえばまたあの化け物出たって本当?」「本当怖いよね」「夜の外出は控えなきゃね」



ああ、なんか最近、変な動物が人に襲いかかってきたとか、死人が出たとか父さんが見てたニュースでやってたな。
変な動物ったって、クマとかだろ。
あ、でもクマじゃなかった気がするな。
忘れたなんだっけ。
学校に着くと、俺と千晴は各学年の教室に分かれた。



千晴)「にいちゃんじゃあね~!」

千紘)「ほーい」



この時の千晴の「じゃあね」が、まさか本当の別れになるとは俺は思ってもいなかった。





担任の先生)「じゃ、今日は風が強いから気をつけて帰ってくださいね~!みんな風邪ひかないように!さようなら~!」



ガヤガヤとみんなが騒ぎ出しぞろぞろとみんなが帰っていく。
この学校は二階建てで、一階は1、2、3年の校舎。
二階は4、5、6年の校舎のように分かれている。
俺はたまに二階から、校門から出て家に向かう生徒を眺めてみている。



千紘)「あ、千晴だ」



千晴は普段勉強しかしていないからか、それとも友達を作るのが苦手だからなのか、正確なところはわからないが、俺が二階から千晴を見る度に、1人で帰っている気がする。



雛)「おっし!今日も睦月ん家でゲームな!今日は俺も2人には負けないからな!」



千晴を見ていたからか中田がいきなり話しかけてきた気がして俺はびっくりした。
ふと千晴を見返すと、その姿はもう無かった。



睦月)「はいはい、今日はなにやるの?」

雛)「そんなのドライブカートに決まってるじゃん!」


もし千晴がいじめられてるのだとしたら許さないけど、そんな感じは見た感じだとしないし、そういう訳じゃないんだろうな。



千紘)「えー、またかよ、そろそろ飽きてきた」

睦月)「じゃあ今日はモンバスにする?」

千紘)「いいね」

雛)「えー!最初に1回ドライブカートやらせてよ~」

睦月)「一回ね」



そんな話をしながら俺達は睦月の家に向かった。
『ドライブカート』とは各自好きな車やバイクで指定のコースを走り順位を決めるゲームだ。
『モンバス』とは正式名称は『モンスターバスターズ』単純にあらゆるステージに出てくるモンスターを倒すゲームだ。
見た目も自分に似せることができ、各キャラクターごとに使える技を選べる。


1回目のドライブカートの結果は雛がもちろんビリだった。
まあ、次のモンバスはみんなで強力するゲームだ。
だからまあ、何事も完璧な『坂爪睦月様』がいれば楽々クリアできる。



雛)「よっし倒したー!!」

睦月)「雛のせいで時間かかった~」

雛)「おい!俺最初より強くなっただろ?」



俺は笑いながら坂爪の部屋の壁掛け時計を見た。



千紘)「やべ、もう7時半じゃん、帰んなきゃ」

睦月)「あ、ほんと?親に送ってってくれるか頼もうか?」

千紘)「近いから大丈夫だよ」

雛)「俺も一緒に帰る!」

睦月)「ん、わかった、玄関まで行くよ」


俺達は玄関へ向かった。


坂爪睦月の母)「今外ね、少し風強いんだよ!送ってくよ?あれ、でも車の鍵どこにやっちゃったっけ私」



坂爪のお母さんが辺りを見回している。



千紘)「近いから大丈夫ですよ」

雛)「うん!大丈夫です!」

坂爪睦月の母)「えー!嘘!ダメだよ!ちょっと待ってね」


坂爪のお母さんは車の鍵を探しに奥の部屋に向かってしまった。



睦月)「あれたぶん遅くなるから先帰っちゃえばっ」

雛)「いや、でもそれは悪いよ!」

睦月)「大丈夫だよ」

千紘)「わかった。気遣ってくれてありがとうございますって伝えておいて。じゃ、また明日」

睦月)「うん、またね」

雛)「あ、おい!」



そして俺は睦月の家を後にした。
遅れて中田が俺を追いかけてきた。



雛)「おい、千紘!速いよ!」

千紘)「あ、本当だ。坂爪のお母さんの言った通りなんか風強くね?」

雛)「本当だ!なんか先生も言ってたよな!学校から帰る時こんなに強くなかったけど、なんか飛ばされそう」

千紘)「それは無いだろ笑、とりあえず雨降りそうだし急ごう」



そんな話をしていると、案の定雨が降ってきた。



千紘)「うわ最悪、結構濡れる」

雛)「もう俺ん家着くし、傘貸そうか?」

千紘)「今更さしても変わらない気がするけど。てか明日の朝まで降ってたら中田はどうするんだよ」

雛)「いや、さすがに何本か予備があるよ笑」

千紘)「じゃあ借りようかな、サンキュ」



それから俺達は猛ダッシュした。
そして中田の家に着いた。
傘を取りに行くために、中田が玄関に向かい、取ってきた傘を俺に持って来ようとした時。



中田雛の母)「え?ちょっとなに?これからまた出かけるの?」

雛)「出掛けないよ、千紘に傘貸すの!」

中田雛の母)「あら!千紘くんずぶ濡れじゃない!まっててタオル持ってくるわ!」

千紘)「あっ、、」



玄関から中田のお母さんが顔を出し。
俺に気づくと、俺がなにを言うまでもなく中田のお母さんはタオルを取りに向かってしまった。



中田雛の母)「はい、どうぞ!それはそうと風強いし雨もすごいけど大丈夫なの?送って行こうか?」



俺の家と坂爪の家は遠いが、中田の家はだいぶ近いし、それにこんなに濡れた自分が車を汚してしまう方が嫌だったからその誘いは断った。



千紘)「それじゃあ、俺行きます。タオルは洗って返します。傘までありがとうございました。」

中田雛の母)「あら、そんなのいいのよ!千紘くんだったら返さなくてもいいよ?」

千紘)「いや、返しますよ笑」

雛)「千紘また明日な~!」



俺はお辞儀をして中田の家を後にした。
ああ、なんかさっきより風も雨も強くなってきてる気がする。
靴なんかもう、びっちょびちょだし気持ちわる。



千紘)「あー、早く帰ろ」



そう俺は口にすると家に向かって走った。
だけど風の抵抗を受けて前になかなか進めない。
もう全身濡れているし、風がうざったいし、寒いし、なんかイライラしてきた。
俺はやる気をなくして走らず歩くことにした。
家が見えてくると二階の部屋に電気が付いてないことに気が付いた。
あれ、もう7時半は過ぎてるはずなのに千晴は一階にいるのか?
ああそうか、今日が特別帰りが遅いだけで、
いつも俺の帰りをみんなで待ってるもんな。
じゃあみんなでご飯も待ってるのかな。
なんか申し訳なかったな。
そんなことを考えながら玄関の前に着いた。
ん?窓が開いてる?こんなに雨降ってるのになんでだ?
俺は傘についた雨を吹き飛ばすようにバサバサと傘を降り、玄関のドアを開けた。



千紘)「ただいま~、遅くなってごめん」



「・・・。」



家の中は静まり返っていた。

だけど耳をすますと、少しだけテレビの音がする。
なんだ?普段なら母さんの声を始めに、父さんの声と千晴の声がするのに。

普段ならリビングより先に自分の部屋に行きランドセルを置いてきてからリビングに向かうのだが、
音という音はテレビの音しかしないのを不思議に思い、俺は靴と濡れた靴下を脱ぎそのまま、リビングに居るであろう母さんと父さん、そして千晴の姿を見に向かった。



千紘)「っ、、!?」



リビングには母さんの姿も、父さんの姿も、千晴の姿も無かった。
その代わりに普段父さんが座っているソファには謎の血。
リビングの机の上には千晴の宿題と筆記用具と、血。
キッチンを見に行ってみるとキッチン用具は床に散らかっていて、リビングよりもっと血の量が多く、血の海のようだった。



千紘)「なんなんだよこれ!」



気づけば俺は泣いていて、手と足は震え、過呼吸のような状態だった。
それでも必死に家の中をくまなく探した。
が、やっぱり3人の姿はない。



千紘)「おい、どういうことだよっ、なんで誰もいねんだよっ、、!」



俺は確実に3人が無事ではないと思い泣き崩れた。
でも3人の姿はない。
血があっただけだ。
まだ死んでると決まったわけじゃ無いっ。
俺は震える手足のまま、急いで電話機まで向かった。



千紘)「け、警察、」



普段ならスラスラ押せるボタンが今だけはうまく押せない。


警察)「はい、こちら北警察署、どうしましたか?」

いざ繋がるとどう話したらいいかわからなくなり、頭は完全にパニック状態だった。

千紘)「か、家族が居なくなりましたっ、でも部屋中に血があって、それでっ、」

警察)「うん、まず落ち着こう?ゆっくりでいいから、まず深く深呼吸出来る?」


千紘)「しっ、んこ、きゅう?」


警察)「うん、できるかな」



できなかった。
まず呼吸さえちゃんとできていなかった。
警察の人の声が聞こえる。
でも何を言っているのかわからない。
俺は自分の意識が遠のいていくのがわかった。







千紘)「ん、」


俺は目が覚めると見たことのない知らない部屋で横になっていた。



?)「あ、千紘目覚めたっ、先生!目覚めたわ!」



ん、誰だこのおばさん、、、



?)「私がわかる?」

千紘)「ん、、と、わ、わからな、、あ、たか子ばあちゃん?」

たか子)「そうよっ、、たか子おばあちゃんよ」



たか子ばあちゃんは、俺の母親のお母さんだ。
最近おじいちゃんは病気で死んでしまったけど。
それ以来会ってなかったな。
毎年たか子ばあちゃんとおじいちゃんには、家族で会いに行っていた。



たか子)「ここは病院だよ。大変だったね、体は大丈夫?」



ふと足元を見ると布団から右足が出ていて、その足の爪の間には洗いきれなかったのか、血が少し付いていた。
その瞬間心臓がドクンと脈打つのがわかった。
俺は起き上がり、



千紘)「父さん母さんは!?千晴は!?」

たか子)「今警察ががんばってくれてるよ、、」

千紘)「いたの!?」

たか子)「がんばってくれてるんだけどねえ、まだ見つからないんだって、、」

千紘)「探さなきゃ、!!」

たか子)「大丈夫、大丈夫だよ千紘、、。今は警察の人に任せよう」

千紘)「で、でも、、!」

たか子)「千紘は少し休みなさい、、」



たか子ばあちゃんは抱きついてきて、俺を離そうとしなかった。
たか子ばあちゃんの肩の揺れ方で、泣いていることがわかった俺は、たか子ばあちゃんを抱きしめ返した。



たか子)「千紘、これからはおばあちゃんと一緒に暮らそうね。ちょっと待っててね、おばあちゃんちょっと病院の人と話ししてくるよ。」



たか子ばあちゃんはそう言うと、イスから立ち上がり、病室を出た。


「これからここに警察の方がいらっしゃるみたいなんですけど大丈夫ですか?」
「まだ小学生なのに家族が行方不明なんて、お気の毒に、これから大変ねえ」


小声で話していたが、その言葉だけはしっかり聞こえた。
同室のおばさんの声と病院の人の声だ。

そっか、これからここに警察の人が来るのか。
本当、父さん母さん千晴、みんなどこに行ったんだろ。
いつも帰れば「おかえり」って言ってくれたのに。
だって、よく考えたらあの日は、お父さんの好きな番組の3時間スペシャルがやってたはずじゃん。
お母さんだっていつもみたいに、俺の帰りを待ちながらご飯を作ってくれてたはず。
千晴だって勉強しながら俺の帰りを待ってたはずじゃん!
おかしいよ、、!なんでみんないないんだよ!
いつも友達の家によって遅くなるからみんな俺のこと嫌になったの?勉強しろって言われても勉強しなかったから?お風呂入れって言われてもゲームばっかりしてたから?俺は千晴と違って好き嫌いするから?俺より千晴の方が出来がよかったから3人で俺から逃げたの?
だったらこれから変わるよ!!勉強だってする、お風呂だってすぐ入るよ!好き嫌いだってしないし、だから、みんな戻ってきてよ、、、



千紘)「くそっ、、なんで、なんでだよ」



俺はいままでの事を思い出し、その後もずっと声を殺して泣いていた。


しばらくすると病院の先生が言った通り、警察の人が来た。
たか子ばあちゃんもその隣に立っていた。



警察官)「千紘くん、こんにちは。北警察署から来ました。刑事の藤塚浩一です。」

警察官)「同じく藤井陽介です。」

浩一)「2日の間意識がなかったみたいだけど、体の具合はどうかな、いまお話ってできるかい?」



2日の間?俺はそんなに寝てたのか。
どこも痛いところもないしな。
倒れた時のことあんまり覚えてないな。



千紘)「できます。」

浩一)「そうか、ありがとう。2日前の夜、8時半頃、千紘くんは私たちに電話をしてくれたよね?その前までは千紘くんはどこに行ってたのかなあ、教えてもらえる?」


千紘)「はい、俺は友達の家で遊んでました」



隣の藤井と名乗っていた警官がメモを書いている。



浩一)「その友達の名前って教えてもらえるかな?」

千紘)「中田雛と、坂爪睦月です」

浩一)「その2人の誰かのお家で遊んでたの?」

千紘)「はい、坂爪の家で遊んでました」



俺はこの後、その日の朝のことや、学校でのこと、下校中のことまでも詳しく話した。



浩一)「他に何かあったかな?」




そう言われた時、1つ思い出した。

それは千晴が見た夢の話だ。
その夢では、俺と母さんと父さんがなんらかの形でいなくなってしまい、千晴が1人残され、たか子ばあちゃんに引き取られるという夢だった。
現実には俺と千晴の立場が逆になっているが、
正夢のようで気になった。
これは夢の話だし、関係無いんだろうけど、気になってることは確かだし一応話すか。



千紘)「あ、1つ、関係ないかもしれないけどいいですか」

浩一)「うん、なんでもいいよ、話してみて?」

千紘)「弟が、最近、母親と父親と俺が突然いなくなるっていう夢をよくみてたみたいなんですけど、、」

陽介)「えっ、それって、、、」

浩一)「ああ、、やっぱり、そうだったのか、」

千紘)「えっ、やっぱりって、?」

浩一)「千紘くんは最近ニュースとかは見てた?」

千紘)「はい、見てた、と、思います」

浩一)「今ニュースで流れてる、人を襲う化け物の話って聞いたことないかな」



は?え、それってみんなそいつに襲われたってことかよ



千紘)「聞いたことはあります。でもあれって化け物とか言いますけど、きっとクマとかですよね」

浩一)「違うよ」

千紘)「え、じゃあなんなんですか」

浩一)「私の話を信じてくれるかい?千紘くんには少し難しい話かもしれないが」

千紘)「それが俺の家族に関係あるなら聞きたいです」

浩一)「うん。じゃあ話すね。今日本には、あらゆる動物から血を吸って生きていて、見た目はヒトの形をしてる『エト』という名前の化け物がいるんだ」

千紘)「エト?」

浩一)「エトはね、ヒルみたいに動物の血を吸って生きているんだけど、もともとは人間だと言われているんだ。見た目はもちろんヒトの形だし。私達がいつも食べている食事を食べても体に影響はないみたいで、だけど主な栄養源は動物の血みたいでね。今エトについては研究家たちが研究をしてるんだけど、」

陽介)「先輩、詳しく話す所そこじゃないですよ」

浩一)「あれ、また要点絞れてなかった?」

陽介)「はい、関係無いところもありました」

浩一)「ごめんね千紘くん、話を聞くのは得意なんだけど、話すのがおじさん上手くなくてね、」

千紘)「大丈夫です。でもなんで弟の夢の話でそのエトとかいう化け物が出てくるんですか」


浩一)「そうだよね、ごめんね。今エトによる被害だと思われている事件の被害者はみんな、毎日同じ夢を見るようになった。とか、時々身に覚えのない記憶を思い出す。とかで病院に来ていた患者が多くてね。その患者さん達が、現在まで行方不明になっているんだ。だから千紘くんの弟もきっとそうなのかもしれないと思ってね。」

千紘)「え?どういうことだよ、そのエトって奴、超能力とか持ってんのか」

陽介)「詳しくはまだわかってないんだけど、エトは家族とか、2~3人くらいのグループを襲うことが多くてね、その被害者の何人かはもう森や山で、」

浩一)「おい」

陽介)「え、あ、、、すみません。」



なんだ?今明らかに、話を途中で止めたのがわかった。



千紘)「なんですか?」

浩一)「森や山でね、死んだエトが多く見つかってる。って話だよ」



いや、被害者がどうとか言ってただろ。
俺のことバカにしてるのか。
話のすり替え方が下手すぎる。



千紘)「おい、話変えんなよ!」

たか子)「千紘っ!刑事さんに向かってそんな態度ないわよ」

浩一)「大丈夫ですよ、気にしないでください。ウチのコイツが悪いんで。」

たか子)「すみません、、」




あぁ、なんだこの感じ。
俺さっきまで2日間寝たきりだったんだよな。
でもなんでだろ、また眠くなってきた。
あ、そっかさっきすこし泣いたからか。
夢から覚めたら全部嘘でしたってドッキリになってねえかな。
本当はこっちが夢でしたってオチでもいいけど。
あー、なんか、もうダメだ。
いまは考えるよりも寝ないと俺が壊れそう。



浩一)「また来ます。今日はありがとうございました。」

陽介)「話してくれてありがとう千紘くん、またね」



と、言って2人が出て行った後、俺は、たか子ばあちゃんと話すこともなく何も考えなくていいように、深い眠りについた。
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加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
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妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

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