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第9話 ひとときの時間で
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エフィは顔を伏せて沈黙している。
彼女の肩は少し震えていた。
俺は謝罪の返答はせず、ゆっくりと近づく。
傍までくるとエフィの存在を強く感じる。
この小さな身体にたくさんのものを背負ってるんだと思うと…。
「エフィ、たくさん話をしよう」
そう俺が告げるとエフィは顔を上げてびっくりしたような表情をする。
その表情に、俺は少しおかしくなってしまい微笑んだ。
「巻き込んじゃったのに、怒ってないの…?」
エフィは唇をぎゅっと噛み、俺に問いかける。
その顔は今にも泣きそうな顔をしている。
俺はエフィの頭に手を乗せながら自分の頭をかく。
「別にエフィのせいじゃないだろ。ここに来た理由はまだ分からないけど、俺はお前が笑ってるのが一番嬉しいっていうか……」
エフィは上目遣いでこちら見つめている。
意図したわけではないにしても、この世界に呼んだ原因かもしれないと思ってるのだろう。
しかし俺の照れ臭い慰めを聞くと、エフィは少し笑い――
「そっか……、じゃぁなつめっ。私とたくさんお話してくれる?」
エフィの表情は明るくなり、キラキラした瞳で俺を見る。
俺は綺麗なその瞳に一瞬見惚れてしまいそうになる。
この子を助けたいと強く感じつつ、気持ちが漏れないように誤魔化す。
「あぁ、また質問攻めの嵐なんだろうけどな」
俺は軽く笑い、ちょかす。
「へへへ、だってなつめのことたくさん知りたいんだもん。それに新しいことは大好きなのっ」
「後半が本音だろ」と言いつつエフィのおでこをつつく。
エフィはおでこを抑えながら「もう~っ」と唸っている。
二人は部屋を後にし、庭に向かう途中で白いモフモフに再会する。
「あっ、アレックス!」
エフィは駆け寄り、抱きしめるとアレックスは尻尾をブンブン振り回す。
俺はその光景を見るのがいつの間にか好きになっていた。
「ワンッ」
アレックスが俺も来いと言っているかのように吠える。
俺はしょうがないなと思いつつも、この白い騎士様のご要望を叶えることにする。
エフィと二人でアレックスを撫でつつ庭に出る俺たちを、エル爺はひっそり眺めていた。
――1か月は過ぎただろうか。
俺はだいぶこの世界を理解していた。
時が止まっているため、季節が変わったり日が変わったりはしない。
その為、屋敷の大広間には大きな砂時計が置かれている。
この世界を作った際に皆で悩んだ結果、置くことにしたらしい。
「これが全部流れたら1日ってことにしてるの! やっぱり時間が無いと何かと不便なんだよね~」
エフィによるとこの砂時計の量でやることを決めたり、料理をしたりしているらしい。
因みに日が変わらないので夜も来ない。
時が止まってるので睡眠や食事は本来なら取らなくても問題ないらしいが……。
人の習慣というものは不思議で、ある一定の砂が落ちたタイミングで欲しくなる。
睡眠はカーテンを閉めれば問題ないが、やはり食事だ。
相変わらず味はしないので、ほぼその欲求を満たすために行う。
「ごめんね、たぶん私の影響が出てるみたいなの……」
エフィは料理の味がしないことに気づいた時に酷く落ち込んでいた。
俺は見た目が美味そうだから問題ないと告げる。
まぁ本当は味も欲しいが、料理をするエフィとこの料理だけで満足感がある。
食材はというとキッチンの物を使っても消えないことに最初は驚いた。
なんか夢の中みたいだなと思った。
俺たちが食べているものは本物の食材ではなく、’’全て記憶’’なんだそうだ。
エフィの記憶にある味や物がここにはあり、それが魂の影響を受けている。
多分この先、少しずつ色々なものが’’消えていく’’。
俺が部屋で本を読んで寛いでいると、足音が聞こえてきた。
その足音は軽やかだが元気が有り余ってるようだ。
「なつめーっ!!」
部屋の扉が勢いよく開けられ、好奇心100%お嬢様が現れる。
「おはようっなに読んでるのっ!? 今日はなにする? この前のお話の続きも聞きたいっ!」
1か月ほぼこれである。
だが流石に慣れた俺は質問攻めに回答攻めを繰り出す。
――あぁおはよう
――書庫にあった絵本
――庭でアレックスと遊ぶ
――食後に話してやる
完璧だ。
エフィは俺の回答攻めをするっと躱し、楽しそうにしながら俺の読んでいた本を覗いてくる。
「あっこれ私が昔読んでいた絵本だ!」
そう言いながら俺の膝に座るエフィ。
最近特にスキンシップが激しい気がする。
「おも…くはないが、読みにくいだろ」
俺は照れつつエフィにどいてもらおうとする。
だが俺の顎下から見上げてくるエフィにドキっとしてしまった。
そんなことも知らないエフィはワクワクしながら続ける。
「ねぇ、読み聞かせてっ!」
満面の笑みでそう言われる。
しかし実は字が読めなく、絵だけで楽しんでいた俺は困った。
「字が読めないんだ。絵でなんとなくは分かるが…」
そう言うとエフィはぽかーんとした表情をした後に微笑んだ。
「……そっかっ。なつめは別の世界から来たんだもんねっ」
俺はここに来る前の世界のことを話した。
こことは全然違い、魔法もなかったことを。
だからエフィは字が読めない俺のことを理解してくれたのだろう。
しかし初めて話した時のエフィは凄かった……。
なにせ好奇心旺盛な彼女にとって俺の世界の話は未知で溢れており、一日中質問攻めを受けた。
一緒に聞いていたエル爺までもが興味津々になり、暫くは俺の話題で持ち切りだった。
膝の上に乗りながらエフィは考える素振りを見せる。
「なつめはね、この世界が終わった後に元の世界に戻れるかわからないの」
エフィは少し悲しそうに顔を伏せながら話す。
俺は心配になり、エフィの顔を覗こうとしたその時。
「だから私が全部教えてあげるっ!!この世界が終わった後も、なつめが暮らしていけるようにっ!」
突然顔を上げ、空を仰ぎ見るエフィ。
その表情からはやる気が満ち溢れていた。
――3か月が過ぎた。
俺はエフィに字の読み書きを習い、絵本くらいは読めるようになっていた。
エフィが料理をしている間などの隙間時間でエル爺も俺に読み書きを教えてくれる。
エル爺の書斎で読み書きを習っている時間、俺はずっと心に秘めていた悩みを打ち明ける。
「なぁエル爺さん、本当に言わなくていいのか?」
俺は筆を止め、彼に問いかける。
エル爺から‘’魂を書き換える’’大魔法の話を聞いてから数か月、俺は悩んでいた。
本当にこれでいいのだろうか?
あと少ししかない時間を、もっと家族で過ごすべきなんじゃないだろうか。
「エフィはのぅ」
エル爺はかけていた眼鏡を外し、語り始める。
少し遠い目をしながら。
「物心ついた時からワシとアレックスしかおらんかった」
「じゃからお前さんとの出会いをきっかけにの、新しい心の拠り所を見つけてほしいんじゃ」
エル爺は自分たちが居なくなった後のエフィを心配している。
未来を見据えているのだろう。
「まぁ200年越しの親離れってやつじゃな」
エル爺は笑いながらそう話す。
しかし俺には言葉にできないモヤついた気持ちがあった。
このまま唐突な別れが、それがエフィを強くできるんだろうか。
俺はエフィが食事の呼び出しをするまで顔を伏せて悩んでいた。
――。
俺は今日のやることを済まし、寝床に入る。
エル爺との会話を思い出し、中々寝付けない。
どうしてもこれで良いとは思えなく、しかしどうすればいいのかも分からない。
何度も寝返りを打ち、少し微睡むほどの時間が経った時。
部屋の扉が静かに開く音がした。
誰か入ってきたのか?
ふわふわした気持ちでいると何かが布団に入ってくる。
(アレックス……?)
俺は目を少し開け、布団の中を見るとエフィが覗いていた。
少し顔を赤らめ、もぞもぞしている。
「……?……ん!? エフィっ!?」
俺は驚愕とドキドキで一気に目が覚める。
心頭滅却。
「えっ、えええエフィ。ど、どうしたんだ一体……」
おもいっきりどもる。
それを聞いたエフィは少し笑った。
「えへへ、変なの。なつめ」
エフィは布団の中でクスクス笑ったあと、俺の服を掴む。
俺は高鳴る心臓がエフィにバレないか冷や冷やする。
しかしエフィは顔を伏せており、身体が少し震えていた。
俺の心臓は落ち着きを取り戻す。
「エフィ? なにかあったのか?」
エフィは問いかけた俺の顔は見ず、話し始めた。
「納得はしてるの。この世界が終わることも、私が消えることも」
俺は目を見開く。
そうだ、怖いはずがない。
自分の最期が近づいていると分かった今、怖くてたまらないはずだ。
「なつめに出会って、抑え込んでた気持ちや不思議な気持ちがたくさん溢れちゃった」
エフィは俺の胸で震えながら心情を語る。
俺は頭を撫でながら、’’それ’’を聞き逃さないように意識を集中する。
「エル爺やアレックスともっと一緒に居たい……、なつめの傍に居たいっ」
エフィは泣きながら吐露する。
俺はそれを聞き、迷いなく抱きしめて伝える。
「明日、大事な話がある――」
俺は震えるエフィを抱きしめながら、心が決まった。
この子が世界一幸せになるように、そして俺も世界一幸せになるように。
――翌日。
目を開けるとそこにはすやすや眠るエフィがいる。
昨日ひとしきり泣いたあと、そのままお互い眠ってしまった。
エフィの目はまだ少し腫れているようだ。
「天使か……」
俺は寝起きのボケをかましつつ、エフィの前髪に触れる。
寝ているエフィは少しくすぐったそうにした。
するとエフィは目を覚まし、少し恥ずかしそうに笑いながら朝の挨拶をした。
「えへへっ、おはようなつめ」
俺は寝起きのエフィを見てまたドキドキだ。
「おはよう、エフィ」
今度はどもらず言えたぞ。
エフィは起き上がり、伸びをしながらあくびをする。
俺も起き上がるとエフィが俺の腰に抱きついてきた。
「なつめ……お話」
まだ寝ぼけているのか、気が早いのかエフィは''話''の催促をしてくる。
俺はエフィの頭を撫でる。
「食後に時間もらえるか?」
エフィはわかった~って言いながら二度寝しようとするので頬をぷにっておいた。
俺たちはすっかり目を覚まし、食事をしている。
今日はベーコンエッグとサラダとパンだ。
俺は食事を終え、退席しようとするエル爺に声をかける。
「エル爺さん、このあと話があるんだ」
エル爺はきょとんとしていたが、俺の真剣な目を見るなり表情が変わる。
「そうか。じゃぁ後でワシの書斎に来とくれ」
そう言い残し、食事を後にした。
俺とエフィは食器を片付け、アレックスは鼻を使って雑巾がけしている。
なんてお利口なワンコ!!!
「エフィ、この後一緒にエル爺さんの書斎に来てくれるか?」
俺は片づけ終わったエフィに声をかけた。
エフィは少し不思議そうにしつつも承諾する。
「エル爺の? わかったっ!」
片付けを済ませた俺たちと一匹はエル爺の書斎へ向かう。
俺は緊張していた。
正直、どういう顔をすればいいかまだ分からない。
エフィの傷つく顔は見たくない。
だけど、このままではいけないと俺の心が訴え続ける。
書斎の扉を3回ノック。
「入りなさい」
俺は承諾を得て扉を開ける。
エル爺は煙管を持ちながら背を向けていた。
書斎に入った俺はエル爺へ言葉をかける
「エル爺さん……、俺は――」
「よもやとは思ったんじゃが……」
エル爺は俺の話を遮り、振り返りながら言葉を続ける。
「お前さんらがくっつくとはのぅ」
え?くっつく?
ん?それは、つまり?
俺は困惑し、チラッとエフィを見ると……真っ赤に爆発していた――
「ぇっぇえええエル爺!? わ、わわ私たちはまだ一緒に寝ただけで――」
超絶どもりながら失言をするエフィ。
……失言すぎる。
「はっはっは! 孫は――、見れんかもしれんがお熱いのぅ!」
エル爺は笑いながら俺の肩を叩く。
まてまてまて! エル爺は何言って!?
エフィは顔を手で覆い、耳まで真っ赤になったまま動けなくなっていた。
「いやぁ、ワシも自分のことのように嬉しいわい!」
エル爺は俺の肩をひとしきり叩いたあとまた背を向け離れようとする。
「エル爺っ!!!」
俺は声を荒げる。
エル爺は足を止め、振り返らない。
エフィは俺の声にびっくりして、双方を見ている。
「なつめ!? ど、どうしたの?」
状況が追いつかないエフィは困惑している。
君の大事な祖父に声を荒げて申し訳なく思う。
だけど――
「ちゃんと、話しましょう」
俺の言葉にエル爺の肩がわずかに動いた気がした。
エル爺は煙管を口に咥え、一息吐く。
エル爺には''内密に''と約束させられていた。
でも、これじゃエフィは強くなれない――、幸せになれない――
俺は世界一幸せになるエフィが見たい。
その為なら――
「''大魔法''のことを」
俺は約束を破る。
エル爺が長年隠してきた秘密を、ここで伝えないといけない。
「だい、まほう? エル爺、なんのこと?」
エフィは困惑した表情のまま、エル爺の背を見つめる。
エル爺はゆっくりと振り返り、口を開きかけるがまた閉じ、――再び開く。
「最愛の孫を、世界一幸せにするための魔法じゃよ」
引きこもりに異世界は難しい。
次回、最終回です。
彼女の肩は少し震えていた。
俺は謝罪の返答はせず、ゆっくりと近づく。
傍までくるとエフィの存在を強く感じる。
この小さな身体にたくさんのものを背負ってるんだと思うと…。
「エフィ、たくさん話をしよう」
そう俺が告げるとエフィは顔を上げてびっくりしたような表情をする。
その表情に、俺は少しおかしくなってしまい微笑んだ。
「巻き込んじゃったのに、怒ってないの…?」
エフィは唇をぎゅっと噛み、俺に問いかける。
その顔は今にも泣きそうな顔をしている。
俺はエフィの頭に手を乗せながら自分の頭をかく。
「別にエフィのせいじゃないだろ。ここに来た理由はまだ分からないけど、俺はお前が笑ってるのが一番嬉しいっていうか……」
エフィは上目遣いでこちら見つめている。
意図したわけではないにしても、この世界に呼んだ原因かもしれないと思ってるのだろう。
しかし俺の照れ臭い慰めを聞くと、エフィは少し笑い――
「そっか……、じゃぁなつめっ。私とたくさんお話してくれる?」
エフィの表情は明るくなり、キラキラした瞳で俺を見る。
俺は綺麗なその瞳に一瞬見惚れてしまいそうになる。
この子を助けたいと強く感じつつ、気持ちが漏れないように誤魔化す。
「あぁ、また質問攻めの嵐なんだろうけどな」
俺は軽く笑い、ちょかす。
「へへへ、だってなつめのことたくさん知りたいんだもん。それに新しいことは大好きなのっ」
「後半が本音だろ」と言いつつエフィのおでこをつつく。
エフィはおでこを抑えながら「もう~っ」と唸っている。
二人は部屋を後にし、庭に向かう途中で白いモフモフに再会する。
「あっ、アレックス!」
エフィは駆け寄り、抱きしめるとアレックスは尻尾をブンブン振り回す。
俺はその光景を見るのがいつの間にか好きになっていた。
「ワンッ」
アレックスが俺も来いと言っているかのように吠える。
俺はしょうがないなと思いつつも、この白い騎士様のご要望を叶えることにする。
エフィと二人でアレックスを撫でつつ庭に出る俺たちを、エル爺はひっそり眺めていた。
――1か月は過ぎただろうか。
俺はだいぶこの世界を理解していた。
時が止まっているため、季節が変わったり日が変わったりはしない。
その為、屋敷の大広間には大きな砂時計が置かれている。
この世界を作った際に皆で悩んだ結果、置くことにしたらしい。
「これが全部流れたら1日ってことにしてるの! やっぱり時間が無いと何かと不便なんだよね~」
エフィによるとこの砂時計の量でやることを決めたり、料理をしたりしているらしい。
因みに日が変わらないので夜も来ない。
時が止まってるので睡眠や食事は本来なら取らなくても問題ないらしいが……。
人の習慣というものは不思議で、ある一定の砂が落ちたタイミングで欲しくなる。
睡眠はカーテンを閉めれば問題ないが、やはり食事だ。
相変わらず味はしないので、ほぼその欲求を満たすために行う。
「ごめんね、たぶん私の影響が出てるみたいなの……」
エフィは料理の味がしないことに気づいた時に酷く落ち込んでいた。
俺は見た目が美味そうだから問題ないと告げる。
まぁ本当は味も欲しいが、料理をするエフィとこの料理だけで満足感がある。
食材はというとキッチンの物を使っても消えないことに最初は驚いた。
なんか夢の中みたいだなと思った。
俺たちが食べているものは本物の食材ではなく、’’全て記憶’’なんだそうだ。
エフィの記憶にある味や物がここにはあり、それが魂の影響を受けている。
多分この先、少しずつ色々なものが’’消えていく’’。
俺が部屋で本を読んで寛いでいると、足音が聞こえてきた。
その足音は軽やかだが元気が有り余ってるようだ。
「なつめーっ!!」
部屋の扉が勢いよく開けられ、好奇心100%お嬢様が現れる。
「おはようっなに読んでるのっ!? 今日はなにする? この前のお話の続きも聞きたいっ!」
1か月ほぼこれである。
だが流石に慣れた俺は質問攻めに回答攻めを繰り出す。
――あぁおはよう
――書庫にあった絵本
――庭でアレックスと遊ぶ
――食後に話してやる
完璧だ。
エフィは俺の回答攻めをするっと躱し、楽しそうにしながら俺の読んでいた本を覗いてくる。
「あっこれ私が昔読んでいた絵本だ!」
そう言いながら俺の膝に座るエフィ。
最近特にスキンシップが激しい気がする。
「おも…くはないが、読みにくいだろ」
俺は照れつつエフィにどいてもらおうとする。
だが俺の顎下から見上げてくるエフィにドキっとしてしまった。
そんなことも知らないエフィはワクワクしながら続ける。
「ねぇ、読み聞かせてっ!」
満面の笑みでそう言われる。
しかし実は字が読めなく、絵だけで楽しんでいた俺は困った。
「字が読めないんだ。絵でなんとなくは分かるが…」
そう言うとエフィはぽかーんとした表情をした後に微笑んだ。
「……そっかっ。なつめは別の世界から来たんだもんねっ」
俺はここに来る前の世界のことを話した。
こことは全然違い、魔法もなかったことを。
だからエフィは字が読めない俺のことを理解してくれたのだろう。
しかし初めて話した時のエフィは凄かった……。
なにせ好奇心旺盛な彼女にとって俺の世界の話は未知で溢れており、一日中質問攻めを受けた。
一緒に聞いていたエル爺までもが興味津々になり、暫くは俺の話題で持ち切りだった。
膝の上に乗りながらエフィは考える素振りを見せる。
「なつめはね、この世界が終わった後に元の世界に戻れるかわからないの」
エフィは少し悲しそうに顔を伏せながら話す。
俺は心配になり、エフィの顔を覗こうとしたその時。
「だから私が全部教えてあげるっ!!この世界が終わった後も、なつめが暮らしていけるようにっ!」
突然顔を上げ、空を仰ぎ見るエフィ。
その表情からはやる気が満ち溢れていた。
――3か月が過ぎた。
俺はエフィに字の読み書きを習い、絵本くらいは読めるようになっていた。
エフィが料理をしている間などの隙間時間でエル爺も俺に読み書きを教えてくれる。
エル爺の書斎で読み書きを習っている時間、俺はずっと心に秘めていた悩みを打ち明ける。
「なぁエル爺さん、本当に言わなくていいのか?」
俺は筆を止め、彼に問いかける。
エル爺から‘’魂を書き換える’’大魔法の話を聞いてから数か月、俺は悩んでいた。
本当にこれでいいのだろうか?
あと少ししかない時間を、もっと家族で過ごすべきなんじゃないだろうか。
「エフィはのぅ」
エル爺はかけていた眼鏡を外し、語り始める。
少し遠い目をしながら。
「物心ついた時からワシとアレックスしかおらんかった」
「じゃからお前さんとの出会いをきっかけにの、新しい心の拠り所を見つけてほしいんじゃ」
エル爺は自分たちが居なくなった後のエフィを心配している。
未来を見据えているのだろう。
「まぁ200年越しの親離れってやつじゃな」
エル爺は笑いながらそう話す。
しかし俺には言葉にできないモヤついた気持ちがあった。
このまま唐突な別れが、それがエフィを強くできるんだろうか。
俺はエフィが食事の呼び出しをするまで顔を伏せて悩んでいた。
――。
俺は今日のやることを済まし、寝床に入る。
エル爺との会話を思い出し、中々寝付けない。
どうしてもこれで良いとは思えなく、しかしどうすればいいのかも分からない。
何度も寝返りを打ち、少し微睡むほどの時間が経った時。
部屋の扉が静かに開く音がした。
誰か入ってきたのか?
ふわふわした気持ちでいると何かが布団に入ってくる。
(アレックス……?)
俺は目を少し開け、布団の中を見るとエフィが覗いていた。
少し顔を赤らめ、もぞもぞしている。
「……?……ん!? エフィっ!?」
俺は驚愕とドキドキで一気に目が覚める。
心頭滅却。
「えっ、えええエフィ。ど、どうしたんだ一体……」
おもいっきりどもる。
それを聞いたエフィは少し笑った。
「えへへ、変なの。なつめ」
エフィは布団の中でクスクス笑ったあと、俺の服を掴む。
俺は高鳴る心臓がエフィにバレないか冷や冷やする。
しかしエフィは顔を伏せており、身体が少し震えていた。
俺の心臓は落ち着きを取り戻す。
「エフィ? なにかあったのか?」
エフィは問いかけた俺の顔は見ず、話し始めた。
「納得はしてるの。この世界が終わることも、私が消えることも」
俺は目を見開く。
そうだ、怖いはずがない。
自分の最期が近づいていると分かった今、怖くてたまらないはずだ。
「なつめに出会って、抑え込んでた気持ちや不思議な気持ちがたくさん溢れちゃった」
エフィは俺の胸で震えながら心情を語る。
俺は頭を撫でながら、’’それ’’を聞き逃さないように意識を集中する。
「エル爺やアレックスともっと一緒に居たい……、なつめの傍に居たいっ」
エフィは泣きながら吐露する。
俺はそれを聞き、迷いなく抱きしめて伝える。
「明日、大事な話がある――」
俺は震えるエフィを抱きしめながら、心が決まった。
この子が世界一幸せになるように、そして俺も世界一幸せになるように。
――翌日。
目を開けるとそこにはすやすや眠るエフィがいる。
昨日ひとしきり泣いたあと、そのままお互い眠ってしまった。
エフィの目はまだ少し腫れているようだ。
「天使か……」
俺は寝起きのボケをかましつつ、エフィの前髪に触れる。
寝ているエフィは少しくすぐったそうにした。
するとエフィは目を覚まし、少し恥ずかしそうに笑いながら朝の挨拶をした。
「えへへっ、おはようなつめ」
俺は寝起きのエフィを見てまたドキドキだ。
「おはよう、エフィ」
今度はどもらず言えたぞ。
エフィは起き上がり、伸びをしながらあくびをする。
俺も起き上がるとエフィが俺の腰に抱きついてきた。
「なつめ……お話」
まだ寝ぼけているのか、気が早いのかエフィは''話''の催促をしてくる。
俺はエフィの頭を撫でる。
「食後に時間もらえるか?」
エフィはわかった~って言いながら二度寝しようとするので頬をぷにっておいた。
俺たちはすっかり目を覚まし、食事をしている。
今日はベーコンエッグとサラダとパンだ。
俺は食事を終え、退席しようとするエル爺に声をかける。
「エル爺さん、このあと話があるんだ」
エル爺はきょとんとしていたが、俺の真剣な目を見るなり表情が変わる。
「そうか。じゃぁ後でワシの書斎に来とくれ」
そう言い残し、食事を後にした。
俺とエフィは食器を片付け、アレックスは鼻を使って雑巾がけしている。
なんてお利口なワンコ!!!
「エフィ、この後一緒にエル爺さんの書斎に来てくれるか?」
俺は片づけ終わったエフィに声をかけた。
エフィは少し不思議そうにしつつも承諾する。
「エル爺の? わかったっ!」
片付けを済ませた俺たちと一匹はエル爺の書斎へ向かう。
俺は緊張していた。
正直、どういう顔をすればいいかまだ分からない。
エフィの傷つく顔は見たくない。
だけど、このままではいけないと俺の心が訴え続ける。
書斎の扉を3回ノック。
「入りなさい」
俺は承諾を得て扉を開ける。
エル爺は煙管を持ちながら背を向けていた。
書斎に入った俺はエル爺へ言葉をかける
「エル爺さん……、俺は――」
「よもやとは思ったんじゃが……」
エル爺は俺の話を遮り、振り返りながら言葉を続ける。
「お前さんらがくっつくとはのぅ」
え?くっつく?
ん?それは、つまり?
俺は困惑し、チラッとエフィを見ると……真っ赤に爆発していた――
「ぇっぇえええエル爺!? わ、わわ私たちはまだ一緒に寝ただけで――」
超絶どもりながら失言をするエフィ。
……失言すぎる。
「はっはっは! 孫は――、見れんかもしれんがお熱いのぅ!」
エル爺は笑いながら俺の肩を叩く。
まてまてまて! エル爺は何言って!?
エフィは顔を手で覆い、耳まで真っ赤になったまま動けなくなっていた。
「いやぁ、ワシも自分のことのように嬉しいわい!」
エル爺は俺の肩をひとしきり叩いたあとまた背を向け離れようとする。
「エル爺っ!!!」
俺は声を荒げる。
エル爺は足を止め、振り返らない。
エフィは俺の声にびっくりして、双方を見ている。
「なつめ!? ど、どうしたの?」
状況が追いつかないエフィは困惑している。
君の大事な祖父に声を荒げて申し訳なく思う。
だけど――
「ちゃんと、話しましょう」
俺の言葉にエル爺の肩がわずかに動いた気がした。
エル爺は煙管を口に咥え、一息吐く。
エル爺には''内密に''と約束させられていた。
でも、これじゃエフィは強くなれない――、幸せになれない――
俺は世界一幸せになるエフィが見たい。
その為なら――
「''大魔法''のことを」
俺は約束を破る。
エル爺が長年隠してきた秘密を、ここで伝えないといけない。
「だい、まほう? エル爺、なんのこと?」
エフィは困惑した表情のまま、エル爺の背を見つめる。
エル爺はゆっくりと振り返り、口を開きかけるがまた閉じ、――再び開く。
「最愛の孫を、世界一幸せにするための魔法じゃよ」
引きこもりに異世界は難しい。
次回、最終回です。
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